ある朝、この俺山田雄太(やまだ ゆうた)が急な電話で目が覚めると毒虫に…なっているはずもなく大本営から、転属が決まったので大本営に来てほしいとの事だった。
「いや、転属とか聞いてないんだけどなぁ…」
そもそも珍しく帰省しているので実家で羽を伸ばしていたのに、大本営に来いとはあんまりではないか。
まさかこんな時呼びつけるなんてと内心憤っているが、無視すればどうなるか分からない。どうも胡散臭い何かを感じながら指定された地点へと向かう。
その日は至って何もない朝だった、転属命令ってこんなにあっさり出るもんなのかな~そりゃおかしいんじゃねぇか、なんて朝が弱いので半覚醒状態の頭でぼんやりと考えていると、迎えの車らしきものが見えた。
「あ、どもっす」
「どうもよろしくお願いしますぅ~あっ…さあ、のるんだー」
まず送迎のオッサンの挨拶から酷かった、一回素で挨拶してから、慌てて高圧的な物言いに戻しているし、もう棒読みすぎる。既になんか裏で俺をドッキリか何かしようとしてるのか?と疑い始めているが、ひとまず車に乗り込む。
「さて、鳳凰院天馬(ほうおういんてんま)君」
「なんて?」
「え?いや、だから鳳凰院てん」
「だからって言われても、僕は山田…」
発進した車内で運転手のオッサンに何か言われる、あまりに聞き覚えがないのでそれが名前であると気づくのにもだいぶ時間が掛かった
「君は鳳凰院天馬だ、いいね?」
「あっはい」
何となくわかった、これもうドッキリというか舞台みたいなもんだ
あれだ、ブラック鎮守府モノにありがちな、提督がやたら格好良い苗字してる奴だ
鳳凰院ってなんだよ、どう書くんだよ、分かんねぇよ
というかごり押しすぎるだろ!なんだよ「君は鳳凰院天馬だ」って
どうこう言っても今更車が止まってくれる筈もなく、車は大本営へと着いた
茶番だと分かっていても、大本営の重厚圧な造りと雰囲気は息を呑むほど重苦しい。
「では、えーっと…あー…ほういん」
「鳳凰院天馬ですよね?」
「まぁ、うん、頑張りたまえよ、ここの元帥は恐ろしい人だ」
そう言って脅かしてくる運転手さん、ちなみに前会ったときは元帥さんは良い人だった
というか自分は本部に勤めてた経験があるので元帥さんとはしょっちゅう顔合わせてたし
「来たか、山田…鳳凰院天馬君」
「いや…小暮君…なんで元帥の看板掲げてんの?」
大本営の元帥がいる筈の会議室に居たのは元帥でなく、俺の元部下の小暮くんだった
思わず素で返してしまう。いや元帥の椅子に座ってクソ真面目そうな面をしていれば
元帥役なんだろうとは思うが…
「きさまー上官(じょーかん)に向かってなにをいうかー」
思わずタメで話してしまったので、後ろの方で突っ立ってた黒髪で引き締まった体の艦娘(これは長門さんかな?)が棒読みでそう言いつつ、こちらに銃を向けてくる
その銃は急遽用意したのだろう、あまりにも安っぽすぎるだけでなく、値札が貼ってあった
「あ、1200円なんだそのエアガン」
「…」
つい口をついて言ってしまうと、長門さんは恥ずかしそうにしながら値札を外す
外そうとしているが、中々外れない。自分は悪戦苦闘する長門さんを尻目に、元帥役の小暮君はあくまでも見なかったことにして話を続ける。
「君には横須賀鎮守府への転属が決定された」
「横須賀鎮守府ってあそこ使えんの!?すげぇな」
「ククク…あの地獄ともいわれた横須賀だよ」
ちなみに地獄という設定らしいが、横須賀はロケーションもいいしトップクラスで大きい鎮守府で
艦娘たちのレベルが高い、当然エリート中のエリートが行くところなのでそこを貸し切るのは、よく許可がおりたと思う。
まぁ、ひょっとしたら適当な施設を貸し切ってそこを鎮守府って事にするかもしれんが。
「頑張りたまえよ?」
「あのさ、なんで小暮君が元帥役やってるの?」
「クククククク…」
「いや、だからなんで?」
ククク…って含み笑いすれば誤魔化せるとか思ってんのかこいつ
なんか演技とはいえ上からの態度が気に入らなかったから、聞いてみた。
すると観念したのか小暮君は口を開く
「しょうがないじゃないですか山田さん、元帥を始めとする上官方に頼んだんですよ?もうちょっと年配で威厳ある強面の人」
「うん」
「全員、前にあった牡蠣パーティーで集団食中毒でぶっ倒れました。ほら艦娘とか提督がいっぱい呼ばれた」
「それで代役に選ばれたと…いや待て、牡蠣パーティー!?俺牡蠣パーティーとか呼ばれなかったんだけど!」
いや、そんな貴方もご存じな牡蠣パーティーみたいに言われても、俺は一切聞いてなかった
牡蠣パーティー?なんだよそれ、俺も行きたかったんだけど!
「え?じゃあ忘れられてたんじゃないですかね?」
「あーふーん」
サラっと小暮の口から出た言葉に怒りのボルテージが一瞬跳ね上がるが、どうせこいつも呼ばれてないのだろう
そういう風に決めつけて、嫌味の言葉を飲み込んでやる。
「まぁ、牡蠣パーティーとかは知らんが、集団食中毒なら行かないほうが良かったよ…なぁ?」
まぁ、お陰で集団食中毒なんて回避できたわけで、行かなくてよかったわ
「僕は呼ばれましたよ、生ものダメなんで牡蠣は食いませんでしたけど」
「ざっけんな!小暮テメェ!」
あっけからんと爆弾発言をする小暮
俺は切れた
「山田殿!気持ちは分かるが落ち着いてくれぇ!」
「なにが牡蠣だ!なーにが牡蠣だよ!ぜってぇ食わねぇ!人生でもう二度と食わねぇよバァァァァカ!!!!」
小暮に掴みかかろうとして、長門さんに羽交い絞めにされながらも絶叫する
「山田…じゃなくて鳳凰院君、君はあの前任者が消されたというブラック鎮守府へと向かい、艦娘たちを更生させてくれ」
「ハァ… ハァ… あーもう分かった、分かったよ分かりましたよ!」
「行きに乗ってきた車に乗りたまえ、そこからは横須賀鎮守府所属の大淀が説明してくれる」
「へいへい…」
元上司が怒ってるのにほぼノーリアクションという小暮君の思わぬ胆力を前に
もはや反応する気力も削がれて、俺はただ力なく頷くしかなかった
行きに車から降りた場所に行って見ると、そこには任務娘でおなじみの大淀さんが居た
黒髪のロング、清楚な感じの服に、インテリっぽさを醸し出す眼鏡
正直親の顔の次に見慣れた顔だが、おそらく俺の知ってる大淀ではないのだろう。
「初めまして鳳凰院さん」
「ああ、初めまして(鳳凰院の方は固定なんだ)」
車に乗り込んで、大淀さんと挨拶する
一緒に後部座席に乗り込むと、何か用意された書類のようなものを開いた
「これから貴方は横須賀鎮守府に向かい、艦娘たちを更生させてもらいます」
「ああ、それ自分で言っちゃうんだ、なんか俺が自発的に更生させるとかじゃなくて」
「そうですね、はい」
淡々と話を進める大淀、今までの人だと比較的ましだった小暮君を抜いて一番演技がうまい
普通に演技自体上手いが、痛いところを付かれた時の流し方とかも小暮君より一枚上手だ
まぁ「クックック」はねぇわな「クックック」は
「ところで、横須賀鎮守府ってあの?」
「はい、前任者が消されたという「噂」もある元ブラック鎮守府の横須賀鎮守府です」
「なんだって!?あの横須賀鎮守府に!?」
とりあえず話を合わせる、と、ここで車内を見渡すと、隠しカメラが設置してあることに気づいた
あーこれで撮るのね
「予め申し上げておきますが、我々艦娘は大本営から送られてきたあなたの存在を快くは思っておりません。期待は全くしていませんが、どうか消されぬようお気を付けて…ヨシッ」
うん、ドギツイ台詞だ、長い台詞を淀みなく(大淀だけに)言えてるのもポイント高い
やっぱり裏方の仕事とか、人のフォローが得意なのはこの器用さによるところが大きいだろう。
でも言い終わった後小声で「ヨシッ」と言いながら小さくガッツポーズしたのは見逃さなかった。
そういえばこういう拒絶の台詞を吐かれた時に「じゃあ帰っていい?」って聞き返したらどうなるんだろうか、今度本当のブラック鎮守府に配属された方やってみてください、命の保証は致しません。
さて、なんか言われ続けるのも癪だしからかってみるか
「そんな…死にたくねぇよぅ」
わざとボロボロ涙を流して泣いてみる
「ああ、そんな…どうしましょう。これはドッキリで…私そんなつもりじゃ…」
まさにあたふた、という感じで狼狽える大淀さん。いや騙されるんかい
優しいと言えば優しいんだけどそれでいいのか仕掛け人
「まぁ、ウソ泣きなんだけどねぇ~」
ケロッとした顔でわざと軽く言う、はいネタ晴らし、ドッキリとはこうやるのだよ
「もう!こっちは本気で心配したのに!…もう知りませんからね!」
「アーッハッハッハッハ!」
ぷりぷりと可愛らしく怒る大淀さんを笑い飛ばしつつ
外を眺める、この方向は横須賀鎮守府へ向かってるのだろう。
「そして、ここはこうで、こうです」
「ああ、はい、わかりゃーした」
一時間ほど大淀さんと雑談したり(仮にも人類快く思ってない設定なのに)
していたら、鎮守府の前に車が停車した
「ようこそ、ここが横須賀鎮守府です」
「すっげ!マジの横須賀鎮守府じゃん!へーここ使わせてくれたんだー!」
「そうでしょう!?いやぁここは美味しい店や娯楽施設も多くて…オホンオホン」
役を忘れて俺の話に乗っかってしまった大淀さんは、途中まで言いかけて
慌てて咳ばらいをして誤魔化した。
ぶっちゃけ誤魔化せてないけど。
「繰り返しますが、ここでは貴方は快く思われておりません。策を講じるのも改革するのも結構ですが、消されぬように…フフフ」
そういって大淀さんは少し目を細めて不敵な笑いをしながら(これが怖い顔のつもりなんだろう)
あくまでも演技に徹してそう言った。
「頑張りまーす」
なんかもう、どう返すのが分からないので、俺は適当に返した
さっきからキラーパスが多すぎて受けようにも受けれないんだわ。
こうして、横須賀鎮守府でのまっっったく騙されないドッキリが幕を開けた。
便利設定
戦争は人類勝利秒読みなので大本営や艦娘はふざける余裕がある
事前にあった牡蠣パーティーのせいで仕掛け人がドッキリ前夜からバッタバタ倒れてる。
その為当日急遽抜擢された仕掛け人の代役は基本演技が下手くそで台詞もうろ覚え。
流石に全メンバーを仕掛け人にはできなかったようで、通常業務をしている艦娘もいる
その人たちとうまく擦り合わせが出来てないせいで矛盾がボロボロ出てくる
(死んだ設定の人がちょうど顔出すとか)
ギャグだから不定期に気が向いたら書きます
ブラック鎮守府更生ものならやっぱり
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食堂から
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執務室から
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設備見回りから