逆を言うとネタが枯渇すると一瞬で終わります
さて、横須賀鎮守府に着いた。提督業をやってる人にとっては憧れの横須賀鎮守府に。何かの企画と言えど立ち入れたのはちょっと喜ばしい事と言える。折角だし目に焼き付けておこう。
横須賀鎮守府は大本営と違って比較的にカジュアルなレイアウトになっていた
外装はコンクリートというよりも木造で、演習場や運動場がやたら広い、正直普段俺が勤めている鎮守府の倍は大きい。結構な格差を感じつつ、鎮守府に入る。
「へぇ、エリート揃いの横須賀鎮守府は高嶺の花だったが、ここまで立派だと嫉妬する気も起きないな」
「約450人の艦娘が働いていますからね、大本営を除けば最も巨大な防衛拠点の一つと言えるでしょう」
「450人!?うちの所とはえらい違いだな」
さらっと言う大淀さんの言葉に驚くしかない
ちなみに大本営を除けばというが、大本営は規模こそ大きいが前線を担当することはなく
あくまでも各鎮守府のバックアップを担当しているので、単純な防衛戦力という点では
横須賀を超える鎮守府はないだろう、一応比肩しうる鎮守府もあるにはあるが。
参考までに、うちの鎮守府は艦娘が220人くらいだったので、単純に二倍以上の計算だ
そしてそのいずれもが訓練された精鋭揃い、敵もこんなの相手にしてらんないだろう。
だからこそ人類が俄然優勢なのかもしれないが…
「そうそう、山田…鳳凰院提督」
「ねぇ、鳳凰院設定まだ続いてるんだ、山田で良くない?こっ恥ずかしいんだけど」
ちょっと感動して横須賀鎮守府を眺めていると、大淀から声を掛けられる
まだ鳳凰院って設定続いてるのか、頻繁に本名と呼び間違えるなら最初から山田でいいじゃんよ
「先ほども言いましたが、貴方が転属されてくることに対して反発を抱いている子もいるようです」
「つまり、今後そういう風に反発してる子が乗り込んで来るイベントがあると、そう言いたいのね?」
「いやまぁ…そうですね、そういう事です」
どうも俺に対して反発を抱いている(という設定の)子が接触してくるらしい、コテコテと言えばコテコテの展開だな
こうやって俺の転属初日に反発してくるような肝が太い子が、ブラック鎮守府の提督相手に頭が上がらなかったってのもどうかと思うが、歴史に出てくる独裁者レベルで弾圧が上手かったんだろう、弾圧が上手いってなんだよ。
「噂をすれば来ましたよ、あなたに対して文句を言いに来たようです」
ほら来た、早いなぁオイ
大淀に指差された先を見てみるが、確かに艦娘はいるが俺に文句を言う人ってのが見えない
瑞鶴とか、ああいう距離が近い人だろうか?
曙・叢雲・満潮・霞の口が悪い四天王だろうか?あるいは龍田さんみたいな底知れなさか…
いやいや、大穴で神通とか妙高さんみたいな静かだけど怒らせると怖い人?
「でも見つからないんだよなぁ、えーと?憤ってる子ってのは誰のことよ」
「え?ですから、今こっちに向かってきているあの方です」
が、上に述べた気の強い子はいずれも見当たらない
何を言っているのか分からないって顔で見られても見当たらないもんは見当たらないよ
うん?こっちに向かってきている方ねぇ…えっ
「いや、あれが文句を言いに来た人なの?」
「はい、貴方が転属されたことが納得いかないようで」
「分かったけどそりゃおめぇ…」
確かに、こっちに向かってきた子は知ってる
知ってるからこそ、想像もつかないってもんだろう
「司令官さんえっと…あの…その…もん…文句を…ごめんなさい!」
「いや羽黒ちゃん!?」
そう言ってペコペコと平身低頭を体現したかのような振る舞いで謝られる。
バスガイドとも教師ともつかない不思議な服にボブカット
何より、この何かにつけて泣いて謝るのが特徴的だ、武勲もあるし本当は凄い実力を持ってるんだけどね…
信頼関係を築くことが出来ればそれなりに自信がついて、相手に意見も言うようになるが
初対面に信頼関係もクソもない訳で…
「この方が、貴方に文句を言いに来た重巡羽黒です」
知ってるけどさ!明らかに人選ミスじゃないのこれ
人見知りとか凄くする人だよねこの人
(どうなんだよ大淀さん、これ文句言いに来たの?初対面の人に演技でも文句言えるの羽黒ちゃん、というか采配ミスでしょ)
既に見てられなくなったので大淀さんにヒソヒソ声でヘルプを求める
(私もそう思いましたが、最初に啖呵を切らせる予定だった足柄さんが提督の看病に向かったので、急遽代役に)
(代役って他に居たでしょ!というかここの提督さんお大事に)
(いる事には居たんですよ、もう二人代役候補が)
(へえ、ちなみに聞いておくと誰と誰?)
代役にしてもちょっとアレだよ!俺もう悪いことしてないのに悪い事した気分になってるもん
そもそも誰と誰が代役候補だったんだろうか
(一人は潮さんでもう一人は名取さんです)
(うん、なんでそっち系で固めるの!?なんでそういう気弱系の子オンリー!?)
(いや、そっちのほうが面白そうなので)
今までに比べても明らかに悪い感じの笑い方をしながら自白する大淀
認めたよ、ついに面白そうだからそういう(気弱な)人で固めたって白状したよ
それ以前に暗にドッキリですって言っちゃってるような…
「司令官さん」
「はい」
ヒソヒソしてたら羽黒ちゃんに声を掛けられる
「あ、あ、あの!」
「え?はい」
「えっと…ごめんなさい、羽黒、今から司令官さんに悪口言いますね、いいですか?」
「あっはい、大丈夫です」
「司令官さんの馬鹿ぁ!」
物凄い入念な前置きの後に罵倒される。いや啖呵切るってより単なる悪口だし羽黒がすっごい気を使ってるのが分かる!
言い慣れてないよ!この子絶対悪口とか言い慣れてないよ!
「う、うわぁショックだー」
もうヤケクソだ、ショック受けたことにしてやるよもう
「え、あ、そんな、司令官さんがショックを…」
俺のショックを受けたという反応を見て、俺のことを本当に傷つけたの思ったのか、逆にショックを受ける羽黒
大淀の時ほど演技してなかったし、多分そこらの子供でも冗談だと分かるはずなんだけど
「ってのは嘘で全然受けてません!何一つ心に響いてないよ大丈夫!」
というわけで路線変更、まったくダメージ受けてません、お前の攻撃なぞ効かぬわ戦法
「ああ、よかった」
「うん、マジで大丈夫だから」
「でも、それだと羽黒はみんなに頼まれた大切な役割が!」
少し涙ぐみながらも、俺に猛反発するという役を演じる抵抗感と、役を引き受けた事による責任感で揺れ動く羽黒
大丈夫だよ羽黒、多分みんなが欲しがってる反応は今のそれだと思う。というかそうじゃなきゃ困る
というか効いてるアピールだと罪悪感で泣くし、効かないアピールでも責任感でプレッシャー受けて涙ぐむってどうすれば!?
「分かった、じゃあこうしよう羽黒さん、俺に続けて悪口を言って見よう」
「え、は、はい」
「ぶっふぉ」
役目なので悪口が言いたいが、俺を案じて(そんなにヤワじゃないのに)言えないようなので、俺に続けて
俺の悪口を復唱するという奇妙な提案をしてみる。
俺と羽黒の掛け合いを進行役として横で見守っていた大淀さんは、シュールさに耐えきれなくなったのか噴き出した。覚えてろよ、あの眼鏡にいつか指紋べったりつけてやる。
「はい、リピートアフターミー、バーカ」
「バ、バーカ…」
「いいね、アーホ」
「ア、アーホ!」
「その調子だよ、ハーゲ!」
「ハーゲ!」
繰り返すうちに言えるようになってきた。でも悪口を言えるようにする特訓ってありなんだろうか?
教育的には完全に駄目なんじゃないかな。初対面の人に悪口が言えるようになる必要性ってまずないだろうし。
まぁ、この子は自信を持てば全てにおいて高いポテンシャルを発揮するし案外交友関係も広いから…
あと成長が実感できるからこうやってなんか教えるのが楽しい子でもあるよな、横須賀鎮守府所属レベルの艦娘に教えられることなんてゲームくらいしかないが。
「ほら!自分の口で何か言って見な!」
「ありがとうございます!やーいぼっち!」
んだとコラァ!
「お前…お前…いや、ぼっちはねぇだろ」
「ひぃっ!」
あ、しまった、つい牡蠣パーティーの事でぼっちって単語に対してナーバスになってた
羽黒も別に悪気があって言ったわけじゃ…
「あ、待って怒ってないからごめん!」
「ごめんなさいぃ!わーん!」
慌てて止めたけどもう遅かった。普段のような涙ぐむ、だとか涙が滲んでいるとか、そういうレベルじゃない、完全に泣きながら走り去ってしまった。やってしまった…あとで菓子折りもって謝りにいかないと。
「これ大丈夫?トラウマになったりしない?申し訳ないんだけど」
「いえ、おそらく大丈夫でしょうね。あの子何だかんだ心が強いので」
「それより提督、面白かったですよ、リピートアフターミーってなんですか」
「しゃーないじゃん…どうすればいいのか分からなかったし…」
羽黒は大丈夫らしい。というかリピートアフターミーについてはツッコミ無用だろ!
安心させるために茶化したかったんだよ!結果的に泣かせちゃったけど…
「それはそれとして提督、これから各施設への見回り後、艦娘代表に挨拶してもらいます」
「あ、各施設って結構な範囲使えるんだね」
「ええ、流石に全てとは言えませんが、当鎮守府の大部分を使用できます」
ズレた眼鏡の位置を指で戻しつつ、大淀は得意げにそう言った
その間違った行動力と人脈はどこから出て来ているんだろうか
「さぁ、こちらへどうぞ」
俺は大淀に誘導されるままに歩き出した
羽黒可哀そうなんで今度また出します。
個人的に羽黒は泣かせたいけど悲しんでほしくない子ランキング一位。
敬称は主人公の気分次第で付けたり外れたりします
ブラック鎮守府更生ものならやっぱり
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食堂から
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執務室から
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設備見回りから