埋没殿のサイレントリッチ   作:ジェームズ・リッチマン

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地に堕ちた天空大門

 

 塔に近づくにつれて、奇妙なアンデッドの一団を目にすることが多くなった。

 それらはここまでの道中でもいくつか見られたものだが、明らかに目にする頻度が増えている。

 

「……動きがない。不気味だな」

『ええ。近づいても特に反応がありません。しかし、間違いなく群れている。……異様です』

 

 スケルトンの集団がいる。

 彼らは十体ほどの人数で人まとまりになっており、不活性のまま一箇所で固まっていた。

 動く様子はない。だが、二足で直立しており死んでいるわけでもない。

 通常、意思のないアンデッド達のほとんどは無意味に動き回るものだ。立ち止まることも多いが、閉所でもないのに常にじっとしていることなどほとんどあり得ないと言えた。

 

『スケルトンにこのような習性があるなど、初耳ですが……』

 

 無害だが不気味。そのような一団を見かけることが多くなった。

 

 

 

 迂回は多い。中央に近づくにつれて行軍の軌跡は複雑さを増す。

 それでも誰一人欠けず遅れることなく移動し続けることがでたのは、全員がアンデッドであるが故。

 生身を持った人間であればそうはいかなかっただろう。

 

「……おっきい」

 

 いよいよ斜塔の真下までやってきた時、首を大きく仰け反らせたレヴィは、ただただそう呟く他なかった。

 

 バビロニアの斜塔。残るは先細った豪奢な上層部のみである。

 だというのに、そびえ立つ高さ、巨大さはそれが廃墟であることを少しも感じさせない。あるいは、外壁に石材を多く利用した中層以下が崩れ去ったことにより、かつて以上の神々しさを湛えているのだろうか。

 

「すげぇな……改めて……」

『はい……』

 

 真下から全容を見上げる経験は、ルジャにはあった。

 しかし彼が騎士だった頃は裾の広い最下層が邪魔で、建物の切れ間から一部分を見上げるのが常である。こうして全体を捉える経験は少ない。

 エバンスは外に出たことすらなかったので、衝撃はルジャ以上だ。

 

 リチャードは塔を見上げ、その細部に目を凝らし……そしてすぐにやめた。

 上層部の華美な外壁がさほど趣味に合わなかったのもあるし、日差しの向きによって表情を変えるらしい塔表面のレリーフが埋没殿において一切の表情を消し去っているのがあまりにも無惨で、直視できなかったというのもある。

 

 理解されないだけならばよくあることだ。

 しかし正しく飾られることなく佇む他ないというのは、間違いなく酷であろう。

 

『入り口は……あちらでしょうね。さあ、皆様。向かいましょうか』

 

 薄暗い地下坑道で過ごしてから何年にもなる。

 しかし彼らはこの日、ようやくバビロニアへと戻ってきた。

 

 塔に踏み入った者たちを察してか、それともきまぐれか。

 頂上に臥せるドラゴンゾンビが低い唸り声をあげていた。

 

 

 

 斜塔最下部には巨大な門があり、そこが主な入り口をして使われているらしい。

 目を凝らせば窓や銃眼などの小さな入口はいくらでもあるのだが、船が通れそうなほどに特に巨大な入り口には、長年に渡って踏み固められてきた道が出来上がっているようだった。

 

 かつては竜騎兵の発着門としても使われてきたバビロニア空中大門。黄金に輝く巨大な空門は綺羅びやかな竜騎兵を蒼天へと送り出す、バビロニアでも有数の軍事基地であった。

 それは今や地下の最下層にまで埋没し、歩行アンデッド達の気安い通路と化している。崩落の影響もあり、門をくぐり抜けてすぐの大広間には昔の華美な内装は見る影もなかった。

 

「……広い」

 

 シャンデリアは微塵に砕け、繊細なタイルの床は砂となった。

 それでも、未だ塔の内部は広かった。他国の人間では製法を思い浮かべることすらできない巨大な柱は健在で、今もまだ上へと伸びている。

 倒壊したとはいえ斜塔として残っているので当然ではあるのだが、原型が残っていることにルジャは改めて息を呑む心地であった。

 

 見上げれば威容は健在だ。しかし、一度視線を下ろせばその感動も薄れてゆく。

 

『……当然ではありますが、酷い有様ですね』

 

 塔内部は、外の瓦礫の山と左程変わらない。

 むしろ壁があることで山が崩れにくくなっているのか、より起伏のある障害物で満ち満ちているようだった。

 上の階から落ちてきたらしい家財も多く、少し見回せば十メートル近い小山の連なる場所さえある。

 

「思ってたよりアンデッドが少ないのは好都合だが、ひでえな」

『大変ですね……僕も、歩くのに手間取りそう』

「……あっ、キラキラしてるの見つけた」

 

 周辺に危険なアンデッドもいないためか、各々が好き勝手に見て回る。離れすぎないように最低限で留めてはいるが、誰しも初めて踏み入る空間に興味津々だ。

 そんな中で、パトレイシアだけは塔内部の空間について冷静に分析していた。

 

『やはり空中回廊は重みに耐えきれなかった……空中大門より上ということは、大階段で上がっていくのが一番ですけど……さて……』

 

 近付いてみて感じたのは、塔入口の想像以上の巨大さだった。

 当初は瓦礫によって入り口を塞ぐなり制限する算段を立てていたが、空中大門はあまりにも大きすぎる。そのためパトレイシアは一旦計画を変更し、塔の内部にて適当な狭い区間を塞ぎ、要塞化することを検討し始めている。

 通路はいくつ存在するか。どれほどの資材と労力で塞げるか。塞いだ後の危険は。

 特に上層部の内部構造などはほぼパトレイシアしか知らないのだ。彼女は今まで以上の責務を感じながら、必死に頭を働かせている。

 

『……! 皆さん』

 

 そんな中、パトレイシアの視界にリチャードの姿が入り込んだ。

 彼はステッキをどこかへ差し向け、じっとある一点を示している。

 

 パトレイシアの呼び声に全員が反応し、同じくリチャードの示した方向へと注意を飛ばす。

 

「あれは……一体なんだ……?」

『スケルトン……のように見えますが……』

『……一旦隠れましょう。これは……』

 

 ステッキで示された場所。塔の上部へと続いてゆく、傾いた大階段。

 遠く離れたそこには、八体ほどのスケルトンが群れとなって降りてくる姿があった。

 

『これは……何か、作為を感じます。無視できない、何らかの作為を……』

 

 一糸乱れず階段を降りてくるスケルトンたち。

 彼らは武器を手にしているわけでもなく、リチャードたちに気付いた風でもない。

 

 しかし彼らは一様に何らかの“荷物”をその手に抱えているのだった。

 

 

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