夜が明け、薄ら寒い博麗神社の鳥居の前。何時もの格好した俺は残り少なくなった煙草をそっと咥え、火を付ける。
火を付け、ゆっくりと肺に紫煙を充満させていく俺の見つめる先には、立派な石段の階段が眼下に広がっている更にその先、土が剝き出しで申し訳なさ程度に整地された遊歩道のその又更に先に、妖怪や人外達による不可侵が妖怪の賢者によって取り決められ、安全が約束された人間達にとっての聖地。人里がある。
其処に行かなくては。一刻も早く仲間の安否を確かめなくては。運が良ければ、あいつらなら其処にたどり着いている筈だ。
明け方の冷えた空気が、体を冷やしていく中、肺に溜まった紫煙を吐き出し、背を向けていた神社へとチラリと視線を戻し、未だに眠っているであろう霊夢が居る神社へとポツリと呟く。
「・・・世話になったな。何も言わずに行く俺を許せ」
俺と彼女では立場が違う。彼女はこの世界のパワーバランスを司り、人間、妖怪等の人外の存在に対して中立の立場だ。片や、俺や仲間達はこの世界にとっては異邦人。この世界にどの様な利益を、又は害悪を運ぶか分からないイレギュラー。
特に、俺の様な破滅的な願望が燻っている奴は彼女の近くに居るべきではない。必ずと言って良い程、悪い影響があるだろう。
アレを、あんな事を経験して尚、戦いを望み続ける俺はこの世界に居るべき存在ではないだろう。それでも恋焦がれ、手を伸ばしもがき続けた。そして結果、この様なある意味望むべき展開を手に入れた。この手に掴んで見せたのだ。
それがこの様だ。
関係のないあいつらを、最も危険な、居場所も分からない離散と言う最悪の結果を招いた。あいつらなら生きているのは間違いないだろう。だが、俺の様に重傷を負って何処かにいるかもしれない。
動けない様な状況かもしれない。
俺がやってしまったことだ。テメェのケツ位テメェで拭く。
霊夢には黙って行く事はすまないと思っている。だが、行かなくては・・・。仲間は俺が見つける。この世界に来て、最初に立てた誓いだ。自分で立てた誓いは何があろうと果たさなければならない。
俺が、俺である為に。
「・・・・行くか」
半ばまで灰になった煙草の先を、フィルターを指先で弾いて石畳へと落し、再び煙草を口に咥えた俺は何時も歩いている散歩道を歩くかの様な気軽さで、鳥居を潜り石段を下りて行く。
さて、どんな事がこの先待っているのやら・・・。苦難はあれど、全てぶち壊して進むだけだ。何の問題もない。
手持ちに武器になりそうな物は神社にあった太目の丸太を失敬して作った棍棒が背中に紐でくくりつけられているのと、M1911A1の弾丸が装填済みのマガジンが3本。それとあっちの世界でも常時腰に差していた大振りのコンバットナイフが一振りのみ。
どっかのRPGゲームにでも出てきそうな装備だが、ないよりはましだろう。
長い長い石段を下りて行く俺は例の如くフィルターギリギリまで吸い尽くした煙草を掌で握り潰し、消火して石段の上に吸殻を放り捨て、ジャケットのポケットに乱暴に手を突っ込み、背中を丸めて石段を更に下りて行く。
「・・・残り12本か・・。なくなったらどうするかね。キセルでも試してみるか?」
残り少なくなった煙草のストックを気にかけながら降りて行くと長かった石段が終わり、鬱蒼と茂った木々の中にぽっかりと開いた細い道を見据え、先程と同じ様に何も感じず、気軽に人里へと続く道を歩む。
最初に博麗神社に担ぎ込まれる前の様に生い茂る木々に、再度感動を覚えつつ、背に担いだ棍棒の位置を直して、空に上がりつつある太陽に目を細めて見上げ立ち止まる。
「何処でも太陽だけは変わらないな、もう黒煙が覆った空は見たくないな・・・。こんな青空を死ぬまで見ていたいものだ」
ジャケットの懐から中途半端に残していた2つの携帯食料のパッケージの封を切り、それを取り出して口元に運び、バリボリと嚙みながら再び人里へと向けて歩を進める。
この甘ったるいだけで高カロリーで糖質高めのチョコレート味の携帯食料を久々に貪ると、博麗神社で食べた天然物の食料達の美味さと栄養価といったら・・・溜息が付きたくなる様なレベルで差が開いている。
まぁ、誰しも好き好んでこんな物なんて普通は食いたくはない。俺達の世界ではこれがまだ上等な食料だ。でなければそれでこそ消費期限切れのレーション位しか庶民には手が出せない。
クッソ不味くて栄養価とカロリー値のみが高いことで有名な軍用レーションをな。
「はぁ・・・不味い。美味い物を食って無駄に舌が肥えたせいだな。こんな所で思わぬ弊害が来るとは」
実際、慣れ親しんだ味の為に大した拒否感は抱かないが、あの飯の美味さを知ると色々と物足りなく感じる。温かくて美味い飯に出汁が効いた熱々の味噌汁。泥臭さが全くない淡白ながら旨みのある川魚の焼き魚・・・。
あのあったかい飯が、記憶の片隅にもない本当に小さな頃に、俺達は食えてたのだろうなと考えると、今の生活との落差を鑑みるに・・・そういう事なのだろう。時代が悪かった・・・。と言う事なのだろう。
そんな事を考えつつ、簡素な朝食を食べつつ森の中を突っ切る俺には、そんな如何でも良い考えが
浮かんでは消えていき人里への道を進む歩を急がせた。
「ふーむ・・・道中、妖怪の一匹は出るかと思ったが運が良いのか悪いのか。何でこんなんばかり集まるかね」
人里へと続く道も、『後少しで人里』と言う粗雑な板にやけに丁寧な字で書かれた看板を見ながら、背中に背負った物体と、左手に握った細長い何かを見つつ、遠くに見える頑丈な木製の門を眺めつつ、図らずも手に入れた『土産物達』を手に遥か高くに昇った太陽を今一度見やり、来た道を振り返る事なく、残る道程をただ只管に進み続けた。
さーて、みんな大好き妖怪さんはまだだーれも出てこないよー(棒)