穿たれた弾痕から命の雫たる血液が、固く冷たい無機質なアスファルトへと流出して行き、汚らしくぶちまけている様を、冷めた目で見やり、『何か』の死亡を確認した俺はセレナへと振り向き、歩を進める。運転席のドアコックを引っ張り、ドアを開け放って中の仲間達に安否を確かめる為に、今一度声を投げ掛ける。
「ふぅ・・・全員、無事か?こっちは訳の分からないモンスターを始末したぞ」
「銃声があったから、何事かと思ったが・・・お前も無事のようだな、私達も大丈夫だ。負傷者はいない」
声を投げ掛けて返答を返してくれたのは変わらずに、冷静なキョウの言葉にぐるりと社内の全員を軽く見渡すが、なるほど確かに負傷者はいないようだ。それに安堵した俺は、内心で胸を撫で下ろし、口を開く。
「少し待ってろ、車のダメージを確認してくる」
ずっと持ちっぱなしだったM1911A1に再び安全装置を掛け、カーゴパンツの左ポケットに仕舞い込んだ俺は運転席のアクセルレバー等の上部にある前バンパー用のコックを見つけ、思い切り引く。バクリと何時もより嫌に響く異音を響かせながら開いたバンパーをフロントガラス越しに顰め面で眺めながら、ドアを閉めてセレナのバンパーを注視する。
さっきの『何か』との衝突により、バンパーは軽く凹んでいる。減速していたのと、ハンドル操作によって幾分かはダメージコントロールできたと見ていいだろう。問題は中だ・・・。
バンパーを留めている金具のロックを外し、バンパーを上部へとこじ開ける。
「ん・・・オイル漏れも、異常もなし。黒煙等も無い・・・。問題なく動けるな」
軽く中身を確認するが、エンジン等にも損傷はなく傷ひとつ無い。此処だけは運が良かったようだな。緊急での修理は必要はなさそうだ。流石に何のカスタムもしていない車体とは言え、あの程度だと大してダメージらしいダメージでもないみたいだ。
これは探索が終わったら直ぐ車体整備してやんねぇとな。
各部位の再チェックを目視で手早く確認すると、そのまま半壊したバンパーを丁寧に閉め、手に付いた僅かなオイル汚れをカーゴパンツでゴシゴシと拭い去り、再びドアを開け、運転席へと滑り込む。
「車の状態はどうだった?」
「全然大丈夫だ。外装が少し傷ついてるくらいだ。中も大丈夫だ。損傷はない・・・買ったばかりの新車なんだがな・・・」
「そうは言っても、もう1年以上は経ってるだろう?」
「ああ、大事に乗ってきたんだがな・・・」
キョウの言葉に若干、落ち込みながらキーを回し、エンジンをスタートさせる。エンジンは確認した事もあり、変な異音も、何かが焼ける様な異臭もしていない。相変わらずの芳香剤の香りと、少し混じった煙草の臭い・・・。何時も通りだな。
「行くぞ。準備は良いか?」
「ああ、大丈夫だぜ。相棒」
「こっちもOKだ」
「いいぜー」
「・・・コクッ」
「大丈夫です」
全員の思い思いの返事を聞き、シフトをパーキングからドライブへと移行し、セレナを再びのろのろと調子を確かめる様に走行させる。
「駆動系も異常なさそうだ」
「セイジ!前を見ろ!」
「んだよ?・・・あの野郎、あれでまだ生きてやがるのか・・・?!」
キョウの焦った口調に視線を前に戻せば、ボタボタと自らの血液を垂れ流しながら、爛々と光り輝く不気味な両眼で此方を見据えた先程仕留めたと思った『何か』。力なく立ち上がったそいつは両腕をゆらりと頭上に掲げ、殺意を漲らせている。
「俺達は端から、お前に用はねぇぞ!しつけぇんだよ!」
「しかし、一体何なんだよ?ありゃ?」
「俺が知るかよ!クソッタレが!」
「あんな生き物いるのかよ?!」
「今、目の前にある出来事が現実だ!邪魔なあの糞野郎をブチ殺してやる!」
相棒のもっともな疑問に悪態を吐きながら、カイの放った言葉に、分からないことだらけのこの現実に苛立ちが募っていき、簡単にブチ切れた俺は窓を開け放ちM1911A1を再び抜き、狙いを付けて即座に発砲。
マガジン内に詰まった最後の2発を奴の眉間に寸分違わずにぶち込む。
ドドン!とダブルタップ気味に放たれた弾丸は奴の眉間を貫き、奴はその衝撃で仰け反っている。
「やったか?」
「・・・あれは本当に生物か?」
スライドが後退した状態で停止したM1911A1のマガジンキャッチボタンを押し込み、空になったマガジンを抜き取ると左のポケットに仕込んだ予備のマガジンをすかさずにリロード。スライドリリースレバーを押し込み、初弾をチャンバーへと送り込む。
再び照準を奴に合わせるが、マガジン1つ撃ち込んでヘッドショットまで決めたのに、生きてるなら無駄弾になるだろう。
仰け反った姿勢から筋力のみで此方へと向き直った『何か』は眉間から血を垂れ流しながら、更なる殺意を秘めて此方を睨みつけている。
「もう、勘弁してくれよ・・・」
「まさか妖怪じゃないだろうな?」
「何でも良い。このまま轢き殺す。慈悲は要らんだろう。総員、対ショック体制!かなり揺れるぞ!」
全員への注意を呼びかけ、発砲後ものろのろと進んでいたセレナのアクセルを思い切り踏み込み、加速させていく。そのまま睨み付けているだけの『何か』に思い切りフロントから突っ込み、車体を奴へとぶつける。
『ギャアァァァァァァァッ!!?』
「うるっせぇんだよ!このクソ野郎が!サッサとくたばりやがれぇぇぇ!!」
大した速度も出ていなかったが、凄まじい衝撃が俺達を襲い、体がシートベルトから離されそうな程の強烈な反動に、肺の中の空気を全て吐き出し、再び吸い込む。フロントガラスは衝突の影響で罅が入り、最早修理行きは免れないだろう。
チラリと奴を見ると、奴は衝突してきた車体を両腕で押さえ付け、完全に衝撃を防いだようだ。とセレナを腕力だけで徐々に持ち上げていく。
「おいおい・・!アリかよ?!」
持ち上げられた車体が近くのガードレールへと徐々に傾いていく。コイツ、このまま崖下に俺達を投げる気か?!
更にアクセルを踏むも地面から離れたタイヤは力強く空回るだけで、そのままソイツは異常な怪力を持って俺達が乗った車体をガードレールを突き破る程の怪力で投げ飛ばす。
「やばいぞ!全員何かに掴まれっ!!!!」
「うわわわわわっ?!」
「!!?」
「逃げられないか・・!」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ファァァァァァァァァァック!!!!!!!!」
――――俺が最後に覚えているのは、気持ちの悪い浮遊感ときつく握り締めたハンドルの感触。ソレと目の前一杯に広がる川の流れと腹が立つ程清清しいせせらぎの音だった。
うぼあぁぁぁぁぁ