「・・・・っ・・・はぁっ・・!ぐっ・・・!」
あれからどうなった・・・?
ガンガンと殴り付けられる様な鈍痛の中、割れる様に痛む頭を右手で抑え、全身を苛む酷い激痛の中、俺の意識はぼんやりと覚醒した。
荒い吐息を吐き出し、消えぬ痛みに苦心しながら閉じられていた瞼を見開き、視界に急に入り込んだ光の眩しさに目を細める。
「・・こ・・・こ・・・は・・・?」
妙に掠れている己の声に、何やら変な違和感を抱きつつ、鬱蒼と茂る樹林の隙間から照りつける燦燦と輝く太陽の木漏れ日を視界に納めながら、痛みがない左手を支えに上体を起き上がらせる。
「・・・・?」
自分は、こんな森の中で寝ていただろうか?疑問は鎌首を擡げ、俺に襲い掛かってくるが、それを最優先事項ではない為切捨て、辺りを見渡す。
見渡すと、此処は何処かの森林地帯なのだろう。どれ程久方ぶりになるか、記憶の彼方へと押しやられた美味い空気に、何者の手にも汚されていない大自然。そんな中、徐々にハッキリして来た意識で耳に捉えた音は、違和感を遺憾なく発揮している何かがパチパチと爆ぜる音。
そちらの方へ顔を向ければ、スクラップ同然となってキャンプファイヤーの成り損ないの篝火の様になった俺の愛車の変わり果てた姿。
「・・・・泣けるぜ」
このショッキングな光景を理解できず、何度か深呼吸をすると掠れが取れた声で第一に呟いた台詞はそれだった。いや、もう、買ってまだ2年程しか経ってないのに廃車確定とか、やってられねぇよ。と言った思考もグルグルと頭を巡るが、現状は残酷で、この思考は無意味でしかなかった。
それよりも、俺と一緒にいた仲間は一体何処に行ったのだろうか?
辺りを見回せども、周囲には人の姿処か生き物の気配すらない。
ただ、パチパチとスクラップと化した愛車が自分の死を忘れないでくれとばかりに今一度爆ぜた音のみだった。
「っづぅ!?」
何時もの様に何気なく起き上がろうと上体に力を込めると、激痛が体に迸り思わず苦悶の声を上げる。痛みには慣れ親しんだ物だが、何時まで経っても慣れる事はない。痛みが走った箇所は胸と右腕、全身はくまなく強く打ち付けた様に痛んでいる。
確か、俺達は崖から突き落とされた・・・。そして川底に車事突っ込んだことも思い出した。必死に捌いたハンドルも空中で無意味に空回ることだけでどうしようもない事態に悪態を吐いたのも思い出した。
そして、強烈な衝撃の後に訪れた頭部を頭にぶつけた事により生じた強制的な意識の遮断。
意識がなくなる前の仲間達の叫びや何かに掴まれと言う警告・・・。
全部、思い出した。
ジクジクと体中に響く痛みを無視し、右腕の調子を肉眼で確かめるべく、各所の怪我に比べて唯一と言って良い程無傷な左腕でレザーコートの右袖を捲くり、顔を顰める。右腕は骨に罅が入っているのか、碌に力は入らないし、全体的に蒼く腫れ上がっており、通常時よりも確実に太くなっていた。
胸は見なくても分かる程に痛みの自己主張が激しく、確実にアバラは罅が入っているか1,2本は折れているだろう。
「あぁ・・・・ツイてねぇ・・・。んな事より・・みんなは・・?」
状態を確かめるべく捲くった袖をそっと戻し、左腕の力のみで、痛みで崩れ落ちそうな体を支え立ち上がる。途中、鬱陶しい程に激痛が走る体に舌打ちしながらも、何とか立ち上がることに成功した俺は、全身に圧し掛かる倦怠感にふら付きながら辺りを今一度見渡す。
「・・・誰も・・・いねぇ・・・マコトも・・・キョウも・・・・カイも・・・」
何度見渡しても、辺りには人の姿などない。何故あんな即死決定だった様な状況で俺が生き残ったのかは分からないが、俺でこれなら、他の奴らも無事な筈だ。なんとか合流しないとな。
確信は持てないが、自信は持てる。この位であいつらはくたばるタマじゃねぇ。
幸い、足の方は怪我はない状態だが、力が入らず上手く歩行出来ずにふら付く中、一歩一歩確実に仲間のいる方へと、痛むアバラを左腕で抑え付けながら、宛てのない旅路へと俺は歩き始めた。
―――ただ、仲間を探すのに一心だった俺はその時何故気付かなかったのだろうか。川底にぶつかったなら何故、普通ならば下流へと流され、流れ着いているはずの『川原』に俺は寝ていなかったのだろうか。何故、愛車が炎上している場所が『砂利』など一切なく、森林地帯特有の『草地』で炎上していたのかに、気付くべきであった・・・。
「ようこそ、異邦人の方々・・・・幻想郷は全てを受け入れるわ。そして、あなた方が歩む未来はどんなものになるのかしらね?」
異様な空間の中、俺を観察する様に覗く双眸に気付かぬまま・・・傷ついた肉体を引きずって、俺は未知なる場所へと歩を進めて行った。
この作品は ばべんず様が執筆している 『東方六雄伝 Another Writers』の世界観及び、設定が共通されております。
こちらの本編とは違う展開になっているもう1つの六雄伝をぜひ、お楽しみになって下さい。