「………なんでこんなことになったんだっけ」
「いらっしゃい、比企谷くん。さ、上がって上がって」
「——いやいや、なんで俺が船見のアパートに来ているんだ?」
「なんでって、ええと、映画を観たあと、お昼を食べようって話になって、サイゼに行こうとしたんだけど——」
「ああ、思い出した。それで、俺がまだ市販のミラノ風ドリアを食べていないって話になって」
「それでわたしが自分の部屋でご馳走するって流れになったんだよね」
「——いやいや、でもそれはおかしい。なんで船見の部屋でもてなしを受けることになるんだ?」
「だって、わたしの家にはドリアをつくる材料があるし、それにコーヒーの腕だって上がったんだよ?ぜひ比企谷くんにはまた飲んでもらいたいな」
「それは良いんだが……やっぱり、外で会った方が良くないか?男女が二人きりで同じ部屋というのは良くないと思うんだが……」
「比企谷君とわたしはともだちでしょ?それもとっても仲の良い。仲の良いともだちを自分の部屋に招待することは世間一般的に『普通』だと思うよ?」
「んん?そ、そうなのか?」
「そうそう。ともだちと部屋で遊ぶくらい『普通』のことだよ」
「そ、そうか……普通なのか………。友人を部屋に呼ぶことなんていままでなかったから知らなかった。なら、大丈夫、なの、か?」
「大丈夫大丈夫。問題ないよ」
「な、なら良いか……——」
* * *
「こちら、自家製のミラノ風ドリアになります。どうぞお召し上がりください」
「店員口調にならなくても良いんだぞ——おお、めちゃめちゃおいしそうだな」
「ミラノ風ドリアは意外と簡単にできるんだよ。コツがあるとすれば、ライスの量はお皿に入る量より少し少なめにすると良いかな」
「ありがとう。家で作るときに参考にさせてもらうよ——じゃあ、いただきます」
「熱いうちにどうぞ——」
* * *
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした。どうだったかな?」
「正直に言って、サイゼのドリアと甲乙つけがたいレベルでうまい」
「そ、そこまで?」
「もちろん、使っている材料は違うから味も違うんだが、船見のつくってくれたドリアはサイゼでは味わえない別格のおいしさだった」
「そこまで言ってくれると作った甲斐があったよ。あ、あとコーヒーもつくっても良い?」
「もちろん。いま、すごく飲みたい」
「ちょっと待っててね——」
* * *
「はい、どうぞ」
「おお、もう香りだけでうまそうだ」
「公園で淹れたあの日からもたくさん練習したんだ。おいしいコーヒーをつくるうえで厄介なのが豆の挽き具合と淹れ方でね。調整と練習を重ねたんだ。気に入ってもらえるうれしいんだけど……」
「そこまでしてくれたならおいしいに決まってるさ。じゃあ、いただきます——……!」
「ど、どうかな?」
「——甘いだけじゃなくて、口当たりもなめらかで、後味にほんのりとした苦味がある。色んな味があって、ものすごくおいしいよ」
「良かった……!色々ブレンドして分かったんだけど、おいしいコーヒーって、少なくとも2種類以上の味があると思うんだ。苦味と甘味、酸味と苦味といった風にね。今回は甘いだけじゃなくて、苦味のある豆もチョイスしてみたの。気に入ってくれた?」
「もちろん。公園でコーヒーを淹れてもらった日から、コンビニコーヒーを飲んでみたり、ドリップバックのコーヒーを飲んでみたり、色々試してみたけど、このコーヒーが断然おいしいな」
「ありがとう。今後もがんばって精進して、もっと良いコーヒーを淹れたいな」
「もう十二分においしいけどな。また淹れてくれるとありがたい」
「もちろん!——さて、ご飯もたべたことだし、次はなにをしようか?」
「ええと、長居するのは悪いからもう……」
「まあまあ、仲の良いともだちの家に長居するのも『普通』のことだからさ」
「なんだか……その『普通』ってのを曲解しすぎてやしないか?どうも言いくるめられているような気がする……」
「気にしない気にしない——」