「——いやぁ、喋りまくったね。やっぱり映画はいいね」
「うん、おもしろいな。結衣のおかげで自分の世界が一回りでっかくなった気がする」
「わたしは自分のすきなものを友達と共有できるのがとってもうれしいよ」
「そうか……。あ、そういえば映画の話をはじめてしたとき、結衣がいくつかおすすめしてくれたと思うんだが……すまん、名前を忘れてしまった。もう一度教えてくれないか?
「ううん、大丈夫だよ。すすめておいてなんだけど、映画に限らず芸術作品は自分がおもしろいと思えばそれが名作だと思うから、八幡くんが気になる映画を観て、それがいいと思ったら十分だと思うな。なにもわたしに合わせなくてもいいんだよ?」
「たしかに、他人の評価は気にしなくてもいいよな——まぁ、でも、『ともだち』のおすすめは知っておきたいかな」
「……わかった、それなら教えるね。八幡くんも自分が好きな作品あったら教えてね」
「おう」
* * *
「ケーキ、おいしいなぁ——あ、そういえばわたしを待ってるときに読んでた本、ちょっと気になるな。結構集中して読んでたみたいだから」
「あぁ、これだな」
「……井伏鱒二?」
「お、読めるのか。このひと中学生でも習うっけ?」
「どうだったかな。聞いたことはあるけど、読んだことはないなぁ——ん?釣りの本なの?」
「おう。井伏鱒二の専門はもちろん純文学だが、生粋の釣り好きだったらしくてな、最近はこのひとの釣りの随筆、つまりエッセイを読んでるな」
「え、八幡くん釣り好きなの?」
「いや、実はほとんどやったことがない。でも、こういう知らない分野の本を読むのはおもしろいな。文もこの時代にしては読みやすい」
「そうなんだ——釣り、やってみないの?」
「んっ……うーん。興味はある。でも、何からはじめていいかわからん」
「そうだね、私も釣りはほとんどしたことないなぁ……。——あ、じゃあ釣り堀でやってみるのは?釣具のレンタルとかありそう」
「たしかに、よさそうだな。……結衣もどうだ?」
「え、やってみたい!いいね!」
「まぁ、俺は金があんましないから、もしかしたら安いところになるかもしれんが……」
「お互い学生だし、それにお互い初心者なんだから、安いところでも軽い気持ちでやろうよ。それに、わたし釣れなくてもいいからやってみたいな」
「まぁ、まずは経験からだよな」
「わぁ、すごいたのしみ」
「ん、待てよ。日帰りにせよ、結衣は親御さんに連絡した方がいいんじゃないのか?」
「そうだね、連絡してみる。きっと大丈夫。八幡くんも連絡したほうがいいよ?行く場所によるけど、遠出ならなおさらね」
「あ、ああ。そうだな。なんて説明しよう……」
「友人と釣りに行く?」
「信じてもらえる自信がねぇ……小町なら結衣のこと知ってるから、小町経由で連絡するわ……いろいろ訊かれる気がするが」
「?了解。計画練って行こうね」
「おう。まぁ、調べないといけないこと多いし、いまはカフェいるから、とりあえずお互い帰ってからそれについては考えるか」
「うん」
「また一回り世界が広がりそうだ」
「わたしも——」