「——俺は、まぁいつもどおりだな。勉強は理系を除けば問題ないし、奉仕部も特筆すべきことはないなぁ……」
「……ちょいちょい比企谷くん。それだけだと会話が終わっちゃうよ」
「そ、それもそうか。——会話を広げる下手さにかんしては折り紙つきだからな、俺」
「ふふ。自慢することではないけどね。……この前、理系が苦手なのは聞いたけど、やっぱり高校の勉強は難しいのかな?」
「そりゃあ、中学に比べたら勉強の範囲も質も違うだろうけど、高校生相応の難易度であって、高校生になっちまえば別になんもないと思うけどな。……まあ、俺は理系捨ててるがなっ!」
「これも胸はって言えることではないんだけどなぁ……。その、なんで理系がきらいなの?」
「難しいから」
「さ、さっき言ったことと矛盾してない……?高校生相応の難易度ではなかったの……?」
「……ま、まぁ俺にとっては難しいってだけで、船見にとっては楽勝だと思うぞ。成績だって悪くないんだろ?」
「悪くはないけど、総武高に行けるだけの学力はないよ。……あれ?それなら、高校受験のときは理系科目大丈夫だったの?」
「あのころはまだ苦手意識持ってなかったからなぁ……。高校生になってしょっぱなの数学の授業で絶望したよ。教師がなにを言ってるのかまったくわからなかった……」
「あはは……。これ以上は掘り下げないでおこう……。——それで、奉仕部はどうなのかな?」
「……ん、そうだなぁ……——罵倒される毎日だよ、ほんと」
「えっと、それってたしか部長さんのことだよね?」
「ああ。部室に入室するたびに俺の名前を改変して罵倒してくるからな、あいつ……。蔑称のレパートリーどんだけあるってんだ……」
「ふふっ。……でもさ、良いじゃん。きっと部長さんも悪気があってやってるわけじゃないと思うし、ぜったい比企谷くんと会話するのがたのしいんだよ」
「悪気がないなら余計にたちが悪いんだよな……。ま、罵倒されるのはむかしから慣れっこだ。小中の同級生たちの罵詈雑言に比べりゃ、あいつの悪口なんてかわいいものさ」
「そ、その……ごめん。自虐ネタは反応に困るよ……」
「っと。……すまん。——でも、自虐ネタが許されるなら俺はいくらでも語れると思うぞ」
「うーん……けど、一方的に自虐ネタを語られるのは、会話とは言わないと思うけどね……」
「もっともだ……」
「——あ、コーヒーとケーキがきたよ。さっそく食べよっか」
* * *
「ここのコーヒーは相変わらずおいしいね」
「うん。うまい」
「……比企谷くん、マックスコーヒーがすきだよね?ブラックで飲んでるみたいだけど、砂糖とか入れなくても良いの?」
「確かにコーヒーは甘党なんだが、ここのコーヒーはブラックでもいけるんだよな。……なんつーか、苦いはずなのに、どこか甘みがあるっていうか……」
「あ、わかるわかる!おいしいコーヒーって、ブラックでもなぜか甘いよね。苦味のあとに、こう……ふわぁ……っと甘みが漂ってくる感じ」
「そうそう。マックスコーヒーも好きだけど、これはこれで良いよな」
「…実はさ、コーヒー、自分で淹れてみようと思っててね……前から興味があって、いまいろいろ調べてるんだ」
「おっ、そうなのか。自分でつくるとなると、けっこうハードル高い感じがするな……あ。いやっ、否定してるわけじゃなくてだな……」
「ふふっ。大丈夫、わかってるよ——その、調べてみるとね、案外難しくはないみたいなんだよ。……えっと、必要なのはね、コーヒー豆、ミル、ケトル、ドリッパー、フィルター、あとはコーヒカップくらいかな」
「……ドリッパーってのは?」
「コーヒーフィルターをセットする台みたいなものだね。ドリッパーにフィルターを装着して、コーヒーカップの上に置くの。そしてフィルターにミルで挽いたコーヒー粉を入れて、うえからケトルでお湯を注ぐって感じかな」
「おお、なんだかおもしろそうだな」
「でしょでしょ?……わたし、ゲームくらいしか趣味がなかったから、新しい趣味をつくりたいなぁって思ってて」
「……新しい趣味かぁ。良いなそれ」
「比企谷くんは趣味とかある?」
「俺か?……うーん。俺はなぁ——」