「……なんというかさ、『ひとを助ける』ってさ、ことばだけだと良い具合に聞こえるけど、実際はすごい恣意的で一方的な行動のように思えるんだよな」
「……どうして?」
「——ひとを助けるって、いわば、対象者の『運命』みたいなものを勝手に変えてしまうってことだろ?そして、実際に助けた瞬間、助けられたひとの、もしも助けられなかった場合のその後の展開一切合切を消してしまうんじゃないかって、そう思ってるんだ」
「でも、助けられなかった場合、そのひとはつらい目に遭うでしょ?」
「そうでもあるかもしれないが、裏を返して、よくよく考えてみると、そうじゃない場合もあるかもしれない。当該者はそのとき助からないだけで、時間が経てば、いい方向に進む場合もあるかもしれない。でも、その前のタイミングで俺が助けてしまったら、その方向性も消滅する。ひょっとすると、俺が助けたことで、その後良くない運命を辿らざるを得ない人間もいるかもしれない。そして、それを俺は恣意的にやってしまう」
「……うーん。どうなんだろう。でも、困っているひとが助けを求めているなら、やっぱり助けることが正しいことだと思うよ。その後、そのひとがどんな道を歩まざるを得ないとしても、その『運命』までに責任を感じなくてもいいんじゃないかな」
「そう、なんだよな……でも、どうしてもこんな捻くれた考え方から抜け出せないんだ」
「わたしは八幡くんと出会えたことで、別に助けられたというつもりはないけど、すごいたのしい人生を送れているよ。わたしには八幡くんと出会わなかった場合のその後の人生のベクトルを実際には知ることができないし、実際に出会ったその後の長い『運命』もいまは想像できないよ。——でも、『八幡くんと出会ってからいままで』すごいたのしいんだ。それは八幡くんがしてくれたこと。これは、なんにも悪いことじゃない。わたしはとても八幡くんに感謝しているよ」
「……ありがとう。こんなことを最近考えてたから、少し寝不足だったんだ。——ほんとうにありがとう。うるっとしそうだ」
「どういたしましてっ。——人間って、助けるっていう行為以外にも他者にたくさんの影響を与えるから、少し辛口になっちゃうけど、一つ一つを考えていたらキリがないと思うよ。でも、わたしにしてくれたみたいに良い影響もいっぱいあるから、そのことはどうか誇ってね」
「……ああ、さんきゅな。——すごい重い話を切り出してしまっていたことを実感してきた。まって、恥ずかしい……その、すまんかった!」
「ううん、大丈夫だよ——そういった話をはじめて八幡くんから聴けて、正直、うれしいな。だんだん、君のことがわかっていく」
「……結衣も、なんかあったらいつでも相談してくれ」
「うん、ありがとっ——」