「——よし、次に水気を切ってあるネルを手で持ちながら淹れられるように、ハンドルに装着します」
「ハンドルが通せるようにネル自体に穴が最初からついてるんだな」
「そうそう——装着完了。そして、挽いた粉をネルに入れてっと。……お湯の方はこのあいだにちょうどいい具合に熱湯からは冷めてると思う。温度も人によって好みがまちまちだね。だいたい八五度から九五度までの間におさまればいいかな。これからする淹れ方は点滴ドリップだから時間がかかるし、お湯もだんだん冷めてくるから、あえて最初は温度高めにしておいた方がいいと自分では思ってるよ」
「もはや化学実験の領域だ……」
「たしかに、コーヒーは化学と言っても差し支えないような気がするね——そして、やっとこれで淹れる段階まで来たよ……」
「おおっ、待ってました!」
「うんっ。不肖船見結衣、がんばりますっ!——えっと、サーバーにネルドリッパーをセットして淹れることもできるけど、ドリッパーを固定してポッドを動かすよりも、ポッドを固定してドリッパーを動かした方がドリップが安定するので、わたしは後者の方法で淹れます」
「アニメのキャラだと目がグルグルになって怯むような説明だな……」
「あはは……まぁ、淹れてみたら分かってくると思うよ——よし。では、お湯を注いでいきます」
「………」
「………」
「………」
「………」
「べ、別に気を遣って沈黙しなくてもいいんだよ……?」
「い、いや。見てる限りめっちゃ集中力が必要だと思うからな……しかし、すごいな。本当に一滴一滴、点滴みたいにお湯が落ちてるな」
「練習しまくったからね。ほんとはペリカン口のポッド——後で写真で見せるけどね、そういう注ぎ口のタイプのポッドの方が点滴ドリップをしやすいんだけど、私は先にこれを買っちゃったから……これでも淹れられることはできるけどね」
「なるほど……」
「………」
「………」
「………見てたら分かると思うけど、この淹れ方、百二十ミリリットル注ぐのにもひっじょーっ!に時間がかかりますので……その……何か話してくれると助かります」
「お、おう……じゃあ、俺の過去の苦い経験談でもどうだ………コーヒーだけに」
「………」
「………結局気まずくなってしまった………」
「あっ、違うのっ!ごめんねっ!なんて返せばいいか考えててっ」
「大丈夫だ。大丈夫なんだ。大丈夫すぎるんだ……」
「そんな三段活用みたいに……」
「まずい恥ずかしいしにたい」
「待って早まらないでっ!これっ!これ淹れて飲んだらきっと希望は見えるから!——」