「——あと、少し……」
「………」
「………」
「………その、八幡くんのコーヒー的経験談紹介コーナーはしないの?」
「勘弁してください……」
「じょ、冗談だからっ!——えっと、一〇〇ミリの目盛りを少し超えたくらい、これで大体一二〇ミリリットルだね……よし、ドリッパーをとりあえず脇に置いて、温めていたカップのお湯を捨ててサーバーからカップに移すよ」
「ついに……」
「そしてスプーンで軽く混ぜてっと……——完、成っ!」
「おおっ!……ほんとうにおつかれさまだな。たしかにこりゃ手間がかかる」
「うんっ。でも、その分おいしいと思うよ」
「そうだな……って、ん?一二〇ミリで一杯分だよな?結衣の分は?」
「いや、わたしはいいよ。また今度自分で淹れるから。二杯分だとドリップも二倍近く時間がかかってしまうので。はやく八幡くんに飲んでもらいたかったし」
「いや、しかしな……やっぱりこういう時は二人でいっしょに飲みたいけどな」
「んんっ!——えっと……その……」
「結衣の分もいまから淹れたらどうだ?あ、いや、手間がかかるだろうからなぁ。——これを二人で分けるか」
「!あっ、じゃあさき八幡くんが飲んでっ。その後わたしがそのカップもらうからっ」
「えっ!……えっとだな。その、結衣。別のカップがあるなら飲む前に半分で割ろうって話で……だな……」
「あっ………」
「………」
「………た、棚から別のカップ取ってくり……くる……ね………」
「お、おう………」
「しにたい」
「ま、待て結衣っ!早まるな!これ飲んだら希望が見えるんだろっ!——」
* * *
「なにもなかったね」
「そうだな。結衣がコーヒーを淹れてくれた。それ以外にはなんにもなかった」
「よ、よしっ。——それでは、一人六〇ミリリットルと大変少量ですが、いただきますか」
「おう——それでは、いただきます」
「……どうかな?」
「……!——えっ、なんだこれ……すげぇ。コーヒーだけど、いままで飲んできたのとはまったく違う。めちゃくちゃトロッとしてて濃い。なおかつ味が重層的というか……ほんとに次元が別な感じがする。うまい、ほんとうに」
「よかった……ここまで濃いと嫌厭するひともいるみたいだから、おいしいと思ってくれてるのならよかったよ」
「濃いけど雑味みたいなのはあまり感じないな」
「挽き目を細かくしすぎるとイガイガな味まで抽出されてしまうけど、粗めでゆっくり淹れてるからかな。あと、申し訳ないけど、やっぱり淹れるのにどうしても時間がかかるから、すごい温いと思う。淹れた後温め直すこともできるけど、わたしはあまりそれをしたくなくてね。温めてしまうと熱で風味が飛びやすくなるって理由もあるけど」
「いや。たしかに温いかもしれんが、むしろ味を感じやすくていいと思う。——まじでうまい。こんな味のコーヒーがあったとは……」
「喜んでもらえてよかったよっ。手間がかかるから毎朝学校に行く前に淹れるってことは難しいけど、こうやって余裕のあるときにじっくり淹れて飲むのはやっぱりたのしいよ。——二人で飲むともっとね」
「……ああ、そうだな——」