比企谷八幡と船見結衣の会話   作:風吹18号

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「——『カリガリ博士』って映画なんだが……知ってるか?」

 

「えっ!わたしもこの前観たよっ!すごい偶然だっ」

 

「おお、流石結衣だな……同じのを観ていて良かった。俺が観たバージョンはBGMが付いてたけど、この作品は元々は音がない映画——サイレント映画ってやつだよな?」

 

「そう。無声映画、サイレント映画だね。一九ニ〇年代後半までは、映像と音を同時に撮る技術が確立してなかったから、昔の映画は音が流れなかったんだよね。それ以降は、音と映像がシンクロできるトーキー映画が主流になるわけだけど——八幡は配信サービスで観たの?」

 

「ああ。多分結衣と同じやつだな」

 

「わたしと八幡が使ってるような配信サービスで提供されてるサイレント映画は、大抵はサウンド版、つまり後付けでBGMを収録したバージョンなんだ。一度、まったく音がない状態の映画を配信サービスや劇場で観てみたいなぁ——いずれにせよ、サウンド版でも俳優の声は聞こえないわけだけど、八幡はどうだったかな?」

 

「そうだな……はじめてサイレント映画を観たから、とにかく新鮮だったな。画面いっぱいに映る字幕も初体験で面白かった」

 

「うんうん。俳優が少し口を動かすとつづけざまにセリフが大きく映るのはなかなか興味深いよね——いっしょの映画を観たのがうれしくていろいろ訊いちゃうけど、映画自体はどうだった?」

 

「おう。無声で字幕も毎回映るわけじゃないのに、ちゃんとストーリーがわかるようにできていたな。そう言えば、俳優の演技もオーバーだった気がする」

 

「やっぱり音がない分ストーリーがわかりづらくなるから、字幕以外の要素も明瞭にしないといけなかったっていう背景があるみたい。だから、役者の演技もあえて過剰にしているんだね。ヒロインが恐怖する演技もすごいオーバーじゃなかったかな?」

 

「たしかに。ホラー漫画みたいな顔をしてたな」

 

「あの映画に限れば、全体が結構演劇に近い感じだったよね。……サイレントと言えば、海外だと当時は無声映画は無声のままか、伴奏やレコードで音楽を流して上映してたわけだけど、昔の日本でサイレント映画を上映するときは、『弁士』っていう映画の語り手が活躍してたみたいなんだ」

 

「弁士?」

 

「『活動弁士』とか『活弁』とも呼ばれてるんだけどね、日本ではサイレント映画の上映時に、その場で映画の俳優のセリフを代わりに読んだり、状況や背景をナレーションしてくれるひとがいたんだ。いまの声優さんみたいな役割だね」

 

「そんな文化があったのか、知らなかった……すごいおもしろそうだな」

 

「配信サービスでも活弁付きの映画はちらほらあるから、今度良かったら観てみてよ。……それに、現在でも弁士は少ないけど活動しているみたい」

 

「そうなのか……でも、多分サイレント映画を流す映画館ってほとんどないよな?」

 

「うん。それこそ単館の映画館とかでしか流してくれないよね。活弁付きで映画を観て育った人たちはいまではもうほとんどいないと思うけど、伝統を絶やさないように、数は少なくても弁士がそういった映画館や施設で活動しているみたい」

 

「聴いていると、それもいつか結衣といっしょに観に行きたくなってきたな」

 

「!……うんっ。やってみたいことがたくさん増えてきたね」

 

「そうだな。……お金もかかるから、すぐにすべてができるわけではないが、『いつかやってみたいこと』が増えるのは結構たのしいことなのかもしれん」

 

「……そうだね。たのしみが溜まっていくのはワクワクするよね。宿題が溜まるのとは違って」

 

「……この会話のオチができたな」

 

「やめてっ、恥ずかしいっ……!——」

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