「………ほんとはな」
「?うん」
「………こうしてずっと過ごしていたいんだ」
「!えっ、それって………」
「い、いや!深い意味はなくてだな……その、俺も受験を考えなくちゃいけない時期なんだが……もちろん受験はがんばるだろうが、あまりその以降の将来について考えられなくてな。大学入って就職して、キャリアを積んで……みたいなプロセスがまったく想像できん。だから、こうしてただすきなことを話して過ごしていたいなって思ってな」
「な、なるほどね………——私も高校受験をしなきゃいけないけど、高校でどうするかも考えてないから、ましてや大学受験なんてって感じだね……もちろん大学のことも考えたら、良い高校に入らないとって思うけどね」
「俺たちって、いつのまにか社会的なルートを歩まなくちゃいけなくなってるよな。高校を受験して、大学を受験して、大抵の場合企業に就職して……みたいな感じで、自分のやりたいことや考えが確立する前に——いや、仮に確立していても、この競争社会から逃れられないようになっているというか………」
「たしかに。受験戦争もそうだけど、わたしたちがそうしたくないと思う前に、すでに社会人になるまでのルートを進まなくちゃいけないようになっていて、その事実に気づいた頃には『やめます』なんてもう言えない状態になってるわけだよね」
「人間ってのは、ほんとうに社会からは逃げられないよな。俺はずっと『働きたくない!』と知り合いに豪語してきて、ある意味そのことに自信を持っていたけど、仮に働かなくても社会には属さないといけない。社会のなかにいる限りは『ちゃんと生きる』ことを直接的であれ間接的であれ強制されるから、働かない状態でも感覚が麻痺していなければ普通は生きづらさを感じるよな。別に正論だとは思わんが、働かないことだってそれで生きていけるなら人生の選択肢の一つだと思う。だが、社会に属している感覚がある限り、どうしても向こうからの圧力を無視して生きられない。学生ですら『しっかり生きろ』って無言の圧をずっとかけられているからな」
「なるほど………こんなこと言ったら八幡は嫌かもだけど、わたしはまだ中学生だから、社会からは逃れられないとは実感していても、それを無視して過ごせるくらいには現実味がない話になっちゃうな……」
「いや、まったく嫌だとは思わないし、むしろその年齢なら考えるべきではないと思う。『若いうちに遊んで学ぶべきだ』みたいなコメンテーター的意見を言うつもりはさらさらないが、それでも中学生なら将来のことはあまり考えなくていいんじゃないか。俺はこの高校にいるけど、それは中学のころ会いたくないやつらがいたからやむなく勉強しただけだからな」
「それでも、やっぱり受験勉強はがんばらなくちゃいけないし、それこそ社会的な圧から『がんばらざるをえない』状況になりそうだよね」
「そうだな………でも、こうして『親友』とすきなことを話してすきなことを共にするのはいちばんの安らぎだわ………恥ずかしいこと言ってる自覚はあるが」
「………ありがとっ」
「………おう。——ヘンな話、これ以上年を重ねたくないとは思う」
「わたしも同感。ずっとこのままがいいね——」
* * *
「話してたら結構暗くなったな——長居してしまってすまない」
「ううんっ。すっごいたのしかった。その……また、来てくれる?」
「おう……もちろん。コーヒーもまた飲みたいからな。——次は、時間がかかって申し訳ないけど、二人分のコーヒーを淹れてもらっていっしょに飲もう」
「……忘れてたこと思い出しちゃった」
「……次は一つのカップで飲むか?」
「っ!……は、は、八幡っ!からかわないでよっ!——」
* * *
「——きょうもありがとう」
「………最後に八幡がわたしをからかった………」
「わ、悪かったって……釣りはまだ練らないといけないことが結構あるから、メールでまた連絡し合うのと、時間がかかるなら、先にやってみたいことをやるのもいいな」
「……そうだね。社会は依然と存在するけど、わたしたちにはまだまだ時間があるから、余裕のあるうちにいろいろやってみたいね」
「親交が続けば、社会人になったあとも、こ、こうして会って話したり出かけたりしたいけど……な………うん………」
「あれ、自分のセリフに照れてる?八幡」
「か、からかい返すな………」
「ふふっ。—— もちろん、これからもその先も、いっしょにおしゃべりして、いろんなことをしよう」
「………おう」
「………それじゃ、ね」
「ああ、また」