「………着いた」
「………着いたね」
「………まさか『ニュー・シネマ・パラダイス』がほんとに上映中だったとは………」
「わたしもびっくりした。探してみるもんだね」
「俺では探せなかったから、ありがとな。——前よりは少し遠いシネマだけど、ここはビルの上の階にあるんだな」
「ミニシアターもいろんな形があるんだね。——それにしても、朝早くに集まってもらってごめんね。きょうの朝で終映だから、急いで決めて来てもらったんだけど……」
「いや、むしろこっちがありがとうと言いたい。結衣は二回目だろ?それこそ良かったのか?」
「おもしろい映画は何度観ても飽きないよ。いまみたいに入れ替え制じゃなかった時代は、一本か二本かの映画が一日中流れるから、ずっと観続けて内容を覚えきってくるひともいたらしいしね」
「それはすごいな……——じゃ、さっそく入ってみるか」
「うんっ」
* * *
「おお……うまくことばでは言い表せないけど、良い雰囲気だな、ここ」
「ね!映画がすきなひとが集まりそうな感じがする。前のところも良かったけど、ここはよりオシャレだね」
「パンフレットも机の上にずらっと置いてあるんだな」
「あ!この映画観たかったんだよね!来月上映されるのかぁ。……うう、お金がいくらあっても足りないよ」
「まぁ、一生それが再映されないわけではないと思うし、映画は長い目で見る趣味と捉えたら良いんじゃないか?」
「そうだね。映画産業が衰退しないことを祈るよ……」
「そ、それはフラグになるぞ……」
「おっと、いけない。えへへ。——でも、映画を撮りたい人はまだまだたくさんいるみたいだから、なくなることはないと願いたいなぁ」
「………結衣も、撮るんだろ?」
「んんっ。わ、わたしは、その、とりあえず撮って作品として残したいだけだから、ね?」
「まぁ、なんでもまずはやってみることではあるよな」
「………八幡も出演するんだよ?」
「………結衣が撮りたいなら、俺はそれを応援するだけだから、出てほしいなら出るさ」
「おお、八幡がすごい肯定してくれる……あ、いや、からかってるわけじゃなくてね、うれしいんだよ。——わたしの『やりたい』をちゃんと受容してくれて」
「……おう」
「照れてる、ふふ。——お、そろそろ時間だね、行こっか」
「この羞恥のままスクリーンに行くのか……」
「ご、ごめんって!からかうつもりじゃなかったからっ——」
* * *
「………泣いた、ほんとに」
「うん……何度観ても良い映画だよ………八幡、なんだかきょうは素直?」
「まあ、そんな日もある」
「そっか。………もちろん、素直かそうじゃないとか関係なく、 わたしは『八幡自体』をありのままに受け入れていることは覚えていてね」
「………結衣も今日はなんというか……アグレッシブだな」
「………急に恥ずかしくなってきたよ」
「あ、いや、からかっているわけではなくてだな………俺も、その、結衣のことを自然に受け入れられてきていると思う。はじめて会った頃よりも、『結衣自体』を見られるようになったというか………俺は、『どんな結衣も受容する』とか、そういう言い方をするつもりはない。人間は流動的だから、『どんな』と表現することで、ある種結衣の性質を固定させたくない。人間は多面的どころか、その面と面の境界線もあやふやだと思うから。………変な表現になるが、曖昧な『結衣自体』を真正面から受け止めて認めたいと考えている。これも結衣の内面を固定させているかもしれないし、偉そうな言い草だが………」
「………ううん、ありがとう。とってもうれしいよ。それぞれ、『お互い自体』を愛しあえたらいいね………あっ」
「………」
「あ、愛すっていうのは、その、え、映画的な?意味でっ。ね?映画でいうラブみたいに、もっと広い概念で言ってるからねっ。あ、あれ?広いのかな?そ、その、あの………」
「お、おう。そうだな。………と、とりあえず、喫茶店で感想会でもし、しないか?」
「う、うん。………は、恥ずかしいぃ………——」