「——俺が思うに、ライトノベルの良さってのは、自由奔放なところにあると思うんだ」
「自由奔放?」
「そう。筆者が自分の欲望に忠実に書いていることが魅力的なんだ。もちろん、一〇〇パーセント欲望のままに書いてるわけではないんだろうけどな。……それでも、筆者の妄想をぶちまけた世界を覗いてみるってのは、なんだかテーマパークに行くみたいでワクワクするんだよなぁ。——俺はテーマパークに行く機会がそもそもなかったけどな」
「……最後のひとことは置いておくとして、たしかにライトノベルって、ほかのジャンルの本よりも自由度が高い気がするなぁ。比企谷くんの言うとおり、筆者の妄想が文字に起こされた世界に触れるのは、そのひとが建てたテーマパークに行くようなものだね」
「ああ。……だれしも自分だけの妄想の世界があるものだと思うが、そのひとのあたまのなかを覗いてみたいなら、一番手っ取り早いのは当人が書いたライトノベルを読むことだろうな。……もっとも欲望に忠実な本のジャンルだと思うから」
「なるほど……。そうとらえるとますますライトノベルを読むのがたのしくなりそうだなぁ。——妄想の世界、か。……確かにわたしにもそういう世界があるや」
「お、これまた意外だな。船見も妄想とかするのか?」
「するよするよ。ゲームがすきだからさ、お気に入りのキャラクターになりきって、妄想の世界で敵をたおして冒険とかしてるよ」
「俺もそういう妄想はする。……でも、なんというか、たぶん船見のはかわいいもんでな……俺のはもっと『黒い』やつだったな……」
「く、黒い……?」
「ああ……たとえば、『じつは自分が神に選ばれし七人の英傑の一人で、闇の王を討たんとすべく、神から授けられた伝説の剣を手に……』うんぬんって感じだな。……待ってこれ、ものすごく恥ずかしいんだが……」
「あ、あはは……でも、わたしも似たようなものだと思うよ?」
「そう言ってくれるとありがたい……。俺がいまの船見のころなんて、こんな妄想ばっかしてたぞ。……英雄の一人とか、奇跡の魔法使いとか。——ああ、黒歴史だ……」
「掘りかえしちゃってごめんね……。——でもさ、ライトノベルで成功しているひとたちって、大人になってもそういう妄想をやめなかったからこそ、いまおもしろい作品が書けてるんじゃないのかな?」
「……うん、そのとおりだと思う。妄想は一面では恥ずかしいと思われがちだが、別の面で見れば、すぐれた才能の一つには違いないな」
「——そうだっ。……比企谷君もライトノベル、書いてみるのはどう?そうすればさ、恥ずかしい記憶だと思わなくてすむんじゃないのかな……?」
「……うれしいことばをありがとう。……じつはさ、知り合いにライトノベルを執筆しながら、俺に添削を求めてくるやつがいるんだが……自分で書くというのもなかなかにおもしろそうだな。」
「そうなんだ!……じゃあ、比企谷くんが書いたら、わたしに一番に読ませてねっ」
「……そ、それは恥ずかしいな……。——まあ、うん。考えておくわ」
「ありがと。……ふふっ。比企谷くんの世界を覗くの、たのしみだな——」
* * *
「——けっこう話し込んだな」
「そうだね。……日も、暮れたね」
「……よし、こんくらいにしとくか。……その、きょうはありがとう。まあ、うん……たのしかった、わ」
「どういたしましてっ。……わたしもすっごくたのしかったよ。コーヒーもモンブランもおいしくて、やっぱりここで比企谷くんと話すはたのしい。……次回も会うときは、ここで良い?」
「ああ、わかった。次はいつにする?」
「うーん……じゃあ、一ヶ月後で良いかな?……じつを言うとね、あんまり頻繁に会うと、友達が『彼氏できたのかっ!』ってからかってくるからね」
「そ、それは申し訳ない……」
「う、ううん!そういうわけじゃなくてねっ……比企谷くんと話すのがたのしいのは本当だよ。……だから、また、ここでおしゃべりしようね」
「……おう、わかった。——それに、きょう会ったときにも話したけど、会いすぎたら話題がなくなっちまうからな」
「ふふ。そうだね」
「——駅まで送ってくわ」
「——ありがとう、比企谷くん」
* * *
「……いろいろとありがとう。また、一ヶ月後に……あのカフェで会おう」
「うんっ。比企谷くんも、ここまで送ってくれてありがとうね。……それじゃあ——元気でね」
「……おう」