「——ごめんっ!待たせちゃったかな……?」
「——いや、さっき来たばかりだから大丈夫だ」
「ありがとう……。でも、ごめんね。読書の邪魔もしちゃったみたいだし」
「気にすんな。——それより、ひさしぶりだな」
「——そうだね。ほんとうにおひさしぶり。この前からちょうど一ヵ月になるね。……比企谷くん、変わってなさそうで安心したよ」
「おう、そっちもな。……注文、どうする?」
「比企谷くんはなに頼むの?」
「俺はいつものブレンドと……きょうはショートケーキだな」
「いいねっ。わたしもそれにする」
「了解——すみません。ブレンド二つとショートケーキ二つ、お願いします」
* * *
「……一ヵ月も会ってないとなると、やっぱひさびさな感じがするな」
「うん。……変わってなさそうとはさっき言ったけど、実際、比企谷くんはどんな一ヵ月だった?」
「いつもどおり学校行って、部活して、家帰って、ごろごろって感じだな」
「わたしもそんな感じだったよ。でも、わたしの場合は部活中もごろごろしているようなものだけどね」
「まぁ俺も本読んでるだけだがなぁ……たまに依頼が舞い込んでくることもあるが」
「依頼……そういえば、まだ奉仕部の活動について詳しく訊いてなかったね。……どんな依頼がくるの?」
「そうだな。……クッキーをつくるの手伝ってくれとか、ライトノベルの添削をしてくれだとか、不良少女の更生をしてくれだとか……正直、自分でもなにをやってるのかよくわからん」
「おお……最後の依頼がとても気になるな……すごいスケールの大きな依頼もくるんだね」
「厳密に言えばそいつは不良ではなかったんだが、毎日夜遅くまでバイトをしててな……なんとかもとの生活に戻そうとしたって感じだな」
「なるほど……依頼は解決したの?」
「まあな。金に困ってたやつだったから、奨学金について話したら、バイトもやめたよ」
「さすが、比企谷くんだ」
「……別に、俺だけの力じゃなかったさ。みんなで案を出し合ったしな」
「それでも、すごいことだよ。……ひとのためになにかするって、とってもすてきなことだと思う」
「そ、そうか……まあ……その、ありがとう……うん。——……ふ、船見の部活はどんな感じなんだ?ごらく部ではどういったことをしているんだ?」
「うーん……ほんとにだらだらするだけだよ?おしゃべりしたり、お茶を飲んだり、宿題したり、たまに本を読んだりって感じで……比企谷くんの部活に比べたら、なんにも生産的なことはしてないよ。……そう考えると、私はひとのために努力しているってことはないかなぁ」
「……別に、だれかの手助けをすることが良いことのすべてじゃないと思う。ともだちと遊ぶことだって十分大切なことだ。……お、俺が船見と話していることがたのしいように、生産的じゃなくても大事なことだって世のなかにはたくさんあるはずだ」
「……比企谷くん、ありがとう。……えへへ、照れちゃうな。……わたしと話すことがたのしい……か。……とってもうれしいよ」
「……まあ、うん……なんだ……とにもかくにも、船見がごらく部で充実してるみたいで良かった」
「……ありがとう。——あ、コーヒーとケーキが来たみたい。きょうはショートケーキ、たのしみだなぁ」
* * *
「——モンブランも良いけど、ショートケーキもうまいな」
「だよねだよねっ。生クリームもおいしいし、なによりイチゴが甘くてほっぺたが落ちちゃいそう」
「……ケーキ自体そんなに詳しくないんだが、船見が一番すきなケーキはなんだ?」
「わたしはねぇ……うーん……難しいな……ショートケーキもチョコレートケーキもすきだし、チーズケーキもシフォンケーキもお気に入り。ケーキならなんでもすきかなぁ。……でも、いちばんを決めるなら——モンブラン、かな」
「おお、良いな。……このまえ食べたモンブランはどうだった?」
「ものっすごくおいしかった。……ここはコーヒーはもちろんのこと、ケーキも侮れないよ」
「そうだよな。たしかにこないだ食べたモンブランは至福だった。あのほど良い甘さがブラックのコーヒーによく合っていた」
「わかるわかる。……わたしね、マックスコーヒーとかの、あえて甘くしたコーヒーはのぞいて、コーヒーに砂糖を入れるのが苦手なんだよね。コーヒー本来の苦味と甘味が、すこしでも砂糖を入れるだけで消えちゃう気がするの。ケーキといっしょだと、不思議とそんなことはないんだけどね」
「なるほど……言われてみればそうだな。俺も、昔はコーヒーを飲むときに角砂糖を何個も入れてきたけど、ここでおいしいブラックコーヒーを飲んでからはわざわざ砂糖を入れなくなったな。……まえに船見が話してくれたように、ブラックコーヒー自体にほんのりとした甘さがあるからな」
「うん。……でも、ケーキの甘さはコーヒーの苦味や甘味を阻害しないんだよね。不思議だけど」
「……コーヒーも、奥が深いんだな」
「——それでね、比企谷くん。わたし、この一ヵ月のあいだに、少しずつコーヒーの道具を揃えて、自分で淹れてみたの」
「おお!……それはすごいな。……それで、自分で淹れたコーヒーは、どうだった?」
「もちろん、ここのコーヒーには劣るけど——それでも、自分で豆を挽いて淹れたコーヒーは格別だったよ。自慢するわけじゃないけど、ここまでかって思った。……ドリップバッグってあるでしょ?あれももちろんおいしいのはおいしいんだけど、いったん自分で豆から淹れたコーヒーを飲んだら、ドリップバッグじゃ満足できなくなっちゃった」
「そうなのか……船見が淹れたコーヒー、いちど飲んでみたいなぁ」
「っ!!ぜひ飲んでみてよっ。今度、魔法瓶に入れて持ってくるね。あれ、でもカフェに自前のコーヒーを持ってくるのは良くないな……。——そうだ比企谷くん。ウチに来ない?」
「……え?」
「わたし、ひとり暮らしだしさ。いつでも来てもらって構わないよ」
「……い、いやいやいや。流石にひとり暮らしの女子の部屋に男一人が入るのは良くない。ほんとうに良くない」
「そうかな?比企谷くんなら信用できるし、私はまったく問題ないけど……」
「その……申し訳ないけど、船見が良くても、俺が良くないってのと、世間的にもアウトだと思う……すまん。——そうだな……次はここの近くの公園で会おう。それで、そのときにコーヒーを持ってきてくれないか?」
「そ、そんなに謝らなくても大丈夫だよ……こちらこそごめんなさい。……うんっ。公園で会うの、良いね。がんばって淹れてくるね、比企谷くん」
「……おう。たのしみにしてる」