「——じゃあ俺はチョコレートケーキとブレンドにする」
「わたしもそれにしようかな」
「了解——すみません、チョコレートケーキ二つとブレンド二つ、お願いします」
* * *
「やっぱりここは落ち着くな」
「そうだね。会うときは大体ここだもんね」
「学校からは遠いのに悪いな」
「前にも言ったけど、ここのカフェ気に入ってるし、席と席の間隔が広いから、他人に自分の話を聞かれなくて良いからすきなんだ」
「なら良かった。たしかに他人に自分の話を聞かれるって、ちょっと恥ずかしいよな」
「恥ずかしいってのもあるけど、わたしの話を聞いた誰かに、あたまのなかでわたしの話やわたし自身についてあれこれ想像されることがすごい嫌なの。わたしが神経質すぎるだけかもしれないけれど、プライベートの会話や自分自身が、知らない赤の他人の想像の対象にされることが怖くて仕方ないの——ごめん、説明下手で。わたし、なに言ってるんだろうね」
「いや、ぼんやりとだけど、理解はできる。他人に自分を想像されるって、なんだかプライベートスペースが揺るがされて、大事なものが流出した気持ちになるよな」
「そうそう。わたしの場合、それが神経質なレベルで気になってさ。女子校を選んだのも、この考え方が要因の一つなのかもしれない。特に男子にあれこれ想像されるのは嫌だから」
「俺は大丈夫なのか?」
「比企谷くんは友達だし、わたしのプライベートゾーンの範囲だから、問題ないよ。それに、異性が苦手ってわけではないし。ただ、自分を想像されることが苦手なだけでね」
「なるほどな」
「面倒くさい人間だよね、ごめん」
「いや、まったくそんなことはない。誰にだって神経質なところや変えられない性格はあるさ」
「ありがとうね——あっ、コーヒーとケーキが来たみたいだよ。暗い話を甘いもので塗り替えよう」
* * *
「比企谷くんは映画、すき?」
「おう、すきだぞ。動画配信サービスで観たり、たまに映画館に行ったりもするぞ」
「そうなんだ——あのさ、比企谷くん。良かったらなんだけど、今度映画観に行かない?」
「おう、いいぞ」
「えっ……結構あっさりだけど良いの?」
「もちろん、断る理由なんてないからな」
「良かった——あのね、それでなんだけど、映画は映画でも、ミニシアターで映画を観たいなって思ってて」
「ミニシアター?」
「街のなかとかにある、スクリーンが一つか二つの小さな映画館のこと。昔の映画とか、マニア向けな映画を上映しているの。前から気になっててさ、でも一人ではなかなか入る勇気がなくって……」
「おもしろそうだな。ぜんぜん構わないぞ」
「ごめんね。あと、この近くにはないから、少し遠出になるけど良い?」
「大丈夫。俄然、行ってみたくなってきた」
「ありがと。大きい映画館よりかは少ないけど、一日に何本か上映してくれるの。比企谷くんはどんな映画がすき?」
「そうだなぁ——」