「俺は邦画をよく観るな。最近上映された映画は、ちょっと待てば動画配信サービスで配信される場合が多いから、そうやって大抵の映画は観てる。気になる映画は待てないから映画館に直接行くけどな」
「たしかに最近の映画って、ちょっと我慢すればそういうサービスで観られるようになってるよね。経済的で良いよね」
「もちろん、大きいスクリーンで観たいときもあるけどな。船見はどういう映画を観るんだ?」
「私は最近は古い洋画を観るかな——しかもとびきり古いの」
「古いったってどれくらいだ?」
「二〇世紀初めから、中頃くらいの映画かな」
「それはまた、えらい古いな」
「うん。別にカッコつけてるわけでもなくてね、ただ単純におもしろいんだ、昔の洋画って」
「へぇ、意外だな。どういうところがおもしろいんだ?」
「わかりやすいストーリーの映画が多いし、技術がいまに比べて乏しかった分、当時の技術を最大限に活用しているところとかかな。あと一番良いところは、役者の演技力というか、存在感というか、とにかく役者中心に映画が進んでるところかな。あくまで、わたしの実感だけどね」
「役者中心?」
「うまく説明しづらいけど、昨今の映画って、技術やシナリオの凝り具合が発達してるから、映画一つにしても、役者以外の様々な大きい要素が絡まっているように思えるんだ。それこそ、一定の演技力を持つ役者であれば、誰でも成り立つみたいにね。でも、昔の洋画って、技術もシナリオの凝り具合もいまよりは乏しかったから、役者の演技力や存在感が、映画の大きな要素だったように思えるんだ。実際、昔の洋画の俳優女優は、現在とは比べものにならないくらい、オーラがあったように思えるの」
「なるほど。たしかに、『ローマの休日』なんかは、シンプルなストーリーだけど、役者の存在感はすごかったな。なんというか、そこにいるだけで役者を超えている、というか」
「そうそう!やっぱり比企谷くんとは話が合うよ。『ローマの休日』は存在感の最たるものだよね。特にオードリー・ヘップバーンにはとても憧れる……」
「俺は妹のことになるとアグレッシブになるらしいが、船見は映画のことになると熱くなるな」
「はっ!ご、ごめん」
「いやいや、悪い意味ではなくて。ただ、船見のウキウキな姿はなかなか見られないから」
「ちょっと恥ずかしいな——まあ、とにもかくにも、昔の映画には最近ハマってるね。大体の映画は著作権自体が切れてるから、比企谷くんが言ったような動画配信サービスで無料で観られるよ」
「興味が出てきた。オススメの映画、あるか?」
「うーん、そうだね、『或る夜の出来事』とか、『哀愁』とかがおすすめかな。あとはすごい長編だけど、『風と共に去りぬ』とか」
「ありがとう。大抵休日は暇だから、今度観てみるよ——もちろん、社交辞令じゃないぞ」
「ありがとう——」