スピリチュアル軍師・希   作:フリート

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その②

 時は流れて放課後である。

 ついに穂乃果軍団がアイドル研究部に突入する時がやって来た。真姫はホームルームが終わるや花陽とついでに凛を引き連れて二年生の教室を訪れる。三人が来る頃には穂乃果軍団は全員集合しているようで、気後れしている花陽と凛を尻目に教室の中へと真姫は入って行った。遅れて、周囲を警戒しながらおずおずと残りの二人も入る。

 

「真姫ちゃんが最後だよ。あれっ? その二人は誰?」

 

 穂乃果の不躾な問いに、怯えた花陽が一歩後ずさると、凛が守るように花陽の前へと足を進める。そして吊り上がった視線を真姫へとぶつけた。この女め謀ったな、とでも言いたげな厳しめの視線だった。

 

 真姫は穂乃果と凛の二人に一切の反応を見せず、何食わぬ顔で希の隣を陣取り、二人を一瞥してから髪を弄り始める。見れば分かるでしょ、クラスメイトよ、と、この面子でアイドル研究部に行くんだから嘘はついていないわ、とさっきの一瞥で伝えたらしかった。

 当然だが、二人には何一つ通じていなかった。

 

「真姫、是非お二方の紹介をして頂きたいのですが」

 

「後ろのおとなしめな子が小泉花陽、そっちの半獣人が星空凛。私のクラスメイトよ。小泉さんの方がアイドル研究部に興味があるらしくて、だから誘ってみたの」

 

 希が訊くと素直に答える。

 凛の時だけ悪意が見え隠れしたが、希は爽やかにスルーしてゆったりと歩き出した。

 

 しかし何だ、文面だけ見ると希が喋っているのか、海未が喋っているのかいまいち分かりにくい。並行宇宙の希はなんちゃって関西弁の使い手なので文面にする際苦労することはなさそうだが、こちらは敬語キャラでもろ被りだ。

 

 見極める方法は、海未の方がちょっとだけ凶暴性を隠しきれていない敬語なので(あくまでこちらの世界の海未)、そこから判別してもらうしかなさそうである。

 

 話を戻して、希が凛の前で足を止めると、いつものように右手を扇子に見立てて口元に当てた。癖なので別に意味があるわけではない。

 その動作に凛は過剰な反応を見せて、びくりと肩を跳ね上がらせた。

 

「こ、孔明先生」

 

 恐る恐る、花陽が呟いた。

 真姫同様に姿を見ただけで正体を看破する。希から溢れ出る孔明オーラの為せるわざであり、希の動作を観察していたら、あの人孔明っぽいとなってしまうのだった。

 

 凛も希がしょっちゅう話のネタにしていた孔明先生であることに気付いたが、彼女の場合は野生の直感的なものなので色々と別の話である。

 

「ふむ」

 

 と、希は凛と花陽の二人を見ながら頷く。

 

「お手柄ですね、真姫」

 

 と、真姫を褒めた。真姫のくるくるする速度が跳ね上がった。

 凛の目がギラリと光る。

 

(何が何だか分からないけどとんでもない事になっている気がするにゃ。そもそも孔明先生と西木野さんの関係は何? この集まりは一体何なの? この面子でアイドル研究部に何をしに行くつもりにゃ。西木野さんめ、何を企んでいるの?)

 

「あの~、詳しい話を聞かせて欲しいんですけど」

 

 と、愛想笑いをしつつ周りの先輩方を見回した。

 先輩方の視線は穂乃果に集まる。この場での適任は満場一致しているようだ。

 穂乃果は任せてと胸をドンと叩いて、勢い強すぎて咳き込んでから、凛と花陽に語り始める。のは良かったのだが、いまいち要領が掴めない。

 

 穂乃果は元来頭の回転が速い方じゃない。言葉をストレートにすると馬鹿なのであり、話を上手く整理せずに口にするので、言っている本人も何を言っているのか分からない時がある。海未やことりのように慣れていれば大丈夫なのだが、素人には通訳がいるぐらい。

 

 ただそれは、素面の時の場合だ。感情が一定値を超えるほどに高まると、途端弁舌は清らかな川のように流れ、一言一句のことごとくが名言名文句と化し、聞く人の心を揺り動かさずにはいられない。実際に希は動かされている。これを期待されて穂乃果に説明役が回ったのである。

 

 だが残念なことに、今回は話していてもそこまで感情の変化がなかったようで、凛と花陽の頭上でクエスチョンマークがヒップホップを踊り出したところで、海未に選手交代した。

 

「聞き苦しい戯言をすみません。変わって私が」

 

「ぶ~、戯言だなんて、酷いよ海未ちゃん」

 

「貴女の出番は終わりました、下がりなさい」

 

 海未の場合は淡々と要点だけを話して面白味は一切存在しない。説明書を読みあげているような印象を受け、心に何一つ響いては来ないが分かりやすくはある。

 

 そうして感情が一定値を振り切ると、気合一閃、一言一句に己の魂を込めた激烈にして猛烈な調子となるのであった。気迫に満ちた言葉は、それ自体が刃のように鋭く人の心に突き刺さるばかりか、物理的に身体へと響き渡るような(単に手も一緒に出ているだけ)感覚に陥るのであった。

 

「どうかしら? 貴女達もスクールアイドルをやってみない?」

 

 海未のつまらない話が終わった後で、絵里が妙に様になっているウインクをしながら、凛と花陽に手を差し伸べた。金髪の美人なお姉さんにちょっとドキドキする二人だったが、差し伸べられた手を握ろうとはしなかった。

 

「わ、わたしはアイドルが好きです。で、でも……」

 

 アイドルは好きだが自分でなりたいかどうかは問題が別である。どんくさくて、おっちょこちょいで、声が小さくて、人前に立つのが苦手で、無駄飯ぐらいで、と花陽は卑屈過ぎる自虐に走った。わたくし如きがアイドルなどと畏れ多い事です、はい。

 

 花陽も幼い頃はアイドルになる事を夢見ていた口である。おもちゃのマイクを片手にフリフリの衣装を着て、鏡の前で踊り狂い、遂には母親に止められるほどアイドルに熱狂していた。

 

 それが何時の頃だったか、夢は寝て見るものだという事を分かってしまったのか、アイドルになりたいと口にする事はなくなり、仕舞いには一ファンに成り下がってしまったのである。今となっては、アイドルをやりたいとは思わない。

 

「でしたら、私と一緒にマネージャーをやってみるのは如何ですか?」

 

 花陽が拒否するや間髪入れずに希が言った。

 

「そ、それだったら」

 

 花陽は満更でもないといった様子で了承する。良いのだろうか、そんなに簡単に決めてしまって。もう少し考えてからでも遅くはない気がするが、本人が良いのなら外野がとやかく言う事ではないのだろう。嫌だったら辞めれば良いのだし。

 

 アイドルをやりたいわけではないが、関われるのなら関わりたい。そんな気持ちがないわけではなかっただろう、と言うか絶対ある。ここにアイドルを夢見る黒髪ツインテールの高校三年生がいれば、マネージャーはそんな軽い気持ちでやれる事じゃない、という厳しいお言葉を吐くのであろうが、あいにく彼女は不在(と言うかこれから会いに行く)なので、歓迎の拍手で以って花陽は迎え入れられた。真姫の拍手が一番大きかった。

 

 当初の予定とは別だったが、最終的な結果(花陽の穂乃果軍団加入)は一緒なので、真姫は珍しく多数の前で素直に喜んでいる。

 

 そんな中で、一人困惑気味の猫少女。

 

(にゃにゃにゃ……展開が早すぎてとても凛にはついて行けないにゃ。とにかくかよちんがこの人達と一緒に何かやるって事だよね)

 

「ねえ、貴女はどうするの?」

 

「にゃ~」

 

 凛の耳元で声が蕩けた。甘々と心地よく気持ちよくなってしまう、まるで麻薬のような芳醇なお酒のような声は無論のことことりの声である。凛はくらくら酔眼朦朧に一瞬なりかけたが、気合で我を取り戻した。

 

「凛は――」

 

 何もしませんさようなら、ときっぱり断ろうとした時、不意に視界の隅っこに真姫の姿が映った。凛の心の中で突如として炎が燃え上がった。

 

(かよちんを一人にしておけない)

 

 こんなところに親友を一人残しては置けない。

 

「凛もかよちんと一緒によろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げた。

 

「あれ? でも凛ちゃんは陸上部に入るって」

 

「気が変わったにゃ」

 

 凛はその野性的な身体能力を活かして陸上部に入る予定であったが、そんな事よりも親友の身の安全の方が大切なのである。かつて戦国の世にあって、大谷吉継という武将は親友である石田三成との友情に殉じて関ケ原の戦いに西軍として参戦した(これには色々と諸説があるのだが、友情に殉じたとした方が美談であり吉継の男の株も上がるので、私はそう思うことにする。だって吉継好きだし)。

 

 友よ、私はお前の為なら死ねる、と凛が壮絶な決意をしたかどうかは皆様の想像にお任せするが、少なくとも、

 

(かよちん、凛が守ってあげるからね)

 

 と、気持ちを厚く固めたのは確かなのであった。

 

 さて、ただいま穂乃果軍団は合計八人。数多の並行宇宙に置いて穂乃果軍団は九人の超少数精鋭部隊なのであるが、その数まで残すところ後一人。最後の一人は言うまでもなく矢澤にこその人である。こう書いてしまうと、彼女が加入する事が決定事項というネタバレになってしまうが、別に隠すまでもなく皆様ご存知だろうから問題ないだろう。

 

 次回、英雄九人、乞うご期待!

 

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