スピリチュアル軍師・希   作:フリート

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その③

 希ら八人の乙女がぞろぞろと列を成してアイドル研究部の部室を目指す。誰が言ったかは知らないが、女は三人揃えば姦しいらしい。別に男でも姦しいものは姦しいし、三人以上でも静かな時は静かなものである。まあ、ことわざ的なものにツッコみを入れてもキリがないのでこれ以上は何も言わない。そうらしいという、一先ず肯定的な立場にいようと思う。

 

 とにかく、ことわざには三人集まればとあって、況や八人いるとなれば、それはさぞ大層な声量になるものと考えられる。一部のもの静かなメンバーを除いたにしても、それでも有り余るほどの声量であるから、ドアを完全に閉めていたところでガヤガヤと喧しいわけだ。

 

 とどのつまり、部室で内職に勤しんでいるにこの耳にもぎゃんぎゃん響いてくるわけで、

 

「喧しい! もう少し静かにしなさい!」

 

 甲高い声を張り上げながら、にこが部室のドアを乱暴に開けて顔を出した。怒りをこれでもかと表現するかのような赤ら顔で、吊り上がった瞳は喧しい八人組を睥睨する。

 

「うわっ、何か増えてる」

 

 怒り顔が一瞬で嫌そうな顔になった。

 この前、希と絵里、そして穂乃果達の五人だったと思えば、見覚えのないのが三人。急に怒鳴って来たにこを睨みつける赤髪と、吃驚して怯える眼鏡と、ぺこぺこ申し訳なさそうにしている茶色混じったオレンジ髪。上から順に、真姫、花陽、凛である。

 

 この八人が揃って研究部に何の用なのか、もう答えを聞くまでもなく分かり切っているにこは、ため息を一回吐いてから、スッとドアを閉めようとした。

 が、その動きは賢い金髪の部員に読まれていた。

 

「にこ、話があるのだけど良いかしら」

 

 ドアノブをがっちり掴んで、念の為に足を部室内に入れて、ドアを締めれないようにした絵里は笑顔で言った。笑顔とは威嚇行為である、というのも誰が言ったのかは知らないけどそうらしい。可憐な笑顔の後ろから、にこを見つめる十四の瞳。

 対話を拒否するほどの度胸を、にこは持ち合わせていなかった。

 

「……入りなさい」

 

 渋々、にこは希達を部室内に招き入れた。

 そもそも絵里は部員だし、希も少なくない回数足を運んでいる部室は、部長の趣味がよく分かる一室となっていた。壁面にはでかでかとA-LISEのポスターが貼り付けてあり、棚にはところ狭しとアイドルグッズが並べられている。

 

 アイドル研究部の部室と言えばらしくは見えるが、どちらかと言うとドルオタの部屋だ。別に悪いとは言っていない。良いとも言ってないが。ただ、人によってはお城の宝物庫も同然なので、

 

「こ、こりは……ッ!」

 

 こんな風に戦慄して言葉を失ってしまうのである。

 アイドルが三度の飯のおかずになる花陽は、大口を開けてふらふらとグッズが並ぶ棚へと歩みを進めた。一同はそんな花陽を視界の外に置いて、席に座る。

 席順は決めていないので各々勝手に座ったのだが、穂乃果の隣はことりと海未が、希の隣は絵里と真姫がさっさと確保して、凛は真姫の隣に嫌そうに腰を下ろす。その隣の空いている席は花陽の分だ。

 

 何だか八人の人間関係がおぼろげに見えて来るにこであった。

 

 それから代表して、絵里が今回の訪問のわけを話した。

 先ほども言った通り、にこは話を聞かずとも内容は把握している。キラキラ眩い笑顔を浮かべる穂乃果を見て、嫋やかで胡散臭い笑みを浮かべる希を見て、ついでにその他四人と、未だ棚を物色している花陽を見た。返事は決まっている。

 

「良いわよ」

 

 了承だ……ってあれ? 前はあーだこーだ理由をつけて拒否していたのに、今回はあっさりと了承した。一体全体どういう風の吹き回しなのだろうか。

 

(どういうわけなのかは知らないけど、こいつらは今波に乗っている。ここでこいつらの意に反することをすれば、一体どうなることやら。と言うか、希が大人しくしているとは思えない。気付いた時には私は破滅、いや、気付かない内に破滅しているわ。ここは一先ず、こいつらの波に乗って様子見よ)

 

 身の安全を考えた末の決断だったようだ。

 と言うか、元々研究部の名前を貸してほしいという話だった筈なのに、いつの間にやらにこも活動に参加する事になっているが、なし崩し的にそういう事になったのだろうから、深い事は気にしない。そっちの方が穂乃果達にとってもありがたい事だし。

 

「ハラショー! 話が早くて助かるわ、にこ」

 

「やったー! これからよろしくお願いします、にこ先輩!!」

 

 絵里と穂乃果が無邪気に喜んでいる。にこの保身と打算にまみれた決断であるとは、露とも思っていない様子だった。にこはちょっとだけ胸が痛くなった。

 

「これで我らも基盤を得る事が出来ました。有能な人材も手に入り、我々に追い風が吹いているのを感じ取れます。しかし、手放しで喜んでいる場合ではありません。これでやっとのこと、人並みに戦える準備を済ませたというところ。これからが本番です」

 

 希が真面目くさってそんな事を言った。

 瞬時に穂乃果と絵里が怒られたようにシュンと顔を俯かせる。

 これを見て、というか穂乃果の様子を見て海未は、しらけるような事を言うな、と思いはしたものの、正論でしかなかったし、希に出会わなければ自分が別の場面で穂乃果に言っていたのは容易く想像出来るので、したり顔で首を縦に振った。

 

「それで、これからどうするんですか?」

 

 そう言ったのは凛である。そもそも凛にしてみればこれからどうするのか、という話の前に、今の今まで何がどうなっているのかという話だ。

 真姫が教室で話し掛けて来てからこれまでの一連の流れは、アニメだと二、三話ぐらいになりそうなのを、十分ぐらいで終わらせたような展開の早さである。足の速さには自信がある凛だが、どうにもついて来れない。

 

 だけど誰も待ってくれないので、必死に後を追っている現状であった。ただ、理解力に足の速さは一切関係なかったりするのだが、まあ良い。時間が全てを解決するだろう。

 それはさておきというところで、凛のやけくそ気味の質問に、希が律義に答える。

 

「ふふふ、近々、新入生歓迎会があります。その日の部活動紹介が、初陣となるでしょう」

 

「はあ? 希、あんたまさかライブでもしよっての? オリジナルの曲じゃないにしても、練習時間なんて全然ないじゃない。まさか、ぶっつけ本番でするつもりじゃないわよね?」

 

「何を仰っているのですか、にこ。やるわけないじゃないですか」

 

 すまし顔で言われて、引っ込んでいた怒りがまたむくむくと湧きおこって来たにこだったが、呼吸を整えなんとか堪える。

 

「だったら先生、一体何を?」

 

 真姫がしれっと身体を希の方に寄せる。

 それに気づいているのかいないのか、希は特に反応せず、

 

「自己紹介です」

 

 と、返した。

 

「自己紹介?」

 

 こてりと小首を傾げることり。

 

「ええ、南殿。我々がどういう人物でどういう存在なのか、そして何をやりたいのか。これをはっきりと宣言し世に知らしめるのです」

 

「どういう存在なのかと言うと、少し哲学的ですね。単純明快に考えるのであれば、スクールアイドルですかね。それで何をしたいのかと言えば、スクールアイドルなのですから、アイドル活動では?」

 

「園田殿、半分正解です。どういう存在なのかと言う問いに、スクールアイドルと答えるのは間違いではありませんし、紹介の時も無論そう言います。しかし、何をしたいのか、言い換えれば、何のためにスクールアイドルをするのか、という点に関しては、園田殿は重要な事を忘れています」

 

 すると、穂乃果が元気よく手を挙げた。

 

「はいはいはい! 希ちゃん、分かったよ! 廃校を阻止する事、でしょ?」

 

「我が君は流石の御慧眼。この希、感服する他はありません」

 

 希は拱手稽首をして大仰な動作で穂乃果を褒め称えた。

 何とも大袈裟な希であったが、何だか不思議と名場面の様相を呈している。現代人がやると芝居がかった臭すぎる話になってしまうのだが、これが古代人や中世人がやると絵になるのである。誰がやるのかが重要という事を思い知らされた気分だ。

 

 現に真姫や絵里、凛などは希の所作に目を奪われている。

 一人、穂乃果の事で希に思うところがある海未はちょっと視線が冷たい。

 同じく思うところありのことりは、にこにこほんわかとしていて何を考えているやら。

 

「我が君の御推察通り、我々の最終目標は廃校阻止。そしてそのことを先ずは新入生達に知らしめるのです。新入生たちが知れば、その親に話をするかもしれません。そして話を聞いた親がまた別の人に。そうして話を聞いた者達の中から、我々の協力者が現れるかもしれません。とにかく知られなければなりません。音ノ木坂の現状、我々の活動目的を。極論すれば、我々はスクールアイドルをやらなくても良いのです。スクールアイドルは廃校阻止の為の手段の一つである事をお忘れなきよう」

 

 と、高校生の少女達に対してちょっときつい事を希は言った。

 どうも、まだスクールアイドル以外のやり方を模索しているらしい希。スクールアイドルは廃校阻止の為の道具の一つと言い切ったわけである。間違ってはないにしても、もう少し言い方があったように思われるが、どうだろうか。

 

 大多数は希の言う事に素直に耳を傾けていた。穂乃果、ことり、海未、絵里はそれこそ廃校阻止が絶対なので、希の言う通り、スクールアイドル以外で確実性があるならそちらを選ぶだろう派。真姫や凛は廃校阻止にもアイドル活動にも興味なく、別の理由でここにいる派である。

 

 だが、これに反発を覚えた人物もいる。言うまでもないがにこと、希の発言でようやく物色作業を止めた花陽だ。スクールアイドルをこよなく愛する二人にとって、希の発言はとても許容出来るものではない。モヤモヤしたものが二人の心に漂う。

 

「天に唾するが如き発言。断じて許すまいぞ」

 

 とか思ったりはしていないけど、近しいニュアンスのような事はそれぞれの胸中に、希への不信感と一緒に言葉として浮かんでいる。

 

(孔明先生ってこんな人なんだ)

 

(あんたがそういう奴だって事は、今までの付き合いで良く分かっているわ。希、この私の目が黒いうちは、あんたの好き勝手にはさせない。このアイドル研究部は私が守る)

 

 希に対する花陽の信頼感と、にこの友情に亀裂が入った瞬間であった。

 

「今はスクールアイドルで廃校を阻止するという事ですが、私の申しました事は、是非念頭に置いて頂きますよう、よろしくお願い致します。さて我が君、臣希、一つ提案致したい事がございます」

 

「何?」

 

「歓迎会までに、グループとしての名前を決めておきたいと思いますが、如何でしょうか?」

 

「そっか、名前か~。音ノ木坂学院のスクールアイドルです、じゃ、ちょっと格好がつかないもんね。うん、それじゃ、名前を皆で考えよう! どんな名前が良いかな~?」

 

 盛り上がる穂乃果。それにつられてちょっとわいわいし出した絵里達。そんな彼女たちと対照的に暗いにこと花陽。

 

 海未とことりとの関係がちょっと微妙なのに、にこと花陽の二人とも対立しそうな状態の希だが、果たしてこれから大丈夫なのであろうか。九人揃ったは良いものの、不穏な空気がこれでもかと辺りを包み込んでいる。

 

 こんな空気の中で、

 

「これからが大変ですね」

 

 と、希はいつもの微笑といつもの癖を披露するのであった。

 

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