スピリチュアル軍師・希   作:フリート

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その③

 三国志において、公私立場問わずに孔明と戦う羽目になった人物は数多くいる。有名どころを挙げても、徐庶元直、龐統士元、法正孝直、周瑜公瑾、司馬懿仲達など錚々たる面子だ。彼らは、些細な口喧嘩、権力闘争、戦争、と人それぞれであるものの、様々な理由で孔明と戦った。そんな彼らは、孔明と戦う中である共通の認識を抱いていた。

 

「孔明を相手にするなら、孔明を相手にするな」

 

 言葉遊びのように思うかもしれないが、これは対孔明戦術において絶対に守らなくてはならない法の様なものである。一体どういう意味なのか?

 これには二つのやり方がある。一つは、司馬懿が実践した殻に完全に引きこもってまともに相手をせずに無視をするというもの。挑発にも決して乗らず、ただただ時が過ぎるのを待つのである。この結果、司馬懿は粘り勝ちをして魏国を侵略者孔明の魔の手から守り抜いた。

 

 もう一つは孔明以外の人物へ干渉するというもの。大多数はこのやり方を好んで行っている。龐統や法正の様に権力闘争をするならば、孔明より上の立場にあって孔明に言う事を聞かせられる人物、即ち劉備を説得し(この場合関羽や張飛、趙雲は物の役に立たないから、消去法で劉備しかいない)味方に引き込むというものだ。劉備がイエスと言えばイエス、ノーと言えばノー、孔明と雖も劉備には逆らえないのであった。

 

 しかしこれらのやり方には落とし穴があって、孔明を相手にせずとも孔明を意識下から完全に逸らしてしまうと駄目なのだ。このタブーを犯してしまったのは、三国志女性人気度ナンバーワンの貴公子将軍周瑜である。詳しい内容は三国志(演義の方)を読んで頂いて、ここでは簡単に言うが、周瑜も例外なく孔明を地上から抹殺するために劉備を標的にし、二人の距離を物理的に引き離す作戦に出た。これは途中まで良いところだったのだが、美周郎ともあろうものが痛恨のミスをやってしまったがために失敗に終わってしまう。

 

 そのミスが孔明を意識下から外す事。彼は劉備へちょっかいをかけるのに夢中になり過ぎて、裏で暗躍する孔明の動きをスルーしてしまっていたのだ。そうして、作戦を逆に利用され、主君の妹を敵にプレゼントする時期外れのサンタクロース役に成り下がってしまったのである。この後何やかんやあって、彼は孔明の得意技の手紙によって殺害されてしまった。その死ぬ間際の捨て台詞は有名で、

 

「天はこの周瑜を産んでおきながら、何故孔明までも世に生み出したのか」

 

 こう絶叫して血を吐き出し死んだという。最後の最後で天に責任転嫁をして見苦しい奴めと言いたいところだけど、周瑜は私の旦那と口にする歴女のお姉さま方に殺されかねないので黙っておこう。

 

 余談だが、中には孔明とまともに戦った勇者も存在する。例えば南蛮王の孟獲は蛮族の王らしくすこぶる純粋だったが為に、孔明と正面向き合って付き合ってしまい散々に虐められた。七回も地獄の様な苦しみを味合わされ精神は摩耗。早く帰ってほしかったので最後は友達のように振る舞って孔明の機嫌を損ねないよう細心の注意を払う。そうしてやっと、孔明が本国に帰る事になった時、(嬉しすぎて)声を上げて大号泣しながらその後姿を見送っていたという。

 

 他には姜維伯約という人物がいて、彼は孔明と正面切って戦い勝利した男であった。でもちょっとその経歴は怪しい。何故なら姜維が孔明と戦った時、孔明は天文を見て、姜維が後々自分の後継者となって蜀を引っ張っていく未来を読んでいたのだ。

 つまり後継者となる姜維に花を持たせてやっただけなのかもしれない。孔明だからあり得ない事があり得る可能性があるのだった。少なくとも、姜維の勝利話を信じて孔明をまともに相手出来るという安易な考えは抱かない方が身のためである。

 

 さて三国志の前置き話が長くなったが、本題に入ろう。

 対孔明戦術における絶対法があるならば、必然的にそれは対希戦術絶対法となるのである。矢澤にこ十七歳、希との(無駄な)戦いが続く中で、遂にその真理を悟った。

 

「希を相手にするなら、希を相手にしてはいけないわ」

 

 時間は昼休み、ところはアイドル研究部の部室。

 にこは己が悟った内容を自信満々に、年の差の垣根を取り払い親友となった花陽と凛の二人に語っていた。

 

「はあ……」

 

 突然何を言い出すかと思えば、本当に何を言い出しているんだ。花陽は反応に困る内容だったので気の抜ける返事で精一杯だった。思わず隣の凛を見た。

 

「ナニソレ、イミワカンナイ」

 

 凛は真姫の物まね(髪の毛くるくる付き)をしていたが、ちょっと似ていたので花陽はクスリと笑ってしまった。凛のささやかな得意技だ。

 にこも笑いそうになっていたが、わたしは真面目な話をしているんだ、と気を入れ直して、内容の詳しい説明を行った。

 

「二人ともよく考えてほしいんだけど、わたしたちは何のために希とこうしてやり合っているのだったかしら?」

 

 わたし達の原点は何だったろうか、とにこは二人に問うた。

 

「それは孔明先生に謝ってもらうためだよ」

 

 スクールアイドルを道具扱いするなんて絶対に許さない。全スクールアイドルとそのファン(と言うよりわたしに)誠実な謝罪を要求する。胸の内を燃え滾らせる女花陽、断固とした強い決意を瞳に宿している(オタクは時に面倒臭い)。

 

「凛は……何でだったかにゃ?」

 

 すっとぼけているわけではない。凛にはそもそも希に噛みつく理由なんて存在せず、ノリと勢いでやっていただけである。強いて言えば、花陽がやっているから、といじめ理論的なものになってしまうのだが、どちらにせよあんまりな話である。でも凛のやる事だし相手が希だから皆許してくれるだろう(希はしつこく根に持つだろうけど)。

 

「なるほど」

 

 二人の答えを聞いて(凛は答えてない)、にこは納得したように首を上下に振る。

 ついでに改めて言うと、にこが希とやり合っているのは、アイドル研究部を存続させるためだ。あわよくば、スクールアイドルμ'sを卒業まで続けたい(まだ本格的に始まってもないけど)。

 

 そろそろ廃校が本決まりするか否かの時期に差し掛かって来ているので、今更方向転換しようなどと凡人は考えないのだが、常に腹の中に一物も二物も隠し持っている異常な希だから、いきなりスクールアイドルよりも確実な策があるとか言い出す危険性がある。

 

 そしてそれに乗っかかりそうな穂乃果と海未に絵里、確実に乗っかる真姫、ちょっと心配なことりと、希を好きにさせていては(既に好き勝手やってる)アイドル研究部消滅の危機と隣り合わせ、ハラハラドキドキ、何時急降下するか分からないジョットコースター状態である(しかも降下先は垂直)。心臓に悪い事この上ない。

 

「わたしね気付いたのよ。わたし達の目標を達成する上で、希を相手にする必要なくない? って事にね」

 

 何を今更言っているのか、と不審になる花陽と凛だったが、まあまあ詳しい話を聞け、とにこは話すのを止めない。

 

「わたし達が本当に相手をするべきなのは高坂の方なのよ」

 

 凛はともかくとして、にこと花陽の目標はそれこそ穂乃果を相手にやっていた方が堅実で確実なのである。花陽の目標は、穂乃果に「孔明先生に謝罪させて下さい」と頼み込めば良いわけだし、にこの目標も穂乃果をその気にさせて「わたし、アイドル続けます」と言わせてしまえばこっちのものなのである。それだけで良いのである。

 

 大体希を相手にするのは、ゲームで言う上級者縛りプレイをやる様なもの。時間が掛かる上に失敗する確率が高く、しかもリセットが出来ないのだ。何でわざわざそんな面倒臭い事をしなくてはいけないんだ、という事にやっとこさ気付いたにこなのであった。

 

「それも、そうだね」

 

 言われてみればその通りだと花陽は思った。それから、何でそんな簡単な事に今の今まで気付けなかったのだろう、とも。

 

 理由は定かではないが、もしかしたら希の意識誘導があったのかもしれない。希は孔明時代から人と討論や弁舌をするのが好きだったので(有名な赤壁の戦い直前、呉国に一人乗り込んだ時も呉の文官達とやっていた)、敢えてこうなるように仕向けたのやもしれないのであった。と言うのは穿った見方であろうか。でも、希だから可能性は零じゃない。

 

「ともかく、これからは方針を転換するわ。何とかして高坂を篭絡して、わたし達の明るい未来を掴み取るのよ。希め、わたし達がこのまま泣き寝入りすると思ったら大間違いよ、今に見てなさいよね。最後に笑うのはわたし達よ」

 

 おーほっほっほ、とにこは中々様になっている高笑いをしてみせた。

 

(あれ? こうなって来ると、孔明先生と喧嘩する必要はもうないんじゃ)

 

 凛は高笑いをするにこを見ながら思った。

 

 筆者である私もそう思うんだが、何せ相手は希。ここで油断して希のマークを外せば周瑜の二の舞になるかもしれず、目標達成までは現状態を維持する他はない。まったく、敵に回すと本当にややこしい人物である(味方にしてもややこしいけど)。

 それに、にこ達がしぶとい云々と前述しちゃってるので、もう少しだけ彼女達には希と争ってもらう事にしよう。という事で、次話に移る。

 

 

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