スピリチュアル軍師・希   作:フリート

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その⑤

 電車内では外の景色の移り変わりを楽しんで、電車を降りると別荘まで徒歩で進んだ。

 正直な話をすると、一同が目指している別荘がどこに存在するのか、わたしは知らない。色々と諸説があったりするらしいのだが、答えは未だ出ていないのだ。かと言って、言い訳になると言えばそうなのだが、別に別荘がどこに存在していようがそこまで気にする必要はない。海の見える別荘を拠点に合宿をする、ということだけ知っていれば、彼女達がどこの別荘に行こうが関係はないのである。取りあえず、日本のどこかということだけは言っておこうと思う。

 

 別荘に辿り着けば、事前に割り振られていた部屋にそれぞれ荷物を置きに行った。

 希は真姫と二人部屋である。この事から、部屋割りは真姫が考えたものと決めつけても問題なさそうだ。部屋は、真姫パパと真姫ママが宿泊する時に利用している部屋であり、二人が真姫に勧めたものである。やたらと生活感が漂っており、二人用ベッドの存在と備え付けられたティッシュが、妙に生々しいのであり、

 

「まるで新婚生活」

 

 と、真姫はお得意の妄想に勤しむのであった。

 

 各自荷物を置いた後は、別荘の玄関に集合する。

 一同は準備万端、新調した水着を身につけ、後は合図を待つばかり。合図があれば、檻から解き放たれた猛獣の如く一斉に海へと飛び込んでいくだろう。

 その中にあって一人、希だけは普段着のまま羽扇をひらひらさせていた。空気の読めない奴である。無論、

 

「私の貧相な身体を皆様にお見せして、お目汚しするような恥知らずな真似はとても」

 

 と、皮肉の効き過ぎな理由ではあるまい。仮にこれが理由であれば、希は直ぐにでも眼前の海に沈められ底の藻屑と消える事になるだろう。誰がやるとは言わない。

 大方の予想は付くと思うが、単純に日焼けしたくないだけである。女子かよッ! とツッコミを入れたくなるが、一応今は女子という事実を忘れてはいけないのだ。

 

 まあ、希の身体は異性は勿論、同性にも目の毒にしかならないので、この選択は正しかったのかもしれない。身体に毒を持つ女、東條希! と言うと、何だかかっこよく聞こえる。

 

 煮ても焼いても毒で食えない女、希が八人を見回しながら、

 

「本日は、通しで遊び倒していきたいと思っております。明日以降の鍛錬で身を引き締めるためにも、存分に楽しんで下さい」

 

 言葉が終わった瞬間、よし来た、と真っ先に穂乃果と凛が駆け出した。こういう場面となるとお約束の二人である。

 

「穂乃果ちゃん、競争だにゃ!」

 

「よーし、負けないぞ!」

 

 二人に続くように、他のメンバーも駆け足で海に向かう。たちまち、青春の甘酸っぱい光景が繰り広げられ始めた。希は羽扇をしまうと、どこからかカメラを持ち出して、

 

「ふむ、これは絵になりますね。我々のこういう一面も知って頂ければ、新たなるファンの獲得にも繋がるでしょう」

 

 と、マネージャーとしての仕事に励みだした。なお、己のこういう一面を見せる気は全くないらしい(マネージャーだから見せなくてもいいけど)。花陽のは見せる。

 ビーチバレー、スイカ割り、水の掛け合いっこ、キャッキャウフフな桃色空間。金を払ってでも見る価値のある桃源郷が、カメラに映しだされていた。

 すると、

 

「希、何してるのよ?」

 

 絵里がカメラの前に立った。異国の遺伝子恐るべし、と言わせようとしているかの如きダイナマイトボディが、カメラの画面いっぱいに映りこむ。希をして感嘆せしむるもので、μ'sの名に一番相応しいのは彼女かもしれない。

 

「素晴らしいですね」

 

 希が端的に、且つ爽やかに褒めた。

 本人は純粋に褒めただけのようだが、カメラを持ったままだったので、そこはかとなくいやらしさがあったのは仕方がない。絵里が身の危険を感じたのか、自身の両肩を抱きしめて一歩後ずさる。

 

「エッチ」

 

 これがまた絵里の魅力を底上げした。白い肌がほんのりと赤く色づき、アイスブルーの瞳に潤いを宿し、艶めいた気品が、こう匂い立ってくるようである。下品さが一切なく、高校生とはとても思えない色っぽさだ。生唾ものだが、希は趣味じゃなかったので、特別反応することはなかった。

 

 希の好みは、長身で茶髪、肌はどちらかと言えば色黒で、何よりも大事なのは自分とお話出来るレベルで頭の良い人である。簡単に言ってしまうと孔明時代の妻である黄氏みたいな人が好みなのだった。つまり絵里は守備範囲外どころか場外。頭が良いという一点のみなら、真姫は範囲内である。頑張れ、真姫ちゃん。可能性はあるぞ。

 

 希は恥ずかしがる絵里を、様々な角度から映し、最終的には、

 

「良いですよ、もう少し顎を引いて下さい。はい、そこです。それから目線を少し上向きに、ええ、そうです、そこです」

 

 と、グラビアアイドルの撮影をするカメラマンみたいに、絵里を映し続けた。絵里は身をよじらせたりして多少の抵抗を見せていたが、次第に気分が乗って来たのか、

 

「捕まえて、あ・げ・る(何を?)」

 

 と自ら女豹のポージングを決めていた。因みにこれはネットに上げるつもりでいるが、元より声は編集できちんと切り取るつもりなので、色々と心配する必要はない。

 

 

      ◆

 

 

 昼間は海でこれでもかと遊びたおした後、一先ず別荘のそれぞれの部屋に戻った一同。その時、希の部屋を訪れる人影があった。花陽である。

 

(今、先生は部屋に一人。これを機に今まで言えなかった事を言って、仲良くなりたい。だって、同じμ'sの仲間なんだもん。これからもずっと、喧嘩しているのなんて嫌だよ)

 

 と、いうことらしかった。言えなかった事とは、謝罪要求の事だ。穂乃果に話を通して、穂乃果の口から要求するのもよかったのだが、不誠実な気もするし、なにより心からの謝罪を求めているのであって、言われたからやった、という受け身の姿勢は望ましくない。

 現在、部屋は希一人。相部屋の真姫は、食事の買い出しに向かっている。本当だったら、希は真姫と一緒に買い出しに行く筈であったのだが、

 

「カードの導きによれば、私は部屋に残っていた方が良さそうです」

 

 と、涼し気に言って部屋に残っているのだ。代わりに、穂乃果と絵里の二人を同行させている。自分の主君と親友をお使いにするとはなんてふてぇ奴、と言いたくなるが、自分の主君を囮にして死地に追いやる悪魔の軍師なので、この程度は驚くに値しない。

 ともあれ、前世からの特技であった占いの結果であり、占いでそう出たからと言われれば、真姫もなんて返して良いのか分からず、分かったと一言だけ告げて買い出しに向かった。

 

 希は花陽の来訪を快く迎え入れた。部屋の中ではお茶とお菓子まで用意して準備万端、なんでか花陽が来ることを察知していたらしい。これも占いで出た結果だと言うのか。

 花陽は不気味さを感じて膝を震わせながら、

 

「お、お話があるのですけど、だ、大丈夫ですか?」

 

 頷く希は、

 

「私も、花陽(呼び捨てになった)とは話をしたいと常々考えておりました(多分、嘘)。真姫が帰って来るまで時間はありましょうし、お互いが納得いくまで語り合いましょう」

 

 と言いながら、腰を下ろした。

 顔面蒼白のゾンビ花陽は、希に促されるまま対面に座る。

 さて、座ったのはいいものの、花陽は口が開かない。こうして二人で話をするのは初めてであり、どういう風に話を切り出したら良いのかが分からないのだ。花陽は海未に劣らず、それどころか遙かに上を行く緊張しいであり、初対面の人とは先ずもって話せない。

 希とは初対面ではなく言い合いをしていた事もあったが、あれは周りに凛とかにこがいてくれたから大丈夫だったのであり、こうして一対一で話すのはハードルが高いのだ。

 

 実のところこうして話をしに来たのは、何時までもうじうじとしていた花陽の背中を凛が押したからである。だから覚悟を決めたかと言えば、まだもうちょっとの段階だったのであり、希が不気味にも来訪を察知していた事が駄目押しとなってこの有様である。

 何か言わなくては、と口をパクパクさせるも声は出ない。決して、餌を求める金魚の物まねではない。

 

 時間は刻一刻と過ぎていくも、事態は一向に進展しない。気付けば希は、羽扇で口元を隠しながら、目を瞑っていた。退屈が極まって眠くなってしまったのか。

 花陽の目にみるみると溜まっていく涙、やっぱりわたしは最低最悪の駄目な女なんだ、と自虐モードに突入しようとした時、

 

(え、えぇぇえええええ!)

 

 なんと、希の頬に流れる一筋の滴。紛れもなく涙である。

 花陽は驚きのあまり自分の涙を引っ込めると、反比例して流れが強くなる希の涙。まるで豪雨の如し。止まる気配がない。

 

(ダ、ダレカタスケテェ!)

 

 ちょっと待ってて、なんて偶然助けに来てくれる人はいない。そもそも希の部屋を訪れそうな人は買い出し中である。まさか、穂乃果と絵里を真姫と一緒に行かせたのはこれが理由なのか。これも占いで知ったとすれば、まことにスピリチュアル。希、悪魔か神か。

 

「申し訳ございません。よもや、私の不遜なる発言が花陽の心を傷つけていたとは露とも知らず(本当か?)、のうのうと日々を送って来たことは、万死に値する罪と言えましょう(大袈裟)。ああ、どうか我が罪をお許し下さい」

 

 どぼどぼと涙を零しながら、花陽に赦免を求める希。

 その迫力にたじたじとなって、どの道言葉が出ない花陽。

 下手に出てるように見えて、まるで脅迫である。見ろ、私のこの真心が込められた滝の如き涙を、これで許さないなどということがあって良かろうか、いや、良くない。そう言っているようにしか見えなかった(少なくとも花陽には)。

 

「先生、どうか泣き止んで下さい。そんなに泣かれたら、わたしはどうしたら良いか分かりません」

 

 こんな状況、花陽に限らず誰だって何したら良いのか分からないだろう。果たして正解は存在するのか。

 おろおろと慌てふためく花陽は、もう謝罪がどうとかどうでもよくなっていた。いや、これだけの誠心誠意(?)の謝罪は今まで見たことがなく、許す以外の選択肢はない。

 

「許します、許しますから泣き止んで下さい」

 

 花陽も抑えていた涙が目元を熱くしだした。

 ついには嗚咽が止まらなくなり、二人してえんえんわんわん泣き喚くことに。

 暫くして二人の涙が止まると、備え付けられたティッシュで目元を拭う。泣き過ぎたのか目がはれぼったくなっていた。

 希が花陽の両肩に手を置きながら、

 

「これからは二人、何事も協力し合いながらメンバーの皆様を支え合っていきましょう」

 

 と、最後は良い話風で終わらせようとした。

 花陽はその術中に嵌ったのかどうかは知らないが、

 

「こちらこそお願いします。何時か、アイドルの事について語り合いましょう」

 

 そう返した。

 希はいつもの爽やかな笑みで、

 

「ええ、何時か必ず(って一体何時だ?)。その時が来るまでには、私もアイドルのいろはをマスターしていたいと思っております(期日があやふやな怪しい発言)」

 

 と頷き、花陽と二人、今度は初めて笑い合うのだった。

 

 

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