スピリチュアル軍師・希   作:フリート

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その⑦

 ツバサはアイドルらしからぬ渋い顔をして、パソコンの画面を眺めていた。表記されている内容は本当に事実なのか、もしかしたら幻覚を見ているのかもしれない、思いながら何度も何度も同じ文字群も追っているが、その度に現実であることを認識させられる。

 想定していた内容だったが、信じたくはなかった。人々が自身に掛けられた呪いを解いて、真実の姿を世界に知らしめてくれると夢想していた。でも、現実の厳しい風が容赦なく吹き荒れて、ツバサの心を寒からしめるのである。

 

「μ's、ランキング十位」

 

 音にした言葉は、物理的な攻撃力をもってツバサを苦しめる。

 どうしてあんなおちゃらけ集団がベスト十に入っているのだ。他のスクールアイドルは何をやっているんだ、とライバル達の不甲斐なさに憤激しながら、一度たりとも信じた事のない神の采配の過ちを指摘した。こうなることは薄々予測はしていたけど、いざ現実になってみると認めたくないのである。

 

「男どもめ、誑かされやがって」

 

 誰も聞いていないのを良いことに、荒々しい言葉遣いで世の男を責める。このランキング結果は、先日μ'sが公開した露骨な人気取り動画が原因に違いない。男どもはμ'sの水着姿に目がくらみ、判断を誤ったものと思われる。

 

 それにしても汚いのは、μ'sとその裏で糸を引いている東條希だ。こんなことをして人気を得て恥ずかしくないのか、と怒りを抑え切れないツバサだったが、冷静に考えると普段のμ'sの暴走っぷりの方がよほど人様にお見せ出来ないほど恥ずかしいのであり、この浜辺で戯れる水着女子の姿は健全と言えば健全である。

 

 これがμ'sの強みなのかもしれない。もう恥ずかしい様が定着しており、何をやってもμ'sらしくて斬新で素敵、となってしまうのである。これも希が裏で情報操作、印象操作を図っていたからで疑いはない、と思うのは考え過ぎだろうか。少なくともツバサは、μ'sが原因の世の不条理は、全部希の所為だと考えている。

 

「今度のラブライブ! は荒れるわよ」

 

 大会の出場資格は、ランキング上位二十までに入っていること。μ'sには既に資格がある。ここから大どんでん返しが起こって一気に二十位以下に転げ落ちることはまずない。何か雰囲気というか流れがそうならないとツバサに対し明確に語り掛けて来る。

 希が今回の大会で何を仕掛けて来るのか、それは分からない。もしかしたら何も仕掛けて来ないという仕掛けをして来るかもしれないかどうかも分からない、とツバサ自身自分で何を言っているのか分からなくなってくる。考えたって答えは出ない。

 

「私達はただ、自分の力を信じて最後までやり遂げるだけよ」

 

 よし、あんじゅ、英玲奈、練習よ、と呼び掛けようとして、はたと思い出す。

 

「そう言えばあの二人、今日は用事があるって言って居ないんだっけ。二人していそいそと随分怪しげだったけど、何なのかしらね。あの二人もあの二人で最近変だし」

 

 私の周りには変な人しか居ない、とツバサは大きなため息を吐くのであった。

 

 

      ◆

 

 

 一方、あんじゅと英玲奈は音ノ木坂学院に足を運んでいた。

 本日、音ノ木坂は学園祭である。ここ数日、朝から空一面が青々としていた。その青さが終日表情を崩さず、今日を迎えたのだ。まるで天が学園祭を待ち望んていたよう。天気予報ではしっかり雨だったのに、雨雲は予報士の予想に反して怠け者だったらしい。

 一説によれば、どこかの誰かが怪しい儀式の様なことをしていたらしいが、関係性は一切不明である。ともあれ晴れて良かった。

 

「ほう、随分と盛況なものだな」

 

 物珍し気に周囲を見回す英玲奈は、時折感嘆の声を上げながら道を進む。少し前までは廃校だなんだと騒がれていたが、そんなことを微塵も思わせないような盛り上がりぶり。

 ふと隣に視線を向ければ、大きめのフランクフルトを頬張るあんじゅがいる。大きい大きいと言いながら口に突っ込んで舐るように食べる様は狙ってやっているようにしか見えず、齧って食えよ、と言ってやる気力すら奪われてしまう。

 

「美味いか?」

 

 当たり障りのない言葉を掛けてやると、あんじゅは、

 

「ええ。でもとっても大きくて、お口の中から溢れ出しそうよ」

 

 と、無意味に色気を振りまきながら答えるのである。

 本日、二人が音ノ木坂学院を訪れたのは、此度の学園祭を楽しむのが目的だ。決して、再び隆盛を取り戻さんとする音ノ木坂を偵察すべし、とか、リーダーのツバサが気にするほどのスクールアイドルμ's並びに東條希とはいかほどのものか、この目でしかと見て取ってやらん、とかそんな大層な気持ちはないのである。

 強いて言えば、もし運よく希に会えたらツバサのことをアピールしておいてやるか、という友達思いの(お節介な)心ぐらいだ。

 

「そう言えばパンプレットを貰っていたな」

 

 英玲奈が手提げバッグから取り出したパンフレットには、何か所かにμ'sの文字が存在する。校内放送を利用したトークラジオと屋上でのライブがμ'sの出番のようだ。音ノ木坂の学園祭に来た以上は外せない二つのイベントである。

 二人は建物の中に入ると、各フロアの出し物をこれでもかと満喫した。お化け屋敷やメイド喫茶、男装喫茶にコスプレ喫茶、今思えば喫茶ばっかりだったが、これはこれで良かったのである。当然、メイド喫茶であんじゅが、男装喫茶で英玲奈がその恰好をして、客でありながら店員をもてなすという事態に陥ったのはお約束だ。

 

 コスプレ喫茶は三年生のとある教室の出し物で、女子校で誰が得するのか三国志の登場人物に扮した生徒たちがもてなしてくれる。一体誰が発案したことやら。

 コスプレのクオリティは中々のもので、クラスで高身長の生徒達が付け髭をし青龍偃月刀や方天画戟を手に圧巻のおもてなしを見せてくれた。張飛に扮した生徒が、

 

「音ノ木坂じゅうの酒を全部持ってこい」

 

 酔ったふりをして暴れまわるのを、関羽や趙雲に扮した生徒達が取り押さえるという劇も用意してあり、客を笑いの渦に取り込んだ。学園祭のノリだからこそ出来る芸当だ(というか音ノ木坂だからこそであろうか)。

 ここでも案の定、英玲奈が周瑜の、あんじゅが貂蝉のコスプレで周囲を沸かせるのだった。

 こうやって楽しんでいる間にμ'sのトークが放送されて、これでまたお笑いを誘った後屋上ライブである。本日のメインイベント、客は屋上へと早足に向かい、英玲奈とあんじゅも後に続く。屋上へ向かい開演時間が来れば、遂にμ'sの登場である。

 

「皆の者、出陣だよ!」

 

 穂乃果が威勢の良い声で口火を切ると、μ'sが一斉に現れて観客は熱狂の雄叫びを上げる。周りにつられて英玲奈とあんじゅも声を上げた。

 今回のμ'sのコンセプトは皆まで言うな、三国志である。コスプレ喫茶の発案者と同一人物の仕業であるのは明白だが、肝心の本人はアイドルではないのでいない。

 それぞれ自分の扮する武将に成りきっているのか、いつもと様子が違うものの、ライブ自体はいつも通りのμ'sの舞台である。

 

「見て下さい、長姉。義の旗に集う勇者たちの数を」

 

 海未が成りきるのは関羽だ。長姉と呼ばれた穂乃果が成りきるのは劉備。またそれぞれ、ことりが張飛、絵里が馬超、にこが法正、真姫が馬謖、凛が趙雲という形になっている。コスプレ喫茶の方とは違って、武器は不所持、髭もなしと、一応スクールアイドルらしくはしている。観客達は、十五分ほどμ'sの演劇を観賞して場の空気を整えた。

 

「ほ、穂乃果姉、こ、ことりはもう我慢できないよ。早くお酒かライブを」

 

 虚ろな瞳、震える手、幽鬼を思わせる声、ことり迫真の演技は、普段の家での母から学んだもので、いつどこで発揮されるか不明だったがとうとう陽の目を見たのである。別に感慨深くはない。なんだったら永久に見る必要はなかったのだが、マネージャーたってのお願いだったので仕方がない。あまりの演技力、観客に交じる演劇部員がスカウトしようか迷うレベル。

 

「いけない、このままじゃことりちゃんが壊れちゃう。うぬぅ、もう少し準備が必要だったけど、直ぐに歌う用意を」

 

 演技力では穂乃果も負けていなかった。穂乃果の指示を受けて、メンバーが各々の配置につくと、曲が流れて来る。音ノ木坂の学園祭の為だけに作られた新曲であり、どう聞き取っても音ノ木坂賛美の歌であったが、観客はμ'sの歌ならなんだって良いのである。別に演歌でも軍歌でも文句はないのである。

 学園祭の楽しみ方を理解している英玲奈とあんじゅも、気持ちは観客と一緒だ。今はスクールアイドルA-RISEの一員としてではなく、ただの一お客として盛り上がるのみ。声を出して手を上げて、やんやとライブを楽しんでいると、ぽんと肩を叩かれた。

 

 振り向けばそこには、

 

「どうも楽しんで頂けているようで幸いです」

 

 諸葛孔明がいた。

 頭に綸巾を戴き、鶴氅を身に纏っている女性。分かりやすく言えば、頭巾を被って道服を身に纏った仙人みたいな女性がいるのである。口元に羽扇を持って、クスクスと笑う様は、イメージ上の孔明そのもの。二人が本物の孔明と間違えてしまうのも無理はない。

 事実、本物だと言っても間違いではないのだ。性は東條、名は希、字は孔明、三国志の諸葛孔明の生まれ変わりその人である。

 

「まさかお二方が、我らの学園祭に足を運んで下さっているとは思いもしませんでした」

 

「よく、私達が来ていると分かったわね」

 

 希は莞爾と笑い、

 

「随分と楽しんで頂けたようですから、私の耳にもお二方の情報が入って来たのですよ」

 

 ああ、と納得する二人。確かに、喫茶店ではしゃぎまくっていたから、そりゃあ情報として流れても仕方はない。特に正体は隠していないし。

 

「ライブが終わった後でよろしいので、是非、我がアイドル研究部に御足労を願いたく」

 

 にこや花陽も喜びます、と希が付け加えた。

 拒否権はどうもなさそうである。英玲奈とあんじゅは同じタイミングで苦笑しながら、首を縦に振るのであった。

 

 

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