スピリチュアル軍師・希   作:フリート

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その⑧

 思っていたより数十倍はまともそうな人、というのが英玲奈とあんじゅの希評である。ツバサが語るところ、奇人変人エキセントリックの社会不適合者であり、悪鬼羅刹も裸足で泣き喚きながら逃げ出す邪神、ニャルラトホテプの化身などとけちょんけちょんに貶していたが(そこまで言ってない)、実際に顔を合わせてみれば、礼儀はしっかりしているし、話は教養の深さを匂わせるほどに面白いし、何より美人だしといいとこ尽くめ。

 

(ツバサは何か勘違いでもしているんだろう。思えばあいつは思い込んだら話を聞かないところがあるからな)

 

 と、ツバサを被害妄想系女子に仕立て上げるのだった。人によって評価が極端に二分する女、東條希、十七歳。誠実なる忠臣か、はたまた稀代の大悪魔か。神算鬼謀の天才か、はたまた古今並ぶ者なき大ぼら吹きか。どちらも彼女だと言ってしまえばそれまでだが。

 μ'sの他のメンバーだって嫌いな人から見れば、それはそれは悪魔の大軍団なのである。一例として二年生組を挙げてみれば、穂乃果は純粋にして人の陰口を絶対に言わないスーパー聖人気質と褒め称えられる一方、理想主義の幼稚園児と厳しい声も。

 

 海未だって女にしておくには惜しい硬派な武人という声が上がれば、時代遅れで感情が高ぶれば直ぐに暴力を振るう危ない人と認識する人もいる。ことりは常に他者の動向を見守りながら気遣いが神懸っているという高評価に反し、腹黒と一刀両断の評価も。

 

 しかし考えてもみれば、これは彼女達が人気者な証なのだ。三国志だって、人気が高い劉備ら三兄弟、呂布、曹操などは高低両評価が世に蔓延っているし、言わずもがな孔明もそうだ。人気者だからこそ、良い所は勿論、悪い所も目に付きやすいのである。悪い評価があってこそ人気者だという証明になるのだ。

 

 悲しいのは人気がない、というより認知度がない人である。良い悪いを論ずる前に、そもそもその人はどんな人なの? ってなるのが一番悲しい。これまた三国志で例えるなら、呉の孫権であろうか。いや、彼に認知度皆無などと暴論を吐く気はないが、曹操や劉備と比べると少し見劣りしてしまう。何より、歴女の心の旦那様である周瑜の存在が悩ましいところ。

 

 まあ話を軌道修正して、人には人それぞれの好みがある。理想が好きな人もいれば現実が好きな人もいる。素直なのが良い人もいれば、ひねくれた考えが好きな人もいる。万人が万人に等しく好かれるなどそもそも不可能な話なのであった。だから、希が忠臣だろうが詐欺師だろうが、穂乃果が聖人だろうか幼稚園児であろうが、気にする必要はない。物は言いようで、全てをひっくるめて彼女達なのである。長々と申し訳ない。特にこの論のオチは用意していないので、このまま英玲奈達に話を戻す。

 

 ライブの完成度もあってμ'sの評価を上げていた英玲奈とあんじゅは、希の予想以上のまともな態度に安心、そして感心でもある。

 

 場所はアイドル研究部の部室。この場に居るのは英玲奈とあんじゅを含めて三人だ。希とにこと花陽である。二年生組と花陽以外の一年生組は学園祭を満喫しに、絵里はクラスの応援に向かったのでこの人数だ。にこと花陽は一ファンとして、是非お話を、というところ。

 

「別に気を使ってもらう必要はないが」

 

「そうよ。私達は特別な人じゃないんだから、あまり遠慮とかしないで」

 

 μ'sの三人が賓客扱いをし、あまりにも丁重にもてなして来るものだから、英玲奈とあんじゅも気後れしてしまう。特に、花陽とにこの態度が行き過ぎなぐらいに慇懃なことが拍車をかける。

 

「こ、こんな部屋に、あんじゅ様と英玲奈様のお二人を、も、申し訳ありましぇん」

 

 と、花陽が舌を縮まらせて、話すのも覚束ない様子を見せれば、

 

「こ、こらっ、希! 早くお二人にお茶の用意を!」

 

 にこもあたふたと希に指示を出す。

 二人にとって、A-RISEはまさにやんごとなき方々。農民の自分達の目前に、現職の関白だとか、征夷大将軍だとかが居る状況であり、愛想よく手もみを加え、これでもかと言うほど媚びへつらい、しまいには拝むように平伏しだすのだった。

 

「あっ、おい?」

 

「ちょ、ちょっと顔を上げてくれるかしら?」

 

 自分達のファンの中には狂信的なファンもいることは知っているが、実際に会ってみるとどう対応して良いか分からず、おろおろする他はない。

 ぺこぺこ、おろおろ、不思議な空間である。

 

「にこと花陽はお二方の、A-RISEの大ファンであります。己が人生を掛けていると言っても間違いはなく、こうして舞い上がってしまうのも致し方ないことでしょう。A-RISEと話が出来るのなら死んでも良いだなどとおっしゃっていましたが」

 

 希は重たい内容を爽やかに軽く話した。

 そんな話を聞かされればますますどうしたものか。

 

「それでは皆様、用意が出来ましたので、これを飲んで気を落ち着かせて下さい」

 

 粗茶ですが、と机に並べられた湯呑。思えばライブ終了後、一アイドルとして、一マネージャーとして、一観客として声を張り上げてから水分補給をしていないので喉が渇きまくっている。英玲奈とあんじゅはコクリと、にこと花陽はゴクリと飲み込んだ。

 

「わっ! 美味しいじゃない!」

 

 にこが勢いよく残りのお茶を飲み干した。他三人も、大なり小なりお茶の美味しさに目を瞠っている。今まで自分が飲んで来たものは一体何なんだと、分からなくなってくるぐらいには美味しい。希も一口飲んで、よし、よし、と呟いた。自分でも満足の出来なようだ。

 

「一体どんな茶葉使ってんの?」

 

 詰め寄るにこへ希が差し出したのは、そこら辺のスーパーでお手軽にお買い求め可能な安物の茶葉である。何なら矢澤家でも愛用していると言えば、どれほどリーズナブルな品物かよく伝わるだろう。これに信じられないという顔を晒したのは花陽だ。

 

「私の家でも使ってるけど、こんなに美味しくなんてならないよ」

 

「湯の温度、茶葉の蒸れる時間、湯呑への注ぎ方、一つ一つを丁寧に行えば、お茶というのはこれ程にも化けるのですよ」

 

 ちょろっと前に、海未を誑かしに家を訪問した日(μ'sを結成して間もない時期)、淹れてくれたお茶の味を忘れられなかったのか、希は後日教えを乞うたのである。海未は快く承諾してくれて、その極意を希に教えた。昔から細かい所は細かい希なので、茶の淹れ方の奥の奥まで深く潜り、海未だけでなく、海未の母や祖母にまで習ったのだ。

 

「なるほど。料理に一手間を加えれば出来栄えは段違いとなるが、茶の道でも同じことか」

 

「奥が深いわね」

 

 英玲奈とあんじゅがまたも感心する。ストイックな人なのね素敵、と希の評価を上方修正した。

 一先ず、お茶を飲んで喉を潤し、気も落ち着いたところで仕切り直し。

 

「あの、私達のライブはどうでした?」

 

 にこが話を切り出した。殊勝な態度がどうもおかしく感じるところだが、一ファンとしての姿はこんなものである。中国の変面の技(被っている仮面を一撫でするような動作で、別の仮面に切り替える高等技術)に近しい変人格の技(人格を変えるという意味にしても、変な人格という意味でも受け取り方はどちらでも可)は、ある意味感動ものだ。

 

「凄かったぞ」

 

「楽しませてもらったわ」

 

 小学校低学年レベルの感想だった。でもにこは大いに満足した様子。小賢し気な論評を貰うより、単純、シンプルな答えの方がかえって嬉しいものである。一アイドルとしても、一ファンとしても、二人を笑顔に出来たというならこれ以上はない。

 そう考えるとここにツバサが居ないのは正解だったかもしれなかった。彼女が居れば、それこそ偉そうに語り始めるだろうし。にこ的にはそれはそれで良いのかもしれないけど。

 

「今回のライブでもそうだけど、貴女達のライブってどれもエンターテインメント性(悪ふざけ)があるわよね。そういうのってやっぱり、マネージャーの孔明さんや小泉さんが考えてるの?」

 

「基本は先生が考えてますけど、私もお手伝いぐらいは」

 

「ふ~ん。A-RISEにもああいうのを取り入れるのは良いかもしれないわね」

 

(止めて下さい!)

 

 と花陽は内心で懇願する。μ'sはオールマイティなところがあるから、お笑いみたいな要素をふんだんに取り入れても成立はするが、A-RISEはカッコいい系のグループなので、μ'sのやり方を取り入れたら破滅への道を一直線だ。

 血迷うな馬鹿野郎! と一喝することなんて天下のA-RISE様に出来ないので、花陽はうるうるチワワの物まねで無言の訴えをするしかない。

 

「冗談よ」

 

 あんじゅは悪戯っぽく舌を出して笑った。

 

(でも、一回やってみたくはあるわね)

 

 と、思いながら。あんじゅはエンターテインメントを理解する女なのだ。

 

「ライブと言えば」

 

 英玲奈が口を開いた。

 

「今度ラブライブ! が開催されるじゃないか。上位のグループは既に大会に向けての準備を整えているだろうし、下位のグループも、上位の座を奪おうと最後の追い込みをしているようだ。お前達は何かやっているのか?」

 

 希はフッと微笑んで、

 

「この前、綺羅殿とお会いした時、チームワークの重要性を説かれました。流石はA-RISEのリーダー、まことに至言です。我らはその助言に従い合宿を行い、絆を深めることに成功しました。本日のライブで、その成長ぶり、絆の深さを実感したつもりです」

 

 羽扇を口元に運び怪しく瞳を輝かせると、

 

「本日は我らの学園祭に足を運んでいただき、まこと感謝の念が堪えません。ですが、少々暢気だと言わざるを得ませんね。大会終了後、後悔しても責任は取りませんぞ」

 

 強気に言い切った。

 これはA-RISEへの明確な挑戦状だが、英玲奈は破顔一笑した。

 

「はは、ツバサが妙に評価していた時は、あいつの目が節穴にでもなったのか心配になったが、どうやら見る目は正しかったようだな」

 

 英玲奈が立ち上がる。

 

「どうやら遊んでいる場合じゃなくなったようだ。東條希、お前こそ、私を本気にさせたことを後悔するなよ」

 

 いきなり熱血系バトルマンガのような展開。あんじゅはやれやれと呆れ、にこと花陽は燃え上がる英玲奈のカッコよさにメロメロだった。流石は女子が彼氏にしたいスクールアイドル堂々の一位、自然と決まっているポーズも堪らない。

 

「あんじゅ、行くぞ」

 

「あら、どこへかしら?」

 

 あんじゅが訊くと、

 

「無論、ツバサの所だ。東條希、お前の顔と名前、そしてμ's、私は完全に覚えたぞ。大会の日が楽しみだな。首を洗って待っているがいい」

 

 そこそこ物騒な発言をする。この場に海未が居れば時代が数百年遡ったような話に発展して面白くなるのだが、それは後の楽しみにしておこう。

 

「美味しい茶をご馳走になった。その礼もまた、大会で返すことにしよう。ではな」

 

「ばいばい」

 

 英玲奈とあんじゅは部屋を後にした。

 この燃え滾る思いを発散させるため、向かう先はUTX学園だ。

 

 その後、UTX学園へと着いた二人に待っていたのは、ツバサが特大パフェを頬張っている自撮り写真付きのメールだったのは、余談である。

 

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