スピリチュアル軍師・希   作:フリート

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スクールアイドル、諸葛孔明!
その①


 昼休み、希の最近の日課は図書室で本を読むことだ。一、二年生の頃も日課だったのだが、部活を始めてからめっきりご無沙汰しており、ここのところ一段落ついてか再開したのである。アイドル研究部、現在小休止中だった。

 

「先生、ちょっとここを教えて欲しいんだけど」

 

 真姫が問題集を差し出して希に訊ねた。これもまた希の日課の一つである。ご両親から大切な一人娘を託された以上、責任があるのだ。希は優し気な笑みを浮かべて読書を中断し、訊いていないことまで懇切丁寧に説明する。真姫はしっかり全部メモした。

 

「ありがとう」

 

「いえ、私如きでよろしければいくらでもお付き合い致します」

 

 希はふふっと笑った。

 見惚れること数秒、じゃあ付き合って下さい、と言う勇気を絞り出せずに再び問題集に向き合う真姫の頬は、真紅の髪よりも鮮やかに色づいている。

 図書室での密会にこぎ着けたは良いものの、その先には中々進めないでいた。と言うよりその先に進もうという意思が欠如しており、これで満足してしまっているところがある。今はまだ、プラトニックな恋心を着々と育み続ける真姫であった。

 

 しばらく、二人は口を閉じた。ぺらりと音を立てて捲られる本、かりかりと紙面を打つシャーペン、これぞ学校の図書室の一幕だ。

 

「そう言えば」

 

 希が真姫を横目に見る。

 

「真姫は凛と仲良くしていますか?」

 

 希とにこ、花陽の和解が完全に成立した後、希と花陽が仲介役となって真姫と凛も冷戦を終了した。それからお互い花陽の共通の友達として交流を深め、何だかんだと学園祭を二人で回る程度には仲を良好なものにしていた。

 

「心配しなくても大丈夫よ」

 

 責任感故か少々過保護な希に、真姫は心配するなと伝える。まだまだ無二の親友とは程遠い関係だが、普通の友達としては適切な距離感のように思う。これからはアイ活中に睨み合ったり、肘をどつきあいしたりすることはないだろう。大会でもやらなかったし。

 それよりも真姫が問題にしたいのは、希の交流の方だ。

 

「先生は、皆と随分仲が良いのね」

 

 幾分嫌味を込めたつもりで言った。

 希の交流は幅広い。普段の学校生活では絵里やにこといちゃつき、部活中には花陽や凛と戯れ、放課後や休みの日は穂乃果の家に入り浸り、何時連絡先を交換したのかA-RISEの英玲奈とも関係を持っているらしい(真姫主観による分析)。

 

 この昼休みの密会とて、少し手を打たねば拙いと思って始めたのである。

 真姫の幼気な焼餅感情が、赤々とした頬をぷっくり膨らませる。

 すると希、何が面白かったのかクスリと声を出し、

 

「ええ、皆様とは良き関係を築かせてもらっています」

 

 と、合っているけど、真姫的には納得いかない返答をした。

 希は都合が良いのか悪いのか、こういう乙女の純粋な恋愛感情になると途端愚鈍になる節がある。少しでも謀の匂いがあれば直ぐに嗅ぎ取るのだが、真姫のような純粋一筋になれば、その察知能力は凡人以下。頓珍漢な回答もしばしば。

 

(ふんっ! 先生の女ったらし)

 

 真姫は両頬を焼餅状態にしたまま、ムスッと眉間に皺を寄せた。

 

「急に何をそんなに怒っているのですか? 真姫に何かしましたか?」

 

「別に」

 

 女心と秋の空、女性の心は何時の時代も分からないものだ、と希は苦笑い。態とじゃないのか、と言いたくなるぐらい鈍い奴である。しかし、こんな女に惚れてしまったのが運の尽き、真姫もそこを理解してこれからも頑張って行ってほしいものだ。

 

「ふむ、真姫は何が望みなのですか?」

 

 一向に怒りを収めようとしない真姫を懐柔にかかる。別に希と望みをかけたわけではない。何がって、貴女が希でしょう、という海未の鉄板ネタと丸被りする様な一発ネタではないので悪しからず。真姫はもう鈍いんだから、と思いつつも折角だから、

 

「じゃあ、先生もアイドルやりましょう」

 

 と、望みを言うのだった。

 希はどこからともなく羽扇を取り出すと、

 

「その話はまたいずれ」

 

 ひらひら顔の前で揺らすのであった。

 

 

      ◆

 

 

 第一回ラブライブ! が終了して、音ノ木坂学院アイドル研究部はその活動規模を少し縮小していた。廃校も無くなり、大会も終わったとなれば、これからの目標が定まらず宙に浮いた状態となっている。こうなって来ると現実が急に勢力を拡大して来て、特に三年生組は将来に向けて各々動き出し始めた。

 

 そのためにこや絵里は受験勉強に忙しい。

 絵里はA-RISEリベンジの為の猛特訓を考えてはいたが、一体何時になったらその機会とめぐりあわせになるか分からず、そもそも機会があるのかどうかすら不透明なところもあったので断念。将来を見据えた活動にシフトした。

 

 希は二人のように受験勉強とは無縁である。勉強などしなくとも大学ぐらいになら軽く入れる、と世の受験生を舐めくさっているわけではなく、就職先が確定しているからだ。穂乃果の家に放課後、休日と入り浸るのはそれが理由であり、修行しているところである。

 臣下たるもの、死によって分かたれる時までは、主に何時までも付き従うものだ。忘れてはならないが、希の中の人である諸葛孔明という男は、誠実さと忠誠心が売りの男である。敵も味方も謀略に嵌める様な意地悪なところが目立ちはするが、本質は忠義。

 

 年中同じ格好をして羽扇を無駄にひらひらさせるような変人であり、言葉巧みに人を欺く詐欺師の異母弟みたいな男であっても、忠義一筋、泣かせるロマンティック軍師なのだ。

 

 ついでに他の面々の動きを見てみると、やはり一日ずっとスクールアイドルをやっているわけではない。真姫は前述の通り、希に師事を受けながら学に励み、花陽と凛は極一般的な女子高生生活を平和に送っている。

 

 穂乃果、海未、ことりの幼馴染三人衆は、生徒会室へ足を頻繁に運んでいるようだ。音ノ木坂総意として、次期生徒会長は穂乃果に決定したのだ。穂乃果の人間的魅力は音ノ木坂の生徒、先生を完全に取り込んでおり、心酔させるにまで至っている。μ'sが音ノ木坂で好き勝手に暴れ回れたのは、文句を言う人間がいなかったから出来たことだ。

 

 当初は私にとても務まる仕事ではありません、と断っていたのだが、やって下さい、貴女しかいないのです、と言われ続けるうちにその気になって、じゃあやる、と引き受けてしまったのである。穂乃果がやるのなら我々が補佐をすると海未、ことりが名乗り上げ、三人は現生徒会に生徒会の何たるかを教わっている最中だ。

 

 実の話、アイドル研究部の活動が縮小したのは、これが一番の原因である。リーダーの穂乃果が生徒会の方にかかりきりとなり、部活の方まで手が回らないのだった。

 

 が、九人とも別にやる気がないわけではなく、寧ろやる気はそれなりにあるので解散はせずに部活の時間は最低限しっかりと確保している。

 

 さて、アイドル研究部の現状は燃え滾る炎が一旦鎮火しているといった風情だが、スクールアイドル業界は初の大会を経て、今までにない盛り上がりを見せている。

 各地のイベントにスクールアイドルが起用されたり、本人達自らイベントごとを催したり、普通のアイドルと何が違うのか境界線がはっきりしないほどの熱気ぶり。

 

 そんなスクールアイドル業界が今一番注目しているのは、何を隠そうμ'sなのであり、特にマネージャーの希と花陽のメンバー入りを望む声はひっきりなしに続く。どこからともなくそんな声が寄せられてくるので、希はそろそろうんざりしているところである。

 ある日の事、英玲奈から電話が掛かって来て、

 

「希、お前、スクールアイドルをやる気はないか?」

 

 と言ってきた。珍しいことがあるもの、英玲奈からの電話は基本がツバサの個人的情報(食べ物はどんなものが好き、趣味はこういうもので、この間ツバサにこんなことがあって、などなど)の垂れ流しであり、

 

(綺羅殿を嫁にでも貰ってくれと言っているのだろうか)

 

 と、英玲奈の謀の匂いを瞬時に嗅ぎ取って、意図を把握していた。そんな気はさらさらないのだが(ツバサ、自分の知らないところで希に振られる)、情報自体は何時か使えるかもしれないと律義に全部聞いて、しかも書面におこしているのである。

 今回はいつもと違ったので一瞬戸惑ったが、直ぐ何事もないかのように気を落ち着け、冷たく言い放った。

 

「興味がありませんね」

 

 なおも英玲奈はしつこく食い下がり、

 

「だったら、うちに来てやってみないか? A-RISEもこのままマンネリ化してはいかんと考えていたところ。どうだろう、悪い話ではないと思うが」

 

 たぶん英玲奈は軽い気持ちで言っているのだろうが、希にしてみれば、裏切りを勧めるも同然の行いである。メンバー入りの話でも気が滅入るというのに、ほとんど八つ当たりの気持ちで、怒りを声音に込めると、

 

「忠臣は二君に仕えず」

 

 と斬り捨てた。

 

「はっ?」

 

 英玲奈が呆気に取られている内に、希は電話を切った。

 この後、悪い言い方をしたかな、とメールで重苦しく謝罪と丁重なお断り文を送っている。

 そんな日々をゆるゆると送る中、驚くべき報がスクールアイドル達をざわつかせた。

 

『第二回ラブライブ! 開催決定!!』

 

 勇み立つスクールアイドル達、その中にあってμ'sもまた、慌ただしく動き出すことになる。

 

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