スピリチュアル軍師・希   作:フリート

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その④

 さてさて、真姫がクラスメイトから変質者の称号を本人の知らないところで送られた日の放課後である。彼女は宣言通り、音楽室を不法に占拠してピアノを私物化していることだろう。因みに初めてではなく、度々犯行を積み重ねる常習犯である。

 

 が、理事長並び諸先生方は傍観、生徒会は面倒くさいので黙認と、彼女に逮捕状が上がることはない。生徒会なりに申請書でも出していればこんな風にはなっていないのだが、単に出し忘れしているだけなのか、これぐらいならいいだろうという人の心理なのか、あるいは人に頼み事や許可をもらうのが嫌いな反骨心からなのか、それは定かではない。

 

 そんな、真姫が観客なしの違法コンサートを開催している一方で、ため息の歌唱コンクールを、やはり無観客で行う少女が一人いた。高坂穂乃果である。

 

「はあ、太腿、お肉がいっぱいだ」

 

 しみじみとした表情で、髀肉の嘆をかこっていた。ただ、腿に贅肉が集まっているのは、単純に穂乃果が食っちゃね寝してただけのことであって、特に聞かせる話はない。これからアイドルをやるのだし、ダイエットでもしろというだけの話だ。

 

 しかし、髀肉の嘆をかこつの通り、穂乃果は一人、焦燥の念にとらわれていた。絵里や、海未、ことりは言わずもがな、それぞれの与えられた仕事を全うせんと腕を振るっているし、希は希で練習場所の確保や日程の調整など裏方の仕事をしっかりと行っている。その中で穂乃果だけは、何もやっていなかったのだ。

 

「希ちゃんと海未ちゃんは、万事私達に任せて、なんて言ってたけど、このままじゃ駄目だよね。わたしも何か皆の役に立たなくちゃ」

 

 希と海未では言っていることが微妙に違う。希の場合、瑣事は臣下たる自分がやっておくので、穂乃果はどっしりと構えていてほしい。海未の場合は、穂乃果は余計なことをしなくていいので、大人しくしていてほしい。結論としては、両者ともに穂乃果は何もしなくていいという答えに落ち着いているのだが。

 

 でも穂乃果は何かしたかった。勘違いしないでほしいのは、穂乃果にはしっかりと打算があるのである。と言うと俗物的になってしまうので、打算と言うほどのものでもないが、何か手柄を立てて誉められたいのだ。まさに、飼い犬が飼い主に対して、わたし上手くやったわん、頭を撫でてほしいわん、と言った感じである。

 

「希ちゃん、褒めてくれるかな」

 

 穂乃果はえへえへと笑っていたが、希に褒められるのではなく、褒める立場にあることをすっかり忘れているらしかった。普段はいっぱしの殿様面をする割に、肝心なところはあまあまである。それにするならするで誰かに一言告げるべきである。それこそ希に話を通せば、

 

「ならば、我が君のお言葉に甘えて、伏してお頼み申したき儀がございます」

 

 と、穂乃果でも出来そうな仕事を用意してくれるだろう。

 だがそれでは駄目なのだった。サプライズの要素を持たせることで、驚かせてやりたいという、穂乃果の粋な心があるのだった。これでは抜け駆けなのだが、主君が家臣に対して抜け駆けというのもおかしな話だ。

 

「よ~し、やるぞ~!」

 

 そんなことは知らないと、考えたこともないとばかりに(普通一般の女子高生はそんなことを考えないから当然なのだが)気合を入れる穂乃果。この気合を入れた時の穂乃果が、またなんとも言えない魅力を醸し出しているのである。

 この魔性の魅力こそ、海未とことりを惹きつけ幼馴染たらしめると共に、希をして永久の忠誠を誓わせたのである。カリスマと人は言う。

 

「それにしても、何をすればいいのかな?」

 

 やろうと決めたはいいもの、具体的なことは何も決めていない。穂乃果にはよくある話だった。取る物も取り敢えず、見切り発車で全速前進。細かな進路調整は他人任せである。

 

 前までは、進路調整をさせられるのは海未だった。ことりはニコニコ笑いながら、穂乃果に背後霊の如くぴったりくっつくだけで何もしない。海未とてしなくていいのならしないのだが、誰かがやらないと自身の進退にも関わって来るので、やるしかなかったのだ。

 

 だったら穂乃果号から途中下車すれば、となるのだが、穂乃果の魔性の魅力が、離れ難くするのである。まるで芳醇な酒か麻薬のようですらあった。

 今となっては、そんなことを海未が悩む必要はない。何故ならば、物好きにも自分から暴走機関車の進路調整をやってくれる人間が現れたからである。それも超有能な。これで、肉体的にも精神的にも余裕が出来て、車窓から風景をのんびりと眺めていられるのであった。

 

 海未の話はこれぐらいにして穂乃果である。穂乃果はうんうん唸りながら、考えていたが答えは一向に出て来なかった。彼女はいつも直感で答えを出すタイプであり、考えるのは別の人物(ほとんど海未、たまにことり)がやってくれるのだ。

 

「う~ん、全然思いつかないや。絵里先輩にでも相談してみようかな」

 

 あんまりにも答えが出ないので、前提条件を覆すようなことをしようとする穂乃果。それとも、絵里にだったら別に知られても構わないという、無自覚の仲間外れ宣言なのか。こんなことが絵里の耳に入れば、彼女は一晩中、希かにこの胸元を涙で濡らすことになるだろう。柔らかい枕(希)と固い枕(にこ)、絵里はどちらが好みなのだろうか。

 

「そうだっ!」

 

 突然、穂乃果は閃いた。考えるのを止めた瞬間にこれである。これこそが、穂乃果の直感であり、この直感を以って今までの人生を乗り越えて来たのだ。今回も、この直感の赴くままに突き進むのである。当たり前だが、秘密の発進の為、進路調整をやってくれる人はいない。

 

「この前、希ちゃんが作曲を出来る人が欲しいって言ってから、その人を探してこよう。そうすれば、希ちゃんも誉めてくれるし、海未ちゃんもわたしを見直すだろうし、ことりちゃんも喜んでくれるだろうし、良いことだらけだね」

 

 さらっと絵里の名前が出て来てないのには、深い意味なんてないだろう。ないったらない。

 

「どこを探せばいいのかな? あっ」

 

 二度目の直感。

 

「音楽室だよ! 音楽室だったら、きっと出来る人がいるかも」

 

 直感から生み出された崇高な答えに、ツッコみを入れる人間はこの場に居なかった。

 普通に考えれば最早鼻で笑うことすら出来ないのであるが、ただ、今回にだけ限って言えば、恐ろしい直感だと戦慄してしまう。だって、居るのだから。放課後、使われる筈のない音楽室を、我が物顔で使用している人物が居るのである。

 

 その人物、恐らく、あくまで恐らくだがピアノは人並みかそれ以上に弾けるものと思われる。もしこれで、オリジナルの曲を弾きながらオリジナルの歌を歌っていようものなら、穂乃果の直感はいよいよ予知能力染みてると言えるだろう。もしかしたら歴史上の予知能力者達も、このように異常なほど直感が優れていたのかもしれない。

 

「そうと決まれば、善は急げだ!」

 

 うおおおお、と遂に暴走機関車が暴走を開始した。目標は音楽室。今頃、希は絵里の家で個人向けの練習メニューの考案、海未は自宅で鼻歌交じりに歌詞づくり、ついでにことりも自宅に帰って衣装のデッサン。暴走する機関車はもう止まらない。

 

 こうして、希の予期せぬところで行われようとしている穂乃果と真姫の二人の邂逅。果たして、この出会いが後々何か影響を及ぼすのか、それとも出会うだけで終わるのか、そもそも真姫は作曲が出来るのか、いや、ピアノをちゃんと弾けるのか。

 

 二人の運命や如何に。

 

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