「……!? な、何だここは……?」
「……どう言う事だ……パヴァリアの殆どの錬金術師達が集められている……?」
そこは薄暗い広間だった。
紋章の光が輝き、数多くの錬金術師達がテレポートされてくる。
送られてきた彼等は何が起ったのか分からないのか、目を白黒とさせながら状況を見定めようとしていた。
「……いや……コレは……」
その中の一人が、ここに送られてきた者達の共通点を見つけた。
「……『ノーブルレッド』や……成果を上げられていない者達ばかり……!?」
そう。それは転送されてきた面々はパヴァリア光明結社にて立場の弱い者達ばかり。
──所謂、穀潰し達ばかりであった。
「おい貴様、誰が役立たずだと?」
「はぁ? 碌な研究成果も無い雑魚が私に語りかけるな」
「喚くな下郎ッ! 気が散るわッ!」
「なんだと?」
「何だと貴様ッ」
そして。
彼等穀潰し達は出会った瞬間──まるで示し合わせたかのようにバチバチと火花を散らし始めた。
彼等は穀潰しだがプライドは高かった。
「……」
俄に騒がしくなる広場。
だが、ある一点だけは周囲が静まりかえっていた。
「……『ノーブルレッド』……!」
「……何故コイツらも呼ばれたんだ……?」
それは集められた者達の中でも紅一点。ノーブルレッドの三人衆。
唐突なテレポートに動揺しているのは錬金術師達と同じようで、彼女達は口々に言葉を溢す。
「……どうなっているのかしらね、これ?」
「……また、体の検査でありますか」
三人衆の中でも最年長のヴァネッサは警戒するように周囲を見渡し、最年少のエルザは不安そうにキャリーバッグを身に寄せている。
そんな三者三様の在り方が見えてくる『ノーブルレッド』だが、その中で一人だけ全く不安な表情など浮かべていない者が居た。
「──ま! 何かあってもウチが守ってやるんだぜ!」
『彼女』は不安そうにしているエルザを励ますように快活に語り、何処か不敵な笑みすら浮かべている。
そんな『彼女』の自信に溢れた声が響いた途端──彼女達の周りにのみ存在した沈黙は伝播するように広場を包んでいき、騒ぎ声は何かを確認するような小さな囁き声へと変化していく。
「!? 『アイツ』は……!」
「『アイツ』まで来ているのか……!」
彼等の視点はある一人に釘付けになっている。その視線の先──そこには、『ノーブルレッド』の中でも別格の雰囲気を放つ者が居た。
彼女は出来損ないの『ノーブルレッド』にして唯一の完成体。
長き時を生きた錬金術師達が知る死の権化。その生き写し。
そう、彼女は──!
「ミラアルク──『あの御方』を継ぐ女!」
「ミラアルク……最後の吸血鬼にして現代最強の吸血鬼、か……」
「『あの御方』の後継者が何故ここに!」
吸血鬼最強の血を受け継いだ最後の吸血鬼。
正真正銘の怪物、ミラアルクその人であるッ!
「……」
そして。
「……なんだか、ミラアルクちゃんの名前凄い広まってるわね」
「な、なんか凄いでありますよミラアルク!」
会話すらしたこと無い様な者にまで語られる仲間の姿を見て、ヴァネッサとエルザは呆れたような感嘆の声を漏らしていた。
「……ふっ」
その当のミラアルクは錬金術師達の戦くような声と仲間達の言葉を聞き、何処か得意げに笑った。
それは彼等彼女達の言葉が事実である事を認めるようなモノ。
「……ふふっ」
──彼女は今、自信に溢れていた。
『あの御方』から頂いた超ウルトラ吸血鬼パワーによって完全なる吸血鬼に目覚めたミラアルクは……かつて無いほど自信と自己肯定感に満ちあふれていた。
「ふふふ……ははは……!」
何せ裏世界にその名を轟きまくっていた『あの御方』に吸血鬼として認められ、力を貰ったのだから。
もうそれだけで『あの御方』を知る者からはビビられた。
面白いくらいビビられた。今まで馬鹿にしてきた奴等がへこへこし始めた。
──そんな待遇が一年近く続いてしまった。
だから彼女の心境も……仕方の無いことだろう。
「──あーっはは! 恐れよ、怖じよ! ウチが来たぜっ!! ノーブルレッドの皆を守るんだぜッ!!!」
ミラアルクは──それはもう調子に乗っていた。
「ヒィィィ!? ま、まさか俺達に復讐するためにここに集めたのかあの女!?」
「くぅ……」
「クソ『ノーブルレッド』め! 蹴散らしたるわ!」
まぁそれに乗っかる錬金術師達も悪かったのだが。
そんなこんなで俄に騒がしくなっていく薄暗い広間。
そこに最後の紋章が光り輝く。
「──ふん。皆揃ったワケだ」
「!? 『外務卿』プレラーティ!?」
彼女はパヴァリア光明結社最高幹部の一人。
パヴァリアの外との窓口でもある──『外務卿』プレラーティであった。
「……『外務卿』が我々を呼んだのか? 何故……」
「……どう言う事だプレラーティ! これは何の集まりだ!」
すわ『ノーブルレッド』が復讐のか? とも思っていた錬金術師達だったが……最高幹部の登場に考えを改めた。
騒いでいた錬金術師達は静まりかえり……『ノーブルレッド』達も同じように黙り込む。
そうして広場にはもう一度沈黙が訪れ、集められた錬金術師達はプレラーティの言葉を待つ。
そして。
「──まずは、お集まりいただきありがとうなワケだ。穀潰し共」
開口一番にプレラーティは集められた錬金術師達を罵倒した。
「貴様……! いきなり呼び出しておいてその言い草は何だッ!」
「ふんッ! あの程度のテレポートをどうにも出来ない奴等なんて、穀潰し以外の何者でも無いワケだ」
「なんだとぉ……」
「大体お前等他でやってける力も無いからパヴァリアに残ってるだけの穀潰しなワケだ。碌な仕事もしないただ飯ぐらいなんだから、急な呼び出しくらいで大騒ぎしないで欲しいワケだが?」
「……」
当然その言葉に反発する者も居たが、続くプレラーティの言葉に声を失う。
ぐうの音も出ない正論だったから。
「だがそんなお前達に朗報なワケだ。今回お前達を呼び出したのは……お前達穀潰しを強くするためなワケだ」
「……我々を強くする?」
そうして黙らせた穀潰し達を見て、プレラーティはようやく本題を語り出した。
「──世界の均衡が壊れた今、裏世界の者共が表に出てこようとしているワケだ」
「……」
「そして
「……どう言う事だ? 話が見えてこない。まさか私をその組織に入れるというつもりじゃ無いだろうな」
一人の錬金術師達がプレラーティに疑問を投げかけるも、彼女はあくまでもその言葉を無視して話を進めた。
「──現状最も勢いのある目下の敵勢力が……我々には存在するワケだ」
「……」
「それはラッド=モーエンを初めとして、下部組織『鬼天百列』序列一位・大禍、『聖遺超人』覇雄、『ミノタウロス』の沙羅に『カンビュセス』の久慈。挙げれば枚挙に暇がない程強力な戦士を数多く所有する組織。──通称『F』」
プレラーティは事もなさげに言った途端、静かだった広場はざわざわと騒ぎ始める。
「エフ……? 何なのかしら、それ」
「……と言うか、話の流れ的に私めらは戦わされる……のでありますか?」
「ふんッ! えふだかなんだか知らないが、ウチがガツンと『外務卿』に言ってやるぜ!」
集められた中でも比較的若い錬金術師達や『ノーブルレッド』はプレラーティの語った組織をよく知らないで居たが……逆に年をとっている錬金術師達はプレラーティの言葉が信じられないとでも言うように戦慄き始めた。
「ッ……『F』だと!? ば、馬鹿な……あんな化け物連中と事を構えるつもりか!?」
「そう言うワケだ」
「ば、馬鹿か……!? 自殺願望でもあるつもりか……!」
その『F』と言うのがどれだけ凄いのかは分からないが、物知りな錬金術師達のその狼狽ぶりから恐ろしいという事だけは伝わってくる。
「……」
流石に若い錬金術師達も『F』と言うの組織が恐ろしいという事だけは分かった。
しかし、そんな恐ろしい組織と相まみえるというのに、当の『外務卿』プレラーティだけはすました顔で話を続ける。
「──そう。以前までならいざ知らず、人材の流出も激しく半壊状態の今のパヴァリアは間違いなく負けるワケだ」
「だ、だったら……!」
「だから、その為にお前達を鍛えると言ったワケだ。そもそも不要な人材を抱えておく余力も無いワケだし」
「っ……本気か貴様……!」
到底理解できないと言わんばかりに吐き捨てる錬金術師。
しかし、プレラーティは残酷に言葉を放つ。
「本気も本気。そして本気だから当然……ここに居る者は皆強制参加なワケだ」
「……」
とうとう本当の意味で沈黙が訪れる。
何せ彼等は
「──はっ! 何が強制参加だ! ウチら『ノーブルレッド』はフケるぜッ!」
「ミ、ミラアルクちゃん!?」
「……ほう?」
彼等のミラアルクへの期待は大きくなっていった。
「……ウチだってアンタには感謝してるんだぜ。パヴァリア抜けたウチらを保護してくれた! でも……だからって何でも言う事聞くのはゴメンだぜッ!」
「……」
何せミラアルクは『最後の吸血鬼』にして『あの御方の後継者』……『現代最強の吸血鬼』。
本気ならプレラーティと真っ正面から戦える程の実力者である。
ともすれば舞い上がった子供とも取れるミラアルクだが……今は彼女のその自信が心強かった。
「……ああ、そう言えば一つ言い忘れていたワケだ。お前達に戦いを教える教師の事を」
「……はっ! ウチに戦い教えてくれるって? 不要なお世話だぜッ!」
「……ふぅーん……」
「……な、何だよ」
しかし。
それでもプレラーティは態度を崩すこと無く、怪しげに息を吐いてちょんちょんとミラアルクの後方を指差した。
「いや……折角だから会っていくと良いワケだ」
「……は? 会っていくって──」
ミラアルクが振り返ろうとした瞬間──彼女の肩に
『──よっ!』
「──」
『久しぶり! 元気してたか?』
──そこには、黒いスーツに黒い仮面を被った男が、居た。
『結局
「──」
「……ミラアルクちゃん? この人知り合い……?」
「ミ、ミラアルク……?」
その男を見た瞬間。
あれだけ自信に満ちあふれていたミラアルクが……完全に固まった。
そして。
『? おい、どうした?』
グッと、ヒイ……謎の男が肩に乗せた手に力を入れた瞬間。
「ひええ」
がくりとミラアルクは膝から崩れ落ちた。