GANTZ:S   作:かいな

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絶句

 昨日、二番について衝撃の事実が発覚したのも久しく、また日常というか、何時もの日常に戻っていった。

 

「立花、今日は大学どうする」

 

「! 行きたいです!」

 

「そうか、なら準備しろ」

 

「はい!」

 

 今日はヒイロさんが大学に行く日だそうだ。

 なんでも、そこそこ成績に関わる授業だそうだけど出席はゆるゆるらしい。

 本当にそんなんで成績つけられるの……? と疑問になるが、その恩恵にあずかっている身としては何も言わないでおこう。

 

 ぱぱっと下にスーツを着て、その上からヒイロさんに買ってもらった服を着る。

 

 後は暇つぶしのためにバッグに通信教育の本(灘神影流柔術)とかを入れて、最後にYガンとガンツソードを忍ばせる。

 

「……うん、大丈夫」

 

 出掛けるのに物騒な物を持ち歩く必要があると言うのは未だに慣れないけれど、ともかくこれで準備は完了! 

 

「ヒイロさん! 準備できました!」

 

「おう。なら向こうに転送する」

 

 お願いします! 

 そう答えると、ヒイロさんはこめかみの辺りを押さえ……私の頭上からジジジ……という電子音が聞こえてきた。

 

 ◇

 

「……」

 

「……」

 

「……ほへぇ……」

 

「……なんだよ立花」

 

 響は驚いたような表情で声を漏らす。今日は珍しく、ヒイロは授業中に眠ることはなかった。

 どころかノートパソコンを開いて懸命に何かを打ち込んでいる。見ようによっては一般的な大学生の授業風景の様に取れるだろう。

 

「……凄い……大学生みたい……」

 

「みたいも何も……大学生だが……」

 

 酷い言いようにちょっとムッと来たヒイロだったが、思えば授業中に寝てばかりだった自分の姿を思い出して口を噤む。

 しょうがないので、その行き場のない思いはノートパソコンにぶつけていく。

 

 その様を見て響はヒイロに尋ねた。

 

「何か調べてるんですか?」

 

「ああ、まぁ……」

 

「へぇ……タイピング凄い速いですね!」

 

「……」

 

 ピタリ、と……。ヒイロの指の動きが止まった。

 

「……? どうしたんですか、ヒイロさん」

 

「……」

 

 女の子に言われて嬉しくない誉め言葉ベスト10が有るのなら……その中に確実に食い込んでくるであろう誉め言葉。

 タイピングめっちゃ早いね、を食らったヒイロは一瞬思考が止まりかけるが、どうにか再起動を果たし……そのもやもやした思いをノートパソコンにぶつけていく。

 

「何を調べてるんですか?」

 

「……部屋の事だよ」

 

「……部屋?」

 

 引越しでもするのかな? なんて、響は最初ヒイロの言葉の意味に気づけなかったが、徐々にその意味を理解していく。

 

「あ、もしかして……」

 

「そうだ。それについて今……調べてる」

 

 最早授業を受けていない状態がデフォルトの様に……当然のように授業中に別の事をしていた。

 けれど響はその事に対して突っ込むことはなく、むしろ興味あり気にヒイロのノートパソコンに身を寄せていく。

 

「っ!? お、おい……!」

 

 その響の行為にドギマギするヒイロだったが、響は何を勘違いしたかヒイロに対してニヤニヤと笑いかける。

 

「いいじゃないですか~……あ! もしかして……本当はちょっとエッチな事でも調べてましたぁ~?」

 

「流石にそれはねぇだろ……お前何時もそんな事考えてんの……引くわ……」

 

「あ、はい……」

 

 しかしまさかの塩対応。割とガチ目の引き様。

 出鼻をくじかれたような……何だか損した気分な響は、シュンとして元の位置まで戻る。

 

「……」

 

「……」

 

「別に大したことは調べてねーよ」

 

「!」

 

 暫く互いに沈黙が続くが、ちょっと落ち込んでいる響を見たヒイロは、折れたようにノートパソコンを響の方に向けた。

 出会った当初からその兆候は見えていたが、もはや完全に響に絆されているヒイロであった。

 

「えっと……『ブラックボール情報交換板』……え? ……掲示板? なんで?」

 

 ヒイロに見せてもらった画面を見ていた響は、そこに表示されていたのが某ネット掲示板である事が分かった。

 今まで全く関わりがないモノだったが、流石に名前程度は知っているほどには有名な掲示板の名前である。

 

 そしてこれは……当然ではあるが、不特定多数の人間に見られる可能性のある場でもある。

 

「あの……これ……」

 

 響はすぐに、この掲示板はまずいのでは無いかと察する。

 思い出されるのは、初めて部屋に訪れた時にヒイロからの警告。部屋の内容を口外すると頭が破裂する、と言うものだ。

 

 この掲示板はそれに抵触するのでは? と思った響だったが、すぐにヒイロからそれに対する答えが示される。

 

「こいつはブラックボールを設置した奴らが運営している掲示板だ」

 

「……え?」

 

「まぁ、設置云々はただの推測でしかないが……幾つかのブラックボールを制御しているのは確かだ」

 

「……え?」

 

 何を言っているのか理解できない。

 ブラックボールを設置した存在が運営している……掲示板? 

 

「それって……どう言う……?」

 

「……」

 

 困惑している響を見て、ヒイロは辺りを見渡したかと思うと、少し声を落として話を続ける。

 

「コイツを見てみろ」

 

 そう言ってヒイロが指を差したのは、スレッドを立てた存在の名前だった。

 名前の欄には、『管理人』と書かれている。

 

「こいつはそのまんま管理人。こいつが初めてこのスレを立てたのが大体三十年前の話で……そこから細々と、当時の部屋の連中が話し合いをしていた」

 

「……で、でもっそんな事したら頭が……」

 

 何せガンツの情報は門外不出。決して漏らしてはいけない。響にとって初めて部屋に来た時のヒイロからの警告は、まだ記憶の中に残っている。

 

 だがヒイロは特に気にした様子もなく、なんでも無いようにとんでもない話を進めた。

 

「しない。どうやってかは知らないが、どうもこのスレに関して言えば……完全に情報が秘匿されているみたいでな。ここへの書き込みは絶対に特定されない」

 

「……」

 

「実際何回か……いや、もっとか。数えるのも億劫になる程にハッキングを受けたんだろうが、それでも書き込んだ人間の身元まで突破されたことは一度もない」

 

「……」

 

 凄いんだか凄くないんだか良く分からない話だ。

 

 そもそも何でハッキングされるリスクや話題になるリスクを負ってまでこんな大衆の目につく場所で掲示板を運営しているんだ? 

 意図がつかめない響は余計に混乱を深めたが、そんな事織り込み済みとばかりにヒイロは言葉を続ける。

 

「なんでもこの掲示板を一般に公開しているのは、部屋の住人が気軽に利用できるようにしているから……なんて管理人はほざいている」

 

「え?」

 

「つまりは狩った星人の情報共有、武器の使い方からミッションでの戦い方までを部屋を越えて共有し……来たばかりの新人が生き残れる可能性を増やすための、そんなスレッドだと言いたいらしい」

 

「それってつまり……」

 

「そう、こいつは新人の育成のために管理者が用意したスレッドって訳だ」

 

「……そんな、親切心みたいなものが……ガンツに?」

 

 基本的にガンツに良い思いを抱いていない響からすれば信じられない話だった。

 いきなり呼び出しておいて、説明もなく殺し合いをさせる癖に……そんな親切心からの行動を起こすのか? 

 

 そんな響の疑問はヒイロにも理解できるものだった。それについて補足するように、言葉を重ねる。

 

「まっ、どう考えても建前だろうな……なら、管理人の目的は別にあると考えるのが筋ってもんだ……」

 

 ヒイロはそう言ってカタカタと、響に褒められたタイピング力を駆使して別のモノを検索する。

 いきなり何を? という響の疑問に答えるように、ヒイロは見せてきたパソコンの画面を見せる。

 

「あの、これは……」

 

「昔、そこそこ話題になった事件だ。覚えてるか?」

 

 その画面には何かのニュース記事が表示されていた。

 題名は……。

 

「『黒玉事件』……」

 

 なんとも捻りのないその事件名は、確かに聞いた事が有るものだった。

 

 そう。

 それこそネット掲示板で噂になっていた話で……実際にニュースにもなった程だ。

 とは言えすぐにニュースでは取り扱われなくなったし、結局怖い都市伝説レベルの話でしかなかったはずのもの。

 

 その都市伝説の内容を思い出す様に、響はムムムと頭をひねる。

 

「えっ……と。確か、掲示板に書き込みをした人ばかりが失踪しているって……」

 

「そうだな。その話で間違いはない」

 

 確認するように尋ねると、ヒイロは頷きながら話を進める。

 

「ある時期から掲示板で変な書き込みをする奴が増えたんだよ。『ブラックボールスレには書き込むな。殺し合いをさせられる』っていう書き込みが」

 

「……」

 

 ……響は、そのヒイロの語り口にほんのりと嫌な予感がした。

 

「最初はただの荒らしだと思われてたんだがな。掲示板を越えて色んなスレッドで、しかも全員別人なのに同じ様な内容の書き込みを繰り返し始めた。『ブラックボールスレは危険だ』『ブラックボールに殺された』『化け物と殺し合いをさせられている』」

 

「……それっ、て」

 

「そうだ。こいつらは皆……ブラックボールに招集された奴らだ」

 

 招集。つまりは一度死んでガンツに呼ばれたという事になるが……。

 

「……」

 

「そしてこの別人達の奇妙な一致に目を付けた記者が、一人の書き込みを行った男に取材をしたんだが……取材の最中にそいつが死んじまったらしい」

 

「……え?」

 

「要はブラックボールの決まりを破ったんだろうな。そして──」

 

 ヒイロさんはそこで話を区切り、ノートパソコンのページを下にスクロールする。

 暫く下に動かすと、一人の男性の顔の写真が表示された。

 

「この人は……」

 

「その取材をした記者だ」

 

 その記者は、響にはどこにでも居そうな普通の人に見える。

 

 この人が一体どうしたと──。

 

「重要なのはこの記者の方も、取材の後謎の失踪を遂げてるって所だ」

 

「え?」

 

 疑問を抱いた響に応えるように、ヒイロは答えた。その答えに響は思わず汗がにじみ出る。

 取材中の死と、取材後の記者の失踪。

 二つの事件に何かの作為を感じざるを得なかった。

 

「こいつが書き残していた記事やこの記者の謎の失踪を同僚たちが纏めて発表したんだが、騒いだのは陰謀論を唱える様なオカルト好きの奴らばかりで、何故か世間ではそこまで話題にはならなかった」

 

「……」

 

「次第に注意喚起を行う書き込みは減っていって、完全に騒ぎは収束してしまった」

 

「……」

 

「で、後に残ったのは……『ブラックボールスレ』って言葉だけ」

 

「……」

 

「作為を感じざるを得ない流れだ」

 

 思わせぶりにそんな事を言うヒイロは、こう言葉を続けた。

 

「真相は簡単だ。このスレッドに書き込みを行ったやつはブラックボールに目を付けられる」

 

「……」

 

「目を付けられた奴は一週間後か三日後か。時期を見計らって──」

 

「……」

 

 ヒイロは努めて平静に語るが……その先の言葉を予測した響の心臓がドクンと跳ねる。

 

「殺される」

 

 ◇

 

 殺す……? 

 

 ガンツが? 

 

「俺がスレに居た頃、丁度書き込みをして部屋に招かれた奴が居てな。そいつは書き込みを行って三日後に部屋に呼び出されたらしい」

 

「ガ、ガンツが……」

 

「ああ、そいつは一回目のミッションは生き残れたみたいなんだが……それ以降そいつが書き込みをする事は無くなった」

 

「……」

 

「ミッションをクリアできなかったんだろうな」

 

 ヒイロさんはまるで何でもないように語るけれど、とても恐ろしいことだった。

 思い出されるのは星人との初めての戦い。能面みたいなやつと戦わせられて、殺される。

 

「一時期のブラックボールスレにはそんなのが沢山いた」

 

「……」

 

 そんな理不尽が有るのか? 

 

 ヒイロさんの話を聞いて最初に抱いたのはそんな思いだった。

 

 書き込みをしただけで? 何で、そんな事を……。

 

「人材不足だろうな一番は。あいつ等は使える人間を……戦力をかき集めている」

 

「人材不足……」

 

「そう。そういう意味では最初に言った新人の為ってのも間違いではない」

 

「……」

 

 人材不足。確かに、ヒイロさんは私が来る前は一人でミッションを行っていた位には人材が足りていない。

 けれど、掲示板の話の割には私が来るまでの間一度だって補充されないのはおかしな話だ。

 

 というかガンツの動きが何もかもおかしい。何か作為というか、違和感を覚える行動で……。

 ちぐはぐで釣り合いが取れていないような──。

 

「ま、お前の疑問は最もだ」

 

「え?」

 

 と、ヒイロさんは私の考えを予測していたとばかりに話しかけてきた。

 

「管理者の行動は正直訳が分からん……俺は便利だったから使っていたが、不気味な所もある」

 

「……」

 

「もしかしたら、単にそうした方が面白いからとか言う適当な理由かもしれない」

 

 面白い……? 人の命を弄ぶのが……? 

 命への愚弄だ。そんな事をする人たちがガンツを操っているの……? 

 

「……」

 

 表情から感情が抜け落ちていくのが分かる。しかし腹の底からは大きな、大きな怒りが湧いてくる。

 

「……ま、そしてその他諸々の理由で最近は使ってなかったんだが……やっぱ大した情報は無かッた」

 

 そんな私の感情を悟ったかのように、ヒイロさんはノートパソコンを閉じて大きくため息を吐いた。

 よっぽど何も得られなかったのか、完全にやる気を無くしてしまっている様に見せている。

 

「……ヒイロさん」

 

 ……私は気になった。

 今ヒイロさんがパソコンを止めたのは、私の怒りを察して、もう見せない為にそういう演技をしてくれているのだろう。

 

 ……けど、見てみたかった。

 

 ヒイロさんは、誰かが全国にガンツを置いたと……そう教えてくれた。

 だからきっと、日本中に部屋に呼び出された人たちが居るのだろう。

 

「……掲示板だとどう言う事を話してるんですか?」

 

 知りたかった。

 その人たちは私達と同じ境遇の人。

 きっと私とヒイロさんの仲間になってくれるし、私も辛い境遇な人たちの支えになりたい。

 

「……ここに常駐している暇人は、皆周回クリアの猛者どもだ。皆癖が強い」

 

 ヒイロさんは直接的に私の質問に答えず……けれどもう一度、私の意志に応えてくれるかのように、ノートパソコンの画面を私に見せてくれた。

 

「……それ以外何も、答えるつもりは無いからな」

 

「え?」

 

「……」

 

 ヒイロさんはそういって、完全に私にノートパソコンを受け渡した。

 自分で見ろ、という事なんだろう。何かヒイロさんの言葉に違和感を覚えつつも……曰くつきの掲示板に目を通す。

 

 そして──。

 

「……ふむふむ──え?」

 

 ……そして、そこに書かれていた物に……思わず絶句した。

 

「……」

 

「……」

 

 暫く沈黙が降り、教授の話がBGMの様に聞こえてくる。

 そして内容を理解してく度、掲示板の名前を確認したり書いてある内容を何度も何度も確認して、書き込みが正しいことを理解した。

 

 ……何とか声を振り絞って、ヒイロさんに問いただす。

 

「あの、ヒイロさん……これ……」

 

「……」

 

 ──書き込んだ人がガンツに呼ばれる曰く付きの掲示板。

 

 そこの周回クリアの住人たちは皆何故か……。

 

「何で……何で、皆──」

 

「……」

 

「皆、プリキュアの話しかしていないんですか……?」

 

 日曜朝の女児アニメの話しかしていなかった。

 




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