GANTZ:S   作:かいな

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友達より始めよ

「……」

 

「……」

 

 両者の間に気まずい空気が流れる。

 

「……聞くなって、言わなかったか?」

 

「いや、でも……」

 

「……」

 

 どう考えてもおかしい。

 この掲示板はブラックボールの情報交換のためのモノだ。

 

 なのになぜ。

 どうして。

 どういった理由で。

 

「おかしいじゃないですか、プリキュアの話しかしてないんですよ!?」

 

「……」

 

「何で……?」

 

 話に聞いてた恐ろしい掲示板とは思えない書き込みばかりで、かつその内容も掲示板の目的とは全く関係のないモノばかり。

 溢れる疑問を抑えられずにいる響は……最大の疑問をヒイロにぶつけた。

 

「しかも……このIDのH-EroMomって人……ヒイロさんじゃないですか?」

 

「……」

 

「普通に会話に参加してましたよね?」

 

「……」

 

「『HUGっと』って何ですか……?」

 

 ヒイロのバレバレなIDと身覚えのある語り口調から、書き込んだのが誰か簡単に特定できてしまった。

 響には、ヒイロがこんな実のない便所の落書きのような雑談に参加していたことが信じられず、抱いた疑問をぐさぐさと投げかけていく。

 

「もしかして授業中にずっとこれを……?」

 

「……」

 

「ガンツの情報収集じゃなくてプリキュアの話を……?」

 

「……」

 

「それに一体どんな意味が有るんですか……?」

 

 ……響の疑問は、ぐさりと……ヒイロの心に深く深く突き刺さった。

 響があまりにも純粋な表情で聞いて来たのも余計にそのダメージを加速させている。

 

 しかし響のその疑問は、ある種ヒイロに抱いていた憧れからくるギャップの様なものだった。

 あの日出会った時から、響はずっとヒイロに助けられ、また救われてきた。

 

 ある時はノイズに襲われて瀕死の瞬間を。ある時は帰るための家を貰って。またある時は、心が荒んでいた時に気にかけてくれた。

 ──そして、自身が死にたいと思うほどの絶望の中でも……最終的には自分を助けてくれたことが、彼への思いや理想をより強めていく。

 

 自分を救い、また導いてくれたヒイロを見てきた響は、彼の事をたまにドジをしたりする事はあっても完全に無意味な事はしないと思い込んでいた。

 

 彼の全てが完璧とは思わないまでも……こんな生産性のない無意味な事をするとは思えなかった。

 

 そんな響だからこそ抱いた疑問。

 しかし怒涛の勢いで投げかけられた言葉はヒイロの心を的確にえぐっていく。

 

「……」

 

 言い訳をする様だが、意味ならあった。

 

 このスレッドが立ち上げられたのはおよそ三十年前。

 立ち上げ当初からいた者は……今はスレから去ったが……それでも尚十数年スレッドに通う者もいた。

 

 彼等は一見ふざけているように見えるが(まあその実ふざけているが)しかし多くの戦場を生き抜いてきた猛者たちで生粋の実力者。

 

 ヒイロが彼らと議論を交わした夜は千日を超えているだろう。

 

 時に有益な、時に的外れな、そして時に……先達としてヒイロを応援する言葉をかけてくれた。

 

 そんな住人たちの姿は正しく、響の語った助け合いの姿。

 

 ヒイロと各地の部屋の住人は、そうやって互いに言葉を掛け合い、助け合い……。

 何時の日か気づいた。

 

 もう特に語る事ねぇ、と。

 

 そう、語るべき事が無くなってしまった。

 

 武器についての使い方はその殆どが解明済みであり、調べる箇所がとうとう武器の内部に至り、分解して破壊した者までいた。

 

 ブラックボールに対しては色んなことをした。

 中身を弄繰り回したり、中の人間をぶん殴ってみたり、話しかけてみたり、色々な単語を問いかけてみたり。

 けれどそれらの常識的な検証では何も起こらず、発想を変えて常識に囚われない様々方法を試し、自由な発想で検証を行ったりもした。

 熱湯をぶっ掛けたりブリで叩いたり謎の(?)呪文を投げかけたり罵倒したり中身の人間の呼吸をしている部分に胡椒を振りかけたり。

 

 掲示板で管理人に怒られた事以外は大した動きは見れなかった。

 

 そうして暇を持て余した彼らは、自身が戦っている相手を知ろうとした。

 ……のだが、これに関しては答えを知る者が居たのであまり調べる必要がなかった。

 

 というのも、ある地方の部屋の一つが寄生型の星人に占拠されたのだ。

 

 彼らの名前は吸血鬼。世界の各地に生息する星人だ。

 彼等は当初、ハンター……黒い部屋の住人の巣を滅ぼす! と意気揚々と部屋に乗り込んだのだが、何故かブラックボールに住人判定を受けてしまい、部屋に捕らわれてしまった。

 しかも総大将までもが一緒に乗り込んだので逃げるに逃げれず、しょうがないから生き残るために情報収集するためにブラックボール掲示板に現れ、そこで情報を交換した。

 

 結果住人が得た情報は──嘘か誠か星人の正体。

 

 彼等は太古の昔に地上に降り立った──()()()()()()()()()であるという。

 

 当然何を言っているのか分からなかった住人たちは……最初はそんな事は嘘であると皆思った。

 第一その情報を書き込んでいるのは普通に人間で、ただの荒らしじゃないか?

 そんな疑念が沸き上がる。そもそもがネット掲示板。自身で試す、という段階を踏まなければ信用できる情報など無いに等しい。

 

 第一その話が仮に本当だとして、それが分かったから何だってんだ。

 結局戦うしかねーじゃん。

 

 皆、そんな風に思った。そして気付いてしまったのだ。

 

 正体が判明しようと結局は殺すしかない相手の事を知ってどーすんだ、と。

 

 そこからだろう、何かの歯車が狂い始めたのは。

 暇を持て余した彼らは語ることもなく、しかし新情報が出る可能性もあるためにスレッドに張り付き続ける。

 

 そんな時──誰かが、プリキュア尊いと言った。

 続くように或る者はセラムンこそ至高と言った。

 そしてまた或る者はジョンウィックが熱いと言った。

 また或る者は──仕事で昇進したと言った。

 

 こうしてブラックボール掲示板は良く分からない方向に舵が切られていく。

 

 チェンソーマンは最高。お前もチェンソーマン最高と言いなさい。

 ファイアパンチだろ。こいつのケツにファイアパンチだ。

 分からねぇ。それは面白いのか。

 最高だよ。読めばたちまちタツキの事しか考えられなくなる。

 

 仕事鬱だ……死のう。

 おい死ぬな!

 あ、まて! 死んだからここにいるんだった!(笑)。

 いや笑いごとかーい(笑)。

 

 昨日公開の映画見た?

 タイトル言えやカス。

 あれ凄い面白かった~。

 だからタイトル言えやカス!

 主人公がさ、死ぬんだよ! 

 ネタばれすんな糞ボケカス。お前絶対許さないからな。

 

 この様な漫画の感想、仕事の愚痴、映画のネタバレ等から……どんどんスレの話題は切り替わっていく。

 漫画、アニメ、映画、ドラマ、面白いバラエティ番組の話から仕事の愚痴、政治がどうとか官僚がどうとか。

 

 今までのどこかアングラ臭があった空気が薄れていき──そんな空気のまま新参が参入してきた。

 そして残念なことに彼らもまた癖が強かった。

 

 【朗報】ワオ、クリア回数が五回に迫る【六回クリア待ったなし】

 そうか良かったな。で、それが何の役に立つ?

 それは言わない約束や涙。

 つか頭と胴体だけで何しろって言うんや涙。

 唯一武器として使える腕を六回目に配置する糞采配。

 

 【朗報】プリパラの視聴率、上がる【更なる高みへ】

 プリパラの未来は明るい……あまりにも。

 よかったな。

 

 ワイセフレ出来たで~。

 なにっ。

 なんだぁっ。

 

 灘神影流流行る。

 灘神影流ってなんだよ。

 

 通信教育買っちゃったよ。

 マジで買う奴おるんか……。

 普通にうれしいんだ。

 内容は割と良かったがその謎の口調を即刻止めろ。

 日本語のルールは無視する。ただ、購入者のレビューを守らない奴は確実に殺される。

 それを止めろっつってんの。

 

 最早止められないスレの流れ。

 とは言え一応新情報が出れば皆異常な速度で食いつき情報を食い荒らしていくのだが、確実にスレの空気は変わってしまった。

 

 故にスレを去る古参の住人達もいた。

 

「……」

 

 言い訳をする様だが……この様な流れにも意味は、あった。

 

 新規……つまり一般人からの書き込みは確実に抑制されていった。

 何せスレの内容としては謎の方言が飛び交い荒らしが無秩序に暴れている糞みたいなスレでしかないのだから。

 

「……」

 

 ヒイロは響に何も言い返せなかった。

 一応新規の情報がないか探ってはいたが、結局出てきたのは……まぁゴミみたいな内容だったのだから。

 

 

「……」

 

「……」

 

 ヒイロさん……。

 あのままヒイロさんは、どこか呆然とした表情で授業を受けていた。

 

 どう見ても私の質問の後から様子が変だ。

 

 ……そんなに変な事聞いたかな。

 

「……」

 

 家に帰ってもどこか上の空。

 ボーっと、普段は見ないバラエティ番組を見ていた。

 

 ……そ、そんなに変な事聞いたかな!?

 流石に気になって声を掛ける。

 

「あの、ヒイロさん?」

 

「……なんだ立花。もう掲示板は見ないから勘弁してくれ……」

 

「え? あ、はい……」

 

 掲示板……やっぱり、それなのかな?

 

「あの……何か、変な事聞いちゃいましたか?」

 

「……」

 

 あの掲示板の事を聞いてから余計にヒイロさんの態度がおかしい気がする。

 普通に気になったから聞いてみただけなんだけどな……。

 

 と、そんな風に思っていたら……ヒイロさんは意外な事を言い出した。

 

「……違う。お前、どうせ俺に幻滅しただろ?」

 

「……え?」

 

 ……幻滅? 私がヒイロさんを……?

 え、どのタイミングで? 疑問符が頭の上を飛び交っている私を見て、どこか自嘲するように語りだした。

 

「俺は……人付き合いをしなさすぎた……何故こんな簡単な事を気付かなかった……普通に考えて……おかしーだろ……女の子にあんな糞みたいな掲示板見せるとか……」

 

 ヒイロさんは、まるで罪の告白でもしているかのように……語った。

 そんなヒイロさんの姿は初めて見るもので、特に……。

 

「……え?」

 

 ──その、ヒイロさんの言葉は……私に多大なる衝撃をもたらした。

 

「……お、女の子……?」

 

「……?」

 

「そ、その女の子って、私の事ですか……?」

 

「いや……他に誰が居んの……?」

 

「……お、女の子……」 

 

 え?

 ヒイロさん、私の事女の子ってちゃんと思ってたの!?

 

 まずそれが今日一番の衝撃だった。掲示板とかガンツを置いた誰それとか全て吹き飛んだ。

 

 だって、何時も全然そんな素振りを見せてはこなかった!

 ランニング中とか凄い勢いでお尻を叩いてくるんだよ!?

 しかも至極真剣な表情で! ギャグとかでもなく!

 性別とかそういうのを超越した弟子か何かだと思われてる……って少し絶望してたのに!

 

 お、女の子……?

 ヒイロさんにとって私は女の子……女の子……なんだ。

 

「……」

 

 そういえばヒイロさん、私の告白の返事……していない。

 ……もしかして私の記憶が無い時にしていたのかもしれないけど、それにしたって全くの無反応というか……。

 

 あ、でもOKしていたから幻滅って言葉が?

 いやでも……なんか違う気が……うーん……。

 

「……」

 

 今まであやふやにしていたけど、この際だから聞いてみよう。

 

「あの、ヒイロさん」

 

「……なんだ立花」

 

「私、ヒイロさんに幻滅なんてしていません!」

 

「……」

 

「だから、答えてくれませんか? 私の告白の……答え」

 

 ──一瞬、ヒイロさんは完全に思考を停止していたように思える。

 口を半開きにしていて、それは何か……忘れていたものを不意に突き付けられた時の表情に似ている。

 

「……」

 

「……」

 

 もしかして、忘れてたなコイツ?

 

「ヒイロさん……?」

 

「……」

 

「忘れてたんですか……?」

 

「……」

 

「私の告白を……?」

 

「……」

 

 じゃあさっきの幻滅云々は何にかかってるんだ、という疑問がふと湧いたが、今はそれよりも重要な事が有る!

 

「お、乙女の告白を~! 忘れるなんて酷いじゃないですか!?」

 

「……すまん」

 

 なんて詰め寄ってみると、ヒイロさんは私から距離を置くように顔を背けた。

 更に、どこか申し訳ないと言わんばかりの表情を浮かべている。

 ……そんな顔に、どこか嫌な予感を覚える。

 

「っ、い、いや……聞き返さなかった私も私ですけど──」

 

「付き合うのは無理だ」

 

「──って、え?」

 

 バッサリと、いっそ清々しいほど……フラれてしまった。

 

 

「俺……誰かとそーゆーの……ないから……なんッつーか」

 

 俺は、こいつを知らない。

 

 思えば……俺はこの少女の、立花響の何を知っている?

 

 彼女はよく笑う。

 俺みたいに根暗な奴相手でも調子を崩さずに、明るく振舞ってくれる。

 

 彼女は可憐だ。

 風呂上りは特に危険だ。何時も意識しないよう、無意識に気を付けていた。

 

 彼女は強い。

 俺は誰かに何かを教えたことなんて数えるほどしかない。そんな俺の無茶な訓練にも必ず付いてきて、結果を出す。一か月でミッションを一回クリアするほどの実力を身に着けている。

 

 彼女の作る料理は旨い。

 彼女は俺に合わせて何時も料理を作ってくれて、それは毎日の楽しみとなりつつある。

 ……特にハンバーグは格別で……俺の好物だ。

 

 ──そして何より、彼女は……俺をヒーローと呼ぶ。

 常識ってものを理解していない俺を見ても幻滅しないで、変わらずにいてくれる。

 

「……」

 

 俺は、この少女の事を……立花響の事をこれだけ知っている。

 

 しかしたったのこれだけしか知っていない。

 

 俺が知っている彼女は全て、ガンツに生み出されてから……この部屋に呼び出されてからの事だけだ。

 

 彼女の過去を、俺は何も知らない。

 

「……」

 

 それでいいのか?

 

 俺は……知りたい。立花のことを、今まで何があったのか、どんな事をしていたのか。

 立花の事をもっと……知ってから──。

 

「……立花」

 

「……は、い……」

 

「俺は、誰かと付き合ったりするのは……その、なんつーか……」

 

「……?」

 

「あの、あれだ」

 

 言いたいことがまとまらず、しどろもどろになる。

 言いたいことは簡単な事だ。

 

 簡単な……。

 

「……えっと、ヒイロさん?」

 

 どこか落ち込んだ表情を浮かべていた立花は、徐々にその表情に疑問を浮かべていく。

 そんな顔を見て、意を決して言葉を紡ぐ。

 

「友達から」

 

「……え?」

 

「あっと……友達からじゃ、ダメか?」

 

 数瞬、場に沈黙が生まれる。

 心拍数が止まらねぇ。何でただ返事するだけで……くそッ。

 ミッションよりもよっぽど緊張する……ッ。

 

「……」

 

「……えっ……と、それって……その、つまり……」

 

「……」

 

 立花は何処かしどろもどろながらに、言葉を重ねる。

 

「ま、まだ可能性はあると……?」

 

「……まぁ」

 

「……」

 

「……友達から、な……」

 

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