ガンツに呼び出された二人は、まず黒い球体に詰め寄った。
「ガンツ! おいガンツ! 答えろ!」
「ガンツ!」
ヒイロ達はガンツに大声で声をかけてみたが、それも芳しくなく。
「……」
ヒイロは次に、ガンツの表面に触れて目を閉じる。
暫くの沈黙の後、響は不安そうな表情でヒイロに尋ねた。
「……何で……まだ、昼間ですよ?」
「……」
「ミッションって、普通は──」
「どう見ても昼にしか見えないが、冗談でも何でもなさそうだな……」
そう言ってヒイロはガンツの表面に触れていたが、諦めたように手を離す。
「どーやらコイツは、本気でこれからミッションをやれと言っているみたいだ」
「えっ」
「俺の操作を受け付けない……ミッション直前の時と同じ状態だ」
「……」
とは言え武器を出したりは出来るので、ミッションを受ける事自体は問題では無いのだが……。
「あの、ヒイロさん……」
「……」
不安気な表情を浮かべてヒイロに声をかける響だったが……ヒイロもまた余裕は……いや、七年間戦い続けたヒイロだからこそ、余裕など無かった。
「……」
胸中に渦巻くのは、ただひたすらに不吉な予感。
戦い続けた七年の中でも前代未聞の昼間の召集。
自分だけならまだしも、まだ発展途上の響が居る状況でこんな例外のミッションを相手にさせられるなど……。
「……ガンツ。今日の標的は……」
しかしそれを考えた所で、何かが変わるというわけでも無い。
未だガンツに囚われているヒイロには、ミッションを蹴ることなど出来やしないのだから。
故に、ヒイロの心に浮かんだ想いは一つ。
どんな例外が起ころうと、どんな相手と戦おうと。
戦って生き残る。
響と共に。
『あーたーらしーいあーさがきた』
響を──。
『この方をたおしにいってくだちぃ』
くろのす
特徴
・かみ つおい じかんたんとう
好きなもの
・かぞく
守──。
「──」
「……くろのす?」
それを知らない響は、ただぽつりと……その神の名を口にした。
◇
思い出したのは、あの日のこと。
『ガンツ、今日は何だ』
『この方をたおしにいってくだちぃ』
ももたろう
特徴
・かみのこ つおい
好きなもの
・たたかい
ガンツに種族名ではなく個人名で指名されたそいつは、今までの強力な星人など比では無い強さを誇り……無敵としか思えない強靱さで俺を圧倒した。
「……」
『くろのす』
こいつもまた、その類の──。
「ッ」
体が硬直し、トラウマが蘇る。
「ヒ、ヒイロさん!?」
急に息を荒げた俺を見てか、響が心配したように声をかけてくる。
──その声で、体を包んでいた震えが治まっていく。
そうだ。今、俺は何をすべきだ。
「……ヒイロさん?」
響だ。
響を守る。それが俺のするべき事で……俺がしたい事。
「……」
響の心配したような表情に目を向ける。
──ただ、それだけで胸の内から力が沸いてくる。
「何でもねぇ。それよりもすぐに準備だ」
「! はい!」
「ガンツ!」
俺の呼びかけに答えるようにガンツが開く。
「ガンツ! 武器をありったけだ! 全て用意しろ!」
「えっ!?」
「……響!」
驚いたような表情を浮かべる響の肩をつかみ、足早に語る。
「いいか? この星人は恐らく……今まで戦った相手の中でも一番に強い」
「……!」
「向こうに着いたらすぐに俺と合流だ。絶対に一人で行動するな。分かったな?」
「っ、はい!」
俺の表情から、事態が緊迫していることを察したのか、響は真剣な表情で頷く。
「よし……」
響の肩から手を離し、互いにミッションの準備をする。
ソード、Yガン、Zガン、ありったけの百点武器たち。
──全てを用意してから、ガンツに振り向く。
「ガンツ! 俺から転送しろ!」
頭上から電子音が聞こえ……何処かへと転送されていく。
「響、向こうに着いたら──」
「合流、ですよね!」
そして最後に、響と会話をして……何処かに転送された。
◇
「ここは……」
転送された先は……何かの通路のような場所だった。
基本的に東京周辺がミッションの範囲となっているが……。
「……」
周囲を見渡しても石畳と見たことも無い素材で作られた壁ばかり。
「……なんかの……遺跡か?」
ヒイロは持ってきていたハードスーツを放り投げ、こめかみの辺りを押さえる。
「……」
それは、十六回クリアで手に入れたガンツの通信機能の使用。
これにより日常生活やミッション中でもガンツの機能を一部使用することが可能となる。
……が。
「……ガンツ。おい、ガンツ! 響をどこに転送した! おい!」
いくらガンツを操作しようとしても全く何も受け付けない。
……いや、受け付けないというよりも、これは……。
「……んだ、これ…………そもそもガンツと……」
ガンツとの間で通信が行えていない。
そして……ガンツのとの通信が行えないと言うことは、武器の補給もままならないということでもある。
「……」
異常事態故、現着してすぐ戦えるよう持ってこれる武器については全て持ってきたが……まさかそれが本当に有効になってしまうとは思いもしなかった。
「くそっ……じゃあ転送も……使えねぇ……」
何もかもが今までと違う。
更に言えば、恐らく自身が相対した敵の中でもトップクラスの相手と、今回は戦わなければならない。
状況は最悪。
しかしそんな状況でもヒイロの思考は回転を続ける。
(既に響はこっちに転送されているはずだ。『くろのす』とかいう化け物が居るのが確定的である以上さっさとあいつと合流を──)
「……」
思考を中断し、Zガンを構える。
何かが居る。ヒイロは即座にコントローラーを取り出し、マップを確認する。
「……嫌になってきた……」
先ほどまで何も表示されていなかったはずのそこには、大量の赤い点がポツポツと生み出されていった。
「……無事で居てくれよ……響!」
現れたのはY字型のドローン。
そいつに向けて……ヒイロはZガンをぶっ放した。
「響ーッ!」
ドローンを瞬殺したヒイロは、響と合流すべく駆けだした。
彼奴らが雑魚で助かった。そんな風に思いながらも、しかし前進しない状況にやきもきとする。
「クソッ! マップが広すぎるッつーのッ!」
ヒイロを苦しめたのは何よりそのマップの広大さである。
彼の記憶にもここまで広大なマップは無かった。
しかも巨大な上に迷路のように入り組んでいる上、定期的にあの雑魚ドローンが沸いてくる。
思うように進めねぇ! つーか邪魔! ハードスーツ!
ハードスーツは機動力が損なわれるため着ないまま引きずっていたが、それにしたってデカすぎて邪魔であった。
しかし武器の補給が出来ない現状、コイツを捨て置くわけにもいかず。文句を言いつつも地面を削りながら持ち運んでいた。
「響ーッ! どこだーッ!」
迷路のような建物を駆ける。
しかし響は見つからない。
遺跡のような建物を駆ける。
駆けて……走り続け……ドローンを蹴散らしながら走り続け──。
「……ここは……」
とうとう、開けた場所に出た。
そこは今までの通路とは違う何かの部屋のような場所で、明りが灯っていた。
今までの古代遺跡然としていた風貌から一転変わり、近未来的な機械がそこかしこに散らばっている。
更に、その近未来感をより強調させているのが眼前の巨大な機械の塊。
コードに繋がれたそれは静かに稼働している。
「……」
そして。
眼前に置かれている何かの機械のよりも……特に目を引いたのは……天井。
そこには──。
「……おい……嘘だろ……」
星空が広がっていた。今時こんなに綺麗な星空なんてそうそう見られないって程に綺麗な青空。
未だ昼間だというのに何故こんなに綺麗な星空が見える? だとか、東京でこんな空はあり得ない、だとか。
そういった細々とした疑問が浮かんでは……一つの事実の前に吹き飛ばされた。
……その空に、本来であれば見ることも叶わないモノが浮かんでいたのだ。
──その惑星は青い星。
太陽の光を反射したその青は綺麗に輝き……宇宙飛行士がこぞって美しいというのも頷ける程……正しくこの世で最も綺麗なモノ。
「……何……だ…………ここ……」
その惑星の名は──
「何処なんだよ……ここは……!」
ヒイロたちが生まれた母なる大地の姿であった。