「……」
天井を見上げ、その光景に息を呑む。
「……チッ」
ヒイロは苦し紛れに舌打ちをして、邪気を払うように頭をふるって考え始める。
(……まあ、ここが何処かなんて……どーでもいい。今は──)
視線を正面に向け、そこに鎮座する謎の機械を見つめる。
「……」
今までの通路にあったものとはまるで違う雰囲気を放っており……言いようのない威圧感を感じる。
「……コイツ……コイツが……『くろのす』……?」
ガンツに表示された画像には、人の……女性のようなモノが表示されていたはずだが。
腕を振るってコントローラーを取り出し、目の前の存在が星人であるかどうかの確認を行う。
「……」
だが、マップが言うにはコイツも星人らしい。
あのドローンの親戚か何かか?
全く動きが無いため警戒しつつも……対応を考える。
デカすぎてYガンじゃとても捕まえられそうに無い。
かといってXガンじゃ火力不足……。
そこまで考えて……ヒイロは巨大な機械の塊に向けてZガンを構える。
「……」
そしてカンッ、と引き金を引いた。
Zガンの押し潰しは機械の頭上に向けて放たれ……ヒイロの望み通りに押し潰した。
「……」
一瞬の沈黙。
けれどヒイロは油断なくZガンを構え、更に二度引き金を引く。
ドドン、ドンッという断続的に続く破壊音はしっかりと謎の機械をスクラップへと変えていく。
しかし。
「……通路?」
何かの機械を押しつぶした先に、また更に何かの通路のようなモノがある。
「……」
警戒しながらも進むと……その先は何かの牢屋のような場所。
……そこに、先ほどの機械より更に更に巨大なポッドが鎮座していた。
「……ラスボス……か」
そのポッドの中は何かの液体のようなモノで満たされており、妖しく光を放っている。
その中部。
そこには──正しくガンツが標的とした女の裸体が浮かんでいた。
『──』
『くろのす』。
その目覚めは、まるでハンターの到来を予期していたかのようで。
けれどどこか今目覚めたばかりと言わんばかりに、目をパチパチと瞬かせ──。
『……kokoha……』
「……」
彼女は液体の中で、ぼんやりとした表情を浮かべたまま自身の姿を確認し、ヒイロに視線を移したかと思うと──。
『omae,ninngennka?』
「……」
『naze……kokohaoamenoyouna……a……』
何か合点がいったのか捲し立てるように言葉を発し始めた。
『souka! omaeorewotasukenikitanoka! narahayakukokokaradasitekure!』
「……」
『orehaminnnawo……kazokuwotasuketainnda!』
ポッドの中に詰められているというのに、その言葉は妙に綺麗に響く。
けれどヒイロは彼女の言葉の意味を理解することは出来なかった。
その言語は全く聞いたことが無いような……いや、聞いたそばから記憶から抜け落ちていくような……そんな奇妙な言葉だった。
「……何言ってんのかわかんねーが……」
『……?』
「死んでくれ」
しかしヒイロは聞く耳持たずと言わんばかりにZガンをもう一度構え、そして躊躇無くトリガーを引く。
ドドンッ、という爆発音は巨大ポッドを捉え磨りつぶ──。
「……」
『tennme-……nanisiyagaru!』
す事は無く、彼女の頭の上の部分まで破壊した所で衝撃が停止した。
結局Zガンの押し潰しの衝撃が破壊したのは……ポッドの上部のみであった。
標的である『くろのす』は一切の無傷。
「……」
あまりに異質な光景と、当たり前のようにZガンを無効化してくる『くろのす』。
しかしそんな彼女を前にしても、ヒイロはどこかすました表情を浮かべて彼女を見つめていた。
そんなヒイロとは対照的に、『くろのす』は少し表情をムッとさせながらも、開けた頭上を見てはふわりと飛んで……そのままポッドの中から抜け出した。
ふわりと地面に降り立った彼女は、いまだ不機嫌そうな表情でこちらを見ている。
ヒイロは『くろのす』の姿を一瞥したかと思うと、もう一度Zガンを構え……連続して彼女を打つ。
しかし。
「……なるほど」
『sakkikarasa……nanisore』
全ての衝撃が、『くろのす』に届く瞬間──
『uzaikarakowasuzo』
それだけで無く、衝撃が天へと戻っていったかと思うと──。
「ッ!」
ヒイロが構えていたZガンが破壊された。
流石に武器が破壊されると思わなかったのか、ヒイロは『くろのす』を前にして初めて驚愕の感情をあらわにした。
『omaefukeinayatudana.maaoreyasasi-karayurusukedo』
「……そうか。そう言う事ね……」
ぺらぺらと謎言語を語り続ける『くろのす』を無視して、ヒイロは眼前の彼女について……考察を進めていた。
そして、
彼女の能力の一端……それを把握しつつあった。
◇
俺が百点の奴と戦ったのは、今回を入れて……三回。
一回目は『ももたろう』という、正真正銘の無敵。
……まぁ、あのときは武装が乏しかったから……そうだな、八回目か十五回目の武器でもあれば突破できたのかもしれないが……まぁ、それはいい。
ともかく奴に攻撃は全く効かない。どころか『ももたろう』の攻撃は全てスーツを貫通してくる。飛び道具が無いだけましって奴だった。
初めて会ったときは正に……勝ち目がある相手だとは思いもしなかった。
ただ『ももたろう』にも……
彼奴は……初見の攻撃は必ず一度は食らう。余裕から来るモノかただの馬鹿なのかは分からないが、どんなカスみたいなモノだろうとZガンの銃撃だろうと……一度は、必ずその身に攻撃を受ける。
だから、Yガンという捕獲用の銃にはめっぽう弱かった。何せ一度でも捕まったらもう終わりだからな。
そして二回目。
彼奴は何だっけな。確か『セブンソード剣・ゴッド神』だったか。
訳が分からない奴だったが……彼奴も攻撃を全て受け付けない上に、町を覆うほどの規模の攻撃をしてくるっていうふざけた奴だった。
だがまぁ、そいつに関しても明確な弱点があった。剣による攻撃は通じるのだ。
ソードで削っていったら普通に死んだのはビビった。
──と、まあこのように。
百点の奴というのは大概が明確な弱点……もしくは弱点では無く攻略法というのが存在する。
そして。
──
例えば『セブンソード剣・ゴッド神』と『ももたろう』が戦ったら、当たり前のように『ももたろう』が勝つだろう。
その程度には、百点の奴にも格差が存在する。
弱点を持つモノと、決まった攻略法でしか倒せないモノの差というのが。
『kedoma,oriwokowasitekuretearigatoutohaitteokou!』
目の前に居る真っ裸の女に目を向ける。
『くろのす』。
コイツに向けてZガンを放ったときの挙動は明らかに異常だった。
恐らく、真っ当には倒すことが出来ないだろう。
どっちだ。
今まで戦ってきた百点の奴の中でコイツは……。
今もドヤ顔で何かを口走っているコイツは……。
「……っ!」
コイツは、恐らく後者……!
Xガンを乱射し、『くろのす』の周囲を爆ぜさせて目くらましをする。
これからする攻撃は……恐らく有効打にはならないだろう。
何となくではあるが……コイツの無敵の仕組みについては分かってきた。
だからこそ確証がほしい。
『mu?』
瞬時に担いできたハードスーツを着込み──。
『mumumu?』
無防備な『くろのす』へと右ストレートをぶち込む。
──だが。
「……」
『くろのす』の体に当たる直前。
右腕が途端に重くなった。
いや、これは重いと言うよりも──。
『nannda? asondehosiinoka?』
「……」
即座に右腕のスイッチを押し、ハードスーツの掌からビームを撃ち出す。
『mabusi!』
「……!」
しかし。光そのものであるビームですら停滞し、どころかハードスーツに逆流してきた。
「くっ……!」
ハードスーツの右腕が破砕し、吹き飛ばされる。
『omaeomosiroina!jyaatugihaorekara──!』
「……!」
そして『くろのす』が迫り、蹴りを繰り出してくる。
そのカスみたいなフォームから繰り出された蹴りの速度は──。
「ッ──!?」
俺の人生で見た何よりも早く、擦っただけでハードスーツの表面をそのまま削り取った。
「!」
『horehore!』
そして有り得ない速度を維持したまま、世界最速の蹴りを繰り出し続ける。
コイツもやっぱスーツ無視攻撃できるのかよ……!
為す術も無くハードスーツを抉られていき、『くろのす』が大きく踵をあげてドヤ顔を浮かべた。
『oraitta!』
◇
瞬間、ハードスーツから白煙が吐き出される。
『o,kowaretaka!?』
一瞬ひるんだ『くろのす』は、けれど無情なまでに一途に、踵落としをヒイロへと叩きつける。
爆音と共に赤い液体が飛び散り、ハードスーツの残骸が舞う。
既に致命傷だろう。しかし『くろのす』は──何度も何度も……自身の真っ白な踵を叩きつけ続ける。
『oi! omaeomosiroiyatudana! kiniitta! kyoukaraoretoomaeha──!?』
だが。
『……a?』
唐突に、彼女の動きが止まった。
いや……止まらざるを得なかった。
『ga……goo?』
『くろのす』の真っ白な首元に──漆黒の刀が生えていた。
久方ぶりの激痛に、『くろのす』の動きが硬直する。
『oma……!?』
「……」
そして──。
「おォおォォォォッ!!」
一閃。
『くろのす』の首を、断ち切った。
『nann……na……』
「……」
生首の状態のまま幾ばくか言葉をこぼし……『くろのす』の体は生命活動を完全に停止した。
「……」
──その『くろのす』の死体を一瞥したヒイロは軽く息を吐いて……自身の推測が正しかった事を理解する。
「やっぱ……時間の操作……反転……ッて所か……」