GANTZ:S   作:かいな

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戦姫絶唱

 響はヒイロの言葉に数瞬沈黙し……躊躇うように口元を歪め……けれど覚悟を決めた表情で口を開いた。

 

「ごめんなさい」

 

 ただ一言、沈痛な面持ちで──それだけをヒイロに伝えた。

 

「……はっ……思ってもねーこと言いやがって…………キモいんだよ」

 

「……」

 

 しかしヒイロは、聞く耳持たないとばかりに言葉を捲し立てる。

 

「何時も何時も……薄ら寒い笑顔で俺のこと見やがって……どうせだから言っておいてやる」

 

「……」

 

「お前が作る料理さ、大っ嫌いだった」

 

「……」

 

「味付けは大雑把で見た目は茶色ばっか。素人のくせにいっちょ前にアレンジ加えてさぁ……毎回毎回お好み焼きでも作ってんの? ってくらいソースぶちまけやがって」

 

「……」

 

「極めつけはハンバーグだ。俺が好きな料理って言っただけだってのに毎度毎度……三日も連続で出しやがって。それも形はボロボロ大きさバラバラ。肉汁は全部流れてパッサパサ。付け合わせもなし。俺を栄養失調で死なせたいのか?」

 

「……」

 

「……毎日毎日……ほんと……よくもまぁ作りやがった」

 

 ヒイロは一息にそこまで言って、大きく息を吸って──。

 

「ほんと、大っ嫌いだ……」

 

 突き放すように、そう告げた。

 

 

「もうどっか行けよ。最期の時くらい……一人にしてくれ」

 

 俺は響から目をそらし、呟く。

 

 ……ガンツ。

 これでいいんだろ?

 

 胸中の呟きは誰に届く訳もなく。しかし返事は無くとも確信はあった。

 

 お前は……お前は、()()『くろのす』を殺せと、そう言いたいんだろ?

 

 ──思い出されるのは、何度も何度も殺した果ての『くろのす』の姿。

 

 アイツの再生に何が消費されているのかは分からんが……だがアイツの『力』にも上限というモノがあるように見えた。

 つまりアイツは……()()()()()()()()()()ではないというわけだ。

 

 そう。気力を振り絞っての戦闘の中。アイツの再生も徐々に陰りが見えていた。

 そして最終的にはあの色んなモノが混ざった中途半端な姿になってしまった所を見るに……俺の推測は全くの間違いでは無いと推測できた。

 

 つまり時間さえかければ、俺程度の実力者であれば『くろのす』の単独撃破は可能なのだ。

 

 だからガンツ。

 あの制限時間のバグは……俺への気遣いなんだろ?

 

 俺なら……時間制限さえ無ければ『くろのす』を倒せると判断したから……時間制限を無くして見せた。

 

 ……なら……。

 

「……」

 

 頼む、ガンツ。

 

 俺が最期にもう一度戦ったら、結果がどうあれ──響だけは部屋に帰してやってくれ。

 

 俺が死んだらコイツだけは……帰してやってくれ。

 

 だから。

 

()()

 

「……」

 

「俺を一人にしてくれ……頼むよ……さっさと消えてくれ」

 

 彼女を突き放す言葉はまた、俺の心にも深く突き刺さっていく。

 

 響。頼む。

 俺のことなんて放って……どっか遠い所で──。

 

「……ヒイロさんって、演技が下手ですね」

 

「……あ?」

 

 響は、どこか確信を持った風に語り出した。

 

「あ、でも! ご飯に関しては……本気の可能性が……!? だとしたらすみません! 次からは……もっとちゃんとしたモノ作りますから!」

 

 響は、嫌に明るい様子で語り出した。

 演技が下手? おいまさか──。

 

「……何を言っている? お前自意識過剰が過ぎるぞ。ご飯に関しては? 違う……! 全部だ。全部……本気だ……!」

 

 語気を強め、響に言葉を返す。

 しかし。

 

「あはは……かもですね」

 

 あっさりと、俺の言葉を認めた。

 

「……もしかしたら……ヒイロさんは本気で私のことを嫌いになって……本当に、私を選んだことを後悔しているのかもしれません」

 

 そうして語り出した響は、やはり、少しつらい表情を浮かべていて。

 その言葉は、自分自身に突き刺さる。

 

 だがそれでも、俺は言わなければならない。

 

「……ああそうだ。分かったならさっさと──」

 

 どれだけ紆余曲折を経ようと構わない。俺は響が無事で居てくれれば……それで──ッ。

 

「でも私……どれだけ嫌われても……ヒイロさんのこと諦められません」

 

「……ッ」

 

 なのに響は、俺の意思なんて無視して……一直線に言葉をぶつけた。

 響の目はまっすぐ──俺の揺れる目を捉えている。

 

「……」

 

「……だからごめんなさい。多分、私はヒイロさんの考えには従えません」

 

「……やめろ」

 

「……ごめんなさい」

 

「ッ……」

 

 何を言っているんだ響。

 

 頼む響。アイツは強い。お前じゃ殺されてしまう。

 

 頼む響。逃げてくれ。

 

 俺はお前に……!

 

「帰ったら」

 

「あ……?」

 

 そうして今を諦めていた俺に……響は、明日を示した。

 

「帰ったら……コレの続きをしませんか? ……嫌なら、避けてください」

 

「──」

 

 そして響は──。

 

 何時もよりもずっと顔を赤くした彼女は、焼けただれた俺の唇に、自身の唇を……重ねた。

 

「……」

 

「……」

 

 それを避けること何て出来なかった。

 

 互いに交わったその時間は数時間のようにも。ほんの数瞬の出来事のようにも思えた。

 血の味と痛みしかないキス。だけどほんのりと響の匂いが舞い、痛みの中に少しの優しさを感じた。

 

 二人は暫くそのままでいて、けれど息継ぎをするように唇を離す。

 

「……」

 

「……」

 

 響は少し息切れしたように息を吐いて、また吸って。

 そしてまた俺に口づけをした。

 

 ああ……。

 顔を赤くしながらも……覚悟を決めた表情で離れていく響の姿を見て、思う。

 

「……帰ったら、続きをしましょう」

 

 最悪だ。

 俺は演技すら……最期まで貫き通すことが出来ない。

 

 何が……糞ッ……頼む……。

 

「……響…………頼む……行くな……頼む……」

 

「……ごめんなさい。ヒイロさん」

 

「ッ……」

 

 響は。

 響は……沈痛な面持ちで、また謝った。

 

 響は最初から気付いていた。俺の下手な演技を。

 

 だから謝った。アイツの謝罪は……俺の演技に気付いて、それでも……俺の言うことを聞かないことに対しての……謝罪だった。

 

 覚悟を決めて立ち上がった響は、俺を一瞥して……軽く会釈をして走って行く。

 

「ッ……! やめろッ! 響ッ! 頼む、戻れ……戻れッ!!」

 

 最早演技を捨て去った俺の叫びは……ただ虚しく空を打った。

 

「ガッ、あああああァァッ!!」

 

 動けっ、動ッ、動けッ……!

 体に鞭を打ち、無理矢理に立ち上がる。

 

 しかし。

 

「ッ……くそっ…たれが……」

 

 焼け焦げた部位が崩れ落ちる。

 膝が折れ、力が入らない。意識が遠くなり……地面に倒れ伏す。

 歪む視界の中、遠ざかる響の背中の記憶を最期に。

 

 意識が──。

 

 

 

 

 

 初めてだった……。

 キスなんてしかたも分からないし、正直な話もう少しロマンチックにしたかった!

 

 ……でも!

 

「……」

 

 ヒイロさんは避けなかった。

 

 それだけで、嬉しかった。

 それだけで、胸の内のヒイロさんが好きだって想いがどんどん大きくなっていく。

 

「……はっはっ!」

 

 胸が熱い。

 心臓が早鐘を打って、力が沸いてくる。

 

 正直、ヒイロさんがあんなになってしまう相手に……確かな勝算なんて無かった。

 ──でも。

 

 部屋に……決戦の場にたどり着く。

 

uuaa……n?』

 

 そこでは、さっき見た異形が……蹲るように血を垂らしていた。

 あまりの凄惨な状況に息を呑む。

 

 ──でも。

 

 やらなければいけない。 

 ヒイロさんと二人で……一緒に帰るには。

 

……

 

「……」

 

 互いに睨み合う。

 『くろのす』はどこか、忌々しいモノでも見るように私を見つめている。

 

omae……watasino"papa"wodokoni

 

「……何言ってるのか、全然分かりません」

 

dokoniiii!!!』

 

「だから──ごめんなさい」

 

 そして私に向かって飛びかかった『くろのす』はその異形の体を大きく振りかぶった。

 

 けれど私は……目を閉じる。

 時間がスッと遅くなるように感じた。

 

 勝算は無い。

 けど──私は、私を信じる。

 

 ヒイロさんとの訓練の日々を。闘ってきた日々を。

 そして私が……『立花響』であることを。

 

「そうだ……私だッて…立花響だ!」

 

 目を開ける。

 『くろのす』が迫る。

 

 ずっと感じていた違和感があった。

 胸の中にある何かが、ずっと私に……何かを伝えようとしていた。

 

 それは……もう一人の『私』を見るたびに感じる違和感で。

 感じていたモヤモヤは、何かもっと……精神的なことだと思っていた。

 けど。

 

 ヒイロさんとキスをして、胸の中の想いとか好きって気持ちが押さえつけられなくなって。

 

 とうとう、掴めた気がした。

 

 彼女が歌っていた意味が、理由が。

 

「──だから聞いてください! 私の、歌をッ──!」

 

 胸の熱が形を帯びる。

 歌が浮かんで、我が名を叫べと轟いて。

 

 そして。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron……!」

 

 炸裂した。

 

「ッ、ああアアぁァあああッッ!!」

 

oma……!?』

 

 その衝撃を例えるなら、爆発だ。

 纏うガンツスーツと混ざり合い、肌に重なるように纏われたその鎧は……漆黒と黄の融合。

 反発し、反応し、溶け合い、膨張し、そして──。

 

「ッ、ゥゥウアアッッ!!」

 

 感情が爆発する。

 高ぶりを抑えることが出来ない。

 抑えられないその想いは、ただ一つ。

 

「──!」

 

 それを自覚した瞬間──膨れ上がった鎧が形態を変える。

 

 それは、黒衣を下地にした鎧。

 端々に淡く『黒』が舞い、黄色と黒を基調とした鎧が体を覆う。

 

nanisore……!?』

 

「……」

 

 困惑した様子でこちらを伺っている『くろのす』を前に……拳を向ける。

 

 この鎧がなんなのかは分からない。

 

 ──けど。

 

 もう一人の私に出来て──私に出来ないなんて道理はッ……無いッ!

 

「──行きます!」

 

 拳を携え、展開される曲に合わせ……歌を、歌う。

 

 

 

 

「一番槍のコブシ! 一直線のコブシッ! GanGan進めッ! GanGan歌えッ! 撃槍ジャスティス──!」

 

omasore……yabaiyatu!?』

 

 ──少女の歌には、血が流れている。

 

「私が選ぶ正義……固め掴んだ正義! 離さないこと……ここに誓う!」

 

GAaaxtu!?』

 

 脈々と受け継がれた人類の呪い、哲学の兵装。

 まるで血脈のように受け継がれたその『力』は、正に神を討つ。

 

 そのコブシには──人類の血が流れていた。

 

nanikusoooo

 

「ッ突っ走れ──! 例え声が枯れても……ッ!?」

 

 爆発的な再生、全てが巻き戻り──()()穿()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは射線上に居た響を飲み込み月を抉る。

 

 人がまともに食らっては生きてはいられないような一撃。

 だが。

 

「──突っ走れ……この胸の歌だけは絶対絶やさない」

 

usoooo!?』

 

 それは高まり続けるエネルギーの余剰排出が形となったバリアフィールド。

 月を穿った閃光すらも弾いて見せたそれは、完全にスペックをオーバーしている。

 

 しかし事実として起こっている以上、何かが作用している事は確か。

 

 ──それを可能としているのは、響の特性。

 二年前の事故により聖遺物との融合。更には()()()()()()()()()による暴走すら捻じ伏せ制御する事によって可能としている。

 

iii!! orehaaaaa

 

「っ!?」

 

 ──『くろのす』もまた、それに対抗するように……残りの力を開放する。

 それは先程響へと放った閃光……それを何発も何百も束ね……同じ光を一つの極光とする矛盾の極致。

 未だ射線上の響は、しかし──。

 

「一撃必愛──ぶん守れ──愛は負けない!」

 

 ──避けることなどできなかった。

 これほどの光の一撃を避けたとして……その余波で遺跡がどうなるか。

 

 拳を構え、迎え撃つ。

 

「全力ぐっと全開ぐっと……ッ! 踏ん張れぇぇぇ鼓動おおおおお!」

 

 直後、光と黒がぶつかり合った。

 

「ぐっああああッ」

 

sineeee!』

 

 巨大な光と黒の競り合いは、光が確かに押していた。

 何度も何度も力の限り閃光を再生し続け──火力が高まり続ける。

 響の上昇していくエネルギーですら……その光を抑えることは不可能だった。

 

koredeeewatasinooo……』

 

「──Gatarndis babel ziggurat edenal──」

 

e,soreha……!?』

 

 だが。

 彼女は……戦い方を知っている。

 命を賭して、誰かを守りたい……そんな瞬間の為の、戦い方を。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl……」

 

 そして、少女の想いに呼応するように……爆発的に……『くろのす』の放った極光を超えて、黒が増していく。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

 それは……立花響を救ってくれた少女の、最期の歌。

 『絶唱』と呼ばれるその歌は、極光を押しのける。

 

「Emustolronzen fine el zizzl──」

 

naze……!? touitugenngowofukamonaku──』

 

「ッ、ああアアああッ!!!!」

 

omae……soukaomaetatiha……』

 

 そしてその拳は『くろのす』を──。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ?」

 

 目が覚める。

 そこは遺跡などでは無く……何時もの、見慣れた部屋だった。

 

「……んだ……あれ……俺……何を……」

 

 困惑が抑えきれず、キョロキョロと周りを見渡してみても……周りには俺しかいない。

 響は──。

 

 そんな俺の思考を遮るように──鈴の音が鳴り響く。

 

 いてんをはじ

 

「……は?」

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