「……おい、どういう事だ」
たった一人、ヒイロの声は部屋に響く。
辺りをいくら見渡そうと、そこには誰の姿も見受けられない。
「……ガンツ……おい……冗談はやめろ」
状況を理解していく程に心臓は早鐘を打ち、脳が理解を拒んでいく。
ただ……ガンツはあくまでも無情に仕事を進めていった。
そして──。
ひーろー
100てん
total 154てん
「……は?」
そこに示されていた点数に、ヒイロは困惑の念を示す。
「……あのドローン……1点かそこらだろ? ……『くろのす』に再生された奴も点数に……? いやそれは無い筈…………そんなに倒してたか……?」
以前、星人を生み出す星人と戦った際、点数を大量獲得しようとして失敗したことを思い出す。
「……いや、待て。違う。そんなことは今どうでも良い……」
ヒイロは自身の疑問を捨て置いて、部屋を探索する。
だが。
「……響」
どこを探そうと。
「……頼む……神様……」
響の姿は見当たらない。
そして。
「……」
遂に、最後の部屋となる。
ヒイロは息を呑み、その部屋を開けた。
そこには──。
「ひびっ──!?」
「あ、ヒイロさん! 見つかっちゃいました?」
「ッ──!?」
そこには……。
「……」
何も無かった。
今聞こえた響の声も、響の姿も。
全てヒイロが作り出した……妄想に過ぎなかった。
「……」
バイクとガンツソードが無造作に置かれた部屋はあまりにも無機質で、誰かが居た形跡なんて一つも見受けられなかった。
「……あ」
呆けたように声を溢したヒイロは、ガンツがある部屋まで戻り……そこの窓から、崩れた月を見つけた。
そう……響が居るとしたら、それは──。
「……」
全てを理解して……ガンツの前に戻った。
──そもそも、ヒイロが響の気配に気づけないはずが無いのだ。
彼女とヒイロの力量には圧倒的に差が存在し、例え隠れていようとすぐに気づくことが出来るだろう。
いや……そもそも響が姿を隠す意味なんて無い。
今までの響を探す行動は、単なる現実からの逃避でしか無かった。
それを理解していたのに……ヒイロは──。
「あ、ああ……」
ガンツの前で溢した声を……嗚咽へと変えていき。
「……ああッ……何ッ…で……ッ!」
死んでしまった最愛の人を想い、声を枯らして……泣いた。
◇
「……」
Xガン。
それを自身に向けて構え、迷うこと無く撃ち込む。
ギョーン、という小馬鹿にした音が鳴り響き、スーツが悲鳴を上げる。
「……ああ」
そうだ。スーツがあるから……。
それを理解した俺は、もう何発かXガンのトリガーを引き、スーツを完全に破壊する。
『……て』
「ッ……」
脳が痛みを発する。
それと同時にスーツが破壊され……どろりとした液体がスーツ同士を繋いでいる接続部分から流れ出す。
『……きて』
「ぅッ」
脳が痛烈な痛みを発する。
あまりの痛みに耐えられず、Xガンを取り落として頭を抱える。
……もう少しだ。
もう少しなんだ。
もう、良いだろ?
もう、俺を……死なせてくれ。
自分に言い聞かせるように呟いて、今の自分に酔いしれて。
Xガンを持ち直し、もう一度自身に向けて構え──。
『私は、ヒイロさんに生きていて欲しいです』
「……」
果てしなく続く痛みが、俺を現実に引き留める。
それは彼女が、俺を好きだと言ってくれた時のこと。
生きてと、彼女は俺に言った。
『私は……私は生きて……生きて生きて、足掻いて、それでも死んでしまうその時まで……生きたい。生き延びたい』
「……」
『ヒイロさんと一緒に』
その言葉はそのままに、今の自分の姿に突き刺さる。
自分自身で命を絶とうとしている、俺の姿に。
『だから──私も、ヒイロさんと……同じです』
俺は──。
「……ああ……」
俺も、同じだ。
響……俺もお前と……同じだった……。
生きたかった。死にたくなんて無かった。
生きて生きて……死んでしまうその時まで、お前と一緒に……生き延びたかッた……。
Xガンを取りこぼし、その場に蹲る。
お前は……お前は……俺に、生きろッて……言うのか……?
俺はまだ……生きたいなんて思ッているのか……?
「……はは……」
何が何だか分からない。
もう嫌だ。
俺は……俺は……ッ。
「ッああっ……あァあアアあッアアああ!」
いっそ何も気付かずに死ねていれば楽だった。
でももう……頭も心も何もかもが無茶苦茶だ。
ただ蹲ったまま、ガキのように泣きわめくことしか出来なかった。
──そして。
「ッ、そうッ……だ……」
俺はようやく、ガンツのことを思い出した。
「ガンっツッ……ッ」
点数を示して動きを止めていたガンツは……俺に
それは──。
1.記憶をけされて解放される
2.より強力な武器を与えられる
3.MEMORYの中から人間を再生する
最悪の選択肢ばかりだ。
「……」
視線が向かうのは、一番下の選択肢。
だがそれは……。
「……」
何が……何がメモリーだ。
そんな事をして何になる……何に……。
『今日……凄く……楽しかったです』
それで生み出されるのは……。
『…………は……い! ハンバーグ、頑張ります!』
アイツと同じ顔と記憶を持った……。
『……私……ヒイロ……さんの事が……好き……なんです』
新しい命でしか……。
『……私の……ヒーロー……』
……。
いや、そうだ。
『ヒイロさん、手、繋ぎませんか!』
そうだ。アイツが3番で再生した時にどうなるかなんて知っているわけが無い。
『ヒイロさん! デートしましょ!』
そうだ。そうだ……俺が上手く誤魔化せば──。
『そうですって! 友達ならこれくらい普通です!!』
アイツとまた、暮らすことが──!
『……そんな事、私は望んでませんから』
「ッ……」
……何を考えた?
俺は一体何を…………。
「……ガンツ……」
……視線を一つあげ、そこにある二つの選択肢を見る。
天国か地獄か……それとも……。
「……」
ガンツの中は未だ空洞で、そこには何者も存在していない。
俺が望めば……きっと、ガンツは受け入れる。
そう、望みさえすれば──。
『あ、あのっ! ヒイロさんはガンツにならないで下さいね!』
……でも。
でも響は、それを望んだりは……しないんだろうな。
「……響……俺さ……もう……疲れた……」
だから、選ぶとしたら、そう──。
「ガンツ…………1番……」
視界が揺れ、世界があやふやになっていく。
……響……。
ごめんな。
俺はもう……。
そしてブツッと、意識が途切
◇
「……んあ?」
目が覚めると、見慣れぬ天井が視界いっぱいに広がる。
訳も分からず視線を下の方に下ろすと、当然のように見たことも無い部屋だった。
「……?」
困惑が隠せずに頭をぼすっと戻すと……ふと、良い匂いを感じる。
自分が今居る場所を確認すると、どうも誰かのベッドのようで……俺のモノでは無いように思える。
「……」
訳が分からぬままベッドから体を起こし……ぽわぽわとした頭で考える。
「……寝て……た…のか? 俺……」
寝ていたにしては……何か違和感を覚える。
体を触ると特に違和感というか……なんか、筋肉が凄いって言うか……。
「……」
目の前にあるテレビのリモコンが目に映り、取りあえずつけてみる。
「!?」
そして、映ったテレビの内容は驚愕のモノだった。
『ご覧ください! 月が……! 私たちの月が……壊れていきます……ッ!』
「え、え?」
『あ、ああっ! な、何でしょうか!? 壊れた月の破片が……! 更に粉々になっていきます!!』
「え、え~!? ちょちょっ!?」
思わず立ち上がって、部屋のベランダに向かう。
「……? 背、高くね?」
立ち上がった瞬間、自身の視線の違和感を感じつつ……しかし特に気にせずベランダに向かう。
「……うわ……すっげ……」
そして見上げた空には……ニュースでやっていた欠けた月と……流れ星が在った。
幻想的な光景で、思わず見上げてしまう。
「……は~……あっ」
と、そこで思い出した。
「おーい! 父さーん!? 空、空凄いことになってる!」
この光景を、家族と共有したかった。
けれど……。
「? あれ? 父さんいないの? 父さーん? 外! 外すごいんだって! 父さーん!?」
幾ら声をかけようと返事は返ってこず、首を傾げる。
そして首を傾げていると、ポロリと顔から何かがこぼれ落ちる。
「……え? なんで……? あれ……?」
それは涙。
なぜか溢れてくる涙は、月を見るたび止まらない。
「……なんだよ…コレ……おーい!? 父さーん!? ねぇっ、誰かいないの!? おーい!?」
涙で震えた声は、誰も居ない部屋に空虚に響き──俺は一人、月を見続けた。