GANTZ:S   作:かいな

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二番
距離感


「はぁ……頑張ってんな……マリア……」

 

 手に持った雑誌を見ると、そこには『アイドル大統領! 風鳴翼とまたまたコラボ!』という見出しと共に、ドヤ顔を浮かべたマリアと澄まし顔の風鳴翼というアイドルが並び立っている。

 

 彼女の名前はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 

 この一年の間で激動の経歴を作り上げた唯一無二のアイドルだ。

 

 それは、今から丁度一年ほど前の話。

 

 その時も今のように風鳴翼とコラボしてライブを行った。

 そして、そのライブを乗っ取って自身が武装組織『フィーネ』であると世界に宣言し、そのまま全世界に対して交渉を開始した。

 

 その後は何やらゴタゴタがあったらしいが、最終的に落下する月を止めるために全世界に語りかけ……そして世界を救ってみせた。

 

 そしてその後、続々とマリア・カデンツァヴナ・イヴという人に対しての情報が出てくる。

 

 実は武装組織の調査のために組織内に侵入した国連所属のエージェントであると言うこと。

 アイドルはその任務の一環だったと言うこと。

 けれど任務が終わった今でも全世界でチャリティーライブを起こっていること。

 

 まぁそんな奴、人気が出ないわけが無く。

 今では世界中で大人気の超スーパーアイドルって所だ。

 

「……アイドル大統領って言った方が良いのか……」

 

 そんな世界的に大人気なアイドル大統領が、また風鳴翼とコラボライブを行うのだという。

 

 そう、一年前と同じように……。

 

「……」

 

 一年前の、雑誌に載っていたマリア・カデンツァヴナ・イヴと、今のマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 見た目はちょっと丸くなったくらいしか変わらないというのに……たった一年で見た目以外で彼女は大きく変わったと言って良いだろう。

 

 思わず、そんな彼女と自身を比べてしまい、酷い自己嫌悪に襲われる。

 

「……はぁ」

 

 一年。

 

 それだけの時間が有っても、俺は……。

 

「……」

 

 俺は未だに前に進めず。

 どころか過去と向き合えてすらいないのだから。

 

 ◇

 

「陽色さん!」

 

 背後から声をかけられた陽色が振り返ると、そこには一人の少女が朗らかな笑顔を浮かべながらこちらに向かって走ってきていた。

 

「すみませんッ! 遅れちゃって……!」

 

「ああ、大丈夫……俺も今来た所だから」

 

 そうは言いつつも、実の所陽色は十分ほど前から来ていた。

 その雰囲気を察してか、彼女は申し訳なさそうな顔で両手を合わせて謝っている。

 

 そんなに謝らなくても良いのに……と思いつつ、陽色は彼女に話しかける。

 

「ともかく、今日はどうしようか」

 

「あ! そうですね~……じゃあ東京スカイタワーとかどうですか?」

 

「……スカイタワー……」

 

「記憶喪失って、似たような状況になると思い出すらしいですし……その点、スカイタワーは結構印象深い場所だと思うんです!」

 

「……なるほど……」

 

 そう言って陽色は、目の前の少女と背後にそそり立つ東京スカイタワーを交互に見て記憶を探る。

 

 すると──。

 

「……ッ……!?」

 

「ひ、陽色さん!?」

 

 異常な頭痛。

 溜らず膝を折って蹲りそうになるも、陽色は根性で堪えてみせる。

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

「……大ッ……丈夫……多分……スカイタワーはいい線……行ってると思う」

 

 そう言って陽色はふらふらとスカイタワーを見上げる。

 

 頭の痛み。

 それは彼の過去の記憶に近づいたときに起こる現象である。

 

 一年間自身の記憶を探り続けた陽色が掴んだ手掛かりの一つでもある。

 

「……本当に大丈夫ですか? きついなら──」

 

「大丈夫。今日だって立花さんに無理言って付き合って貰ってるんだ。俺のことは気にしないで」

 

「……別に、私の事とか気にしないで良いですからね! 辛くなったら言ってください!」

 

 陽色は少女に、小さくありがとうと伝え……頭を振るう。

 頭の痛みは随分と治まってきた。

 

「よし! 行こう!」

 

「はい!」

 

 そう言って、また朗らかに笑う少女の笑顔は……陽色が失った記憶の誰かの笑顔ととても似ていて……また彼の脳に痛みを与える。

 

「……」

 

 彼女の名前は、立花響。

 

 記憶を全く思い出せないでいる陽色が、唯一記憶を揺さぶられる少女。

 陽色の失った七年間の記憶を思い出す手がかりとなる少女である。

 

 ──しかし残念な事に、とうの立花響本人は陽色の事など全く知らなかったため……恐らくは『立花響』によく似た誰かが、陽色と深い関係にあったのだと思われるのだが。

 

 ──故に、本来なら立花響は陽色と全く関係ない存在なのだが──。

 

「おおー高いですね陽色さん!」

 

「……あっ……ああ……ッ」

 

 彼女は、陽色の記憶探しに手伝ってくれている。

 それは偏に彼女の優しさ故。

 

 ──そんな彼らの出会いは……駅での一コマ。

 ナンパのように話し掛けた陽色に、立花響が連絡先を教えたのが始まりだった。

 

 その様な出会いであったが、思いのほか彼らの関係は長い間続いていた。

 

 というのも、彼女に勇気を出して電話をかけた陽色は……見事彼女に協力を取り付けることに成功したのだ。

 そうして彼女の都合の合うときに時間を作って貰い、街を散策したり、行ったことがありそうな場所を共に巡ってみたり。

 この記憶巡りは大体一ヶ月に一度程度の間隔で行われ、今もそれは続いている。

 

 最も、その結果は芳しくなく……基本的に立花響の顔を見て、陽色の頭痛が引き起こされるだけに留まるのだが。

 

 ただ、たまーに尋常では無い痛みが起こる時があるので、全くの無意味というわけでは無い。

 

 そして現在。

 陽色は見事なほどに頭痛に苛まれていた。

 

 異様なまでの既視感に吐き気まで覚える。

 

「……」

 

 けれどその痛みこそが記憶への手掛かり。

 恐らく、陽色はこの東京スカイタワーに……『誰か』と来たことがあるのだろう。

 なので痛みを堪えつつ、彼女と共に再建された東京スカイタワーを歩く。

 

「けど……あんな事件の後一年で一般公開までいくなんて……現代の建築力って凄いですね……」

 

 そうして歩いていると、街を見下ろしていた立花響がふと溢すようにそう言った。

 事件という物騒なワードに陽色は頭を捻って、当時の記憶を探る。

 そしてスカイタワーで起こったことを思い出す。

 

「……事件……? ああ、そう言えばあの『マリア』が潜入してた武装組織がノイズテロを起こしたんだっけ」

 

「……あ。そ、そうなんですよねぇ~! いやぁ~やっぱり駄目ですよねノイズなんて!」

 

 確かニュースでは武装組織のテロか何かだと言っていた気がする。酷いことをするモノだ。

 

 そうして、やけにしどろもどろになった立花響に気付かぬまま……陽色は言葉を続ける。

 

「まぁ常識的に考えてノイズをテロに使うとか、倫理的にも道徳的に不味いよ。常識を疑う」

 

「あ、あはは……ですよねぇー!」

 

「ノイズを操れるだけならまだしも……それを人に向けるとかちょっとね。趣味が悪いよ」

 

「あ、あはは……」

 

「……?」

 

 嫌に微妙そうな表情を浮かべている立花響に怪訝な思いを抱くが、まあノイズ事件の話とか気分がいい話でも無いしなと勝手に納得して、話を切り替えていく。

 

「そう言えば、今日は小日向さんは……」

 

「未来ですか? 今日は友達と一緒に遊びに行ってるみたいですけど……」

 

「え!?」

 

 それを聞いて、陽色はばつが悪そうな顔になる。

 

「もしかして……俺のせいで立花さんが友達と遊べなかったとか……」

 

「あっ、そう言うのじゃ無いんです! 本当、大丈夫ですから!」

 

 けれど陽色は申し訳ない気持ちで一杯になる。

 そして……立花響と出会う前に抱いた焦燥感もその気持ちを加速させていく。

 

 一年。

 一年間、陽色は立花響に手を貸して貰い続け、様々な場所を回った。

 

 しかし。

 そのどれもが良い結果を生み出したわけでは無く。

 頭痛という手掛かりを見つけても──それが有効に働いたわけでも無く。

 

 そうして、少し気まずい空気になりながらも東京スカイタワーでの記憶巡りは進んでいき、青かった空は次第に赤い色を帯びていく。

 

「今日はありがとう、立花さん」

 

「いやー! 私こそ、ご飯奢って貰っちゃいましたし……」

 

「ああ、それくらい良いよ、気にしなくて」

 

 気にしないでとは言いつつも、ハンバーガーショップでの事を思い出し苦笑する。

 

 ハンバーガーとポテトだけをよくアレだけ食べれるな……とは少し思う陽色である。

 

「まぁ、健康的で良いと思うよ」

 

「え? 何がですか?」

 

 遠回しに食べすぎだよと言うも、それに気付かない立花響はぽけっとした顔をする。

 また小さく苦笑した陽色は、携帯の画面を見て、既に本来の予定より相当時間がたっていることに気付く。

 

「じゃあ、駅まで送るよ」

 

「あ、これはまたどうも……」

 

 街灯が灯り始めた街を立花響と共に歩き……ふと、コンビニに張られたポスターに目を奪われる。

 

「……マリア……頑張ってんなァ……」

 

 そのポスターには、風鳴翼とマリアのコラボライブが近日中に行われるという事が書かれていた。

 

「本当、ですね……」

 

「立花さんは、マリアが好きなんだっけ?」

 

「えっ!? そ、そうですね~好きですよ、当然!」

 

「風鳴翼も凄いよなァ……"あの"マリアとライブだもんな」

 

「あ、あはは……」

 

「あ~あ……俺もあの時テレビつけとけば良かった」

 

「……」

 

 そう言って悔しそうに呟く陽色は、当時の自分を恨む。

 

 というのも一年前。

 丁度その時陽色は、自身が()()()()()という探偵に記憶を失う前の自身の話を聞きに行っていたのだ。

 

 アレが無ければ世界中の皆に助けを呼びかけているマリアの姿が見られたのに……と、過去の自分を恨むほか無かった。

 ネットにあげられていた映像も、陽色が見るよりも先に全世界から消されてしまい、最早絶対に見られないというのだからその恨みは深い。

 

 そうして一年前のことを思い出していたからか、横に居る立花響の気まずそうにしている表情に陽色は気付なかった。

 

「……ま、過ぎたことを何時までも悔やんでもね」

 

「そ、そうですよ! そう言えば陽色さん、喉渇きませんか!?」

 

「えっ?」

 

「私、飲み物買ってきます!」

 

「あ、ちょっ」

 

 だからか、陽色は急に焦りだした立花響を見て困惑するしかなかった。

 止める間もなくコンビニの中に入って行ってしまった少女を見て、陽色はまた苦笑を浮かべる。

 

「……」

 

 もう行ってしまったモノを止めるのも申し訳ないので、陽色は彼女を待つことにした。

 コンビニの入り口から逸れて……ふと、空を見上げる。

 そこには、東京の空だというのに綺麗な星々が浮かんでいる。

 

 陽色は……思わず言葉を溢した。

 

「俺……何やってるんだろ」

 

 進歩の無い日々を送るたび、胸が締め付けられる。

 立花響と共に歩くたび、脳が悲鳴を上げる。

 

 彼の現状を一言で表すのなら──『迷走』だろう。

 

 進むべき道も、進んではいけない道も……彼には何一つ見えてこなかった。

 

(……俺は……何をすれば──)

 

「……!?」

 

 と。

 陽色は自身の間抜けに気付いた。

 

「ッ──」

 

 空に、月が浮かんでいた。

 その崩れた月が、彼の心を不快に揺さぶっていく。

 

「あ……が……ッ……はっ……はっ……」

 

 彼は──暁陽色は、『心的外傷後ストレス障害』……いわゆるPTSDを患っている。

 

 気付けば、『あの時』……目覚めた時のように、涙が溢れてくる。

 心臓が張り裂けそうな程に脈動し、息苦しくなるほど締め付けられる。

 また頭痛も併発するため、まともに立っていられなくなり……膝をつく。

 

 これが、()()()()()()()()()()ため、まともに夜道も歩けない。

 

「……はっ……はっ……マジで……最悪だ……」

 

 しかしこの姿を立花響に見せれば、また心配をさせてしまう。

 

「……ッ」

 

 気合いで立ち上がり、どうにか見てくれだけは普通を装う。

 そしてタイミングが良いのか悪いのか……立花響がジュースを二本もってコンビニから出てきた。

 

「陽色さーん!」

 

「……」

 

 声は出さず、軽く手を挙げて答える。

 

「? なんか、目が赤くないですか……?」

 

 と。案の定立花響は様子がおかしい陽色を見て心配したように尋ねてくる。

 

「……ッ、ああ……大丈夫……ちょっと思い出し笑いを……」

 

「え? そんな泣くほどですか!?」

 

 しかし、どうにか荒ぶる心を落ち着かせた陽色は、軽く笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「そうそう……面白すぎて泣いちゃうくらいの奴……」

 

「え、そんなにですか……き、気になる……」

 

 そわそわと目を輝かせる立花響だったが……陽色は、軽く手を振って彼女の言葉を否定する。

 

「いや……俺以外には面白い話じゃ無いから……それよりさ、ジュース貰って良い?」

 

「あ……はい!」

 

 完全にジュースのことを忘れていた彼女は、慌てて少し彼女の体温でぬるくなったジュースを差し出す。

 

 どこかはぐらかされた気がしないでも無いが、特に追求するようなことでもないし気にしなくても良いか。

 

 そんな風に思いながら……彼女はジュースの蓋を開けた。

 

 

 ◇

 

 

 ──二人は、共に大きな隠し事をしている。

 

 一人は、国が揺るぐほどの大きな秘密を。

 

 一人は──ここに書くには大きすぎる秘密を。

 

 だからこそ、そんな二人の距離は……月と地球ほどに離れている。

 

 

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