GANTZ:S   作:かいな

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新情報

「ふむ……」

 

「……」

 

 陽色の目の前の男性は、難しい表情で唸る。

 

「陽色くん。ここ七年間の君の調査だが──」

 

「……」

 

「まぁ、ビックリするくらい地味だね! 何にも、見つけられなかった!」

 

 はっはっはっと笑いながら、彼は手元の資料を見せてきた。

 

「……」

 

 そこに纏められていた内容に関しては、確かに目の前の男性が言う通り何も変な所など見受けられない。

 黙々と資料を見ていた陽色だったがその内容は非常に薄く、すぐに読み終わってしまう。

 

「あの……本当にこんな情報しか?」

 

「うん。それはもう、異常なくらいに情報が見つけられなかった」

 

「……」

 

 男性は悔しそうにうねりながら……ただ、と言葉を続ける。

 

「……君のお母さんが押し入り強盗に襲われてから、君が家を出る姿をあまり見ない……というのは少し気になるね」

 

「……はぁ」

 

「というのも、強盗(それ)がトラウマになって家に引きこもった……なら話は分かるんだが……別にそう言う訳ではなく、君は普通に生活を続けていたみたいで」

 

「……」

 

「つまり君は、五年間ほど誰にも見つからずに家を出入りしていたというわけだ」

 

 それが何か? と首をかしげた陽色に、男性は言葉を続ける。

 

「まぁ、それがどうした……って言いたい君の気持ちも分かる」

 

「……」

 

「実際その通りで、だからどうしたって話なんだけどね」

 

「えぇ……」

 

 あまりにあんまりな言い草に思わず声が漏れる。

 

 そんな陽色の姿が面白かったのか……目の前の男性はまた快活に笑ったかと思うと、真剣な表情に戻る。

 

「……これは僕の個人的な解釈というか……まぁ、こんな不確定な推理──妄想を君に言うのも申し訳ないんだけど」

 

「……」

 

「近隣の住民の誰からも見られないという異様さ……けれどその異様さと相反するように、至って普通の生活を送っていた」

 

「……」

 

「昔の君は、周囲の目を異様に気にしていたと言うのに普通にはこだわる。僕は思うに──」

 

 そしてそこまで語って、彼は言いづらそうに口を噤み……しかし、そのまま語った。

 

「君は、何かの事件に巻き込まれていたんじゃ無いかな?」

 

「……事件」

 

「ああ。少なくとも周りに気付かれたくは無い類の、ね」

 

 そう言って彼は、また資料を見せてくる。

 

「……」

 

 そこには、陽色が暮らしている街……東京で相次いで起こるノイズ災害の写真と、謎のミステリーサークルの画像。

 

「これは大体……七年ほど前のあるミステリーサークルの写真だ」

 

「……ミステリーサークル……」

 

「そう。そしてこれは大体五年前のノイズ災害でのミステリーサークル」

 

 そう言って次々と差し出した資料にも、一般的な住宅地に発生したミステリーサークルや……ノイズ災害の被災地とそこに現れた大量のミステリーサークルについて書かれている。

 

 そして……。

 

「……これは……」

 

「そう、三年前のライブ会場の惨劇。君もここ一年で聞いたことはあるだろう?」

 

「……」

 

 ライブ会場の惨劇。

 ツヴァイウィングのライブでノイズが大量に発生し……10254人とツヴァイウィングの天羽奏が犠牲になった最悪のノイズ災害だ。

 

 陽色でも聞いたことのある、現状でも最大規模のノイズ災害だという。

 

 男が見せてきたそれには、華やかなライブ会場とボロボロの会場の写真が載せられていた。

 そしてそこにも……当然のようにミステリーサークルが刻まれている。

 

「そして実はこのノイズ災害を最後に、東京で起こっていた殆どのミステリーサークルは一時姿を消す」

 

「え?」

 

「ただ、ここ最近もう一度だけ現れてね……一年前のノイズ災害の時の写真だ」

 

 受け取った写真の日付には確かに一年前の日付と、ミステリーサークルが街に刻まれていた。

 

 ノイズ災害とミステリーサークル。そこに何か関連性があることは見受けられたが……果たして、それが一体どうしたというのだ。

 

 陽色のその疑問に答えるように、男は口を開く。

 

「陽色くん。君はこの()()が起こった場所とミステリーサークルを見ても、何か思い出さないかい?」

 

「……え?」

 

 その言い草はまるで、陽色がそのノイズ災害と何か関連があるかのような言い方で。

 

「……僕はね、陽色くん。君とノイズ災害に何か関連があるんだと考えている」

 

 それは、あまりに突拍子も無い推理だった。

 

 

 彼の名前はセバスチャン。金色の髪をショートカットにしているアメリカ人……のようにしか見えないが、どうも違うらしい。

 生粋の日本人で、日本語しか話せないのだとか。

 その雰囲気は優しげだが、妙に怪しさを覚えるというか何というか……その柔和な笑顔と大げさな素振りが余計にその怪しさを際立たせている。

 

 そんな、怪しさ満点の彼だが……どうも、彼は前までの俺からの依頼を受けていた……『探偵』なのだという。

 

「……いや、訳わかんないっすよ……だって、ノイズですよね?」

 

 そんな彼が、またも訳の分からないことを言い出した。

 何せ相手はノイズだ。人が触れれば一瞬で死んでしまうような、そんな相手。

 それと俺とが同関係するってんだ。

 

「うん。君の言いたいことは分かる。だが、聞いて欲しい」

 

「……」

 

 今までの茶化した雰囲気では無く、あくまでも真剣な表情で訴えかけてくるためどうも強くでられない。

 セバスチャンは自身の推理を朗々と語り出す。

 

「これは、君の記憶の連続性が途切れた七年前辺りから起こっている事象だ。それ以前からではどんなノイズ災害でも発生はしていない」

 

「……そうっすね」

 

「うん。そして今、一年前のあのミステリーサークルを最後に……どんなノイズ災害でもミステリーサークルは発生していないんだ」

 

「……」

 

「そして()が目を覚ましたのは……一年前。何か関連性があるとは思えないかい?」

 

 ノイズ災害。

 伝説上の怪物などの……大本になったとされる存在。

 

 およそ十四年ほど前に国連総会で災害として任命されたそれは、本来であれば非常に小さい確率で発生する災害なのだという。

 

 しかし。

 ここ数年間の東京でのノイズの発生率は異常で、非常に短い期間でノイズが発生し、それに付随して発生するミステリーサークル。

 ……その期間と俺の記憶が無い期間の一致。

 

 そう言われれば、関連性があるようにも思える。

 

 しかし。

 

「だけどこじつけが過ぎませんか?」

 

 そう、それは証拠も何も無い、それこそ推理の……妄想の域を出ない程度の話でしか無いのだ。

 それはセバスチャンも分かっていたらしく、申し訳なさそうに頭を掻き始めた。

 

 仕事を依頼して分かったことだが、前までの俺が受け取っていた資料を見るに、セバスチャンは結構ちゃんと調べ物をしてくれる。

 小まめに連絡もよこすし、無駄なことはせずに依頼を遂行してくれる。

 

 だから何故いきなりこんなただの推理を……。

 

「……あ」

 

 いや、まて……もしかして──。

 

「いや~本当、ただの僕の妄想って言うか……営業の話って言うか……」

 

「……営業?」

 

「──そう! 僕は今後、調べていく方針をそっちの方に向けていきたいなと思っていてね!」

 

「……」

 

 なんて思っていたら、やっぱりそう言う話か。

 

「……」

 

「あ、あはは! でも、もっと深く調べていったら、凄いことが分かりそうだって……そうは思わない?」

 

「……」

 

 思わずシラッとした目で見てしまう。

 コイツ、人が真剣に依頼してるってのに遊んでいるのか……?

 

 そうして見つめ続けていると、セバスチャンの引きつった笑い声も次第にトーンが落ちていき、ついには無くなる。

 

「……」

 

「……」

 

 俺たちの間には気まずい空気が流れる。

 その空気に負けた様に……セバスチャンはどこか悔しそうに語り出した。

 

「……正直に言おう。僕にはこれ以上、君のことを調べるのは不可能だ」

 

「……何だって?」

 

「人間関係、家族関係、学校、私生活からバイト先まで。君の七年間を僕が調べられる範囲は全て調べた。その結果が、あのたった二ページしかない資料だった」

 

「……」

 

 思わず絶句する。え? 本気で言ってる?

 またセバスチャンのジョークだろと思っていたが、そう言うわけでもなさそうで。

 

「……本気で……?」

 

「本気も本気だよ」

 

 思わず聞き返してみれば、至極真面目な表情で俺の薄っぺらい七年間について肯定された。

 

 そんな……嘘だろ?

 だって七年間だぞ?

 もう少し……こんな……A4の紙二枚に収まってしまうような、本当にそんな程度の内容しかないっていうのか?

 

 軽い絶望を覚えている俺を見てか、セバスチャンはどこまでも申し訳なさそうに言葉を続けた。

 

「……だから君に提案したいんだ。別の方向からの調査を」

 

「……」

 

「あまりに異常なんだよ……君の経歴は。痕跡がなさ過ぎる」

 

 そんな本職の探偵に疑われるほど……何もないのか?

 何もなかった、のか……?

 

 

 陽色は、どこか呆然とその後の話をセバスチャンとしていた。

 

 それほどには……ショックだった。

 少しは知れると思っていた知らない自分が、文字通りほんの少ししか知ることが出来なかったのだから。

 

 そして何より、自分の青春が特に語るようなこともない七年間だったということが。

 

「……取りあえず、前までの君から受けていた依頼はそのまま。今の君からの依頼は……さっき僕が提案した方向で調査を進めるという形で」

 

「……はい。それでお願いします……」

 

「……」

 

 目が覚め、訳もわからず一ヶ月間を過ごし……藁にも縋る思いで頼った探偵の結果も芳しくなく。

 どころか考え得る限り最悪の結果しか得られなかった。

 

「……陽色くん。僕が提案した調査内容については……お金は気にしないで。サービスしとくよ」

 

「……ああ、ありがとうございます」

 

 あまりに酷い顔をしていたのか、セバスチャンは元気づけるようにそう言った。

 最も真相としては、あまりに調べることがなさ過ぎて依頼料と仕事の量が見合わなかった故の埋め合わせの様なモノなのだが。

 

 どこか気まずい空気が流れる中……陽色はもそもそと帰る準備を始める。

 

 セバスチャンは忙しいらしく、この後も仕事が入っているためもう帰らなければならないのだ。

 

(結局今日は、気落ちするだけだったな……)

 

 少し期待していた部分があったからこそ肩を落とす。

 そうして肩を落としている陽色に、セバスチャンは声をかけた。

 

「陽色くん!」

 

「……なんすか?」

 

「……これは、君の知らない陽色くんを見た感想だけど……」

 

「……」

 

「彼は何かを恐れていた……様に見えたね」

 

「……」

 

「少なくとも、出会ったばかりの頃には既にそうだった」

 

 恐怖。

 先ほどのセバスチャンの話と照らし合わせると……どうも、陽色の知らない()はあまり良い環境に居たとは言えないようだった。

 

「……だから、気をつけてくれ。今の君にすり寄ってくる存在が全て信じられるモノとは限らない、と。これは個人的な忠告だ」

 

 それは大人が子供へと向ける心配の意でもあり、陽色を調べたが故に生まれた不信感から来る本気の忠告であった。

 

「……ありがとうございます」

 

 そのセバスチャンの思いは真っ直ぐに陽色へと伝わる。

 

「じゃあ、また」

 

「うん! ……グッドラック! 陽色くん!」

 

 そして陽色は……胡散臭いが、屈託のない笑顔を浮かべたセバスチャンに見送られ、探偵事務所を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ。マジか……俺……彼女どころか友達すら居ないのか……」

 

 帰り道に一人。

 陽色は空を見上げる。

 

「……ん?」

 

 そこには、何か金色の粒子の様なものが待っており……現実離れした光景が空を覆っている。

 

(なんか空に光が舞ってるんだけど……)

 

 幻想的な光景だが、どこか……世界から切り離されたような疎外感も覚える。

 

 怪訝な表情を浮かべていると、ふと後ろから声をかけられた。

 

「おーい!」

 

「……」

 

 大きめの声に一瞬ビクッとする。

 チラリと周囲を見渡すも、辺りには誰も居ない。

 しかし陽色を呼びかける声は続く。

 

「おーい! ヒイロくーん!」

 

「……俺?」

 

 そして……とうとう名前まで呼ばれ、振り返る。

 

「って……」

 

 そこに居たのは。

 

「セバスチャン……? どうしたんすか?」

 

「あ~……ちょっと、言い忘れていたことがあって」

 

 さっき別れたときの格好そのままのセバスが居た。

 胡散臭い、屈託のない笑顔を浮かべたセバスは頬を掻いていた。

 

「言い忘れたこと……? でも次の仕事は──」

 

「ああ、うん、そう……本当に……とても重要な情報で、すぐに伝えなきゃいけないことなんだ。次の仕事は少しくらいなら遅れても良いんだ」

 

「はぁ……」

 

 どこか挙動不審なセバスを怪訝に思いながらも……陽色は彼の言葉を待つ。

 

 ──しかし。

 

「僕は……僕は、ね。君と七年もの付き合いがある。だからこれを伝えるのは本当に、本当に迷ったんだけど……」

 

「……」

 

「でもねヒイロくん。コレこそが君の生きる道になってくれればとも、思う訳なんだ」

 

「……?」

 

 しかし、妙に引っ張る。

 余程言うべきか迷っているのか、うーんだとかむむむだとか頭を捻っていたが……遂にセバスは口を開く。

 

「実はね──」

 

 時間にしておよそ数秒。

 しかしその言葉は確実に陽色の意識を奪った。

 

「……え?」

 

 一瞬……陽色はセバスが何を言っているのか分からなかった。

 何せそれはあまりに唐突で、その上とても重要な事だったから。

 

「それって──」

 

「それだけだよ! では──グッドラック! ヒイロくん!」

 

「あ、ちょっ!?」

 

 そして、追求は許さないとばかりに超人的なスピードで駆けていったセバスは一瞬にして陽色の目の前から消えてしまった。

 

「え、えぇ……?」

 

 色んな事が一斉に起こりすぎて何から言えば分からなかった。

 陽色はセバスが言っていたことを、もう一度噛み締める様に思い出す。

 

 そう、セバスは──。

 

『行方不明になっていた妹が日本に居る』

 

「……ッ」

 

 その言葉の意味を理解しようとした瞬間、陽色の脳裏に痛みが走る。

 

 妹。

 

 そう、陽色には妹が居た。

 

 義母の連れ子で、彼と彼女は……最初はあまり良い関係じゃ無かった。

 

 でも段々と彼女は陽色に心を開いてくれて、それで……。

 

 それで……? 

 

「あれ……?」

 

 そういえばなんで今、アイツがいな──。

 

「……ァッああっ……!!」

 

 そこまで考えた所で、陽色の脳裏に痛みが走り、警鐘を鳴らす。

 

 その永遠に続くようにも思える痛みはまるで、今の自己を否定するようなモノで。

 

 世界が光で覆われる幻想的な光景の下。

 

 彼は一人、声にならない悲鳴を上げ続けた。

 

 

「……」

 

 ふと目が覚める。

 全身から汗が噴き出て、寝間着をしっとりと濡らしていた。

 

「……」

 

 今のは、夢……か……?

 

「……いや、違う……思い出した……そうだ、マリアの……マリアが大統領してたときだ……」

 

 丁度そのタイミングで、マリアが全世界に向けて生放送していた。

 

「……」

 

 あれからも何度かセバスチャンと会ったが、どうも()()情報が降って湧いたらしく、俺の妹が日本に居るのは確定的らしい。

 

「……」

 

 俺は目が覚めて知ったが、アイツは俺の記憶が無くなる前後あたりで失踪したのだという。

 

 『俺』も母さんも父さんも……随分探すのに手を尽くしたらしいが……ハッキリ言って諦めていた様だった。

 

 しかし唐突に妹が生きていることと、現在居る場所についてが大まかでは有るが分かってきた。

 

 ああ、そうか。

 

 明日……セバスチャンにそのことについて聞きに行くから、今……こんな夢を……。

 

「……」

 

 妹……。

 

 妹、か。

 

 また、会えるのだろうか。

 

「……キリカ……」

 

 

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