GANTZ:S   作:かいな

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偽物の思い

 ジジジ……という音とともに、部屋に青年が転送されてきた。

 

「……」

 

 昨日とは違ってスーツだけで転送されてきた青年はじろりと辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると軽く息を吐く。

 

「チッ……三日連続だぞ……何なんだ……マジで…………おかしな事ばッか…………」

 

 虚空に向かって悪態を吐きながら、ガンツの黒々とした表面に触れる。

 

「…………何か…………起こり始めてる………………迫ッて……いるのか…………Apocalypse…………」

 

 ガンツは何も答えない。だが青年は何らかの答えを得たのか、ガンツから手を離し、部屋の壁に腕を組んで寄りかかった。

 

「……」

 

 暫く待っていると、ガンツが駆動し誰かが転送されてくる。

 

「……あっ」

 

「……」

 

 体育座りで現れた少女……立花響は、青年の姿を見てどこか安心したような表情を浮かべた。

 意外な反応に怪訝な顔をする青年だったが、すぐにまた無表情に戻す。

 

「あ、あの、お兄さ……」

 

『あーたーらしーいあーさがきた』

 

「ぁ……」

 

 歌に邪魔されて立花の声が掻き消えてしまう。

 

「……あの……」

 

「ガンツ! 今日の標的は何だ!」

 

 立花の縋るような声を無視して青年はガンツに命令し、それに呼応するようにガンツが標的を示す。

 

こいつをたおしにいってくだ

 

ノイズ

特徴

 ・道具

好きなもの

 ・ない

 

「……やっぱ……ノイズか……」

 

「……」

 

 青年はめんどくさそうな顔でガンツの表示を見つつ、ちらりと立花に視線を向ける。

 

「……」

 

「……」

 

 何故か酷く落ち込んでいるように見える。

 まぁあれほど殺し合いを拒否していた少女が二日と経たずにこの部屋に呼び出されたのだ。

 落ち込みの一つや二つするだろう。

 そんな風に考えてつつも、特に声を掛けてあげる訳でもなく。

 

 そうして暫く部屋には沈黙が生まれたが、その沈黙を破るようにガンツが開いた。

 

「……」

 

 青年は自分用の銃を二丁ホルスターに詰め込み、ガンツの中にある銃の中で一番巨大な銃を二丁手に構えた。

 

「……」

 

 そこまで準備をしていても、一切動かずにいる立花を見て流石に怪訝に思った。

 

「……おい、新人」

 

「……」

 

「……チッ。無視かよ」

 

 自分の事を棚に上げる姿はまさしく最低なクズ男まんまだが、青年はその事に気付かずに立花に詰め寄った。

 

「……えっ? ちょっ、な、何を……!?」

 

 異様な雰囲気を察して逃げようとする立花だったが、それを押さえつけるように青年は彼女の胸倉を掴み上げた。

 スーツの力で強化された腕力で立花を無理やり吊り上げる。

 

「ひっ……!?」

 

「お前……死にたいのか? 自分の事くらい自分でやれッつの……ほんと、こー言う奴から先に死んでく──」

 

 と。青年はここでようやく一つの事に気づいた。

 掴み上げた胸倉の下に何かの手術跡が見える。しかし今重要なのは手術跡の方ではない。彼女の肌が見えているという事が重要だ。

 

「……お前……スーツ…………」

 

「……」

 

 彼女は転送される直前になってもスーツを着ていない。

 ……いや。どころか、身の着のままで何も持っていないように見える。

 

「……まさか……忘れたのか?」

 

「……」

 

「……チッ」

 

 何も言わずに黙る少女を見て思わず舌打ちを打った青年は、立花を放り捨ててガンツに向かって命令するように叫んだ。

 

「ガンツ! Zガンを二丁だ。すぐに用意しろ!」

 

「……」

 

 立花にはZガンが何なのかは分からなかったが、青年が心底嫌そうな顔をしているのを見るにあまり使いたくないものだと思われる。

 そしてその嫌そうな顔のまま立花に目を向ける。

 

「心底呆れたわ。なんなのお前。死にたいのか?」

 

「……」

 

「あーあ。ほんとマジで……信じらんね……」

 

「ごめん……なさい……」

 

「は? いまさら何──」

 

「……ごめん……なさい……」

 

 青年が苛立ちを隠さずに怒鳴ろうとした、その時。

 今まで黙り込んでいた立花が目から涙を溢れさせながら謝り始めた。

 

「……ごめん……なさい……ごめんっ……なさい……っ」

 

「……」

 

 ここで漸く、青年は立花が普通の女の子であることを思い出した。

 

 しかし残念なことに、青年はこのような状況で普通の女の子にどう接すればいいのかを知らない。

 

「……チッ。こいつ持ッとけ」

 

 故に。彼に出来たのは、自分が持っていた銃を立花に渡すことだけだった。

 

「っ……うっ……ぅぅっ……ふぐっ……」

 

「……」

 

 青年は立花の涙から逃げるように、ガンツの奥にある扉を開けて中に入っていった。

 

「……うっ……ううっ」

 

 暫くの間、部屋には立花の泣く音だけが響き……次第にその音も消えていった。

 

 ◇

 

 昨日、家に帰ろうとした時。もう一人の私が居た。

 その時は得体の知れない不気味さからもう一人の私に声を掛けることは出来なかった。

 

 結局、一夜を近くの公園で過ごすことになった。

 

 そして朝。

 

「あっ! お姉ちゃん!」

 

「うぇっ!?」

 

 いきなり後ろから声を掛けられビクッとする。

 

「お姉ちゃん! 昨日はありがとう!」

 

「え……ああ! 昨日の子!?」

 

 振り返ってみれば……昨日、ノイズから逃げていた時に連れていた少女の姿が有った。

 

「だ、大丈夫だった!?」

 

「うん! お姉ちゃんに助けてもらっ……あ、言っちゃいけないんだった……」

 

「……え?」

 

「うん……これ言っちゃうと私、せいじはんになっちゃうんだって……」

 

「政治犯……」

 

 ……何を言ってるのだろう。

 

「……」

 

 ……良く分からないけれど……この子が無事で良かった……。

 

「……でも、昨日のお姉ちゃん凄くカッコよかった!」

 

「……え?」

 

「ノイズをぎったんばったん倒していって、私を助けてくれたんだもん!」

 

「……え? あ、う、うん!?」

 

「ねね! 昨日のお歌また聞かせて!」

 

「……」

 

 昨日の……歌? 

 私にはこの子が何を言っているのかが分からなかった。

 だって、昨日はノイズに追われるばかりで、歌なんて歌う余裕はなかったはずだし……。

 

「ご、ごめんね? ちょっとお姉ちゃん、言ってる意味が……」

 

「……あれ?」

 

「え?」

 

「なんでお姉ちゃんが……もう一人いるの?」

 

「──え?」

 

 バッと振り返ると、そこには寮から出て学校に通うもう一人の私と……。

 

「未来……」

 

 もう一人の私と一緒に歩く、私の一番の友達の姿が有った。

 

「……なん……で……」

 

 未来。私の一番の友達で、私の陽だまり。

 未来が『私』に向かって浮かべる笑顔は、いつもの……私に向かって向かべる笑顔と何も変わっていない。

 なんとも言えない喪失感を感じ、同時にじわじわと怒りが湧いてくる。

 

 なんで。気付いてよ未来。私はここに──。

 

「な、なんで……? お姉ちゃんの偽物……?」

 

「──」

 

 今まで憧れの目で見てきた女の子が、打って変わって不気味な物でも見るように私を見てきた。

 

 偽物……私が……にせもの……。

 

 その残酷な言葉はどこまでも私の心に突き刺さり……じわじわと嫌な確信が広がっていく。

 

 ……もしかしたら。

 

 もしかしたら、本当は私はあの時死んでいなかったのではないだろうか。

 どうにかノイズを潜り抜けて、この子を守り通したんじゃないだろうか。

 

 でもガンツはノイズに迫られた『私』を死んだものだと勘違いして……私を蘇らせた。

 

 だから、私が二人いる。

 事実……この子は生きているし、もう一人の『私』も普通に生活を続けている。

 

 もし、この推測が……当たっていたのなら……。

 間違っているのは未来じゃなくて──。

 

「私……が……偽……物……?」

 

 気付けば、『私』から逃げるように走り出していた。

 

 どこに向かうでもなく走り続けて……唐突にあのお兄さんの顔が浮かんできた。

 

 何となく、お兄さんなら私の事について何か知っているかもしれない、と。

 何の根拠もなく考えて、あのマンションまで戻ってきていた。

 

 でも。

 

「……開けて! 開けてください! お兄さん!? 居るんですか!? お願いです! 開けて──」

 

 玄関には鍵が掛かっていて開けられず、呼び鈴を鳴らしてもドアを叩いても何の反応も返ってくることはなかった。

 

「……なんっ、でぇ……開けて……ください……お願いします……お願い……」

 

 どれだけ懇願しようとドアが開くことはなく。

 けれどドアが開くことを期待して、ずっとずっと……待っていた。

 そうしてドアの横に座ってたまに呼び鈴を鳴らして待っていたら、ついに夜になってしまった。

 

「……」

 

 流石にもう帰るべきかな。

 

「帰る?」

 

 ……どこに……帰ればいいの? 今家に帰っても……その陽だまりにはもう、『私』が居る。

 

「……っうぅぅっぅぅぅ」

 

 涙がぽろぽろと溢れて止まらない。

 そうして一頻り泣いていると、急に首筋にゾクゾクと寒気が走った。

 

「……? え、なっ、なに!?」

 

 最初は何かの勘違いかと思っていたが、暫くしたら身体が金縛りにあったかの様に動かなくなった。

 訳もわからないままで居ると、どこか聞き覚えのある電子音と共に視界が変わっていく。

 

「……あっ」

 

「……」

 

 あの部屋に転送されていた。

 そして何より、今回は最初からお兄さんがいた。

 

 一瞬安堵してお兄さんに話しかけて……。

 

「ガンツ! 今日の標的は何だ!」

 

 その直後に私を無視し続けるお兄さんに絶望した。

 まるでいないものかの様に扱われて、心が張り裂けそうになる。

 

 そして──。

 

『お前……死にたいのか? 自分の事くらい自分でやれッつの』

 

『心底呆れたわ。なんなのお前。死にたいのか?』

 

『あーあ。ほんとマジで……信じらんね……』

 

 お兄さんにスーツを忘れた事を指摘されて、ぼろぼろに貶されて。

 もう、全部が限界だった。

 

「……ごめん……なさい……ごめんっ……なさい……っ」

 

 お兄さんに銃を渡された後も、ただただ泣いて……。

 

 景色が変わり、どこかの路地裏に放り出された後も渡された銃を抱えて座り込んでいた。

 ここに来た時から断続的に鳴り響く破壊音は途切れることなく鳴り響き続ける。でも私はその破壊音から逃げ出すわけでもなく、ただジッと……しくしくと泣きながら膝を抱えていた。

 

 ◇

 

 私の人生って何なんだろう。

 

 二年前、ツヴァイウィングのライブで、その大事件は起こった。

 ライブ会場でのノイズの大量発生。十万人以上いた観客たちがその被害に遭って……一万人もの人が亡くなった。

 私も、そのライブを観に行ってて……ノイズに襲われた。

 

 でも、助けてもらったんだ。あの人に……ツヴァイウィングの天羽奏さんに。

 

 奏さんは同じツヴァイウィングの翼さんと一緒にノイズと戦っていた。

 

 その時の戦いの衝撃で私は大けがをしちゃって……。

 でも手術をして、その後のリハビリも頑張って、家族の皆に元気な姿を見せられるように頑張った。

 

 けど、結果としてその頑張りは……家族の皆が不幸になる結果に繋がった。

 

 ノイズの被害に遭うと、政府から補助金が支給される。

 それは炭にならずに生き残って、元気な私にも支給された。

 

 世間はそんな私を卑怯者と貶して……私は学校で虐められた。

 知らない人から石を投げられたり、暴言を書かれた紙を家に張り付けられたり。

 

 そうしてる内にお父さんは失踪してしまった。

 

 私のせいで……私のせいで家族はボロボロになってしまって。

 

 ……いや。そもそも私は……その『立花響』ですら……。

 

「……」

 

 私の人生ってなんだろう。

 

『──』

 

 気付けば……私はまたノイズに囲まれていた。

 

「……」

 

 けどもうどうでもよかった。

 泣いてる間に、ずっと考えていた。

 

 陽だまりから外れた私に意味なんて無い。

 

 きっと私は偽物なんだ。

 

『──』

 

「……」

 

 ノイズが腕を振り上げる。

 ああ……私は……。

 

『生きるのを諦めるなッ!』

 

「……っ」

 

 直後、脳裏に響いたのは……命を賭して私の事を助けてくれた恩人の……奏さんの言葉。

 なんで。何でこんな時に……そんなことを──。

 

 しかしもうノイズの攻撃は避けられない。

 ノイズは無機質に腕を振りかぶって──。

 

『──!?』

 

 バンッ、という破裂音が鳴り響いた。

 

「……ぇ?」

 

 それは全てのノイズを同時に捉え、ノイズの機能を停止させていく。

 ノイズの残滓が煙と舞う中……煙を越えてその人は現れた。

 

「……」

 

「……お兄……さん……」

 

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