GANTZ:S   作:かいな

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夢か

 立花響。

 彼女はおよそ一年前に、ノイズの炭素転換を受け付けない『シンフォギア』と言う力を手にした。

 

 では『シンフォギア』とは何か。

 それは特異災害対策機動部二課所属の櫻井了子の提唱する「櫻井理論」に基づき、聖遺物(所謂世界各地の神話や伝承に登場する超常の性能を秘めた武具)から作られたFG式回天特機装束の名称である。

 この特殊武装は先述の通りノイズの持つ人間に対しての特攻を打ち消す効果を持つが、それ以上にも圧倒的な戦闘力を誇り……現行の日本国憲法においてその扱いは非常に危ういモノとなる。

 

 その様な力を手にした少女は、今日に至るまで様々な事件に巻き込まれてきた。

 

 それは一年前、フィーネと呼ばれる先史文明期の巫女が引き起こした、月の破壊を目的とした"ルナアタック"。

 それは数ヶ月前、米国連邦聖遺物研究機関、通称F.I.S.が月の落下を阻止するために引き起こした"フロンティア事変"。

 

 立花響はこれらの事件を、多くの協力の下解決していった。

 

 そして、今……。

 

 彼女はまたしても、ある事件に巻き込まれようとしていた。

 

 ──新たなる敵。

 それは錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイム。

 

 彼女は、世界を壊すと宣言し……同時多発的にシンフォギア装者を襲撃する。

 

 彼女は何を思い、何を為すのか──! 

 

 ◇

 

「嫌だよ……私、戦いたくなんて──!」

 

「……チッ」

 

 立花響は、戦うことを否定する。

 その言葉は、彼女の前に立つ青いメイド服の様な衣装を纏った存在……ガリィ・トゥーマーンを苛立たせる。

 彼女は気怠げに腕を振るい……地面に何かを放り投げた。

 それは中央に赤い光が宿った結晶のようなモノ。

 地面に衝突したそれらは某かの紋章を描き、怪しく光る。

 

 ──そして。

 

「あんたみたいに面倒くさいのを戦わせる方法はよーく知ってるの」

 

 ノイズが、姿を現す。

 

 それらはただのノイズでは無い。アルカノイズと呼ばれるそれは、ノイズのレシピを基に、錬金術の技術を用いて作られた分解能力を強化したノイズである。

 世界を解剖する目的の下究明され続けた錬金術の技術をふんだんに盛り込まれたノイズは、通常よりも攻撃に特化した性能をしており……ノイズの炭素転換を無効化できるシンフォギアですら、たちまちに分解されてしまうほどである。

 

 事実……立花響以外のシンフォギア装者、風鳴翼と雪音クリスのシンフォギアは、アルカノイズとの戦闘の際に破壊されてしまった。

 

 そのアルカノイズ達を前にして、立花響は戦闘を行う以外の選択肢を失ってしまう。

 何せ彼女の背後には一般人である友人達が居るのだ。

 戦わなければ彼女たちに危険が及んでしまう。それを理解してのアルカノイズの使用は、ガリィという存在の性格の悪さがにじみ出ていた。

 

「……っ」

 

「こいつッ、性格悪っ!」

 

「私達の状況も良くないって……!」

 

 口々に騒ぐほか無い彼女たちの前に立った立花響は、シンフォギアを取り出し起動を試みる。

 

 シンフォギアの起動。

 それに必要となるのは、胸に浮かぶ歌詞を歌うことである。

 

 通常であれば、シンフォギアを使いたいという強い想いに応えるように起動するのだが──。

 

「……嘘……歌が……ッ!?」

 

「……あん?」

 

 立花響は、迷っていた。拳を振るう意味に。

 そしてその迷いは正しくシンフォギアへと伝わり……第三号聖遺物「ガングニール」は、彼女を拒否した。

 

 何時までも浮かぶことの無い歌に焦燥感を露わにする立花響だったが……。

 それはガリィにとっても想定外のことだったのか、眉をひそめて怪訝な顔をする。

 

「あぁん? 何? 纏えないのか? シンフォギアを」

 

「っ……」

 

「はぁ~……萎えるんだよねぇ~そう言う事されるとさあ~……」

 

 だがそんな事情など知ったことかと、彼女は手を振るう。

 アルカノイズ達はガリィの指示に従うよう、動き始める。

 

「その頭の中のお花畑、踏みにじってあげる」

 

 今、ガリィは浮ついていた。

 彼女には計画があった。しかしそれは、立花響がガングニールを纏わなければ始まらない。

 ……故に、否が応でもシンフォギアを起動させる必要があった。

 

 故にこそ、彼女は立花響の友人を巻き込んだ。

 しかしその効果もあまり得られず──今、彼女の心には僅かないらだちがある。

 

 そして──。

 

(……ギアを纏えないコイツと戦った所でたいした意味は無い……ここは試しに──)

 

 一閃が彼女の脊椎を強襲した。

 

 ◇

 

 飛びかかるように斬りかかり、全体重を掛けた一撃は……間違いなくこの化け物の後頭部から首に掛けてを叩きつけた。

 ノイズまで召喚し始めて、とうとう本格的に化け物である事を証明したこの謎少女。

 見た目は人のように見える存在をぶん殴るという事に少なからず動揺があったが、しかし寸分違わず狙った場所を叩っ切った筈だ。

 

 だが。

 

「えっ!?」

 

 目の前から見知った少女の驚愕したような声が聞こえる。

 しかしそれに構っている隙は無い。

 

 ヤバい。

 なんだコイツ。

 背中に小ジャンでも仕込んでいるのか!? 

 

 異様な堅さに逆に自身の手の方に衝撃が走り、木刀を手から溢しそうになる。

 何より……攻撃されたというのに痛む仕草もせず、首だけぐるりとこちらに向けた『化け物』に少なくない衝撃を受ける。

 

「っふ──」

 

 即座にスライディングするように彼女の股下をくぐり、狙い澄ました一撃を両足の脛を打ち払い、バランスを崩す彼女に追撃はせず──立花さんの下へと向かう。

 

「逃げろッ! 立花さん!」

 

「っ、陽色さん!?」

 

 しかし、彼女の下に向かうよりも早く……ノイズ達に包囲される。

 視線を感じ振り返ると、急所を突いたはずなのに平然と立ち上がった『化け物』がこちらを見ていた。

 

「なーにすんのよ……つか誰?」

 

「……」

 

「だんまりかよ……ああ、もしかしてあれ? コイツらの中に知り合いがいるとか?」

 

「……逃げろ……早く……」

 

「ああ、やっぱそういう……はぁ~熱いねぇ~…………」

 

『化け物』は予想通りに化け物だった。

 不気味に笑みを浮かべた彼女は、悪魔的に腕を振るう。

 

「私──そーいうの踏みにじるの……だぁい好き!」

 

 ああ、くそ。

 夢だわこれ……。

 だって相手ノイズだもん。銃持ってる自衛隊ですらどーしようも無い相手だもん。

 木刀でどうしろって言うんだ……。

 

 ある種諦観のような感情が渦巻き、死が迫る。

 

 ちらりと視線をずらすと、そこには絶望の表情を浮かべた立花さんが居る。

 頼む……こいつらが俺に向かっている内に逃げてくれ。

 

 そう言ってあげられる程の余裕も無く。

 ノイズの触手のような腕が迫り──。

 

「ふっ──」

 

 それを回避する。

 

「おぉ~! なにぃ~踊ってくれるってぇ~!?」

 

 しかしノイズは一体だけでは無い。

 数多の触手が迫り、更に死が近づく。

 

 あ、もうこれは夢だ。

 

 現実味ってモノが無い。

 

 ああ、ここで死んだら夢から覚めるかな……。

 

「──」

 

 そして迫る数多の触手を地面を滑るように回避し──。

 

 腕を伸ばしきったノイズへと近づく。

 ああ、ノイズって近くで見るとこういう感じなんだな……。

 そんなことを思いながら、反射的に腕を振るい。

 

 一閃。

 

 ノイズの伸ばしてきた腕を振り上げるような一撃で払い、叩っ切る。

 

「──ん?」

 

 何か違和感を覚えつつも、返す刀で腕を失い困惑しているノイズの脳天をかち割り──ノイズを塵へと帰す。

 

「……」

 

 一体のノイズが消失し──周囲から音が消える。

 それは困惑にも、驚愕にも思える。

 

「……」

 

 何より、俺がいの1番に驚いていた。

 

 ……あれ? 

 

 なんかノイズ倒してね? 俺……。

 

「……」

 

 なんか……思ったより夢だな……これ……。

 

 

 ◇

 

 呆然と立っていた陽色は、背後に向かって声をあげる。

 

「……逃げろって……言ったはずだ」

 

「えっ、あっ……」

 

「早く逃げて助けを呼んでくれ」

 

「で、でもっ……」

 

「いいから行けッ」

 

「っ……」

 

 陽色が何時になく声を荒げ、少女を守るように木刀を構える。

 

(……思ったより攻撃が通じる……どういう事だ? ノイズに通常攻撃は……)

 

 そして脳裏に様々な思考を走らせつつ、放心したように立ち呆けているアルカノイズへと向け、一歩を踏み出す。

 

「……チッ!」

 

 そしてこの場で1番に動揺していたガリィもまた、気を取り直したように舌打ちを打って腕を振るう。

 

 しかし。

 

「……」

 

 迫る触手達を、陽色は全て紙一重で回避していく。

 

「チッ、畳みかけろッ!」

 

 いらだちを隠せぬ様子のガリィの指示に従うように──アルカノイズ達は息を合わせ、触手を全くの同タイミングで抜き放つ。

 

 それは正しく即死の一撃、その連打。

 確実な死が陽色へと迫り……死へと近づくたび、陽色の心に何か冷たい感情が、興奮が湧き上がる。

 

「──」

 

 笑みすら浮かべた陽色は、即座に現状の攻略法を導き出す。

 折り重なるような攻撃には、僅かに存在する生存可能領域を見抜き──そこに体を滑り込ませ、腕を伸ばしきって棒立ちのノイズに容赦なく攻撃を抜き放つ。

 

『──』

 

 連携が崩れ、飽和するノイズ達の攻撃。

 目の前に居る彼らは、攻撃を集中させるためなのか集まった状態で腕を伸ばしきっている。

 

 それを認識した瞬間、陽色は渾身の力を足へと込める。

 

 そして──。

 

「ふっ──」

 

 正しく一息に、アルカノイズを両断した。

 

「……」

 

「……」

 

 アルカノイズ。

 通常のノイズと違い、攻撃に特化した性能で作られた彼らは……ある一つの欠陥を抱えていた。

 それは位相差障壁に用いられていたエネルギーを分解能力の向上にあてているというアルカノイズの構造上……攻撃時には、通常物理法則からのエネルギーの減衰率が低下してしまうのである。

 防御を犠牲にして破壊力を突き詰めた結果、物理に弱くなってしまったのである。

 

「……てめぇ……本当に人間か……?」

 

 ──だが。

 だからといってただの人間にやられるほどアルカノイズは柔では無い。

 このような事態になることなど想定もして居なかったと言わんばかりに……ガリィは言葉を溢す。

 

「……もう、逃げてくれたみたいだな……」

 

 そんなガリィの言葉には応えず、周囲を見渡して立花響達が退避している事を確認する。

 そんな陽色の態度にあからさまに機嫌を悪くしたガリィは、いらだちを隠さずに……バレエでも踊るように構える。

 

「てめぇ……無視すんじゃねーよ」

 

「……」

 

 一切口を開かずに、陽色はあくまでも無表情で──ぽつりと呟いた。

 

「お前、人間か……?」

 

「あ?」

 

「……いや人間な訳がねぇ……じゃあなんだ……お前は……」

 

 ◇

 

「私が誰とか……そーんなに気になる?」

 

 化け物は何か楽しそうに嗜虐的な笑顔を浮かべ、クツクツと笑う。

 

 初めてだ、化け物を見たのは。なのに何だ……この既視感は。

 前にこんな感じに……命のやり取りを……殺し合いをしていた気がする。

 

 コイツが直接動いた所を見たことは無い。

 だが分かる。

 コイツは糞速ぇ。きっと動いた瞬間に俺はコイツを見失ってしまう。

 

 ほら、動くぞ。

 ほら……もう少し……。

 

「ッ──!」

 

 ほら来たッ! 

 視界から化け物が消えた瞬間──背後に風が舞う。

 即座に膝をつき、回避する。

 

「ああ゛!?」

 

 驚愕の声を上げた化け物は、腕を伸ばしきった状態でいる。

 そのノーガードの顔面に木刀を突き立てる。

 

「ぶっ!?」

 

「──チッ!」

 

 しかし化け物の面の皮に──木刀では歯が立たなかった。

 真ん中でへし折れた木刀に舌打ちを打ちつつ──折れた木刀を放って化け物の腕へ絡みつく。

 

「っ、てめ」

 

 腕を取った状態のまま足を払って化け物を転ばし、体全体で絡みつく。

 そして即座に腕の関節を決める。

 

「っ、この──」

 

 殴った感触的にどうあがいても殴り合いでコイツの体に傷はつけられない。

 ならコイツの体でコイツを壊す……! 

 虚を突いた状態だからこそ決められた腕ひしぎ。だからこそ渾身の力を込めて──。

 

「ッ、ルアアあああッ!!」

 

「──あ」

 

 べきッという妙に軽い音が鳴り響き……腕をもぎ取った。

 

 そして、もぎ取ったその腕を見て驚愕する。

 まるで人形の球体関節の様な残骸が引っ付いたそれは思っていたモノと違っていた。

 

 こいつ、何で出来て──。

 

「……許さない」

 

「ッ!」

 

 即座に腕を放り捨て、バク転の要領で──発生した氷柱から身をそらす。

 喪服のようなスーツをはためかせて、化け物から距離を取る。

 

「……」

 

「いいわ。そーんなに死にたいのなら──」

 

 先ほどの氷柱がなんなのか。

 その推察を終わらせるより先に──魔方陣が浮かび、氷の礫が大量にそこから現れ出る。

 

「ぶっ殺してやるよォッ!」

 

「ッ──!」

 

 射出されたそれは躱せた。

 だが、その先が続かない。

 気付けば目の前に──化け物が居た。

 

「がっッ!?」

 

 即座にガードするも、ガードに使った両腕が砕ける音が聞こえ……そのガードを超えて腹に化け物の腕が突き刺さる。

 

 瞬間、とんでもない衝撃が全身に駆け巡り、そのまま吹き飛ばされる。

 何メートル吹き飛ばされたのか。

 気絶しかけた朧気な思考では数を数えることも出来ず──しかしこのまま受け身を取れずに地面に激突したら死ぬことだけは理解した。

 

「……」

 

 死。

 それが迫っているのが理解できた。

 

 そして、人生でたった一度しか訪れないであろう死の経験に……唐突なデジャブが浮かぶ。

 

 そうだ。

 

 思い出した。

 

 俺は確か、前にもこんな風に地面に──。

 

 そして長い滞空をへて……ぼふっと、何か柔らかいモノに受け止められた。

 

「……?」

 

 思わず視線を上げると、そこには……。

 

「……マ……リア……?」

 

 何故か変なコスプレをしたマリアがいた。

 え? 

 何で? 

 

「よく持ちこたえたわね」

 

 既に思考は途切れ途切れ。

 しかしそんな頭の中にはいろいろな感情が吹き乱れる。そして考えれば考えるほど、一つの結論が見えてくる。

 

「……」

 

 ああ、やっぱりこれ……。

 

「……ありがとう。私が来たからには死なせないわ」

 

 夢だった──。

 

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