GANTZ:S   作:かいな

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再会

 目が覚める。

 最初に目に入ってきたのは……知らない天井だった。

 

「……」

 

 この展開二度目だな。

 そんなことを思いながら視線を横にずらすと、そこには医療ドラマとかでよく見る機械が置かれている。

 

 おぼろげな記憶を思い出しつつ……霞がかかった頭でどうにか考え出し。

 ああ、と察した。

 

 ここは病院で、どうやらあの化け物との出会いは……やはり現実のことだったということに。

 

「……」

 

 いや、でも最後のマリアに関しては俺の夢だろ。

 

 夢と言うよりも走馬灯か。しかし、死を覚悟したときに出てくるのがプリキュアみたいなコスプレしたマリアとか……俺の願望歪みすぎでは……? 

 

 自身の走馬灯が家族との思い出とかではなくコスプレマリアであったことに多少のショックを受けつつも、モゾモゾと体を動かして情報を収集する。

 どうやら俺は色んな管に繋がれているようで、両腕に至っては包帯で厳重に固められている。しかもついでとばかりに両腕まで覆うように包帯が巻かれていて、満足に手を動かすことも出来ない。

 この手でどうやってトイレすれば良いんだ……。

 

 軽い絶望を覚えつつも、自身の両腕から視線をあげて、再度詳しく病室を見て回る。

 至って普通の病院のようだ。この部屋に同居人はいないようで、完全に個室である。しかも割と……というか、俺が見てきた病室でも最上位にでかい。

 

「……ん?」

 

 ずいぶん良い待遇だな……と思いながら部屋を見渡していると、ドアの前に人の気配を感じる。

 

 いつの間に人の気配とかわかるようになったんだ……? 

 なんて首をかしげていると、自身の感覚が正しかったことの証明のようにドアが叩かれた。

 ここで黙っていてもしょうがないのでどうぞと答えると……赤髪の、筋骨隆々の男性が入ってきた。

 

「失礼する」

 

「……ッ!?」

 

 瞬間、全身の筋肉が硬直する。

 一見場に変化は見受けられない。そりゃそうだ。この男……非常に巧妙にその力を隠している。

 

 だが、その実圧倒的な実力を持っている。

 

 相当な実力者であり、また自身よりも遙かに“上”の領域の存在の登場に……自然緊張がほとばしる。

 

「……あなたは……」

 

「俺は国連のS.O.N.G.司令、風鳴弦十郎だ」

 

「は、はぁ……」

 

 国連というワードの強さは半端じゃない。そっちに釣られ過ぎてどっかの司令の風鳴さんであることしか分からなかった。

 というか、警戒に意識のリソースを割きすぎてそれ以外のことを考えられない。

 俺は何をここまで警戒して……。

 

「……な、何か怖がらせてしまったかな?」

 

「あ、いえ……」

 

 と。その長い肩書きからは信じられないほど柔和な笑顔を浮かべた風鳴さんは、俺の警戒が解けたのを見てホッとしたように胸をなで下ろす。

 風鳴さんはちらりとベッドの横の椅子を見て、座ってもいいかなと尋ねてきた。

 先ほどは異様な程に警戒をしてしまったが……よくよく見てみれば、何を怖がっていたのか分からないほど優しげな人だった。なのでそれを特に断る必要は無く……どうぞと促した。

 

「失礼する」

 

 風鳴さんはその巨体には似合わない小さな椅子に腰掛けて、ぽりぽりと頭を掻いてから話を始めた。

 

「もう一度自己紹介をしよう! 俺は風鳴弦十郎。さっき言ったSONGってのは……超常災害対策本部……まあつまり、変な事件が起こったときに、それを解決するための部署で、俺はそこの司令をしている」

 

「はぁ」

 

「今回俺がここに来たのは……アレと戦った君なら分かるかな?」

 

「……」

 

 風鳴さんが言わんとする事は理解できた。

 しかし。

 

「……まさか、怪物と戦う組織があるなんて知りませんでした」

 

 そんなアニメみたいな組織が国連にあったなんて知らなかった。

 

「はっはっは! 怪物と戦うのは自衛隊だけの特権では無いと言うわけだ!」

 

 風鳴さんは俺の言葉に快活に笑うと、そのまま真剣な顔つきになった。

 急に変わった雰囲気にドギマギしていると、風鳴さんは口を開く。

 

「俺がここに来たのには二つ理由がある。一つは、今回の事件の事後処理についての説明。そしてもう一つは……俺が直接、君への感謝を伝えたかった」

 

「え?」

 

「君の協力に感謝を。君のおかげで被害は最小限に抑えられた」

 

 そう言って風鳴さんは頭を深々と下げてきた。

 

「ちょっ……そ、そんな感謝されるようなことしてませんッて……頭を上げてください!」

 

「いや……君は確かに、あの場に居た五人の命を救った」

 

「……」

 

 五人の命。

 つまりは立花さんと小日向さん。そして残りの三人は立花さんのお友達か。

 

「……倒れていた人達は……」

 

「……」

 

 沈黙は、俺の問いへの答えを示していた。

 

 ……俺が救ったという人数は、あそこで倒れていた人の数よりもずっと少ないモノ。

 つまりまぁ、そう言う事だろう。

 

 あの時倒れていた人は、既に死んでいた。

 結局助けることは叶わなかった、と言うことだ。

 

「……やっぱり、顔を上げてください。俺……そんな褒められるような事して無いっす。それに──」

 

 それは、言うべきか迷った事だった。

 しかし……これを言わねば風鳴さんは顔を上げてはくれないだろうとも。思う。

 

「俺……あの時、本当なら逃げようとしていたんです」

 

「……逃げようと……」

 

「……はい……」

 

 そも、俺は本当なら逃げようとしていた。

 それを無理矢理な理屈をつけて割り込んで……。

 

 ……ああ、そうだ。

 

「俺は……俺はあの時……逃げるだけの勇気も無くて……なのに、聖人君子気取って割り込んで……」

 

 俺はあの時、逃げる勇気すらなかった。

 過去に後ろ髪を引かれて、無理矢理に体を動かしていただけだ。

 

 だから戦った。だから守れた。

 俺の行動は決して褒められるようなモノでは無い。

 

「……そうか」

 

 そこまで言ってようやく風鳴さんは顔を上げてくれた。

 その表情にはどこか……同情というか、憐憫の色がはらんでいた。

 

 そして。

 

「逃げる勇気、か」

 

「……え?」

 

「確かに、時には重要だ。だがな……本当に勇気が無い奴が、アレに立ち向かえるとは俺は思えないな」

 

「……」

 

「暁君。そんなに自分を嫌ってやるな。君と会ったのは初めてだが、流石に痛々しくて見てられん」

 

「……」

 

 諭すような優しい言い方で、風鳴さんは俺を叱った。

 その優しい雰囲気は……どこか懐かしくて……。

 

「……」

 

 ……懐かしい、感覚だ。

 こんな風に誰かに労って貰ったのは。

 

 どこか気まずい空気が流れるも、その空気を打ち払うように風鳴さんに尋ねる。

 

「あの……それで、事件の後処理って……」

 

「……ああ! そうそう。実は今回の事件に当たってだね……幾つか説明しなければいけない事や……君に記名して貰いたい書類があるんだ」

 

「は、はぁ……」

 

 説明というのは、この病院の入院費についてとか、事務的な話と、あの場の大まかな顛末について。

 そして記名して貰いたい書類というのは──。

 

「……これなんだが」

 

 そう言って風鳴さんが差し出してきた書類には、でかでかと誓約書と書かれていて……内容を要約すると『この事件で見たモノを口外したら政治犯として扱うよ!』という内容のモノだった。

 小難しい言い回しをしていたため内容を理解するのに三回くらい読み返したが、多分そう言う内容だ。

 

 ……って。

 

「え、政治犯……?」

 

 日常生活を送る上で一切出てこないであろう単語の登場にギョッとする。

 

「……非常に申し訳ない。だが、君が相手取った存在が外……まぁ、外国などにバレるとなかなか厄介でね……」

 

「……」

 

「この宣誓書は君を守るためのモノでもあるんだ」

 

 協力して貰った相手にこのような対応しか出来なくて申し訳ない。

 そう言って風鳴さんは、感謝では無く謝罪の意を込めて頭を下げた。

 

 ……そこに悪意は無く、善意のみが感じられる。

 それほど俺が手を出した相手はデリケートな存在だと言うことなのだろう。

 

 まぁ、手前勝手の結果が無罪放免な訳……ないよな。

 

「……分かりました。それ位書きますよ。手が使えないんで、時間は多少貰いますけど」

 

「……すまない」

 

 そうして俺は誓約書を何とか……こう、両の手の包帯で挟みながら書いて、風鳴さんに渡した。

 

「ああ、では確かに受け取った……では──」

 

「あの、一つ聞いていいですか?」

 

「ん?」

 

 書類を受け取った風鳴さんに、一つ気になったことを聞いてみる。

 風鳴さんは大まかな事件の流れについては教えてくれたが……そこに、彼女の名前は無かった。

 

 俺はもっと詳しい事件の顛末を知りたかった。

 

 ……いやもっと言えば──。

 

「あの……俺、あの時……マリアがコスプレしている夢を見たんです」

 

「……ほ、ほう?」

 

「すんません。変なこと聞いてるってのは分かってます。ただ……アレが夢だったのか、どうなのか……知りたいんです」

 

「……な、なる程?」

 

 俺は、あのマリアが本当の事だったのか……知りたかった。

 

 何せあのマリアが。

 

 あの、マリアが……だ! 

 

「……それもあの時の……一年前の、潜入捜査してたときのコスプレで夢に出て来て……!」

 

「……」

 

「あれって、本当に起こった事だったんですか!?」

 

「……う、うぅむ……」

 

 ネット上では気が触れたのか? と言われまくった、あのライブ襲撃の時の……女児アニメの変身ヒロインみたいな格好で現れたのだ。

 今ではその時の情報が殆ど消去され、見ることも叶わない姿で……現れたのだ。

 

「あ、あれが……俺の願望だったのか……死の間際に……マリアに抱かれて死にたかったのか……そ、それだけが気になるんです!」

 

「……そう、だな……」

 

「教えてください! 風鳴さん!」

 

 そうして気付けば、今までの会話の中でも最も語気を強めて聞いていた。

 それだけ重要な話だった。

 真マリアなのか、偽マリアだったのか。あの感触は地面との衝突を勘違いしただけだったのか。

 とても大事な事だ。

 

 俺の熱意に負けたのか、風鳴さんは語り出した。

 

「……そうだな。確かに、あの場の解決を行ったのは、マリア君だ」

 

「!」

 

 やはり俺の見たマリアは真マリアだったのか……!? 

 俺の願望が生み出した偽マリアでないことにホッとして、心のダメージが薄れていく。

 

 そんな俺を傍目に、口元を覆って何かを考えていた風鳴さんだったが、妙に真剣な表情で尋ねてきた。

 

「……時に、君はマリア君が戦っている所は……」

 

「ああ、見れてないですね。その前に気絶しちゃって……でも夢……走馬灯じゃ無いなら……良かった……」

 

「そ、そうか。なんだか分からないが、役に立てたなら良かった」

 

 マリアが戦ってる所か。

 ちょっと見たかった気はするが……まぁ、あのレアな格好をしたマリア見れただけよしとするか。

 

 そうしている間にも、風鳴さんは帰る準備を始めていた。

 

「ともかく、俺はこれで失礼する。もし何かあれば……この番号まで連絡をくれ」

 

「? どうも……」

 

 そう言って差し出してきたのは、誰かの電話番号。

 話の流れ的に……風鳴さんのか? 

 

「もし、警察じゃ解決出来なそうな事件が起こったら連絡してくれ。俺達が全力で解決する!」

 

 そう言って筋肉隆々な腕を叩きながら爽やかに笑った風鳴さんは……『俺』が目覚めてから出会ってきた人の中で……初めてセバスチャン以外に信用できると思った大人だった。

 

 ◇

 

 暁陽色。

 彼の両腕は真っ二つに折れてしまった。現時点では、およそ一ヶ月後に退院が決まっている。

 

「……」

 

 彼のする事と言えば、つい昨日全ての管が体から外されたのを良いことに、有り余る体力を消費することだ。

 

 つまる所散歩である。

 

「……」

 

 季節は夏。

 包帯が蒸れて気持ち悪いが、ジッとしているよりはマシだった。

 

 幾らか歩いた所で、ベンチに腰を掛ける。

 

「ふぅ……」

 

 空を見上げれば、夏特有の晴天が広がっている。

 引き込まれてしまいそうな空は、彼の過去に居ていた。

 

「……」

 

 向き合えば向き合うほど底が知れない。

 なにか、得体の知れない何かに引き込まれそうで……その恐怖は、ガリィとの戦いからどんどん増していった。

 

「……」

 

 基本的に暇な時間が多い病院生活故、自身について考える時間が増えた事も要因だろう。

 

 そう、彼は……怖くなっていった。

 自身が化け物と認めたガリィの片腕を、僅か一分も経たない内にもぎり取ってしまったことが。

 

 異様なほどの戦闘力と、その背景。

 

 それが足踏みを続ける現状と相まって……彼の考えを改めさせていく。

 

 ──と。

 

「あれ? 陽色さーん!」

 

 ぼーっと空を眺めていた陽色に、声を掛けてくる少女が一人。

 振り返れば、陽色と同じように病院服を身に纏った立花響が居た。

 

「え? 立花さん?」

 

 思いもしない再会に素っ頓狂な声がでてしまう。

 彼女は手を振りながら近づいてくる。

 

「どーもどーも! いやー私もここに入院していまして……」

 

「えっ!? な、なんで……」

 

「えーっと……検査入院……って言うかなんて言うか……」

 

「えぇ……怪我とかでは無いの?」

 

「あ、それはもう! 私は元気も元気です!」

 

 立花響。彼女と会うのはそこまで久しぶりというわけでも無い。

 というのも、彼女は幾度か友人と共に陽色のお見舞いに来ていたのだ。

 

「へへへ……ペアルックですね!」

 

「それを言ったら入院している人皆ペアルックだよ」

 

「! おお、そうでした!」

 

 そう言って快活に笑う彼女は何時もと変わらず、元気そのものと言った様子だ。

 

「……」

 

 しかし。

 何時もと変わらないはずの彼女に、陽色はどこか違和感を覚える。

 

「あの立花さん?」

 

「? はい?」

 

 その違いなど、それこそ親友以上の存在で無ければ気付けないような、そんな変化。

 

「なんか……あった?」

 

 しかし陽色は、何時もと変わらないはずの立花響の表情に、ほんの少しばかりの陰りを見た。

 

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