GANTZ:S   作:かいな

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置き土産

「……ふぁぁ……」

 

 朝、目が覚めると見慣れぬ天井。

 朝食の良い匂いで目を覚ます。

 

「……? 何処デス……ここ……」

 

 ふと辺りに目を回してみれば……台所の方で、誰かの背中が見える。

 

「……」

 

 その背中に、強い既視感を覚えた。

 

(……ヒイロ?)

 

「ん? 起きたか、キリカ」

 

「……」

 

「……寝惚けてる?」

 

 ひーろーは、フライパンを持ちながら……呆れたようにこちらを見ていた。

 

「……」

 

 何故か、動悸が激しい。

 何故だろう。

 

 ひーろーと初めて会ったときはそうでもなかったのに……何故か今、胸が痛いくらいに鼓動している。

 

 それを誤魔化すように携帯を見ると……その鼓動が一気に高まる。

 

「……ゲゲェ! もうこんな時間デスよぉ!?」

 

 やばいデス! 今日は色々とやらなきゃいけない事が……!

 

「? もしかして授業か……? 今日休日だけど……」

 

「……うっ」

 

 ひーろーはちらりと振り返りながらこちらを見ている。

 その表情はどこか怪訝な感じデス。

 

 うっ……そうデス、今日は祝日……学校でもないのにこんな朝早くから用事があるって……ど、どう言い訳すれば……。

 

「ああ、リディアンって休日も授業有るの?」

 

 と思っていたらひーろーの方から助け船が。

 そうデス!

 と一も二もなく返事をしそうになったデスが、よくよく考えてみたらこの嘘すぐにバレるデス!

 大体それにしたってまだ早い時刻。

 

 うう……どうすれば……はっ!

 

「……違うデス! 授業とかじゃ無くて……そう! 早朝ボランティアがあるんデス!」

 

「……またボランティア? 随分と幅広くやってるんだな……リディアン」

 

 なんだか随分と社会奉仕活動に余念が無い学校になってしまったけど、もうこれでいいデス。

 体の良い良いわけをありがとうデス、未来さん!

 

「って言うか、今日あんまり寝てないだろ……? 大丈夫か……?」

 

「えっ!? だ、大丈夫デスって!」

 

 あはあはと笑いながら手を振って誤魔化すと、ひーろーは怪訝な表情で何か考え始めた。

 

「つか……昨日も危険なボランティアやって今日も早朝からボランティアすんのか……随分ハードだな……」

 

「……」

 

 ……言われてみれば確かに。

 

 世間的には良いことだろうけどノイズ災害の避難呼びかけのボランティアは流石にやり過ぎでは……?

 普通に危ないデスし、昨日の今日でまた普通に活動とか……良いんデスかね? 

 

「まぁ……あんまり根を詰め過ぎんなよ」

 

 ひーろーも心配したのか、労るようにそういった。

 

「ほれ。食い切れなかったら持って帰って良いから」

 

 そしてひーろーは、そう言いながら朝食を差し出してきた。

 そのベーコンと卵が挟まったサンドイッチはとてもおいしそうだった。

 

「おお! 美味しそうデス!」

 

 私は思わずそう言ってサンドイッチに齧りつく。

 

「……? どうしたデス? ひーろー」

 

「……いや、何でも」

 

「……?」

 

 呆れたような……けれどどこか楽しそうなその表情に首をかしげる。

 

 何か良いことでもあったデスかね……?

 

 よく分からなかったけれど、ともかくサンドイッチを可能な限り急いで食べて立ち上がる。

 

「ふぇふぁふぃっふぇふふっふぇす」

 

「……なんて?」

 

 ひーろーは困惑したように苦笑して首をかしげる。

 今度はちゃんとサンドイッチを食べきり、飲み込んでからひーろーに敬礼する。

 

「──では、行ってくるデス!」

 

「……ああ、行ってらっしゃい」

 

 ……な、なんだか『行ってらっしゃい』がむず痒い!

 

「……また来るデース!」

 

 そうした気恥ずかしさを隠すようにひーろーを指差すと、最後にそう宣言してから家を出る。

 

「……」

 

 一人朝の町をかけ、暫く行ったところでその歩を緩める。

 

「……まだ……こんな……なんか変デス」

 

 そうして胸に手を当て、その高まる鼓動の違和感に疑問を呈する。

 

 未だに、朝起きた時のまま……心臓の鼓動は高まった。

 何時もの……遅刻を仕掛けたときや、戦いの中に感じるドキドキでもない。

 

 何時もと違う感覚に頬が赤くなるのを感じる。

 

「切歌さん。こちらに居ましたか」

 

「うぇッへぇえ!?」

 

「え?」

 

 と、後ろからいきなり声をかけられ気の抜けた声が出てしまう。

 

 思わず振り返ると、何というか予想通りというか……緒川さんデス。

 

「い、いきなり話しかけないで欲しいのデス! 心臓止まるかと思ったデス!!」

 

「えっ、あ……す、すみません……」

 

 この人……緒川さんは、たまーに気配を感じさせないまま後ろを取る事があるので、本当に心臓に悪いデス!

 緒川さんは申し訳なさそうに頭を掻きながら、その背後の広場に用意してあるモノを見せてくる。

 

 それは国連が保有する、高級車よりも高そうなゴツいヘリコプターだった。

 

「皆さん、すでに深淵の竜宮跡地に向かわれてます」

 

「うっ、やっぱり遅刻デスか……」

 

「そんな気になさらなくても大丈夫ですよ。さぁ、こちらに」

 

 そうして導かれるまま、そのヘリコプターの中に足を踏み入れた。

 

 

「……嵐みたいだったな」

 

 キリカが家を出て行った後、一人でサンドイッチを頬張りながら一気に静かになった部屋を見まわす。

 

「……」

 

 マジで朝日が昇るまで質問攻めしてきやがったからな。

 食べたお菓子も相応に散らばっていた。

 

「……ま、これ片すところから始めるか」

 

 そうして食べ終わった朝食の片付けを終えると、今度は部屋の片付けを始める。

 

 そして片付けをしながら、今日の予定を立てていく。

 とは言っても、今日は特別バイトもないしな……どうしようか。

 外に出かける気にもなれないし……というか出掛けても金ねーし俺。

 

「……」

 

 あのビル……行ってみるか? 

 思い返されるのは記憶の中に出てきた謎のビル。

 あそこに行けば何か思い出すかも知れない。

 

「……とは言っても、何処だろうなアレ」

 

 そう、俺はあのビルが何処にあるのか分からない。

 ネットのマップでも見ながら探すか……? そんな非効率的なことしか出来ないのか?

 

 そんなことを思いながら、とっちらかった寝間着を洗濯物に放り込む。

 キリカは着替えを下着しか持ってかないという蛮行に走ったため、俺の高校の時の? ジャージを寝間着にした。

 

「……」

 

 と、思わずその高校のジャージを手に取って眺める。

 何処の学校なのかは検索して調べたりはしたが、それでもビックリする位馴染みがない名前だ。

 

「……高校ね……」

 

 覚えてもいない高校の時の記憶について慮っていると……ふと悔しさというか、寂しさのようなモノが溢れてくる。

 

 出来ることなら行ってみたかった。

 

 いや、この体は行ってたはずだけども。俺の実感的には青春の何もかもすっ飛ばされた気分だ。

 

 こういう過ごしていない期間の思い出の品を見せられると、そういう悲しみのようなモノが溢れそうになる。

 

「……ま、良いか」

 

 今そんなこと思ってもどうしようもないし。

 取りあえず片付け片付け……。

 

 着替えを全て洗濯機に放り投げ、ゴミを集めて纏める。

 

「……よし、大体片付いたか……」

 

 部屋が以前までの姿を取り戻していく。

 言いようのない充足感を覚えながら、布団を畳んで端に寄せ、キリカが使ったベッドを整える。

 

 そして、それを終えると本格的に何もすることがなくなった。

 

「……」

 

 時計を見ても、十分ほどしか経っていない。

 マジかよ。

 どうすんだよ今日。

 

 本気でマップ見ながら記憶のビルを探すか……?

 ブラックボールスレでも覗くか……?

 

 駄目だクソみたいな選択肢しかねぇ。

 

 頭を抱えたくなった。そういえば最近ずっとバイトばかりでこういう休日は久しぶりだ。

 どうしよう。

 何しよう。

 

 俺は熟考に熟考を重ね……一つの選択肢を思いついた。

 

「……よし」

 

 体を動かそう。 

 それが一番だ。

 

「よし、折角だから新しい系統のモノでも……」

 

 今まではやってきたのは灘神影流剣術に連なる基本のシリーズ。

 柔術と剣術、そして空手をやってきた。

 

 今回は趣を変えて日本の外の……格闘技をやってみよう。

 取りあえず押入れを開き、そこに置いてある本入れを取り出す。

 

「灘神影流ムエタイ……灘神影流ボクシング……灘神影流グレイシー柔術……灘神影流……ん?」

 

 と、押入れから外国の格闘技の通信教育を出していると、本がコツンと押し入れの壁に当たる。

 その響くような音に……何か違和感を覚える。

 

「……?」

 

 違和感、というか何というか。

 何だろうこれは。

 

「……こっちには何の部屋もない……よな」

 

 ここは角部屋だ。

 そしてこの押し入れは外側に存在している。

 鉄筋の壁を叩いてこんな響いたような音がするわけが……。

 

 もう一度押し入れの壁を叩くと、やはり何か響く。

 いや、響く場所と響かない場所がある。

 

 ……何かが詰まっているのか……?

 

「……」

 

 思わず心臓の鼓動が早くなる。

 何せ……俺の予想が正しいのなら──。

 

「……何か……空間が有る……?」

 

 思わず押し入れに入れてあったモノを全て取り出し、まっさらな状態にする。

 

「……」

 

 だがおかしい。

 前にも押し入れの中身を確認した時がある。

 

 でもその時は確か何も見つかって……。

 

「……あ」

 

 ふと、思い出した。

 当時の俺は……そのままにすることばかり気にして……!

 

 くそったれ。俺はなんて馬鹿なことを……!

 

 そうだ。

 あの時の俺は……()()()()()()()()ばかりに目を向けていた。

 

 押入れそのものなんて特別気にしちゃいなかった!

 

「……」

 

 今度こそ、押入れそのものを何度も確認する。

 

 すると角の一辺に、小さな取っ手の様なへこみが地味に存在していた。

 

 それだけを見たら、ただ傷がついているように見えただろう。

 

 というか、一年前の俺はこれをただの傷だと思ってた。

 

「……まて、まて……………」

 

 俺はその傷……取っ手に手をかけ、引っ張ってみる。

 

 結構な力で引っ張ってもなかなか外れず、少し怖くなる。

 

「……」

 

 もしかしたら普通に押し入れの壁を張り替えただけなのでは? という思いも湧いてくる。

 大体、仮に『俺』がこの壁を作ったとして、一体何を思って作ったんだ? という思いも湧いてくる。

 

「……」

 

 正直ちょっとやめようかな……と怖じ気づこうとした、その直前だった。

 がこっ、という音と共に押入れの壁が……外れた。

 

「え? あ………」

 

 一瞬、やっちまった……と思ったが、しかしそんな小市民な考えはそこに鎮座してあるモノを見た瞬間に吹き飛んだ。

 

「……んだ……これ……」

 

 ──そこには幾つかのモノが置いてあった。

 

 黒く、巨大な二つの銃口の様な物が付いたデカい物体。

 黒く、銃口が三つに分かれた小さな銃。

 

 そして──。

 

「……これ、は……」

 

 まるで導かれるように、その冊子を手に取った。

 

「……ブラックボール……取扱……説明書……?」

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