「……」
転送が始まり、何処かの……森の中へと転送された。
すぐにコントローラーを確認して、星人の位置を把握しようとする。
……そうしてマップを確認していると……幾つかの異常が見つかった。
「……」
まずは、マップ。
マップそのものは問題なく機能しているように思えた。
問題なのは──。
「デカ過ぎんだろ……」
東京都を完全に覆うサイズのエリアだという事だ。
しかも問題はそれだけで無い。
「んだこれ……」
最初は巨大な一つの点のように思えた。
だが違う。
大量の星人が集まり、それが重なって巨大な一つの点に見えているのだ。
明らかに異常な数。
……しかもそれらが、恐ろしい速度で──
巨大な一つの点が、端の方から徐々に崩壊して行っている。
一瞬、バグか何かが起こったのだと思った。
何故か制限時間も消えているし……俺が部屋に居た頃と違うことが幾つも起こっている。
「……ともかく、行くか」
復帰戦でこれとか……勘弁して欲しい。
手元にZガンを携えながら、用意しておいた飛行ユニットで星人達が消えていった地点を目指す。
「……」
飛行中、ステルスを起動しながら東京の空を駆ける。
やはりここからじゃ地上で何が起こってるのかはよく見えない。
……だが、そのマップの一点以外は特に何も問題は──。
「っ!?」
ビュンッ、という風が巻き起こる。
思わず態勢を崩し掛けたが、すぐに立ち直る。
すぐに風の発生源を探ってみると、それは思いのほかすぐに見つかる。
……というか爆音を鳴らしているのですぐに気付く。
ヘリだ。
ヘリがこちらに向かってすさまじい速度で空を駆けている。
「……チッ!」
何でこんな所にヘリ飛ばしてるんだよ。
少し距離を離す様に飛行ユニットを操る。
何かの取材か何かか……?
ったくどこのテレビ局──。
「っ!? 今度は何だ!?」
何て思っていると……今度は東京中から光の柱が立ち上り始めた。
思わず後方を確認すると、俺が先ほどまで居た場所の辺りで一つだけ色がおかしい光の柱が発生している。
「……おい……マジで何が起こって……っ」
呆気にとられていると、先ほどのヘリとすれ違った。
爆音と空気の圧が俺に襲いかかるも、ヘリの全容は確認できた。
そのヘリには……S.O.N.G.のロゴが記されていた。
「……風鳴さん……?」
……何か……有るのか……?
飛行ユニットを空中に停止させ、後方へと目を向ける。
「……依然コントローラーには反応なし……か」
だが、星人の反応は見られない。
あちらに星人は居ない……筈だ。
「……」
で、あるのならば俺が行くべきは星人の方だろう。
S.O.N.G.のヘリって事は風鳴さんがあの謎の光に対応してるって事だろうし……なら問題は無いはずだ。
飛行ユニットを操り……当初の目標で有る星人達の密集地へと向かった。
◇
そこは、東京でも屈指の広さを持つ新宿御苑。
常で有れば都民の憩いの地であるその場所は、今では悲惨な戦いの場と変わっている。
「……」
ステルスを解き、歩を進めていく。
コントローラーの言うとおりであれば、もうそろそろ星人に合流する筈──。
「──ん? なんやねんお前」
「……は? 誰お前」
──と。
一人歩いていると、目の前に
その中でも一際目立つ金髪の外国人が怪訝な表情でこちらに話しかけてくる。
「はぁ~ん? 質問に質問を返すなやッボケッ!」
「……」
「……アレ? ちょい待ち……そいやお前……どっかで見た気が……」
そしてその外国人の見た目に反して、随分ペラペラと日本語……それも関西弁を語っている。
チグハグな見た目と語り草に一瞬衝撃を受けるが、その衝撃で思い出した。
彼の事を。
「……お前、Jか?」
そう言うと、目の前の端正な顔立ちをした外国人……実際は日本生まれの日本育ちの生粋の日本人である……大阪部屋のリーダーは、目を丸くしてこちらを見つめ返した。
「……! もしかしてお前……『ひーろー』!?」
「……そうだ。お前も変わってねーな……和井」
……おかしい。
割と付き合いは長いはずだったが、それでも随分と思い出すのに時間がかかってしまった。
死んだ弊害か……?
「おおおお! なんや久しぶりやな! お前も来とったんか!」
何てことを考えていると、和井はこちらに歩いてきたと思うと、肩を組んできた。
「おい……!」
「『ひーろー』お前随分背ぇ伸びたなぁ! 全然スレ来ーへんから心配しとったで!」
「……チッ」
俺が苛立つように舌打ちを打つと、和井は端正なイケメン面をニカッと変えながら肩をバシバシ叩いてくる。
そうして居ると、ぼそぼそと耳打ちをするように話しかけてきた。
「ワイらさっき転送されてきたんや。今どうなっとるか知っとる?」
「……俺も同じだ。随分遠くに転送されて……飛行ユニットでこっちまで来た」
「なんやなんも知らんのかい。はぁ~つっかえ……」
「……」
そして俺が何の情報も持っていないと分かると即座に離れて行く。
青筋がビキッと浮かびそうになるも、それを抑えてこちらも質問を返す。
「……そっちはどうだ?」
「言ったやろ? こっちも転送されたと思ったらいきなり東京や。なーんも分からんから今一人偵察行かせとる」
「はッ! そっちも何も知らんのか……雑魚……」
「は??????」
煽り返すようにそう言うと、和井は恐ろしいほどの速度で反応する。
「……」
「……」
瞬間睨み合いが起こり、しばし睨み合う。
すると和井は、いきなりニンマリとして語り出す。
「そう言えば『ひーろー』は何回クリアやったけ? ちなワイ七回クリアの男」
いきなり口を開いたと思ったらクリア回数自慢。
こいつ……変わってねぇ。
「……どの世界にも通じることだが……中身の無い奴が数を誇る」
「は?」
「クリア回数なんて強さの基準にはならないって散々言われてたのに……成長の無い奴め」
和井を窘めるようにそう言ってやると、ビキッと和井の額に青筋が立つ。
そんなを和井を見て、俺は軽く嘲笑ってからヤレヤレと大げさな仕草で首を振ってやる。
「まぁ……俺は十七回クリアだが」
「は??」
一応マウントも取りながらドヤってみせると、和井は分かりやすくむぎぎィと歯を食いしばった。
──と。
「……あの、ワイさん」
「ん?」
後方から、青髪の少女が呆れた表情で和井の奴に話しかけてきた。
「拙者さん、戻ってきましたよ」
「え? あ……」
そして彼女が指さす方向に目を向けると、確かに誰かがこちらに歩いて来ていた。
某球団の帽子を目深く被り、スーツの上から浴衣のような服を着た男。
あの和装の男が偵察……?
「むっ、Jか…」
和装の男がこちらを見つけると、すすっと軽い身のこなしでこちらにすり寄ってくる。
そして和井の奴と奇妙なやり取りを始めた。
「……」
「ほうほう……強そうなのが大量に居たと?」
「……」
「ふむ……他の部屋の住人っぽいのも居たと……」
「……」
和装の男、終始無言。
いや、ボソボソと小さく聞こえてくることから喋っては居るのだろう。
しかし大阪部屋にこんな奴が居たのか?
あの身のこなし的に大分部屋に居る歴は長いと思うんだが……。
「なぁ和井。誰だコイツ」
「? お前会ったこと無かったんか?」
和井の奴にそう問いかけると、怪訝な表情をしながら体を退かす。
「こいつは『拙者ざむらい』や。会ったこと有るやろ』
「……」
そう言って和井が親指で『拙者ざむらい』を指さすと、当の本人はぺこりとこちらにお辞儀をしてくる。
……拙者……拙者……。
ヤバい。
いくら記憶を巡っても全く思い出せない。
「え? マジで忘れとる?」
「……」
それで暫く沈黙していると、和井は少し驚いたようにこちらを見てきた。
『拙者ざむらい』の方も少し哀しそうに落ち込んでいる。
……此奴らの反応的に、俺はコイツと会ったことが有るらしい。
しかしビックリするほど記憶に引っかからない。
なら、言うべきだろうか。俺の記憶について。
幾ばくかの逡巡は有った。
「……すまん。実を言うと……つい最近まで……記憶喪失だった」
しかし思いのほかすんなりと……俺は記憶のことについて話していた。
「え?」
一瞬和井は驚いたような顔を浮かべ、すぐに何時になく真剣な表情でこちらを見た。
どうやらもう、俺の言葉がどういう事なのかに気付いた様だった。
「……マジかいな……お前が……?」
「……」
「……なんや、どーりで反応が鈍い訳や……」
そうして和井は気を遣うように俺の肩を叩く。
暫く気まずい空気が流れるも、しかし和井はニカッと笑うと、俺を煽るように語りかけてくる。
「……ま! なら復帰戦って事やろ。ワイらが全部片付けたるから今日は休んどき」
「……はん! お前に気を遣われるほどじゃねぇ」
「ほーん、なら点数で勝負や! ちなワイ最高得点85や。どやビビったやろ?」
「それジョークか? 面白い事を言うなぁこの蛆虫は」
「は?」
「ちなみに一回で187取ったこと有る」
「は???」
先ほどの様にマウントも取りながらドヤってみせると、和井は分かりやすく歯を食いしばって悔しがる。
「はーん!?? じゃあ容赦せーへんからなッ!」
そうして和井がプンプンと顔を赤くしながらそう宣言すると、振り返って部屋の住人達に声を掛けた。
「行くで皆!」
「……」
「……はぁ……うるさいですね……」
住人達は呆れたような表情を浮かべながらも、星人達が居る方へと進み出した和井を追うように歩き出した。
「……」
必然、俺は一人となり……軽く息を吐く。
久しぶりにあんな風に喋った気がする。だからかドッと疲れた様な気持ちになる。
記憶通り騒がしい奴だった。
だが、アレで大阪部屋を何年も纏めてきたリーダでも有る。
実力も人望も有る……それこそ、クリア回数じゃ測れない類の力を持つ男だ。
「……チーム……ね」
その言葉に一抹の寂しさを覚える。
……だが、気を取り直す様に頬を叩いてから……和井達が向かった道を辿るように歩み始めた。
◇
そこは地獄絵図だった。
「っ、コイツ! 速いぞ!」
「足ッ、足ねらえッ!」
「そうか! 足を狙えば良いのか!」
数多の黒スーツが皆それぞれの武器を持ち……巨人や妖怪、怪物等と戦っていた。
『ketunobikky!』
『oppainokurisu!』
『sakimori,tubasa!』
「なんだコイツ!? すげェ! かてェ!」
何故か農民のような格好をした奴が巨人のような星人に飛びかかりソードで攻撃するも、ソイツが着ている鎧のようなモノに阻まれて刃が通らない。
それどころか、ソードを摘ままれ持ち上げられる。
「ヒィィィ!」
即座にソードから手を離した男は逃げようとするも、鎧を着た巨人達に囲まれてしまう。
『hitorinakamahazureoruyona』
『yametare!』
日本語以外の様々な言語が飛び交い、巨人はあざ笑うように何かを言ったかと思うと……バンッ! と農民の格好をした住人を足で踏み潰した。
「……」
そんな地獄絵図に、ヒイロは居た。
一瞬その光景に呆気にとられるも、しかしすぐに気を取り直したように辺りを見渡す。
「……和井の奴は……」
ヒイロの探し人はすぐに見つかった。
『ぐええええ! やられたンゴおおお!?』
『ぐええ! 死んだンゴおおお!?』
「……大丈夫そうだな」
恵まれたビジュアルから繰り出されるクソみたいな悲鳴を上げている和井を見て、ヒイロは軽く息を吐く。
「……さて。どこから行くか……」
ともかく旧友が元気そうにしている事が確認できたので、安心して戦いに赴こうとするヒイロ。
──しかし。
「おーい!」
「……」
「おーい! ヒイロくーん!」
後方からヒイロの名が呼ばれた。
一瞬その声に肩を揺らしたヒイロだったが、すぐにその動揺を抑えて無言のまま振り返る。
ヒイロの視線の先。
そこには──。
「……セバス」
「や! 久しぶり!」
セバスが、何時もの格好で立っていた。