「……はっ。何が久しぶりだ。……
俺の言葉に、セバスは何処かニヒルに笑う。
「そうかな? 僕からしてみれば……
「……」
その回りくどい言い方は確かにセバスチャンと同じだ。
いや、言い方だけでない。
顔も、服装も、ちょっとした癖ですらも……全てが同じ。
しかし……違う。巧妙に隠してはいるが……彼とセバスチャンの纏う
何より。
この地獄においても平常心でいられるのは……彼にとって、この地獄こそが日常であったという証左。
だから彼は、セバスチャンではない。
そう、彼は──。
「──うん! やっぱり……
「……」
彼こそが先代の住人にして歴代東京部屋でも最高峰の実力の達人。
更にその元となったオリジナルは未だに生きているという……全てが規格外の存在。
「……」
二十回クリアの男……セバスチャン。
◇
「……セバス」
「ん? なんだい?」
俺は……楽しそうに眼前に広がる地獄を眺めていたセバスに声を掛ける。
聞きたいことが一杯あったからだ。
何故、記憶を無くした俺の前に姿を現した。何故俺が現役のころには接触しに来なかった。
何故、
何故──。
幾つもの聞きたいことが浮かんでは消え、浮かんでは消え。
暫く口をパクパクとさせるだけで、どうにも言いたいことが纏まらない。
……けれど、ようやく言葉が形になった。
それは……。
「ありがとう」
「……」
それは、感謝。
気付けば俺は……深く頭を下げていた。
「……あんたには、助けてもらってばかりだッた。あんたが残してくれたモノが無ければ……俺は……」
「……」
「……ありがとう………………ありがとう……」
俺が部屋に呼ばれた時に置いてあった取説のお蔭で……俺は生き残れた。
Zガンを最初から使えたから助かった場面が幾つもあった。
……俺を部屋に呼んでくれたから。
俺は今、ここに居るのだから。
「……感謝されるような事じゃない」
「……」
「顔を上げてくれ。僕と君の仲だろう?」
セバスに諭すようにそう言われれば、従わざるを得ない。
顔を上げ、セバスと見つめ合う。
セバスは暫く気恥ずかしそうにしていたが、真剣な表情を浮かべて語りだした。
「……僕が今日、ここに来たのは……君に幾つか言わなければいけないことが有るからだ」
「……言わなければならない事?」
そう聞き返すと、セバスは軽く頷いて……チラリと星人と黒スーツ達の戦いを見た。
「その前に……少し世間話をしないか?」
「……ここでか? 危険だと思うが」
俺もセバスを習う様に星人たちの戦いを見るも、その先頭の規模はどれも巨大で……また全てが致死性のモノ。
ここも何時、戦いに巻き込まれるか──。
「大丈夫だとも」
「え?」
「今から丁度5分と24秒間……ここにはどの様な被害も及ばない」
「……」
──と。
何故かセバスは……まるで確定事項を語るかのように語った。
何故分かる? そう問いかけようとするも……それに被せる様にセバスが語りだした。
「君は、選択した。普通の暮らしよりも……全てを思い出すという……選択を」
「……」
「彼女を諦められないという……選択を」
セバスはどこか悲しそうに語り、こう……続けた。
「だから……
「……え?」
「おかしいと思わなかったかい? あのタイミングで現れたことを。あまりにタイミングが良すぎると」
「……」
……確かに、それは疑問だった。
何故あのタイミングだったのか……そもそも『管理人』側は『Apocalypse』のタイミングを予知できていたのか……と。
「……あいつ等はお前の差し金だったのか」
「……」
思わず怒気を孕ませながらセバスに問いかける。
……俺を殺した事……じゃない。
キリカを巻き込んだ事だ。
「何故──」
「……切歌くんを巻き込んでしまったのは……申し訳ないと思っているとも」
「!」
「だが必要な事だッた。君が……
セバスは俺が言いたいことが分かっていたかのようにそう言った。
「……は? 彼女……? ……それって──」
「……その話の前に……僕が前に君に言ったことを覚えているかね?」
「……」
どこかはぐらかす様な話運びに少なからずムッとなるが……答えなければ話が進まないとも感じ、記憶を探る。
セバスの言っているのは恐らくは、そう……。
「……アレか? 神がどうとかって……」
「そう。神の存在について、だ」
セバスは至極無機質な表情で、目の前に広がるハンターと星人たちの殺し合いを眺めて、呟いた。
「哀れだと思わないか?」
「は?」
「アレらは皆……母星を失い帰る場所もない難民たちだ。行き場所を失い……どうにか地球に流れ着き、星の環境を整え地上に降り立った」
「……」
「そうして、彼らは何時の間にか『神』だなどと言われるようになった。皮肉なものだ……運命に翻弄され……故郷を失った者たちが……『神』などと呼ばれ崇め讃えられた……」
「……セバス……?」
セバスは何処までも無機質に……そして淡々と言葉を重ねる。
「確かに力はあッた。『神』と呼ばれるほどの力は……」
「……」
「……しかしその『神』ですらも……運命に翻弄されるしかない……」
そしてセバスは、彼等の戦いを指で指す。
「自らを『完璧』と傲り……成長を無くした者達の末路。
「……」
「……見ろ。完璧が負ける姿を。運命に敗北する姿を」
そしてその指の先。
和井がソードを携えながら駆けていく姿が見えた。
『ンゴオオオオオオ!!』
糞みたいな掛け声と共に和井が駆けていく先には──人の身長の二倍はあるであろう巨人。
二つの顔が対になる様に頭に引っ付いており、その二対四本の腕にはそれぞれ刀と弓が握られている。
その存在を認識した瞬間──血の気が引く。
「っ、アイツ! 馬鹿ッ止めろッ!」
即座に見抜いた。
あの星人の強さは……まず間違いなく──!
「そいつはっ! 百点の──」
バッ、という空気を切り裂く音が鳴り響き、和井の両手足がバラバラに引き裂かれた。
『グエーやられたンゴォ!!??』
「あいつっ……くそっ」
和井は最期まで間抜けな悲鳴を上げながら地面に衝突した。
思わず和井の元まで駆けだそうとするも──セバスにそれを止められた。
「おい! 早くしないと──」
「まぁ待ちなよ。──『神殺し』が動き始めるから」
「……は?」
そのセバスの声に応じる様に……ぞわっと空気が変わった。
◇
「うぅ……体がイタイイタイなのだった……」
和井をバラバラにした星人……『神』と呼ばれ崇め讃えられていた彼は、しかし自身が致命傷に追いやった男には目もくれず……その先の青髪の少女を睨みつけていた。
『……!?』
しかし。
一瞬の後……その少女の姿は掻き消え、また目の前の男も消えていた。
どこだ。
どこに消え──。
「チ、チノちゃん! 超能力激しく使わないで!」
「うるさいですね……」
居た。
自身の後方で、青髪の少女が男の前に屈んで座っていた。
いつの間に男を連れ去った? いや、それよりもなんだあの速度は。
人間の動きを見切れなかっただと──?
「あ、あ~!!?」
「はい、応急処置は終わり。お疲れさまでした」
「うぅ……あ、ありがとうございました……」
『──』
今、何をした?
『神』は目を丸くし、その奇跡を目の当たりにする。
青髪の少女は……手を使わずして男の千切れた四肢の先を締め付け、止血した。
『貴様……何をした……それは……なんだ……』
『神』は思わずその少女に問いかけた。
自身も知らぬ謎の力に慄く様に……武具を構える。
しかし。
「……うるさいですね……」
『ッ!? 何ぉおォオオオ!?』
まず、手の先の武具が拉げた。
次いで四本の腕が捻じ曲がり、それは徐々に体全体へと伝播していく。
そして──。
『アアアアアアアア……ァ』
「ふぅ……こんなものですかね」
『──』
『神』と呼ばれた存在は……全てが拉げ、捻じ曲がり……遂にはビー玉ほどのサイズまで押しつぶされてしまった。
「……」
「ほら、死んだ」
それを見せられていたヒイロは、思わず目を見開く。
何せ、百点の星人……『神』をあれほどあっけなくぶっ殺したのだから。
「……何をしたんだ、あいつ」
「超能力だよ」
「は?」
堪らずといった様子でセバスに答えを求めたヒイロだったが、返ってきた言葉で余計に混乱した。
「知らない? 手を使わずにモノを浮かせたり……」
「いや! それは知ってるッつーの! あの女が何をしたかッて聞いてるんだよ!」
「だから、超能力だよ。今彼女は規格外の超能力であの『神』を殺した」
「……マジで言ってる?」
「マジもマジだよ」
軽い口調だが、決して嘘を吐いているわけではないと気付いたヒイロは、思わず唾を飲み込む。
「……あり得るのか……そんなこと……」
「あり得るさ。現にこうして実在している」
「……」
「さあ……他の『神殺し』達も動くみたいだぞ」
セバスはそう言って続けざまに指を指した。
「あの長髪の巨人……彼奴は『軍神』と呼ばれた男だ」
「……」
その指の先。
そこには……大暴れしている巨人達の中でも唯一ヘルメットをしていない巨人が、恐ろしい速度で誰かと戦っていた。
「思い出せないかい? 『軍神』と戦っている男は、君も知っている男だよ」
「……え?」
そう言ってもう一度戦っている男を見るも、ヒイロどうも思い出せなかった。
そこでヒイロはふと、先ほども同じようなことがあったことに気付く。
「ふむ……どうやらまだ少し……記憶が戻りきっていないようだね」
「……」
「なら、僕の方から解説しよう。それで思い出すはずさ。何せ君の……
「……え?」
セバスはそう言って、語り始めた。
「──彼の名前は茂部真似人。通称『マネモブ』」
◇
「ふーん……なかなか強そうやんケ。喧嘩しよーやッ!」
そう言って飛びかかってきた男を、当初『軍神』は特に気にもとめていなかった。
「ぐっ! 砂かけとかズルいやんケ」
ごちゃごちゃと言いながらそれでも掛かってくる相手。
次第に面倒くさく感じてきたが、しかし次の瞬間。
「ふーん……『バーリトゥード』*1って訳ね」
……男の空気が変わったことを理解した。
そして、次いで起こった事象に目を丸くする。
「しゃあっ! タフ・ガン*2!」
──背後から、前に居る男と全く同じ声が聞こえてきたのだから。
頭上から嫌な気配を感じ、即座にその場から離れる。
直後、自身が先ほどまで居た場所が大きく陥没した。
『!』
振り返り、自身を何者が攻撃したのかを把握する。
──そしてそこで恐ろしいモノを目にした。
「コイツなかなか動けるやんケ」
「これでワイらの『灘神影流』の株がまた上がるな!」
「気ィ引き締めぇや! 見えんのか? "星人を超えた星人"の……残気が!!」
「カモがネギしょってやてきたぜェグヘヘヘ」
「ムフフフ。営業は夜の8時まで。それ以降はハンターに変身するの」
「ホッホッホア────ッ!」
「よう、戦友!」
「んかあっ!」
「百点ボスだあっ!」
『──』
同じ顔の……同じ人間にしか見えない。
それも皆同じ武器を構え、まるで御来光でも拝むようにゾロゾロとこちらに走って向かってきていた。
その異様な光景に、『軍神』の足が止まる。
「しゃあっ!」
『ッ!?』
そして目の前に居た最初の『マネモブ』が刀を振るう。
「しゃあっ、タフ・ソード!」
『ぐっ──』
「しゃあっ、タフ・ガン!」
「禁断のタフ・ガン二度打ち!」
『おま──』
「しゃあっ」
ドドン、ドン! という痛烈な破壊音が鳴り響く。
その破壊の嵐の中を『軍神』は圧倒的速度で攻撃を受け流していく。
──しかし。
「まあ速さは認めるけど"強さ"とは何の関係もあらへんからな」
『ッ!?』
「しゃあっ」
「しゃあっ」
「よっしゃの……しゃあっ!」
「ホッホッホアァアァ──ッ!」
『──』
彼らは数だけではなかった。質も十分に備わっている。
──何せ、格闘においてはヒイロを超える実力の保持者なのだから。
そんな彼らが一糸乱れぬ連携で『軍神』を追い込み、そして──。
「ッし!」
『ぐっ──』
一人の『マネモブ』が大きくタフ・ソードを切り上げ、『軍神』の持つトンファーの様な武器を手ごと切り落とした。
すかさず『軍神』も残った手で『マネモブ』を切り裂こうとする。
だが。
「灘神影流──"弾丸滑り"!」
『は?』
『軍神』の攻撃を……『マネモブ』はまるで滑る様につるんと受け流した。
思わずあっけにとられる『軍神』。
そしてその隙を逃すほど──『マネモブ』は甘くない。
「──しゃあっ、コブラ・ソード」
それはカウンターに合わせて相手の意識を下に向けさせ……死角から入る様に上から攻撃する技。
本来であれば蹴り技だが──これはタフ・ソードを用いて行う変則的な技。
その一撃は──『軍神』の体を両断した。
◇
「……」
……そうだ。
思い出した。
あいつ等は……。
「思い出したかね? 彼らは……いや、彼は自身を
「……覚えているとも。くそっ……しかも十四回って……
俺が覚えている時は確か九回再生だったはずだが。
……また増やしたのかアイツ。
「くくくっ……いやぁ……あぁ言うのが突発的に生まれてくるんだ……人類の可能性ってのは良いねぇ……」
「……それは突っ込み待ちか?」
あれを断じて人類の可能性と呼んでほしくないんだが。
「……」
だが……そうだ。
完全に思い出した。
マネモブ。
あいつは……一度二番を選んでZガンを手に入れてから、それ以降の武器を増やすよりもZガンを持った自分を増やしたほうが戦力の強化になる……なんて馬鹿な事を考えた男で。
そして実行した男だ。
スレに増えていくマネモブたち。同じ人間が別の言葉を喋りまくる姿。
それだけで大分心にダメージを負ったが、徐々に書き込みに個性の様なものが生えていった所でさらに追い打ちを受けた。
──しかも、あいつ等の中での最古参は……
もう最初のマネモブはこの世にいない。
「……」
今思い出しても気持ちが悪い。
アイツの褒められるところは通信教育のレベルが高いと言う所ぐらいだ。
「ふむ……」
なんて吐き気を催していると、セバスが何かつぶやいた。
「……なんだよ。つか、マネモブの奴『神殺し』なんて大層な名前つけられていたのか?」
「いや? 彼は今日……その称号を手に入れることになっていた」
「……は?」
「ほら──あそこの『お嬢様』も……もうそろそろ……」
──奇妙な事を言ったセバスは……また別の場所を指さす。
そこでは、黒髪の美女が髪をはためかせながら炎の塊のような奴と戦っていた。
「……誰だ?」
「三千三百三十三平等院天上天下唯我独子くん……彼女もまたスレの住人──」
「待てよ。何処からが名前で何処までが苗字だ?」
あんな美女居たか?
そんな感じの気軽な疑問だったが、返ってきたとんでもない名前に恐れ慄く。
「三千三百三十三平等院までが苗字だけど、この情報居る?」
「……何故その苗字でその名前にした……天上天下唯我独子の親……」
苗字と名前で矛盾が生じているぞ。
「糞……頭痛くなってきた。……もういいよ話を先に進めてくれ……」
本気で痛くなってきた頭を押さえながらそう言うと、セバスは何故か笑い出した。
「はっはっは! じゃあ最後にあと一人……
「は? まだ居んの?」
「うん。彼は……日本の戦力でも最強の……男だ」
「……最強?」
「ああ……今も何処かに居る。姿を隠して潜んでいる……」
そういうと、セバスは何処か遠くを眺めだした。
……そして、まるで旧友を偲ぶように……セバスは語った。
「七柱殺し……岡八郎……」