「七柱殺しの男……岡……八郎…………」
七柱殺し。
つまり……『ももたろう』や『くろのす』クラスの敵を七体葬ったって事か?
……出来るのか? そんなことが……人間に……。
「君は彼を知らないだろう。なにせ彼は、スレには殆ど顔を出さない最古参も最古参。三十年間……ひたむきに戦い続けた、最強の男だ」
「……三…………十年……」
その莫大な年月に愕然とする。
セバスは俺のその反応が面白いのか、くっくと笑いながらこう続けた。
「彼は今日、一夜にして七体の神を葬り去る」
「……」
「結局『神いづる門』も開かなかった。最早この戦いは……
ふと、前にセバスが言っていたことを思い出した。
世界中のブラックボールが、先史文明の時代に地上に降り立った神々を標的にし始めている。
この戦いはその大詰め……と言うことなのだろう。
「……セバス。何が言いたい? お前は俺に……何を伝えたいんだ」
戦いの構図は見えてきた。
しかしセバスの意図は見えてこない。
態々俺にその情報を伝えたと言うことは何かがあるはずだ。
しかし星人の情報ならまだしも……『神殺し』達の情報が一体何の役に──。
「何って……人は遂に、『神殺し』に至ったって言う……世間話だよ」
「……だからそれが──」
「何より……
「……は?」
何を──。
俺が疑問を発するよりも先に、セバスはどこか仰々しく……口を開いた。
「……さて。ではこれより……『Apocalypse』を……開始する」
◇
事の始まり。
それはおよそ三十年前……月遺跡にて、ふと目覚めた一柱の神がある未来を算出した事に端を発する。
それは一柱の女神が眠りより目覚め……『人類』の星たる地球を、最悪の手段でもって支配するという……未来。
女神の名はシェム・ハ。
シェム・ハは遠くない未来に復活し、地球を支配するに至る。
その様な未来を算出してしまった神は……酷く落胆した。
なぜなら彼の見た未来とは……逃れることの敵わない確定事項なのだから。
その神について語ることは少ない。
何せ彼が人類に対して行ったことは何一つ無いのだから。人類と関わらなかった為にどのような文献にも残されていないのだから。
だが。
彼は神々の中でも最も情報収集能力に優れており、また演算能力にも長けていた。
その演算能力と情報収集能力は脅威的で、彼がこの世に生まれた瞬間に世界の終わりを予期したほどである。
そう。彼はこの世のおよそ全てを知るが故に、未来を完璧に予知することが可能なのである。
つまり彼にとって世界とは、既に終わりの見えたモノでしか無かった。
──彼にはそれが……許せなかった。
だから、あらゆる手段を用いた。
だから、あらゆる演算を用いた。
だからあらゆる手を……尽くした。
既に決まった運命を遠ざけるように。
『最後』を知るまでの永遠を……抗い抜いた。
だが、彼には抜け出せなかった。
それは彼が何処までも完璧だから。
完璧故、全てが予定調和。全てが『運命』の掌の上。
そして今。
自身が手がけた人類も……運命に飲み込まれようとしている。
──深く。深く落胆し……気付く。
自身の予知が変わっていることを。
そう。本来であればシェム・ハは以後ずっと眠り続ける運命にあった。
なのに、その運命が変わり……新たな未来が生まれていた。
何度計算し、何度算出しても……過去と現在では未来に大きな乖離が発生していた。
──それを自覚したとき。
彼の胸に、生まれて初めて……喜びの感情が浮かんできた。
自身が手掛けた人類は……運命を変えうる可能性があるのだと。
運命とは乗り越えられるモノなのだと言う……希望が生まれた。
しかしその人類は今、絶望の危機に瀕していた。
なればこそ。彼はすぐに行動に移す。
地球上で自身の求める条件に合う存在を検索し、見つけた。
そうして見つけたハインツ・ベルンシュタインの娘に、少しばかりの戦う手段の情報を送った。
本来であれば完璧である自身が人類に接触することは控えたかった。だが、このまま放置を続けてシェム・ハと言う完全が人類を支配してしまうことだけは見逃せない。
彼は、その少しばかりの戦う力に……人類の持つ可能性に賭けた。
「……そうして生まれたのが、ガンツ」
「……」
「そして今、ガンツを用い……各国の企業達が……蜂起の準備を始めている」
「……蜂起?」
セバスはヒイロの言葉に頷くと、こう続けた。
「つまりは革命。今ある社会を破壊し、自身が王になると暗躍している」
「……」
ヒイロはあまりに突拍子も無い話に呆れたように口を開く。
「
「……面白くねーんだが……」
「おっとすまない。……それで、日本もその例に漏れずその準備を進めている」
そしてセバスは、企業達が行おうとしている計画について話しはじめる。
「とは言っても……その計画とは単純だよ。単純にして明快……ある
「……は? 革命しようってのに……最終目標がたった一人の討伐……?」
思わず首を傾げたヒイロだったが、その疑問も尤もだろう。
何せブラックボールの武器というのは、その殆どが人間には過剰火力で、スーツの性能は銃弾ですら弾くほど。
その装備で全身を固めているだけで無く……星人達との戦いで経験を積んだ猛者を集めてする事が……たった一人の人間の討伐?
明らかに過剰としか思えない。
だが、セバスは至極真面目に語り出す。
「彼は……護国の鬼。企業達もその影響力の強さ故、手を出しあぐねていた目の上のたんこぶ」
「……」
「風鳴訃堂……彼を殺すことが最終目標だ」
「……風鳴……」
「ま、これは君にとってはあまり関係ないか」
セバスはどうでも良いようにそう言いながら、重要なのはこちらだと言わんばかりに話を続けた。
「重要なのは……現在の社会を守護する存在は、企業達にとって敵と言うこと」
「……」
「つまり国連所属のS.O.N.G.は目下の敵と言うことになる」
S.O.N.G.
ヒイロにとっては大恩ある風鳴弦十郎が所属する組織だ。
「……確かにそりゃ……風鳴さんとは戦い辛いが……でも、そこまで俺と何か関係することがあるのか?」
しかし、それでも関係がそこまであるかと言われれば首を捻らざるを得ない。
と言うかそもそも、風鳴弦十郎に手助けが居るとも──。
「知らなかったのかい? 君の妹は……S.O.N.G.に所属している」
「……は?」
瞬間。
ヒイロは凍り付いた。
「……何を冗談を──」
「今の私は真剣そのものだ。嘘では無い」
「……」
冗談か何かだと思いたかった。
だが、セバスのその表情から嘘でも何でも無いことをヒイロは感じ取る。
「……でも、彼奴らがガンツを管理してる限りは──」
「ああ。それなら安心していい。東京部屋のガンツは今……
「……」
そして全てが繋がったように思えた。
あの『管理人』達の行動も。先ほどの神殺しの説明も。
全ては──。
「……俺に……キリカを……守れと?」
この為──。
「いや、違うけど」
「え?」
しれっと、何でも無いようにセバスはそう言った。
ヒイロは思わずガクッとずっこける。
「だって君キリカくん捨てたじゃん」
「いや……言い方……つか捨てたって……」
「女の子としては捨てたようなもんでしょ……はーあ、すっごいカワイソ……彼女今も引きずってるよ」
「……」
「彼女が君と会う前に何度も髪型をチェックした時間も、慣れないメイクを試みた時間も、全て無駄になっちゃいました。あーあ」
「……」
超常的な存在による保証付きの切歌の秘密。
それはヒイロの心を確かに抉っていた。
「……」
そんなヒイロを見て、セバスは軽く微笑んだ。
「……
そして彼は、今までの言葉と違い……
「普通の……普通の毎日を……願っていた。でも君はその選択を捨て、
「……」
「その選択の先にあるのは地獄だ。苦しく辛い……地獄」
でも、と。
セバスは言葉を句切り、続けた。
「でも。それでも僕は……君に幸せになって貰いたい」
「……」
「だからこれは……
セバスは、大仰に手を広げ……月を仰ぐ。
「思い出せ、アカツキヒイロ。あの時……月で起こった事象を」
「……月……」
「そうだ。
「……」
その言葉に、ヒイロの脳に痛みが生じる。
「思い出せ、あの戦いの最後を。思い出せ……とっておきの、ラストを」