GANTZ:S   作:かいな

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どんでん返しの結末

 それは、月面にて行われたミッション。

 その最終局面。

 

「ッ、ああアアああッ!!!!」

 

『omae……soukaomaetatiha……』

 

 絶唱と呼ばれる歌により、極光を撥ね除けた響の拳。

 ──それは、『くろのす』を正しく貫いた。

 

 しかし。

 

「ッ!?」

 

『つかまえた』

 

 異形と成り果てた『くろのす』は──自身を貫いた響の拳を体ごと受け止めた。

 

「っ、このっ──」

 

『良い身体だ……おまえはきっといい母になる……ぎょうこうだぜ……』

 

「!?」

 

『おれの身体は……死ぬ……だからお前には……おれのゆめを、意思を……受け継いでほしい……おれを倒したお前なら……きっとできる』

 

「何を言って──」

 

 直後、響の拳から先の感覚が消え何かに塗りつぶされるような感覚に襲われる。

 

「ッ? ぐうっ……あああ!?」

 

 身体の自由が奪われ、力が抜けていく。

 それだけじゃない。放った拳から徐々に……『くろのす』へと引き込まれていった。

 

『一つになろう……あの男と一緒にじんるいをつくるんだぁ……』

 

 ──それは、今の『くろのす』の異形を形作った不完全な巻き戻しによる……吸収である。

 本来想定する『力』の使い方でも無く……ヒイロとの戦いで見つけた新たなる『力』の使い方。

 

 土壇場での覚醒により、『くろのす』は確実に響を蝕んでいく。

 単なる攻撃であれば……彼女の纏うガングニールの防御機構は機能しただろう。

 

 ──しかし。

 『くろのす』の巻き戻しは攻撃では無かった。

 

『あ? わたし……は……? おれ……あ……あぁ……?』

 

 例えるならそれは、響という小さな布を穴の開いた服のパッチ(あて布)にする様な行為。

 再生に伴う部品とさせられているのである。

 

 ……ともすればそれは……『くろのす』が真っ先に吸収した響のアームドギアの特性も影響していたのかもしれない。

 『くろのす』と響は深く……深く、結びついていく。

 

 ──だから、君は選択を迫られた。

 

「っ……響……ッ!」

 

『え……?』

 

 最早身体の半分まで吸収が進んでしまったその時……君は響の前に現れた。

 

「っ、おま……」

 

『ひ、ひひ……ヒイロ……さん……』

 

「ッ……」

 

 右半身は炭化し……既に動ける状態では無い。

 だが、それでも君は……響のためにと死力を尽くし、Zガンを携えてその場に現れた。

 

 君は、どれだけの苦痛を覚えようと、どれだけ意識が遠のこうと……響の為を思った君は、足を止めることは無かった。

 

 けれど、『くろのす』の声とダブって聞こえてくる響の言葉に、君は足を止めそうになった。

 

『そうか……お前はヒイロと言うのか……』

 

「……おま…え……」

 

 異形の『くろのす』は徐々にその形を変えていき……元来の人型へと姿を戻していく。

 

 そして。

 

『……お願い……ヒイロさん……お願い……私を……』

 

 残った響の身体から、朦朧とした声が聞こえてくる。

 

『殺して……駄目殺さないで……私……おれ……あれ? おれは……』

 

「っ、響ッ! 今助け──」

 

「ああ……ヒイロ……ああそうか……それがお前の……」

 

「ッ!?」

 

 そして……『くろのす』から、響の声が聞こえてきた。

 

「──ヒイロ……」

 

 響の声に『くろのす』の喋り方。

 未だに不完全で、未完成なその悍ましい姿で、『くろのす』は……。

 

「好き」

 

 君に愛を、囁いた。

 

「ッ……ああああああッ!!!」

 

 君は選択を迫られた。

 苦渋にまみれた選択だ。

 

 撃つか、撃たないか。

 

 君は──。

 

◇

 

「……」

 

「思い出したかい? 事の顛末を……」

 

 セバスは、何処までもすました表情で語った。

 

 クソみたいな……俺の過去を。

 

 ──思い出した。

 俺があの時……どんな選択をしたのか。

 

 セバスはチラリと俺の顔を見たかと思うと、軽く息を吐いて話を続ける。

 

「なら、あの時の君がどうしたのかなんて、語るまでも無いことだろう」

 

「……」

 

「だからこれ以上は言わない。重要なのは……」

 

「──待てよ」

 

 だが。

 俺は……どうしても一つ、確認したいことがあった。

 

 ──それは。

 

「……ちゃんと、最後まで教えろ。……確認したいんだ」

 

「……」

 

「……俺は……あの時……」

 

 思い出した。

 

 あのクソ色ボケ子作り女のクソみたいな告白も。

 

 響が吸収されていく光景も。

 

 ──そして。

 

「Xガンを使って……響(・)を(・)助(・)け(・)出(・)し(・)た(・)は(・)ず(・)だ(・)!」

 

 俺が『くろのす』身体を破壊し尽くし……響を助け出した光景を。

 

「……」

 

 その問いかけに、セバスは……黙り込んだ。

 

 思わずセバスの胸ぐらを掴みあげ問い詰める。

 

「どうなんだ……セバス! 何故、響は……!」

 

 しかしセバスは……何処までも無表情でこちらを見るばかり。

 

「答えろッ! セバス──」

 

「君は響くんを助けてなどいない」

 

「……は?」

 

「アレは最早……響くんでは無かった」

 

 ようやく口を開いたかと思えば、訳の分からないことを言い出した。

 

「何を──」

 

「ガンツが死者と生者を見分けている仕組みを知っているか?」

 

「……は? んなの……」

 

「答えは……魂(・)だ(・)」

 

「……魂……?」

 

 俺の間の抜けた言葉にセバスは頷いて、説明を始める。

 

「人……いや……生物は死ぬと、『魂』と呼ばれる21gの情報が肉体から分離し……異次元へと移動する」

 

「……」

 

「肉体に魂が宿っているか、居ないか。ガンツが生と死を判別するのはその一点のみ」

 

「……そう……だった……のか」

 

 俺は……その説明にある程度納得がいった。

 何故なら……もう死んでいるとしか言えないような人間でも、ガンツは部屋に戻してくれる。

 

 一見ガバガバにしか思えなかったガンツの生死の判別は常々議論される題目だ。

 しかし、何時も答えが出ないで居る分野でもある。

 

 ……だが、魂の有無。

 そこに焦点を絞っているからこそ……心臓が止まろうと脳が停止しようと……医学的には死んでいる状態でさえも、ガンツは部屋に転送する。

 

 魂の存在とか、色々と飲み込めない部分はあるが……。

 そこで判断して居るのなら、俺らには分からないはずだ。

 

 何せ俺達には見えない魂が残ってさえいれば、生きていると判断するのだから。

 

 だが、それならば……。

 

「……じゃあ、あの時……響の魂は……」

 

「……そう。ガンツは……響の魂が無くなったと……判断した」

 

「……待てよ。でも、あの時アイツの心臓はまだ……動いていたはずだ! なら──」

 

 そう。身体が死んでいないと言うことは、響の魂が異次元やらに移動する理由は──。

 

「あの時、彼女の身体にはも(・)う(・)一(・)つ(・)の(・)巨(・)大(・)な(・)魂(・)が(・)宿(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)」

 

「……は?」

 

「『くろのす』の魂。つまりは『神』の魂。ソレは人のモノよりもずっと巨大だ……ち(・)っ(・)ぽ(・)け(・)な(・)人(・)の(・)魂(・)を(・)覆(・)い(・)隠(・)す(・)程(・)度(・)に(・)は(・)」

 

「……」

 

 思わず、心臓が跳ねる。

 

 だって、セバスの言っていることが……真実だとしたら。

 

「彼(・)女(・)は現在、月に居る」

 

「──」

 

「そして今、その肉体は……『くろのす』の支配下にある」

 

 セバスは、大仰に手を広げ……こう宣言した。

 

「──だが、断言しよう。彼女を救う手立てはあると」

 

 そして、彼は俺に……一つの宣託を与えた。

 

「それは──」

 

 ……それは荒唐無稽な話のようにも……不可能な話のようにも思えた。

 

 だが。

 

「……」

 

 俺の心は……何時になく、滾っていた。

 

 セバスの言葉を一言一句、違わずに聞き届け──セバスはこう締めくくる。

 

「──これをもッて…『Apocalypse(黙示録)』の時とする」

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 そこは、地獄だった。

 

『うわあああああ! この星人クソ強ェ!』

 

『saierobank,kirika!』

 

『ひいいいい! こんなの勝てるわけ無いぃぃぃ!』

 

『saiero,sirabe!』

 

『やめてよぉ! 下半身返してよぉ!』

 

『tadanoyarasiimaria!』

 

 多くの黒スーツ達が逃げ惑い……そして殺されていく。

 そんな地獄だ。

 

『クソォ! あのお方がこられたら……! お前たちなどひとひねりだ!』

 

『そうだ! 瞬殺してくださる!』

 

『kabe,tubasa!』

 

『皆! あのお方を呼んできたよ!』

 

『でかした!』

 

『hitorinakamahazureoruyona?』

 

『daretohaiwannga』

 

 ソレを背後に、俺はセバスに背を向けた。

 

「行くのかい?」

 

「ああ。俺の標的は……あっちなんだろ?」

 

 俺が指を差した先。

 そこは……俺が最初に転送された山。

 

 どうやら、そこにアダム何ちゃらが居るらしい。

 

「アダム。彼について一言で言えば……失敗作の産廃だ。だけど気をつけて戦ってくれ」

 

 何故かセバスは、身も蓋もない言い方でアダムをこき下ろした。

 

「……なんか、アダムとか言うのに当たり強くね?」

 

「ははは! 彼はヒトのプロトタイプのくせに、所謂『完璧』という奴だからね……」

 

「え? プロトタイプ?」

 

 とんでもない事を軽く流すように語ったセバスは、そのまま背後の喧騒に目を向けた。

 

『……ほう……吸血鬼をこうも容易く……良き…強さ……』

 

『剣神さま……なんて……なんて神々しいんだ……』

 

『ならば此方も抜かねば…無作法というもの…』

 

『しかもよく見ろ! あの刀! 強いだけじゃ無ェ!』

 

『すげェ! なげェ!』

 

 俺も追従するように背後の戦いに目を向ける。

 そこでは……何故かスーツを半分脱いだ色白の男が巨人の残党達と戦っていた。

 

「彼の振るソード……アレは十(・)五(・)回(・)ク(・)リ(・)ア(・)の(・)特(・)典(・)だね……」

 

「……まぁ、そうだけど……あんな産廃使う奴居たのか……」

 

 しかも、使っている武器は産廃クリア報酬と名高いガ(・)ン(・)ツ(・)ソ(・)ー(・)ド(・)改(・)造(・)型(・)だ。

 

 通常のソードはその刀身を幾らでも伸ばせるが、改造型は伸ばした刀身から更に刀身を生やせる。

 

 ぶっちゃけ、十五回クリアの特典群の中でもトップクラスにゴミだ。

 

 俺のその白けた目線を察知したのか、セバスはまるで慰めるように語り出す。

 

「そう言ってあげるなよ。アレも使い方次第では強いよ」

 

「……」

 

 セバスがそう言うとそうなのかも……と一瞬思いかけるが、どうにも信用ならない。

 

 ──十五回クリア特典。

 それは、企(・)業(・)が(・)改(・)造(・)し(・)た(・)ガ(・)ン(・)ツ(・)の(・)武(・)器(・)達(・)の使用権限。

 

 これはマジでクリア特典の中でもトップクラスで不遇だ。

 ラインナップとしては、Zガンの改造型、ハードスーツの改造型、そしてソードの改造型となる。

 

 だが……これらは大抵、改造の結果使いづらい仕様となっている。

 

 改造Zガンには謎に球数制限があるし、改造ソードに関しては刀身から刀身出て来る必要ある? という、そもそものコンセプトからして意味不明である。

 

 まぁ改造ハードスーツの防御力と火力だけは褒められる所はある。

 ただ、それも取り回しがクソだからと皆使ってない。

 

 言っちゃ悪いが……産廃を超えた産廃の武器達だ。

 

 ──しかし。

 

「あの方より賜りし有り難き刀…一振りたりとて外すこと罷り成らぬ」

 

 色白の男の攻撃は、枝のように伸ばした刀も相まってあまりにも大雑把な斬撃に思えた。

 だが。

 

『yametare──』

 

 その一振りで……巨人の群れを一息に両断した。

 

「ほら、言ったろ? 振るうための腕力が足りていれば……的が大きい敵には有効な武器だよ」

 

「……いや──」

 

「的が大きい敵には他の武器でも有効だろって突っ込みはなしね」

 

「えぇ……」

 

 俺の言いたいことはセバスにも分かっていたのか……ソレを先回りして潰される。

 いやでも……どう考えてもXガンでやった方がいいでしょ。

 

 他に優秀な武器が沢山有る中であの武器を敢えて選ぶ選択肢は無い。

 

 俺の言いたいことが分かるのか、セバスは軽く汗を流しながらあせあせと続ける。

 

「ともかく、産廃だって油断するのは駄目だって事だよ。アダムのこともね」

 

「……」

 

 まぁ、要は警戒するなと、そう言いたいのだろう。

 

「……はッ! 馬鹿にすんなよ。ミッションで気を抜いたことは無い」

 

「はっはっは! なら良いさ」

 

 セバスはまた何時ものように笑った。

 ……その姿に、先程までの超常的な印象は受けられない。

 

 俺は……以前から聞いてみたかったことを、聞いてみた。

 

「……なぁ、セバス。二つ聞きたいことがある」

 

「ん? なんだい」

 

「一つ。二(・)十(・)回(・)ク(・)リ(・)ア(・)報(・)酬(・)っ(・)て(・)何(・)だ(・)?」

 

 セバスの残した取扱説明書。

 そこに具体的なモノが記されていたのは……十九回クリアまで。

 

 二十回クリアは……枠は用意されていたモノの、肝心の内容は白紙となっていた。

 

「……」

 

 セバスは俺の質問に暫くの間沈黙し、しかしすぐに答える。

 

「……全(・)て(・)だ(・)よ(・)」

 

「……全て……?」

 

「そうとしか言えない……ただ……おすすめはしないと、言っておこう」

 

「……」

 

 それだけ言って、これ以上は答えるつもりはないと口を噤んだ。

 

「……そうかよ」

 

 ……ただ、何となく察しは付いてしまった。

 だから、敢えてそれ以上聞くことも無く……また別の質問を投げかける。

 

「……じゃあ、最後にもう一つ。あんたは──」

 

 

 

◇

 

 空を駆ける。

 空を駆けて……もう一つの戦いへと向かう。

 

 その間浮かぶのは……セバスに聞いた最後の質問の……答え。

 

『何故君を助けるか、かい?』

 

 常に感じていた疑問。

 セバスが何故……俺に気をかけてくれるのか。

 

 ずっと……ずっと疑問だった。

 

 でも、その疑問の答えは……至極単純なモノ。

 

『……僕はね──』

 

 セバスは……。

 

『僕は……生まれた意味を知りたかった』

 

 セバスは俺と……同じだった。

 

『もう一人のセバスチャンとは違う僕は……生まれたことに何か……意味が有るのだと……思っていた』

 

 俺と同じように悩み、苦しみ。

 

『……でも、違ッた……僕に……意(・)味(・)は(・)無(・)か(・)っ(・)た(・)……』

 

 ただ、生まれた意味を知りたかッた。

 

『……そうして絶望の淵に居たときに、君が来た』

 

 だから、痕跡を残した。

 自分はちゃんとここに居たという痕跡を。

 

『最初は、すぐに死んでしまうだろうと……そう思っていた。でも君は……生き残った。僕の残した手掛かりを手にして』

 

 そして、俺はそれに救われた。

 

『……何故か……ソレが溜らなく……嬉しかッた……』

 

 ……でも、セバスも俺に……救われていた。

 

『僕はね……人は、何か意味を持ッて……生まれてくるンだと……思ってる』

 

 俺が生き残り続けることが……セバスの助けになっていた。

 

『……だからきっと……僕の生まれた意味が有るとしたら──』

 

 俺にとっての響が──セバスにとっては俺だった。

 

『君が生きてくれることだ』

 

 セバスは、最後にそう締めくくった。

 

「……チッ」

 

 思い出しては、その気恥ずかしさを誤魔化すために舌打ちを打つ。

 

「……」

 

 ああ、良いさ。

 生き残ってやる。言われなくても……生きて生きて……生き延びて。

 最後の最後まで……諦めて溜るかよ。

 

 生き残る。

 

 ──今度こそ……響と一緒に!

 

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