GANTZ:S   作:かいな

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全否定

 夜の街に太陽が生まれ、その巨大な絶望を前に皆が口を閉じていた。

 

「……はっ」

 

 一人の仮面の男を除いて。

 

「黄金錬成だかなんだか知らんが……よーは──」

 

 彼は何処までも嘲るような語り口で、満足に動かぬ腕を揺らしながら……しかし、背後の少女達を守るように神人へと立ち塞がる。

 

 そして、太陽を掲げるアダムへと──刀を突きつけた。

 

「……手前ェが死ぬまで……何度でも殺せば良いッてだけの話だろ?」

 

 そのあまりにも無謀な宣言を、アダムは鼻で笑って踏みにじる。

 

『まだほざくか、戯言を……ならば教えるしかあるまい、"差"と言うモノをッ!』

 

 ──そして。

 

 太陽が……放たれる。

 

 その正体は『黄金』を錬成する文字通りの黄金錬成……の際に発生するツングースカ級のエネルギーを放つ、彼がヒトであった頃からのキメ技である。

 いかなる存在であろうと焼き尽くすその一撃を前に、しかしヒイロは毅然と立ち尽くす。

 

 そして、コントローラーが付いている腕を口元に近づけ──ぽつりと呟いた。

 

「……ガンツ……『()()()()()』」

 

 ヒイロが今身につけている『ゼロスーツ』。

 現在のヘルメット型のそれは所謂『防御特化型』。

 ソレに搭載されたジェネレーターは、巨大で強固な防御フィールドを展開する事が可能である。

 

 ただ、先ほどの黄金錬成の際にジェネレーターは死に、それどころか変声機能などの幾つもの機能が吹き飛んだのだが。

 

 防御特化が出てそうそう防御力で負けるとかどうなんだよとヒイロは憤ったが、ツングースカ級のエネルギーを至近距離から受けてもジェネレーターが死ぬだけだったのは褒めても良いことだろう。

 

 そう。

 死んだのはジェネレーターのみ。()()()()()()、まだ死んではいない。

 

 ゼロスーツにはまだ……先がある。

 

 ヒイロの呟いた『アドベント』とは、それらの機能の解放を意味する言葉(パスワード)

 

 その声に応えるように、彼が身につけていた『ゼロスーツ』がその姿を変えていく。

 

 後頭部から幾多ものコードが伸び、唯一動かせる腕へと纏わり付き、巨大な三連の腕へと変貌。動かぬ腕の周りにはコードが鞭のように垂れ下がる。

 ヘルメットの形状は痩せこけた様に削れ、何処か髑髏を彷彿とさせる相貌へと変化。

 そして、残りのコードが背筋を沿うように身体に巻き付き──肘関節と背中から異形の棘を生やしていく。

 

 その異形、正しく悪魔。

 完全なる悪魔へと変貌を遂げたヒイロは、迫る太陽へと手をかざし……更に

 

「ガンツ……」

 

 言葉(パスワード)を重ねる。

 その意味は──。

 

「──『デッドエンド』ッ!」

 

 『全弾斉射』である。

 

 直後、爆発するような反動がヒイロを襲い、勢いを抑えきれずに背後に倒れ込みかける。

 

「っ、ぐぅッ!」

 

 しかし背中の棘と肘から伸びた異形の棘が地面に突き刺さり、身体を無理矢理に固定する。

 

「ッ、がアアああアアアッ!!」

 

 極光と太陽が衝突し──僅かな拮抗も無く太陽の方が吹き飛ばされる。

 

『ッ!? 馬鹿なッ!? 黄金錬成を上回るッ!?』

 

 即座に黄金錬成をばら撒くが、そのどれもが大した拮抗も無く散っていく。

 

『何だソレはッ! 神の端末でしか無いサルが手にして良い力では無いッ! それは神の領域の──ッ!?』

 

 ──そして、その極光は容易くアダムを飲み込んだ。

 

 

 

 

 ──僕は……幸せに包まれながら生まれてきた。

 この世界に生まれた瞬間、それを理解した。

 

『素晴らしい……『完璧』なヒトの誕生だ』

 

『……これが……ヒト……』

 

『そうとも。見ろエンキ。全ての値が上限値にして最高値。これならあの左巻きもきっと悦ぶだろうよ』

 

『……』

 

 生まれながらにして感じる万能感は、僕に全てを教えてくれた。

 

 目の前にいる彼等が……僕の父であり母であり……神であると言うことも。

 この叡智も、溢れんばかりの力も、彼等が僕にそうアレと生んでくれたのだと言うことも。

 

『……そうだな。どれ、名前をつけてやろう』

 

『……もう名付けるのか?』

 

『ああ。そうだな……お前は──』

 

 僕は全てを与えられた。

 知恵も力も身体も……そして、名前も。

 

 だから僕は幸せで、僕は……紛れもなくヒトだった。

 

 ──でも。

 僕がヒトで居られた時間は、とても少なかった。

 

 僕はすぐに……ある女と出会わされた。

 ソイツは何でも、僕と共に人類を作り出したい女らしく、僕の誕生はその女の強い要望もあったという。

 

 なのに。

 その女は……!

 

『……え? これが……俺の……?』

 

『そうだ。見ろ、正に完璧な──』

 

『いや……無理』

 

 完璧と作られた僕を、真っ向から否定した。

 

『無理無理無理ッ! おいシェム・ハ! お前馬鹿か? どう見もサイズが合わねーだろっ!?』

 

『ふむ? そうか』

 

『いや無理だって! 俺を何だと思ってんだよッ! 入らねーし入れたくねーよッ』

 

 僕の身体を否定して。

 

『第一見た目がさ、キモいんだよ』

 

 僕の見た目を否定して。

 

『では……お前の意見を聞きたい』

 

 次いで顔の無い巨大なヒトガタが……感情を感じさせない声でこう言った。

 

『駄目だ』

 

『そうか。なら廃棄としよう』

 

 僕は。

 

 僕は生まれたその日に……生まれてきた事を否定された。

 

『……』

 

 不可解な夢。走馬灯。

 何故こんなモノを見せる。何故こんな事を思い出させる。

 

『……許さない……絶対に……』

 

「……おいおい、まだ生きてんのかよ」

 

 地面に叩きつけられ、『神の力』を消費させられ。

 それでもなお身体の内から溢れる怒りが、僕を突き動かす。

 

『僕は……負けるわけにはいかないッ! 否定させない、僕をッ! 誰にだってッ!』

 

 全身を駆動させ、ボロボロの鎧を身に纏うポッと出の男へと迫る。

 

『僕はッ! 僕は望まれていたッ!』

 

「……」

 

『人類としてッ、ヒトとしてッ、神と並び立つ存在としてッ!』

 

 神速の連打をたたき込む。こんなちっぽけな存在、当たれば一撃で倒せるッ。

 

 なのに、コイツは……!

 

『ああああッ!!』

 

 意にも介さずに、全ての攻撃を避けていく。

 

「……ふむ」

 

 しかも、余裕だと言わんばかりにチラリと視線を後方に移す。

 

『っ、舐めるなぁッ!』

 

 エネルギーを溜め、全身からレーザーを放つ。

 

 だが。

 よそ見をしていたと言うのに……この男は身を捻って避けていく。

 

 ……いや、避けるだけでは無い。

 

『ッ!? おま──』

 

 天上より光の線が男へと舞い降り──壊れかけていたあのヘルメットを再生していく。

 

『ッッ! 何故……何故お前ばかりッ』

 

 男は僕の大ぶりな一撃を軽く捻って避けたかと思うと、距離を取るように跳ねる。

 そして空中で何やらボソボソと呟き、直後にまた姿を変えていく。

 

『やらせるかあッ!!』

 

 あの一撃をもう一度放たれるわけにはいかない。

 この距離で黄金錬成をすれば僕とてただではすまない。

 だが多少の犠牲は覚悟の上。

 

 お前を葬り去る事さえ出来れば──ッ!?

 

『っ、何だこれは!? この光はッ!? っ、手が……崩れてッ!?』

 

 不可解な現象。

 しかし覚えがある。この光には。

 

 ギロリと視線を移すと……そこには死んだはずの二人の錬金術師が立っていた。

 

 

 プレラーティとカリオストロ。

 

 彼女……達は、サンジェルマンの仲間である。

 

 ──そして、先の作戦で命を落としたと思われていた二人でもある。

 

 神の力を求めたパヴァリア光明結社とそれを阻止するために動いたS.O.N.G.との対立。

 

 二つの組織の対立の中、カリオストロは統制局長であるアダムに対して疑念を抱いていた。

 

 つまり、元より自分たちの命を捨て駒としか扱っていないのでは無いか、と。

 

 事実アダムは、『神の力』を降臨させる祭壇設置の贄に、プレラーティかカリオストロを使えとサンジェルマンに示唆していたのだ。

 その場面を目撃した瞬間から……カリオストロの暗躍が始まる。

 

 自身はS.O.N.G.との戦闘の際に死んだふりという搦め手で雲隠れし、同じくS.O.N.G.との戦闘で死にかけたプレラーティを回収して、計画の推移とアダムの行動を監視した。

 

 当然ながら、アダムへの疑念が勘違いであればまた作戦に参加するつもりだった。

 

 ──だが、疑念は真実へと変わってしまった。

 

 アダムの理想とは……サンジェルマン達が抱いていたモノとは違い、アダムは彼女達を利用していたに過ぎなかったのだ。

 

 故に、彼女達は協力した。

 謎の黒服の男に。

 

『──ねぇ? 聞こえているかしら? そこのあ、な、た?』

 

『!? 何だこの声!?』

 

『ちょっと私と、お、は、な、し、しない?』

 

『……おいカリオストロ。何をしてるワケだ』

 

『あらぁ? こう言うのって最初が肝心って言わない? わ、た、し! そういうの大事にするタイプ~』

 

『幻聴じゃ……ない? 何だこのオッサンの声?』

 

『アアッ!? んだとゴラアッ!?』

 

 彼女達は、『ゼロスーツ』の力を使い果たしさて次はどうするかと考えていたヒイロへと……語りかけた。

 

 ファーストインプレッションはまぁまぁであったが、ともかく彼女達は話を始めた。

 

『今お前の脳内に直接話しかけているワケだ。時間が無いから原理について聞き返すなよ』

 

『……ファミチキ?』

 

『は?』

 

 極低音の声が脳内に鳴り響き、幻聴にしては随分受け答えが出来るなと戦々恐々とする。

 出来が良いことに軽く溜め息を吐いたその幻聴は、ヒイロへと語りかけてくる。

 

『……お前、さっきのあの攻撃……もう一度使えるか?』

 

 プレラーティのその問いかけに、ヒイロは未だ幻聴を疑いつつも一応返す。

 

『まあ出来るが。十五秒ほど時間があればの話だ』

 

『……本当に? 凄まじいワケだ』

 

 正直アレをもう一度使えるとは思ってみなかったプレラーティは素直に驚きつつ、すぐに気を取り直して話を続ける。

 

『なら……私達がその時間と、アダムの隙を作る。お前はソレを狙うワケだ』

 

『……幻聴の可能性を考慮して話半分に聞いてやるよ』

 

 一応そうは言いつつも、立ち上がりつつある目の前のアダムに気を引き締める。

 プレラーティ達もそれを理解しているのか、足早に説明を始めた。

 

『アダムのあの不死身状態……アレは神の力によって引き起こされてるワケだ』

 

『一見弱点がないように見えるけど、それがビックリ、本当に弱点が無いのよねぇ~』

 

『……』

 

 ヒイロは脳裏に響くネガティブな話と怒り心頭と言わんばかりのアダムの怒鳴り声を聞いて若干ウンザリしつつも……放たれるアダムの攻撃を避けていく。

 

『だが弱点が無いなら……作れば良いワケだ』

 

『そ。私達の錬金術で……ほんの少しの時間だけ、不死身を溶かすことが出来る。貴方にはその隙を狙って欲しいの』

 

『……出来るのか? そんなことが』

 

『出来るから貴方に話しかけたのよ』

 

『……』

 

 それはどこか自信に溢れた言葉にも、縋るような言葉にも思えた。

 

『……それで? あんたらは何の得があってそんなことをする?』

 

 自身の知らないことをペラペラと話すことから、これが幻聴ではないと信じ始めつつも……しかしヒイロは話の内容そのものまでは信じていなかった。

 何せ……理由が分からなかったから。

 

 一体何の得があって自身に利するんだ? と。

 

 それは彼女達も理解していたのか、すぐに答えが返ってくる。

 

『単純に復讐……って、訳でもないのよねぇ』

 

『……?』

 

『……今、そこのサンジェルマンが大怪我をしている。早く戦闘を終わらせて治療をしたい。それをするのにお前に頼むのが1番早いと思ったから……頼んでるワケだ』

 

「……ふむ」

 

 チラリと後方……全身に火傷を負い、苦しそうに倒れているサンジェルマンを見る。

 立花響と切歌が介抱してるモノの、あの状態では長くないだろう。

 

『……頼むワケだ』

 

『……お願い』

 

『……』

 

 それを理解した上で、もう一度二人の錬金術師達は懇願してくる。

 

 ──ヒイロは……。

 

『……』

 

 ヒイロは、話の殆どを理解できなかった。

 

 錬金術って何だよ。土地を転がすのか? と思うくらいには。

 

 正直何が何だか分からない。

 

 ──だが。

 

『……チッ。じゃあすぐに取りかかるぞ』

 

 彼女達が、真摯にサンジェルマンを心配していると言うことだけは……分かった。

 

『あら~! 話が分かるぅ~!』

 

『ならタイミングはそちらに任せるワケだ。こちらが合わせる』

 

 その言葉を最後に、脳裏に響いていた声が急に静かになった。

 

「……」

 

(何だったんだよ……アレ……くっそ怪しい)

 

 一人? になったヒイロは、目の前で乱雑な攻撃を繰り返すアダムを睥睨する。

 

(……まぁ……罠なら罠で、次の手もある)

 

 胸中で次の次の手まで考えながら──ヒイロは、ガンツに新しい『ゼロスーツ』の転送を指示した。

 

 

 ──身体が崩れる。

 

 これは……。

 

『ラピス・フィロソフィカスだとッ!? 今更ッ!?』

 

 それは、病を初めとするあらゆる不浄を焼き尽くすとも言われる『賢者の石』。

 ラピス・フィロソフィカス。

 

 視線の先。そこには……死んだはずの二人の錬金術師の姿が見える。

 

『プレラーティ!? カリオストロまでッ!? 何故今更邪魔をするッ、死者の分際でッ』

 

 分からない。

 何故今更ラピス・フィロソフィカス程度で僕の身体が分解を──。

 

 ……あ。

 

 一つ、思いついてしまった。

 

『……まさか……『神の力』にとって……()()()()()()()()()()とでも……?』

 

 それは正に……神から告げられた僕に対する完全否定。

 

 巨大な絶望感と共に、ラピス・フィロソフィカスの輝きが加速する。

 

『──何故……何故だああああッ!! 何故僕をッ、僕を否定するッ! 受け入れろッ完全なる僕をッ、貴方達の……子供をッ!』

 

 僕の声は無情に鳴り響き……分解は止まらない。

 

『何故……何故……なぜ……僕を……』

 

 気付けば、目の前にあの謎の男が……先ほどの砲撃の姿となって立っていた。

 

『……あ』

 

 首を掴まれ──空へと放り投げられる。

 

 直後、閃光がほとばしる。

 

『あ、あああ……』

 

 身体が溶ける。

 僕という形を失っていく。

 

 朧気になっていく感覚。

 

 そして思い出されるのは……否定の歴史。

 

「いや……無理」

 

「第一見た目がさ、キモいんだよ」

 

 身体を否定され。

 

「駄目だ」

 

「なら廃棄としよう」

 

 生まれたことを否定され。

 

「……」

 

 誰も来ない檻。ずさんな管理。

 受けてきた……逃げようと思えば逃げ出せるような……ぞんざいな扱いを。

 

「……フィーネ」

 

「……エンキ様……」

 

 逃げ出した先で見てきた……自分より後に出来た後継種と神が愛し合っている姿を。

 

「人でなしめ」

 

「この人でなし」

 

 そして呼ばれ続けた……人でなしと。

 

「ティキ! アダムの子供がたくさんほしーな!」

 

 相互理解できぬモノだけが……唯一の希望だった。

 でも、ソレを使えば並び立てると……思ってた。

 

 なのに、ソレすら砕かれて。

 

 ヒトである事を捨ててまで……『神の力』を得たというのに。

 

 なのに。

 

『……何故……捨てるのですか……』

 

 『神の力』すら……僕を否定する。

 

 何故……何故なのです。

 

 神よ。

 父よ。

 母よ。

 

 聞きたかった……一言だけでも。

 

『……すてるなら……どうしてぼくを……うみだしたのです……』

 

 ──それは誰にも聞こえることは無く。

 

 一人、アダムは光へと飲み込まれていった。

 

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