人形の見た夢。
その最後は……あっけないモノだった。
彼が数千と重ねてきた計画は、ポッと出の謎の男と自身が捨てた二人の錬金術師によって全てを潰された。
彼は結局、何を為すことも答えを得ることも出来ず……ヒト未満の『アダム』として、死んだのだ。
──そして。
そこは新宿の地。
数分前に念願の星人討伐を果たした全国の部屋の住人たちだったが、なんか転送始まらなくね? という懸念の声が有り、しかも謎の爆発が遠くの山で沢山起こり始めたのにマップをいくら確認しても星人の反応は見つからず、住人たちは何だかピリピリしていて雰囲気が最悪最低なのだった。
「……? おっ? おおおおっ!?」
「……ん?」
──そんな状況で、四肢を捥がれたイケメン外国人が何やら嬉しそうに喚き始める。
「転送やんッ! やった──ぁぁぁああああ!? チ、チノちゃんッ!? 止血強くしないでッ」
「うるさいですね……」
彼の隣では、なかなか始まらない転送にドギマギしていた少女が、ようやく始まった転送を見て嬉しそう超能力を締め付ける。
「グエエエエッ! 死ぬンゴッ!?」
「うるさいですね……」
ちょっとしたコントの様な様相を呈しながらも、しかし転送は各地の部屋の住人で起こり始める。
「トホホ……じゃあ先に失礼するね」
「はい、お疲れさまでした」
運がいいことに少女……に見えるが成人済み……の目の前にいる重傷の和井から転送が始まった。
粋がって戦いに行ってたのに速攻でやられるとか恥ずかしくないの? と後ほどヒイロに愚弄される運命にある彼だが、悪運はあるようだった。
「……」
そして……残された彼女は、ある一点を見つめる。
それは爆発があった場所……ではない。
この場においての最後の戦いを行った、
「……」
そして、
「ふぅん……やっぱやるやんケ。岡のオッサン」
「あの強さに一番戸惑ってるのは僕なんだよね」
「七対一で勝つとか凄くない? "神殺し"の力だ」
「"神殺しを超えた神殺し"と呼ばれた男だぜ」
何故か上半身裸で各々ファイティングポーズを取ったり腕を組んだり、血塗れの手を目の前にかざしたりと。
なんやかんやで楽しそうに戦い、遊んでいた同じ顔の男たちだったが……その男に対しては素直に畏怖の念を覚え、部屋へと転送されていった。
──しかし。
"奇人"マネモブ達がそれ程感動した男の戦いを見学していようとも、あくまでもマイペースを貫くモノもいた。
彼女もその一人。
「──オッ…オギャーッッ!? ケツがッ、ケツが焼ける様に熱いッ!? あ、やべ。おケツに火が付いた!? ですわよッ!?」
「いや、ケツ焼けてますよ」
「ちょっと!! ケツだなんてお下品な言葉はやめてくださるッッッ!!!」
「でもケツまる見えですよ」
「えっ!?」
取って付けたようなお嬢様言葉でケツを押えた黒髪の美女は、しかしその見た目からは考えられないような行動と言動で目の前に居る青年に詰め寄る。
「ちょっと! 早く教えなさいなッ! 全く……箱入り娘の私に!!」
「日本語の多様性には目を見張るばかりですね。アラサーゲーミングニート女のことをそんな都合良く解釈できる言葉があるのだから」
「──」
三千三百三十三平等院天上天下唯我独子こと、アラサーゲーミングニート女は……その言葉を一瞬真摯に受け止めたかと思うと、カッと目を見開いた。
「一点の曇りも無いド正論ですわね、ぐうの音も出ませんわ」
「……」
「夜道には気をつけなさい何処までも追いかけて殺──」
最後にとんでもない呪詛を残した彼女は、ケツを押えながら部屋へと転送されてき……残された彼も、彼女を追うように至極面倒くさそうな顔で転送されていった。
──そして、既に殆どの人間が戦闘を終えて部屋へと戻っていく中。
「さあ皆さん! 私が到着しましたよ!!」
彼は……いや、彼達は中国地方部屋の住人である。
「っし」
「ふー」
「……」
ゴキゴキ。
「……リーボック様」
「……」
(この戦い。私が来たからにはもう勝ったも同然……)
「……ん?」
何てことを考えていた彼は、現場の状態を見て怪訝な声を浮かべた。
……彼は、何故かまだ戦場に出ていない星人達が居て、こちらを挟撃しようとしていると思い込み……マップに散った星人達を殺しまくるという奇策に出てていたのだが。
「……!!」
ものの見事に当てが外れ、戦いが終わった後にノコノコと戦場に出て来ただけだった。
結果として点数を全く稼げないままミッションが終わってしまった。
「っし……」
「ふー……」
「……」
ゴキゴキ。
「……リーボック」
彼を信じて付いてきていた住人達は、何処か怒りの表情を浮かべてリーボックを睨み付けていた。
「……見落として……! 一つ……一つだけッ!」
言うほど一つだけか? と言わんばかりの冷たい視線を部屋の住人達から投げかけられたリーボックは、冷や汗を垂らしながら転送されていった。
『……』
最後に一瞬騒がしくなったが、それもようやく落ち着き……男は一人ロボットの上から一点を見つめていた。
『……』
それは、あの爆発が発生した……もう一つの戦場である。
『……始まった……か……『Apocalypse』………』
その言葉だけを残して……岡八郎もまた、部屋へと戻されていった。
◇
「サンジェルマンッ!」
「サンジェルマーン!!」
閃光がアダムを消し飛ばした直後。
既に消滅したアダムの事など忘れた二人の錬金術師は、怪我を負ったサンジェルマンへと駆け寄っていく。
「ッ……プレラーティ……? カリオストロ……?」
「口を閉じてるワケだッ! すぐに処置を始めるっ」
そして、プレラーティは倒れているサンジェルマンへと手をかざした。
その手には紋章が宿り、淡い光と共にサンジェルマンを癒していく。
『……え? 何それ……救急車呼んでやれよ……』
その背後で、ヒイロは唐突に現れた少女が怪我人の前で妙なマジックをやり始めたことにドン引きする。
「あ゛? 何ジロジロ見てるワケだこの変態ッ! 今私は集中してるんだから黙ってろ」
『……』
親切心で忠告したらとんでもない罵倒が返ってきた。
見てるだけで変態は酷くないか……?
思わず軽く肩を落としかけたが、そのヒイロに声をかけてくる声が聞こえてくる。
「おいおま──」
切歌──。
「あら~! さっきぶり!」
を押しのけるように、カリオストロが焼けただれたヒイロの腕に組み付いた。
『!? 痛ーよ!? 何すんだアンタッ』
「あらやだごめんなさーい☆」
「……」
切歌の目の前で、見た目は魅惑のお姉さんであるカリオストロがヒイロにスリスリと頬をこすりつけていた。
「ちょっ──」
「本当ありがとね~! 私もう、感激も感激~って感じッ!」
『……おい、まさかアンタ……あのオッサン声の──』
「あ?」
『……女だったのか……』
「それって喧嘩売ってる~?」
「……」
今まで戦ってきた敵であったカリオストロと、仮面をつけた怪しい男が至近距離でただ会話をしているだけ。
なのに何だろうか。
このモヤッと感は。
切歌は妙なフラストレーションを溜めながら、それでも果敢に会話に割り込もうとする。
「いい加減に──」
「……ねぇ、仮面の貴方。協力してくれたこと、本当に感謝してるわ。あそこのあの子も……今は必死だから気が立ってるだけで、ああ見えて貴方に感謝してるから」
『……』
「今はちょーっと時間がなさそうだから、それだけは私から伝えてお、く、わ!」
最後にカリオストロは仮面へと口づけすると、バイバイと手を振って離れて行き、プレラーティの治療の加勢に行った。
『……』
「……」
沈黙が場に降りる。
ただ、一つの真実がそこにあった。
声が男っぽいとか、未だに誰なのか良く分かっていないとか。
そんな事はどうでもいいことだ。
何故なら。
正直ちょっとまんざらでも無──。
「ン゛ん゛ッ!」
ガンッ、という音が鳴り響く。
……ヒイロが背後を振り返ると、そこでは肩を怒らせた切歌が巨大な鎌を叩きつけていた。
『……何だ?』
まだ何か聞きたいことでも? と言わんばかりに言葉を投げかけると、切歌は何故か虚ろな目でヒイロを見つめ返した。
「随分と"あの"錬金術師達と仲が良いんデスね」
『……勘違いするなよ。彼奴らは仲間じゃ無い』
「仲間じゃ無いのにあの距離感?」
『……何が言いたいんだ?』
本気で聞いてる意味が分からずにそう聞き返すと、ハッと我に返った切歌は頭を振るって考えを整理する。
──そして、当初聞きたかったことを……鎌を突き付け、脅す様に尋ねた。
「……さっきの声……」
『……』
「さっきの声……が……私の……私のお兄ちゃんの声だったデス」
……その鎌は小さく震えており、どこか恐怖しているようにも思えた。
何故、目の前の人物が兄に似た声で話すのか。
何故、兄をさらった奴らが……兄の声で話しているのか。
幾つもの嫌な予感が駆け巡り、それが彼女の構える得物の震えとなって表れている。
「……答えるデス」
『……』
「……答えろッ」
しかし……男は答えない。
──彼は逡巡していた。
彼女のこれからに最も良い選択と……自身の使命を果たすために最も良い選択。
どちらに重きを置くか、と。
幾ばくかの思考の果て、彼は一つの結論に至る。
『……お前の言う『お兄ちゃん』ってのは……』
彼はそう言いながら、変声機能を弄る様なそぶりを見せ、そのまま変声機能を切る。
「この声の持ち主の事か?」
「……え?」
そして、どこか含みを持たせた語りに……切歌は固まった。
「……なに……言ってるデス?」
「そうか。コイツの声がお前の──」
「っ、何言ってるデスかッ!!」
切歌は動揺のままに鎌を叩きつけ、脅しをかける。
「……」
そんな切歌の姿にヒイロは心を痛めながら、しかし他人の演技を続ける。
「何を言ってるも何も……この声は『企業』の連中が作った
「『企業』……? ……作っ…た……? 新……しい……声……?」
「そ。変声機の調子がくるって最新の『声』が設定されちまった」
動揺を隠せないでいる切歌の表情には絶望が浮かび、彼女の中での『最悪』が加速していくのが見て取れる。
その異様な空気に、サンジェルマンの治療を見守っていた立花響もまた切歌達の方へと目を向けていく。
「そう。作られたんだよ、つい最近。それも
「……やめて……」
仮面の男として、ヒイロはあくまでも嫌な予感を煽る様に……兄の声で語り続ける。
「おいおい、聞きたくない? あいつ等に捕まった奴がどーいう扱いを受けるとか──」
「やめてッ!」
そして。
その演技は……見事に切歌の心に刺さっていった。
「……あいつ何やってるワケだ?」
ヒイロの背後で、治療が一段落した二人の錬金術師たちがひそひそと語らっていた。
彼女たちはヒイロと脳内で会話をしている。
当然ながら……ヒイロの本来の声を知っているわけである。
それを知っているプレラーティからすれば、今のヒイロのやっていることは茶番にしか見えなかった。
「ん~良く分からないけど、彼ふざけてるわけでもなさそうだし~黙っててあげれば?」
「それもそうか」
そう言って彼女は懐から何かの小瓶の様なものを取り出し、自分たちの足元に放り投げた。
すると応急処置が済んで眠っているサンジェルマンの下に紋章が描かれる。
「では私たちはこれでおさらばと言う訳だ」
ヒイロと切歌のやり取りに気を取られた響は、背後で起こった事象に反応が遅れる。
「……え? ちょ──!」
「じゃーね~! S.O.N.Gの方には今度こっちから顔出すから~」
手を伸ばすよりも先に彼女たちの姿は掻き消え……とうとう場にはヒイロとS.O.N.Gの二人だけが残される。
重い沈黙が降りるが……しかし、立花響は意を決したように仮面の男へと語り掛けた。
「……あの」
「ん?」
「……なんで、嘘を吐いたんですか?」
それは、サンジェルマンもした問いかけ。
あの時ははぐらかされたが……その時に零した言葉と今の会話に整合性が取れなかった。
「あの時……貴方は『管理人』……って人たちの事、知らないって言ったじゃないですか」
「……」
「でも、今は知った風を装って……『企業』って……なんなんですか?」
「……ふむ」
その突っ込みを待ってましたと言わんばかりに、ヒイロは会話を自身が望む方向へと切り替えていく。
「……ふん。俺は『管理人』なんて知らないね。俺が知ってるのは……『企業』の連中だけだ」
「……『企業』?」
「この武装の数々を全国にばら撒いてる……文字通り大企業様達だよ」
そして、語りだす。
『企業』が抱えた夢を、野望を。
「アイツ等はクーデターを目論んでいる」
「……クーデター?」
「そうだ。その為に……戦士を集めている」
そして、多くは語らず……どこか誤解を招くような言い回しで、切歌たちを誘導していく。
「俺は良く知らんが……思うに、『管理人』ってのは『企業』の中でも戦士を集めるって役目を担ってたんじゃないか?」
「……」
「『管理人』が動く基準は分からんが……ともかく、あんたの兄貴は選ばれた。だからあんたの兄貴は狙われて、攫われた」
そして──と言葉を紡ぎ、切歌に希望を与える様にこう続けた。
「……だから、あんたの兄貴はまだ……生きてる……筈だ」
「……え?」
「だってそうだろ? 自分の兵隊を態々殺すような奴があるかよ」
直後、ヒイロはびくりと転送の予兆を感じ……ジジジッ、という電子音が鳴り響いてヒイロは部屋に転送されていく。
「えっ!?」
「……チッ、もうかよ」
ヒイロの目に分かりやすく狼狽える立花響の姿が映る。
時間が無い事を悟り……足早に語るべき事を語っていく。
「だから……調べるなら『企業』の連中の動向……それと──」
そして最後に、彼女たちが調べやすいよう……一つのキーワードを残した。
「──『ブラックボール』。あいつ等が持つ……最大の──武器だ」
そして、ヒイロの視界は切り替わり……何時もの部屋へと、戻ってきた。
◇
「……」
部屋に戻ってきた。
身体が足の先まで部屋に出て来て、チーンと言う音が鳴り響く。
即座に『ゼロスーツ』を脱ぎ捨て、ガンツに詰め寄る。
「おいッ! どー言う事だッ! 何で俺の姿が彼奴らに見えてんだよッ!」
ガンツの表面を叩きつけながら問いかけるが、ガンツは何も答えない。
「……」
部屋に戻ってきた直後でこれだ。
戦闘中は忙しかったため色々と後回しにしたが、ようやく今回のイレギュラーについて考えられる。
クソ。
大分状況が変わっている。
前までの『俺』がスレで調べた情報的に……地方部屋の直前のミッションでは何もおかしいことは無かったらしいが。
ならば前回と今回の間で何かが起こったのか……それとも、今回で何かが起こったのか。
だが、今回で起こったことなど──。
そう思い、今回のミッションでの事を振り返り……セバスの言葉を思い出した。
「……『Apocalypse』……なのか? ……これが……もしかして……」
思考を巡らし、現状一番あり得るのが……『Apocalypse』の影響だ。
『Apocalypse』。まあつまり黙示録……とか、
「……隠されたモノ……え?」
……まさか、そう言う事……なのか?
「……いや、流石にそれは……」
……そう言う事なのか? 『Apocalypse』ってのは単に……俺達の姿がミッション外の人間に見られるようになる現象のことなのか……?
……そうなのか?
『Apocalypse』ってのはもっと……こう……何か巨大なミッションのことだと思ってた。
……『Apocalypse』って言葉が全世界で認識されている以上……もっとこう……世界規模のミッション的な何かだと……。
「……」
『企業』の連中があれほど警戒していたからそう言うもんだと思ってたが、まさか本当に……?
俺が一人で考察を続けている間にも、ガンツは何一つ答えることは無く……黙々と採点を続けた。
『それぢわ ちいてんをはじぬる』
「……」
ひーろー
101てん
おかえり
total 101てん
「……101?」
え? 彼奴ら百点じゃないの?
今回は二百行くと思ってたんだが……。
「……どういう事だ? ……何かバグが起こってる……?」
じゃあさっきの姿が見えたのも単にバグ的な……?
思いもしない伏兵に気を取られつつ、ああッ、と頭を掻く。
そうして頭を掻いていると、ガンツの表示が切り替わり……俺に三つの選択を提示した。
1.記憶をけされて解放される
2.より強力な武器を与えられる
3.MEMORYの中から人間を再生する
「……チッ……ああ、もう……訳分かんねぇ」
頭を掻いて、舌打ちを打って。
訳も分からずに選択を強いられる。
最悪も最悪だ。
「……」
けれどなんだか……懐かしさを覚えていた。
ガンツに初めて呼ばれたときのような……そんな感じを思い出す。
訳も分からず地面に叩きつけられて、訳も分からず変な部屋に呼び出されて……訳も分からずに化け物と戦わせられて。
そして、
「……」
──なら、俺の選択は……一つしか無い。
ガンツの黒々とした画面に触れ、息を吐く。
あの時の俺には……武器が必要だった。
キリカを取り戻すための……あの黒スーツ達から助け出す為の武器が……必要だった。
だから戦い続けた。
戦い続けた結果……戦うための意味が増えていって……大きくなっていった。
もう、戦い続けることが……出来なくなってしまった。
でも俺は帰ってきた。
戦う理由を背負って、帰ってきた。
「……ガンツ……」
だから俺はあの時のように、宣言する。
「2番だ」
何度でも……何度でも。
選び続けるさ。
──響を、助けるその日まで。