GANTZ:S   作:かいな

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ある部屋

「うぅむ……」

 

 S.O.N.G.司令風鳴弦十郎は、渡された資料に目を通しては浮かない顔をする。

 

「緒川……これは……」

 

「はい。先日の戦闘に現れた謎の男。彼が残した情報を元に……調べた結果です」

 

「……むぅ……」

 

 彼が唸りながら目を落とした先には……大量のブラックボールが作られている画像が載っていた。

 

「これは『マイエルバッハ』の工場の写真です。恐ろしく警備が堅く……今はこの程度の情報しか集めることは出来ませんでした」

 

「……交渉はどうだった?」

 

「門前払いでしたよ」

 

 そう言って苦笑した緒川は、弦十郎が見ている画像に映っている黒い球体を指さす。

 

「恐らくこれが、彼が言っていた『ブラックボール』だと考えられます」

 

「……」

 

 もう一度『ブラックボール』を注視して見るも、これと言って武器のような見た目をしていない。

 と言うか、閉じた状態だとただの黒いオブジェクトのようだ。

 

「……」

 

 しかし。

 

 風鳴弦十郎は考える。

 もし、このブラックボールが……本当に兵器であると言うのなら。

 あの『アダム』の火力を上回ったあの武装が、ブラックボールの力の一端だと言うのなら。

 

 そんな強力な兵器を製造、販売している『マイエルバッハ』と……日本の大企業が本当に取引をしているのなら……。

 

「このブラックボールを製造しているのはドイツの『マイエルバッハ』。そして……彼等の取引先のリストには世界各地の企業……そして、日本の大企業の名前もありました」

 

「……そう、か」

 

 両者の関係は、男が最後に残した言葉が真実味を帯びてくる。

 

「『クーデター』……か」

 

「……はい」

 

 弦十郎の確認するような言葉に、緒川は重苦しく頷いた。

 

「……『アダム』の火力を上回る兵器を量産可能……そして彼の言葉を信じるなら……それを全国にばら撒いている……と」

 

「……」

 

「こりゃ、週末の映画鑑賞は暫く中止だな」

 

 そう言って軽く伸びをした弦十郎は、ボキボキと背骨を鳴らしながら用意しておいた書類を緒川に渡す。

 

「緒川。お前はコレ……どう思う?」

 

「?」

 

 最初はよく分からないと言った様子で書類を見つめていた緒川だったが……しかし読み続けるにつれて表情を驚愕へと変えていく。

 

「司令……コレは……!」

 

「ああ。()()()()()()()()()の……指揮系統の草案だ」

 

 

「お誕生日──」

 

「おめでとう──!!」

 

「デース!」

 

 パンっ、というクラッカーの音が鳴り響き、立花響の誕生日を祝福する。

 

「17歳、お誕生日おめでとう。響」

 

「ありがと! いやー! 皆のおかげで、こうして無事誕生日を迎えられました!」

 

 どこか畏まった様子でそう言うと、切歌がニコニコと『明るい笑顔』で立花響の背を押す。

 

「まーまー! 畏まったのはなしデスよ! 主役はこちらにデース!」

 

「おおっ!」

 

 案内された先のテーブルには幾つもの美味しそうな料理が並べられ、随分と手間が掛かっていることがうかがえた。

 

「ええ~皆が用意してくれたの!」

 

「皆……というよりは、調が頑張ってくれたわ」

 

 そう言ってマリアは月読調の肩に手を乗せ、今回の立役者を立花響に紹介する。

 

「が、頑張ったって言うか……松代で出会ったおばあちゃんから……野菜を沢山貰っちゃって……」

 

 恥ずかしそうに語る調だったが、この頑張りは相当な頑張りである。

 その姿に心打たれたのか、翼は胸を張りながら握りこぶしを掲げる。

 

「月読が作り、立花が食らうというのなら……私は片付けに専念させていただこうッ!」

 

「いやー先輩、出来もしないこと胸張って言うと後で泣き見ますって」

 

 小馬鹿にしたように翼に忠告するクリスは、ぷくくと抑えられない笑いを堪えるように手で口元を隠している。

 

「雪音ッ!? 私を見くびるかッ!?」

 

「はいはい、喧嘩しないの」

 

 思いもしなかった愚弄に顔を真っ赤にして食いつくが、しかしその口に調が作った料理を突っ込まれる。

 

「っ、何コレ美味しい! うまーい!?」

 

 美味しさのあまり芸人のように叫び、食レポを始めた。

 

「こ、これ本当にトマトなの!? あまーい!? 信州は全国でもトマトの栽培に最適な土地。そこで育てられた栄養満点のトマトを、敢えて苦しい環境で育てる事により旨味を凝縮! 丸々と肉厚でジューシー、それでいてフルーティーな甘さもしっかりあるわ! 長野トマトって美味しい!」

 

「く、詳しいのね翼……」

 

 怒濤の解説に少し引きながらも、それを聞いていた少女達はこぞって例のトマトに手を伸ばしていく。

 これを皮切りに……立花響の誕生日パーティーは始まった。

 

 それは楽しい時間でもあり……彼女達にとって守ってきた時間でもある。

 

 その青春の時間を楽しみながら……時間はあっという間に過ぎていく。

 

 少し浮かれた熱を冷まそうと、立花響はベランダへと足を向ける。

 

 ……そこには、先客がいた。

 

「……切歌ちゃん?」

 

「……あ。響さん」

 

 そう言えば、いつの間にか姿が見えなかった。

 彼女は先ほどの明るい笑顔とは打って変わって、沈痛な面持ちで空を眺めていた。

 

「……もしかして、考え事?」

 

「……そう、デスね」

 

「……」

 

 考え事。

 あの場で切歌と一緒に話を聞いていた立花響には……それが何なのかが分かる。

 

「……お兄さんの……事だよね」

 

「……」

 

 ……彼女の兄、暁陽色の事である。

 彼はつい数日前……謎の黒スーツの男達にさらわれて以降、足取りを掴めていなかった。

 

「……だ、大丈夫だよ! 緒川さん達が調べてくれているし……」

 

 そうは言いつつも、アレほど何かを探すことが上手な緒川でさえ、未だに足取りすら掴めていないという事実は……暗い先行きを暗示しているようにも思える。

 でも、それでも立花響は切歌を励ますように言葉を重ねる。

 

「……それに! 陽色さんって本当は凄く強くて──」

 

 すると、唐突に切歌が振り返った。

 

「そんなこと、私が一番知ってるッ!」

 

「え……」

 

「私がッ……一番……知ってる……のに……」

 

 ──彼女の目には、涙が浮かんでいた。

 怒鳴るような声には怒りと絶望が色濃く表れ、彼女の心境を如実に表していた。

 

「お兄ちゃんは……ひーろー、は……ああ言う時に私を守ってくれるって……知ってたのに……」

 

「……切歌ちゃん……」

 

 先ほどまでの笑顔は……虚勢だったのだろう。

 誕生日だからと無理矢理に笑顔を浮かべて、その心の闇を……隠していた。

 

「……」

 

 ──その辛さを真の意味で理解することは……立花響には出来ない。

 だから彼女に出来るのは……泣いてしまった少女を、抱きしめることだけだった。

 

「きっと大丈夫。陽色さんは、切歌ちゃんを傷付けるような事はしないから」

 

「……何で、そんなことが分かるデス?」

 

「だって、陽色さんは切歌ちゃんの……『ヒーロー』なんでしょ?」

 

「……」

 

「だったら、絶対帰ってくる。だからお兄ちゃんを……『ヒーロー』を信じてあげて」

 

 切歌は──。

 

「……っ」

 

 切歌は、今まで隠してきた思いを明かすように。

 

「ぁあ……ああああァァッ!」

 

 彼女の胸の中で……最初で最後の大泣きをした。

 

 もう、泣かないように。

 笑顔で……帰ってきた陽色を迎えるために。

 

 今まで隠してきた涙を、慟哭を……最後まで叫んだ。

 

 

 

 

「……ごめんなさいデス……」

 

「いいよ! 気にしないで、切歌ちゃん!」

 

「でも、ありがとうデス。……なんだか、久々に落ち着けたデスから」

 

 そうして一頻り泣ききった彼女は、恥ずかしそうに頬を赤くしながら頭を下げる。

 しかし立花響は何でも無い風な笑顔を浮かべた。

 

「……」

 

「? どうしたの?」

 

 その眩しい笑顔の立花響をジッと見つめた切歌は、両者の距離をグッと縮める。

 

「!? えぇっ!? ちょ、き、切歌ちゃん!?」

 

 そして立花響の首元まで顔を近づけたかと思うと、クンクンと鼻を動かした。

 

「え、えぇ!? ど、どうしたの……? もも、もしかしてなんか臭う……?」

 

「あ、ち……違うデス! 響さんはそれはもう良い匂いデス!」

 

「あ、そう?」

 

 唐突な行動に、立花響は内心『抱きしめたときに何かやらかしたか!?』と焦ったが……どうやらそう言う訳では無いようだった。

 では何故? と首を傾げていると、切歌は気合いを入れるようにヨシッと意気込むと、彼女に尋ねた。

 

「……あの、響さんは本当の本当に……ひーろーとは何も無かった……んデスか?」

 

「えっ!??」

 

 ──そして、思いもしない質問に立花響はギョッとしたような声をあげる。

 

「!? やっぱり何かあったんデスねッ!?」

 

「ち、違うよッ!? 陽色さんにも聞かれたけど、本当に何もなかった筈だって!」

 

「……」

 

「……切歌ちゃん?」

 

 ジトッとした目で彼女を見つめた切歌は、暫く顎に手を当てながらブツブツと呟き始める。

 

「……いや……でも……やっぱりあのベッドの臭いは……でも違う……」

 

「切歌ちゃーん?」

 

 先ほどの陰鬱とした所から立ち直ってくれたのは良かったが、何か別のスイッチが入ってしまったようだった。

 そう戦々恐々としていた立花響だったが、何やら結論を出した切歌はビシッと指を突きつけた。

 

「──惚けても無駄デース! ひーろーのベッドには響さんの臭いが染みついてたデース!」

 

「え?」

 

 何の話? と首を傾げていると、切歌は説明を始めた。

 

「前にひーろーの家にお邪魔した時ッ、ベッドから響さんの臭いがしたデスッ」

 

「え? 何で……?」

 

「洗っても取れないほど……それはもう染みついてたデス! 響さんの臭いがッ!」

 

「……」

 

 そんなに強調するほど臭い染みついてるの? と言いたくなったが、言葉を返すよりも先に切歌は何やら一人で盛り上がっていた。

 

「うおおお! 例え相手が響さんでも諦めないデス! そうデスッ! 諦めないデス! 私はッ、ひーろーをッ!」

 

 ビシッと月に指を突きつけ……宣言した。

 

「絶対に……諦めないデスッ!」

 

 ……色々と吹っ切れてテンションが迷子になった切歌を見て、彼女は戸惑った。

 正直ベッドの件とか色々と聞いてみたいことはあるモノの……けれど、切歌が元気を取り戻したと言うことが分かって……微笑んだ。

 

「じゃあ、頑張らなきゃだね。切歌ちゃん」

 

「オウよ! デス!」

 

 ──そして、彼女達の誕生日は……騒がしく過ぎていき。

 

 彼女達が預かり知らぬ場所にて──地獄が始まろうとしていた。

 

 

 人は死んだ後、何処に行くと思う?

 

 天国か地獄か……それとも神の下か。

 魂の結末というのはいくつか存在する。

 

 きっとこれも、その一つ。

 

 ──それは、東京のとあるマンションの一室。

 

 その部屋には……黒い球が置かれている。

 

「……」

 

 黒い球の目前にて、男が一人……何かを見ていた。

 

 ──さて。このノートを見ているという事は、君には死んだ記憶が有る筈だ。

 ──馬鹿らしいとか、ふざけるな家に帰せ! とかとか。もしかしたら君は思うかもしれない。

 ──けど一度だけ。そう、一度だけで良いからこのノートの事を信じて欲しいんだ。

 ──君が生きて帰る為に。

 

「……」

 

 ぺらり、ぺらりと、誰かが残したノートをめくる。

 

 ──さて。もし君がこの部屋に来た最後の人間なら、音楽が流れてくる。

 ──違うのであれば……ともかく、しばらくしたら音楽が流れる筈だ。

 ──可能であれば、すぐにでも『ガンツ』から出てきたスーツに着替えて欲しい。

 ──『ガンツ』というのはその部屋の中央にあるブラックボールの事さ。そこからあだ名が書かれたスーツケースが出てくる。

 ──思い当たる節があるあだ名が書かれてるから、それに着替えてね。

 

『あーたーらしーいあーさがきた』

 

「……」

 

 ぺらりぺらりと、ノートをめくる。

 ノートの通りに『ガンツ』から音楽が流れてきたと言うのに、男は一切気にも留めずにページをめくる。

 

 ──そうそう! とても大事な事なんだけど、これから『ガンツ』に化け物みたいな奴が映し出されると思う。

 ──君はこれからそいつを殺しに行く。

 

こいつをたおしにいってくだ

 

 ──凄く危険だけど、そいつを殺せばここに戻って来られる。家に帰れる。

 

「……」

 

 ぺらりぺらりとページをめくりながら、黒々とした『ガンツ』の表面に映し出された写真を一瞥し、男は立ち上がる。

 

かいぶつ星人

特徴

つよい

好きなもの

ひと

 

 ──そうだ。もう着替えられたかな? そろそろ転送が始まる。

 ──もし着替えられなかったら、最悪スーツを持って向こうに行って向こうで着替えるんだ。

 ──そして『ガンツ』からおもちゃみたいな武器が出てくるから、それをできる限り持ってほしい。

 ──余裕があれば……そうだな。奥の方に部屋が有るだろ? そこにデカい銃が置いてあれば、それも是非持って行って欲しい。とても役に立つから。

 

 そして奥の部屋に消えたかと思うと、片手に巨大な銃を持ち、太股のホルスターに剣の柄のようなモノを差し込んで出てきた。

 そして『ガンツ』から出てきた武器の中からアサルトライフルの様な銃を手に、銃口が三つに分かれたハンドガンの様な銃を空いている方のホルスターに差し込み、座り込む。

 

 ──もし景色が変わっても絶対に帰ってはいけない。今度こそ本当に死んでしまうから。

 ──帰る方法はただ一つ。スーツの腕に付いてあるコントロールの赤い点を全部消すんだ。

 ──勘のいい君はもう気付いてるね。その赤い点がさっきの化物だ。

 

「……」

 

 そうしてまた、ぺらりぺらりと、自分の命の恩人の言葉を噛み締める様にノートをめくった。

 

 ──さて。取り敢えず現場に着いたら、銃を色々と弄って見よう! 

 ──でも絶対に『仲間』には向けちゃいけないからね。

 

 ジジジ……という音が響く。男の頭から細い線が伸び、頭が徐々に消えていった。まるでこの世のものとは思えない様な光景……しかし男は気にも留めずノートの一ページ目まで戻った。

 

 ──では……グッドラック! 

 

 一ページ目が、そこで終わった。

 

 そして。

 視界が変わった先。

 そこは何処かの島の砂浜。背後の建物の雰囲気から……この場所が日本では無いと言うことが分かる。

 

「……」

 

 男は武器を構える。幾多も重ねた『選択』の末手に入れた……地獄を切り抜けるための武器を。

 

「……」

 

 チラリと視線を前に向ける。

 

 ──彼が進もうとする道の先には、幾多もの死骸が転がっていた。

 

 そのどれもが男と同じスーツを着ており……皆苦痛と恐怖に顔を歪めながら死んでいた。

 ……その姿は、まるで男の未来の様にも思える。

 

 しかし。

 

「……行くか」

 

 男はそれでも……臆すること無く、前に進む。

 

 宿命でも無く、運命でも無く。

 ただ自分の叶えたい未来のために。

 

 自らの足で……地獄へと踏み込んだ。

 

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