GANTZ:S   作:かいな

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噛ませ犬

「えぇ……」

 

 転送されてきた黒スーツの男達は……目の前で行われている戦闘を目の当たりにしてドン引きした様子で呟いた。

 ……いや、ソレは最早戦闘では無かった。

 

 一方的な蹂躙、と言った方が正確だろう。

 

「……あれ……本当にワイが持ってるロボと同じ奴か……?」

 

 彼等の目の前では……鈍重な動きしか出来ず、小さい相手を蹴散らすのが最適解と言うのが専らの評価であったロボが……超高速で標的のデカ物を一方的に嬲っていた。

 

『ッ──!?』

 

 そして、当のデカ物こと『棺』は焦っていた。

 自身の攻撃が何一つ当たらず……さりとて逃げ出すことすら不可能なのだから。

 

『ッ! ──!』

 

 数多のドローンを排出し、敵の撃墜を試みる。

 しかし。

 

『!?』

 

 ドローンを出した瞬間──不可視の衝撃が寸分違わずにドローンを撃ち抜いていく。

 そして……その不可解な攻撃に気を取られた瞬間。

 

『──』

 

 ロボの右ストレートが『棺』の胸を撃ち抜いた。

 轟音が鳴り響き──空気が揺れる。

 

 それは所謂、空手の正拳突き。何処までも基本の型であり……言ってしまえば普通の一撃でしかない。

 

 だが破壊力は何処までも非常識の領域にある。

 機械の拳は音を超えて『棺』に届き、十トンを超える重量が『棺』の表皮を抉り取った。

 

 そしてその衝撃は『棺』を押し倒し、ここぞとばかりにロボが『棺』に馬乗りして一方的に殴り始める。

 

「……いや、アレは何かヤッとる……ワイの知らん……何かを……」

 

「……」

 

 呆然とその『狩り』を見ていたのは、大阪チームのリーダーと、大阪部屋最強の少女。

 

「……」

 

 彼等が転送されて始めてからの数分間。

 その戦いは、彼等が全員転送されるよりも早く……終了してしまった。

 

 ──そして、この戦いを見ていたのは大阪チームだけでは無い。

 

「……何……だと……」

 

 S.O.N.G.司令、風鳴弦十郎は……S.O.N.G.仮説本部である次世代型潜水艦にて、その戦いを眺めていた。

 

「……師匠……あのやられているのって……」

 

「……恐らくは、タレコミにあった神々の『棺』……だろうな」

 

「……」

 

 目の前に映し出される映像では、恐ろしく強いと事前の情報にあった『棺』が……あっという間に解体されていく姿が映っていた。

 

「……反応途絶。『棺』、沈黙しました」

 

「……」

 

 オペレーターである藤尭は重苦しく呟き、残った方のロボの観測に力を注ぐ。

 しかし。

 

「……! ロボがッ……!」

 

「……消えて……行く……」

 

 藤尭が『棺』の反応の途絶を確認した途端……用は済んだとばかりに謎のロボも頭から徐々に消えていく。

 

 彼等の戦闘の観測を開始しておよそ数分。

 最早そこには……細かく砕かれた『棺』の破片しか残されていなかった。

 

 

「……司令」

 

「……ああ、後手に回されたな」

 

 S.O.N.G.は現着後すぐに辺り一帯の調査を行った。

 しかし予想通りというか何というか……全くと言って良いほど証拠らしきモノは残されていない。

 

 精々遠巻きに戦いを見ていた様な足跡が……複数箇所に渡って存在していた程度である。

 それすら、既に吹雪で消えてしまっている。

 

 彼等の言うとおり、後手に回されていた。

 何せS.O.N.G.が南極に来て得られた情報は、先程の戦いの映像……つまり『企業』の持つ戦力の一部程度しか無いのだから。

 

 しかも、その情報すら既に開示されているモノに過ぎない。

 

 弦十郎と緒川は映し出された映像に目を向ける。

 

 ──そこでは、黒いスーツの集団が多種多様な化け物と戦闘を行っている映像が流れている。

 

「……全世界で行われている戦闘。映像が公開され始めたのと同時に……既に幾つかの国では宣言が為されている」

 

「……」

 

 彼等が見ている視線の先には、幾つもの国のニュースが映されていた。

 

 その内容は奇妙なことに全て同じ内容であった。

 それは。

 

「新たなる国家の誕生。……つまりは()()()()()()()()()()が」

 

 噛み締めるように……弦十郎は呟いた。

 それはクーデターが成功してしまったこと……だけでは無い。

 

「……現在、日本で承認されていない国家の数が……千を超えました」

 

 国が……複数に分割されてしまったことだ。

 その中には国連の常任理事国の名前もある。

 今まで世界を支えていた大国が墜ちたという情報は世界中に回り、混乱が加速していく。

 

「……」

 

 欧州の胎動……所では無い。

 

 全世界の裏で……何かが生まれていた。

 

 一つの企業から生まれた黒い球。

 それは世界中の『企業』へと渡り、その絶大な力で新たなる国家の誕生の基盤となった。

 

 誰にも気付かれること無く。

 誰にも悟られること無く。

 

 毒のように社会に潜り込み……今ある世界の秩序を殺していく。

 

「……クッ」

 

 弦十郎は拳を固く握りしめ、その隣に立つ緒川は自身の力の至らなさに歯がみする。

 

 あまりにも準備が出来すぎている。

 

 仮面の男からの情報を得てからおよそ三ヶ月。

 それだけの時間では……ほんの少しの抵抗も出来なかった。

 

「……司令、この後の行動は?」

 

 気まずい空気が流れる中、それでも友里は司令に指示を仰ぐ。

 

「……ああ。日本ではまだ何も起こってはいないが……一度八紘の兄貴と合流したい。調査が終わり次第日本に戻る」

 

「分かりました」

 

 友里はすぐに手元のコンソールを弄り、帰りの航路の算出を始めた。

 

「……」

 

 それ以外にも……藤尭も現在外で作業をして居る装者達の補佐と変わりつつある世界の情勢を集めている。

 錬金術師であるエルフナインも、ちょろまかした『棺』のサンプルの研究解析を行っている。

 

 立花響達もまた、『棺』とロボの戦いで生まれた瓦礫の撤去や、要救助者の救出を行ったりと、出来ることを最大限に行っていた。

 

 だからこそ。

 出来ることを最大限に行った結果が……今も流れるニュースだと言うのなら。

 

「……」

 

 弦十郎は息を吐き……目元を軽くもむ。

 

 あまりにも規模がデカすぎる。

 人手も情報も何もかも足りていない。

 

「司令、米国空母がこちらに到着したとの連絡が」

 

 と。進退窮まった状況からの次なる一手を考えていた弦十郎に、緒川が報告をよこす。

 

「……米国、か。こちらに空母まで寄越すとは。余裕があるのか……それとも……」

 

 米国。

 混乱する世界情勢の中、全く動きが見られない国家である。

 それどころか……南極で起こった事件に即座に反応し、何も触れるなと空母まで寄越してみせる。

 

「……余程重要なモノ、か」

 

 そう言って目を向けた先。

 そこには、バラバラに破壊された棺から出て来た……何者かの遺体の写真があった。

 

 タレコミの情報が正しければ、それは正しく……。

 

「アヌンナキの死骸、か」

 

 肉体は腐り果てようとも……それでも、その聖骸が身につけた腕輪は鈍ること無く輝いていた。

 

「……」

 

 米国が求める聖骸。

 それに一体どれほどの意味が有るのか。

 

 S.O.N.G.司令室では皆口にはしないモノの……何かほの暗いモノを感じていた。

 

 ──と。

 

「……ん?」

 

 最初に気付いたのは友里だった。

 仮説本部である潜水艦の周囲に、何者かの反応が急に生まれた。

 

「どうした友里」

 

「いえ……何かの反応が……ッ!? こ、これは!」

 

 一瞬誤作動を疑った友里だったが、その反応が先程のロボと同じモノである事を確認し……即座に指を動かす。

 

「映像回しますッ!」

 

 コンソールを操り、潜水艦に備えられたカメラを切り替え外の映像を確認する。

 

 そこには……。

 

『おーい』

 

「……彼は……」

 

『おーい! おーい!』

 

 『アダム』討伐の際に現れた……あの仮面の男が居た。

 

 

『ふぅ……南極ってこんなに寒いんだな』

 

「……」

 

 自宅の椅子で寛ぐように、男は司令室の椅子に座り込んだ。

 

「……あの……」

 

『あん?』

 

「暖かいモノ、どうぞ」

 

 何も出さないのは失礼だろうとコーヒーを用意した友里は、仮面を付けた男に暖かい飲み物を出した。

 

『……ど、どうも……』

 

 当然コレを飲むのには仮面を外さねばならず、いや飲めねぇんだけど……と困惑した男だったが、それでも飲み物を受け取った。

 

『……』

 

 飲み物を受け取り、どうしたモノかと飲み物を見ていた男だったが、そんな彼に白髪の少女が話しかけてきた。

 

「それで? アンタは何が目的で態々南極まで来てウチらに絡んできたんだ? あん?」

 

 彼女の名前は雪音クリス。

 先程まで瓦礫除去の任務に居た彼女だったが、一応の警戒として呼び戻していた。

 装者達の中で最も血気盛んな少女は、その気質を遺憾なく発揮して直球で仮面の男に絡んでいく。

 

『……それより、前の時に居た女の子達はどうした。姿が見えねぇが』

 

「あ? んだテメェ……南極までストーカーか?」

 

 しかし男はソレを無視して姿の見えない二人の少女について尋ねてくる。

 即座に食いついたクリスだったが、男は動じずに話を続けた。

 

『んな訳ねぇだろ。単に…………アレだ。息災かどうか……聞きてぇだけだ』

 

「……は?」

 

 意図の読めない言葉に、クリスは気の抜けた声を漏らす。

 そんなやり取りを後ろで見ていた弦十郎は、彼女を抑えて前に出た。

 

「彼女達は現在、別の任務に移っている」

 

「!? おいオッサン!」

 

「安心しろ。彼からは殺気も悪意も感じない」

 

 悪意って……と信じられないような目で弦十郎を見つめるクリスだったが……。

 

「……」

 

 彼女もまた、男から一切殺気を感じない事に違和感を覚えていた。

 

『……ふん………そう…か』

 

 それを後押しするように、何処か安心した様子で男は頷いた。

 

「……んだよ……それ……」

 

 当然男のそんな反応に困惑したクリスだったが……男はソレを無視するように会話を続ける。

 

『……俺の目的を聞きたい……だったか』

 

「ああ。君が何者で……なぜ此方に情報を流したのか……」

 

『……』

 

「何故……装者を守ったのか。……君は……『企業』に所属していると言うよりは……何処か……」

 

 ──S.O.N.G.司令、風鳴弦十郎が何故こうも簡単に司令室まで男を案内したのか。

 仮面の男一人であれば簡単に制圧できるから……という自信によるモノでは無い。

 

 それは彼とS.O.N.G.が初めて相対したときの事。

 『企業』に所属しているのであれば、ギリギリまで隠しておかなければならない情報。

 

 それを彼は、あっさりとS.O.N.G.へと流した。

 

 その何処か矛盾を感じさせる行動が……弦十郎には常に引っかかっていた。

 

『……ふん。なんだ……察しは付いてるみたいだな』

 

 話が早くて助かるね、と小さく呟いた男は、軽く息を吐いて立ち上がる。

 

 そして、弦十郎と真っ正面から向かい合い……語り出した。

 

『俺はブラックボールを一つ……完全に掌握している』

 

「……!」

 

『だから『企業』の縛りから抜けて独立出来た……フリーになったって事だ』

 

「……」

 

 彼から語られた言葉は衝撃的なモノばかりで。

 

『──あんたらと()で……同盟を結びたい』

 

「……同盟……だと……」

 

『ああ。その為に遠路はるばる……地球の裏側まで来たんだからな』

 

 伸ばしたその手は、あまりにも魅力に溢れている。

 

 情報。人手。武力。

 仮面の男は……S.O.N.G.が望む全てをひっさげて、飛び込み営業を仕掛けてきた。

 

 

 南極から遠く離れた風鳴本邸にて……今、ハンターによる襲撃が行われようとしていた。

 

 ──だが。

 

「……馬鹿ッな……!?」

 

 異様な刀を構えた何故か上半身裸の男は……地面に転がる大量の死体と、自身に刻まれた致命傷に驚きの声を上げる。

 

「果敢無き哉……醜怪な化け物風情が……儂に勝てるとでも思うたか」

 

 対する風鳴訃堂は一切の無傷。

 刀に付いた血を払い、空いた手で胸元をまさぐる。

 

「……馬鹿な……我が数百年の研鑽を……人間が……」

 

 胴が泣き別れ……自身が死ぬという事実が受け入れられずにいる吸血鬼の男は……呆然と呟いた。

 

「無益なモノよ。才能無き貧者がどれだけ研鑽を積もうと……所詮はその程度と言うこと」

 

「……」

 

 訃堂が懐から取り出したのはモーゼルC96。

 自身の愛刀を振るうのも億劫だと感じた相手に使用する銃である。

 

「……貴様は……」

 

「む……?」

 

「……貴様は……確かに強い……だが『あの御方』には……及ばない……」

 

 吸血鬼の男は、苦し紛れとばかりに語り出した。

 

「『あの御方』の強さは……正に無敵……人を超越した強さを……持っておられる……」

 

「……」

 

「日光をも克服した……吸血鬼の頂点に立たれる『あの御方』に……勝てる者など……居ない……」

 

 何か有益な事でも言うかと思えばと放置していた訃堂だったが、思いのほか要らぬ情報に苛立ちを隠せない。

 

「『あの御方』は幻想のような強度の肉体を持ち……弾丸の速度で敵を抹殺する……『あの御方』が本気になれば貴様など……」

 

「そうか。ならば死ね」

 

 利用価値がなくなったと判断した彼は……死にそうな吸血鬼の男の頭に数発弾丸をぶち込んで確実に殺した。

 

 ──と。

 

 訃堂は某かが近寄る気配を察知する。

 

「不届き者めが……まだ居たか」

 

 ──姿を現した彼こそが『あの御方』。

 

 圧倒的な強さを持って吸血鬼達を支配し──また十五回クリアを達成した()()()()()()()

 

 今、人間と吸血鬼……種族の頂点に立つ者同士による最後の戦いが始まった──!

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