GANTZ:S   作:かいな

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同盟締結

「いや~疲れた~」

 

「デデデース……」

 

 瓦礫を撤去するというなかなかの重労働を終えた彼女達は、至極疲れたという顔でS.O.N.G.本部へと戻っていく。

 

「しかし、雪音だけ先に帰還させられた意味とは何だったのだろうか」

 

「ぅぅ! 一人だけ楽そうな仕事でうらやまデース!」

 

「うんうん。今度ジュース奢って貰わないと」

 

 彼女達の専らの話題は急に艦内へと戻らされたクリスのことだ。

 もしや一人だけ楽してんじゃ? と言う酷い誤解を受けていたが、事実クリスが何か仕事をすることは無かった。

 

 何故なら。

 

「師匠ー! 戻りま──」

 

「す……凄いッ! これを本当に……純粋な科学力だけで作り上げたんですかッ!?」

 

『あ、ああ……そうらしいが……』

 

「聖遺物を用いずに……いえ、これは最早一つの完全聖遺物? しかも材質的につい最近作られたモノ? 先程の現象……埒外物理学を完全に掌握しているとしか……!!!」

 

『そうだね』

 

「……した?」

 

 戻ってきた装者達の視線の先。

 そこには……まるで最初から居ましたよ? と言わんばかりに馴染んでいる仮面の男が、目を輝かせたエルフナインに付き合わされていた。

 

 ──そう、一応の護衛として呼び戻されたクリスがその仕事を果たすことは無くなった。

 

 何故なら。

 仮面の男は……それはもう大人しく、暴れることもアルカノイズをばら撒くこともせず。

 

 何なら、手土産にと小ぶりの銃をエルフナインにプレゼントしたかと思えば……まるで妹の買い物に付き合わされている兄のような態度でエルフナインの質問攻めを受け流していたのだから。

 

「え? 誰……?」

 

「……何奴」

 

「お、おまっ!?」

 

 装者達の反応は三者三様。

 しかし彼女らに共通していることが一つある。

 

「……仮面の……お兄さん……?」

 

 普通に司令室に居る仮面の男に……皆、盛大に困惑していた。

 

 ◇

 

 時は戻って仮面の男が弦十郎に手を差し出した場面。

 

「同盟、か」

 

 その差し伸べられた手を前に、弦十郎は考える。

 

「……非常に魅力的だが……君は我々に何を求める? 君は我々に何をしてくれる? 何にせよ……それ次第と言うことになる」

 

 そう。

 同盟とは互いと互いで助け合う関係。

 

 仮面の男がS.O.N.G.に協力すると言うのであれば、また同じようにS.O.N.G.も男に協力しなければならない。

 

 それがS.O.N.G.にとって許容できるモノかどうか。

 まずソレを聞かぬ事には手は取り合えない。

 

 それは男も分かっていたのか、さらさらと語り出す。

 

『俺があんたらに要求したいことは……三つ』

 

「……」

 

『一つ。……確か、ここには何とかナインって……錬金術師? だか研究者がいるだろ? ソイツと話し合いの席を設けて欲しい。出来れば一対一でな』

 

「……テメェ……アイツに何の用だ?」

 

『それは言えない。会話の内容については、その彼女にも守秘義務を敷かせて欲しい』

 

「……」

 

 そして、初っぱなから怪しさ満点の条件を出してきた。

 

 ──エルフナイン。

 彼女の経歴について語れば長くなるが、一言で言えば錬金術師の少女だ。

 そして、彼女には特別戦闘力があるわけでは無い。

 

 そんな戦えない彼女と怪しい仮面の男を密室で対談させろ、というのはクリスからしてみれば容易く許容できるようなことでは無かった。

 

「……」

 

 当然ソレは弦十郎にとっても同じであり、腕を組んで難色を示す。

 

『……ま、コレについては全部聞いてから詰めてこう』

 

 仮面の男はこの反応も予期していたのか、特別慌てた様子も無く話を続ける。

 

『二つ目。S.O.N.G.職員にブラックボールの武器を使用して貰いたい』

 

「……武器……?」

 

『ああ。と言ってもコレは……俺が指定した職員以外は希望者だけ使ってくれれば良い』

 

 その妙な言い回しにクリスの訝しみは加速していく。

 

「……指定した職員……というのは?」

 

『現状では……()()()()()()()()()()()()()()だ。この二人には確実に使って貰いたい』

 

「……」

 

 その黒スーツの男……というのは、恐らく緒川の事だろう。

 弦十郎と緒川。この組織を支える二人であり……装者以外での戦闘要員でもある。

 

 何故その二人をピンポイントで選ぶのか。

 何故それ以外の職員には強制しないのか。

 

 幾つか疑問が浮かぶが、仮面の男は最後にこう続けた。

 

『最後に……俺が協力を求めた際には、()()()戦力を寄越して欲しい』

 

「……」

 

『以上三つが、俺がS.O.N.G.に要求するモノだ』

 

 話が終わり、沈黙が場に降りる。

 

「……」

 

 弦十郎は腕を組んだまま……彼が要求してきたモノについて考察していく。

 

「……むぅ……」

 

 一つ。

 エルフナインとの対談。

 

 三つの要求の中で一番異質な内容だ。何故彼女との確実な対談を求める? 

 錬金術師であるエルフナインに聞かなければならない事……? しかし仮面の男は他の、しかもエルフナインに勝るとも劣らない三人の錬金術師と面識がある筈だ。

 

 で、有るならば……エルフナインという存在に聞かねばならない事……なのだろう。

 一番目にその要求を出してきた事から考えると、やもすれば彼にとっては最も重要な要求なのかも知れない。

 

 そして二つ目。

 S.O.N.G.職員の武装。

 

 これはまだ理解が出来る。

 この艦内には非戦闘員の職員もいる。彼等にも自衛用の手段を用意はしてあるが、ソレが超常現象を相手に何処まで有効かなど考えるまでも無い。

 

「……」

 

 だが……何故俺と緒川には確実に武装しろと? 

 

 弦十郎は考える。

 多少戦いの心得がある自分と、飛騨忍群の流れを継いでいる緒川。

 彼の()()()()()()からして、装者達以外にも動ける奴を増やしたいと言う意図は伝わるが……。

 

 ……そう、三つ目の要求。つまりは戦力の打診。

 

 これに関しては特別言うことは無い……普通の要求だ。

 

「……では、君は我々に……何をしてくれる?」

 

 ……幾つか疑問はある。

 しかし、だからと断るのは早計だ。

 

 重要なのは……彼が此方に与えるモノ──。

 

『全てだ』

 

 男は……即座に答えた。

 逡巡することも無く、躊躇うことも無く。

 

 全て……と。

 

『あんたらが求める情報、戦力、俺の出来る範囲でなら……可能な限り応じよう』

 

「……」

 

 それは……あまりにも破格の条件だった。

 胡散臭さに顔を歪めたクリスは……問い詰めるように話かけた。

 

「おいおいアンタよ。じゃあその仮面脱いで正体を明かせって言ったら……明かすって言う──」

 

『良いとも』

 

「のか……よ……」

 

 だが、そのあまりの即答っぷりにさしものクリスも言葉の勢いが失われていく。

 

『……だが、ソレを教えるとしたら……そこの司令一人だけだ』

 

「……は?」

 

『こう見えてまだ……日常に未練があるんでね。正体を明かす人数は絞りたい』

 

「……」

 

 そして、その切実な語り口にクリスは完全に黙り込んでしまった。

 

「……」

 

 どんな裏がある? 

 弦十郎は、あまりにも此方に有利な条件に疑いを加速させていく。

 

 しかし、今のところどれも確実に裏があるとも言えない。

 

「君の要求は、分かった。だが……どれも俺一人で決められるようなことでは無い」

 

『ま、そうなるわな……』

 

「なので……此方から二つ、条件がある」

 

『あん?』

 

「一つは、エルフナイン君との対談について。彼女はS.O.N.G.に所属しているとは言え……あくまでも()()()()()()()()()()にすぎない。故にそれを超える命令を、俺が下すことは出来ない」

 

『……つまり?』

 

「一つ目の要求については、彼女に直接交渉して欲しい、と言うことだ」

 

『……なる程ね』

 

 まずはエルフナインとの対談の件について。

 コレに関しては弦十郎が命令を出せる様なモノでは無い。

 故に弦十郎に出来るのは仮面の男とエルフナインを取り持つ事くらいだ。

 

『まあ分かったよ。それで? 次はなんだ?』

 

 男は納得したのか、弦十郎に先を促す。

 

「……ああ。二つ目は……」

 

 それは、弦十郎が抱いた違和感について。

 

『アダム』戦での戦いを見ていたときから気付いた違和感。

 何故か都合良く陽色君の声に変わった変声機能。

 

 弦十郎は目を細める。

 

 そう……彼とはどこかで……。

 

 ……いや、やもすれば彼は──。

 

「──君の正体を、教えて欲しい」

 

『……』

 

 男は、一瞬沈黙したかと思うと……。

 

『分かった』

 

 即座に頷いた。

 

 ◇

 

 ──そして、時は現在に至る。

 

「ちょっ! ちょっと! どうしてコイツがここに……!」

 

「ああ。彼が我々S.O.N.G.と同盟を結びたいと言ってくれてね」

 

「ど、同盟!?」

 

 何故それでエルフナインに質問攻めを食らうことになっているのか。

 皆目見当が付かないと困惑していた装者達だったが、それも弦十郎から説明が入った。

 

「彼が手土産にと持ってきてくれた武器をエルフナイン君に見せたら、ソレはもう食いついてね!」

 

「き、危険デスよ!?」

 

「大丈夫。()()()()()()()()。俺が保証する」

 

「……え?」

 

 ──そして、何故か弦十郎が語気を強めてそう言った。

 

「……何で……そんなことが言い切れるデスか」

 

「……すまない切歌君。それは言えない」

 

「……」

 

「だが……俺を信じて欲しい。彼は()()()()だ」

 

「……え?」

 

 何処か意味深な言い回しに切歌が首を傾げたかと思うと、エルフナインの小難しい言葉の羅列を聞いていた仮面の男がバッと振り返った。

 

「……あ。あはは! すまないすまない!」

 

『……』

 

 ギロッと睨み付けられた弦十郎はタジタジと汗を浮かべると……シュンとなって口を噤んだ。

 その妙な様子に

 

「……ともかく。我々S.O.N.G.は……()()()()()()()()()()()()()

 

 そして真面目な表情に戻ったかと思うと……装者達にとんでもない報告を始めた。

 

「……ほ、本当におっしゃってるのですか? 叔父さま……!」

 

「ああ。現状を打破するにはある程度奇策も必要と言うことだ」

 

「で、ですが……」

 

「先程も言った通り、彼の身元については俺が保証する」

 

「……」

 

 いの一番に突っかかった翼だったが……しかし弦十郎が再三にわたって仮面の男は安全だと力説する。

 その様子に翼は違和感を覚えるも、信頼する叔父の言葉を疑うことも出来ず。

 不承不承ながらに沈黙した。

 

 他の装者達も何か色々と言いたいことがありそうだったが、あの弦十郎がここまで言うのなら……と翼と同じように口出ししなかった。

 

 そんな彼女達を見渡した弦十郎は、今もエルフナインに付き合っている男に話しかける。

 

「……で、だ。まずは互いに自己紹介でも……」

 

 それは、未だに棘を感じさせる両者の間を取り持とうという、弦十郎なりのお節介だったのだが……。

 

『要らないッすよ』

 

 男は、驚くほど淡泊にそう断言した。

 

「……だが……」

 

『司令さんよ。俺は遊びに来たわけじゃねーんだ』

 

「……むぅ」

 

 そう言って立ち上がった男は、ギロリと弦十郎を見据える。

 

『つか、俺にとって重要なのはシンフォなんちゃらよりも──』

 

 そして男は……視界に入ってきた装者達を見て、ピタリと動きを止めた。

 

「……? どうし──」

 

『……マリア……?』

 

「え?」

 

 視線の先。

 そこには……世界の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴが、え? 私? といった風な顔で突っ立っていた。

 

『マ、マ……マリアじゃん……!?』

 

「え、ええ……マリアだけど?」

 

『え? 嘘? マジ?』

 

 男は一頻りあわあわしたかと思うと、ササッとマリアの前に立ち、しれっと手を出した。

 

『あ、あの……CD全部買ってます……新しいMV最高でした……』

 

「ど、どうも……」

 

『あ、あの……握手して……ください……』

 

「え、ええ……良いけど……」

 

 あまりに態度が急変した男を見て、司令を含むこの場に居た皆が驚愕していた。

 当の男もまた驚愕していた。

 

 ブラックボールの武器に夢中になっていたエルフナインを除く全ての人間が驚愕していた。

 

『お、おお……あ、ありがとうございます……』

 

「……どういたしまして……?」

 

 そこそこの時間握手したかと思うと、男はマリアの手を離す。

 

『うわーマジか……マリア……マリアと握手しちゃったよ……うわー……』

 

「……」

 

 あまりの変わりっぷりに沈黙していた装者達だったが……ようやく男がただの『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』のファンなのだと理解した。

 

「……仮面のお兄さんって……」

 

「な、なんだか思っていたよりも庶民的……?」

 

 立花響と月読調は仮面の男から受けた印象を一転させ。

 

「……何ふざけてるデス? アイツ……。というかさっさとお兄ちゃんのことを教えて欲しいデス」

 

 暁切歌は、男に対してイライラとしたような、モヤモヤとした様な感情を覚え。

 

「……」

 

 ここで一人……風鳴翼が疑問を覚えた。

 

 マリアのファン……であるならば、当然コラボする事も多い私の事も知っているはず。

 なのに目の前の仮面の男はマリアしか見ていない。

 

 ちょっと立ち位置を変えて見るも、男からは全く動き無し。

 絶対視界に入ってるはずなのに。

 動きなし。

 

「……」

 

 ……あれ? 

 

 私は……? 

 

 ◇

 

「……」

 

 弦十郎は俄に騒ぎ始めた青年と少女達を見て、いつの間にか笑みを浮かべていた。

 

 先程までの冷たい態度とは打って変わって、年齢相応の青年らしい態度を見てホッとした、と言うのもあるだろう。

 それは、仮面の男の正体を知ったからこそ感じる想いでもあった。

 

 

 ──先刻の同盟締結の際、仮面の男にその正体を明かすことを要求した。

 

 元より正体を明かすことに抵抗が見られなかった男だったが、しかし弦十郎以外にその正体が知られることを酷く嫌っていた。

 

 二人は潜水艦を下り、極寒の南極の大地を歩いていた。

 

 S.O.N.G.本部より遠く離れた氷の大地。

 しかも潜水艦のカメラの影になるような岩場まで移動して、そこでようやく男は足を止めた。

 

「……こんな所まで来る必要があったのか? 人払いなら……」

 

『……言った……じゃ無いっすか。俺は……まだ日常に未練がある……んですよ』

 

「……」

 

 先程までの上から目線の語り口調が、崩れていく。

 

『……アンタは……』

 

「……」

 

『アンタは、一度しか会ってない俺の頼みを……聞いてくれた人だ』

 

「……」

 

『……嬉しかった……()()()、いきなり電話をしても……二つ返事で助けを寄越してくれたことが……』

 

「……やはり、君は……」

 

 思わず呟いた弦十郎の言葉に、男はピクリと動きを止めるも……無言のまま手元のコントローラーを弄くった。

 

「……風鳴さんなら、俺のことを知っても……悪いようにはしないと……そう思うから明かすんです」

 

 変声機能が切れ、目の前の男の声が弦十郎も知る青年の声へと変わっていき……。

 

 彼は躊躇うことも無く仮面を脱ぎ捨てた。

 

「……そうか。君だったのか」

 

 弦十郎の目の前には。

 

 数ヶ月前より失踪していた筈の切歌の兄。

 

 暁陽色が立っていた。

 

「……コレで良いですか?」

 

「………………ああ」

 

 そう答えると、ヒイロは軽く苦笑した。

 

「……あんま驚かないんすね」

 

「……安心してくれ。君が……仮面の男だと予測していたのは……俺だけだ」

 

「……そうっすか」

 

 ヒイロが小さく呟き、暫く沈黙が場に降りる。

 

「……何故」

 

「……」

 

 しかし、弦十郎はその沈黙を破ってヒイロに問いかけた。

 

「何故、切歌君の前から消えたんだ?」

 

「……」

 

「彼女は……! 君が居なくなってしまったことで酷く傷ついていたッ」

 

 それは切歌の前から消えた空白の三ヶ月間について。

 

 ──今、目の前に居る青年は間違いなく暁陽色……に、見える。

 なのに、前までの陽色では無い様にも見える。 

 

 何があった。何が君を……そんな風にした。

 

 万感の思いが詰まったその問いかけは、次第に熱を帯びていく。

 

「君に一体ッ……何がッ!?」

 

「……」

 

 その問に答えることは無く、表情を変えることも無く。

 淡々と話を進める。

 

「……貴方には……色々と伝えておかなければならない」

 

「……」

 

「ブラックボールについて」

 

 そしてヒイロは語り出した。

 

「……俺の、目的について」

 

『彼』の全てを。

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