GANTZ:S   作:かいな

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名は

「お、お前……な、何やってるデス!?」

 

 ヒイロの目の前で、切歌がドン引きした表情を浮かべつつ、顔を青くさせて口元を覆っている。

 

『え? おい、入ってくんなよ』

 

「んなこと言ってる場合デスか!? は、早く止血を……!」

 

 そう言って焦りながら部屋に入ってきた切歌に続き、装者達も部屋に足を踏み入れてくる。

 

「っ……!?」

 

「な、何をしている!?」

 

「……ぅっ!?」

 

 ──そして。

 辺り一面に広がる血を見せつけられ……皆思い思いに愕然とする。

 

 ……だと言うのに。

 

『いや、だからなんで普通に入ってきてんの?』

 

 ヒイロは……右腕が千切れているというのに。

 何処までも平坦な声色で、二人きりの話し合いに踏み込んできた装者達を窘める。

 

「お、お前変なクスリでもやってんのかよ!? なんで平然としてやがる!? 痛くねぇのか!?」

 

『クソ痛いが……』

 

「馬鹿か!?」

 

 あまりにもミスマッチな彼の態度に、装者達は皆その混乱を深めていく。

 

「立花ッ! こういうときはどうすれば良い!?」

 

「え、ええ!? わ、私!?」

 

「腕が取れた経験がある者などお前しかいないんだぞッ!」

 

「あ、そっかぁ……え?」

 

 彼女達は皆面食らったようにヒイロの周りに群がり、右往左往として血を止めようとする。

 そして、いの一番に部屋に突入してきた切歌はヒイロの千切れた腕の断面を抑え止血を試みる。

 

 だが。

 

「なんか……あれ!? 血が止まらないデス!? 止まらないぃ~!?」

 

「す、凄い……全然止まらない……!?」

 

『……』

 

 装者達が面白いほどに動揺している姿を見て……ヒイロは思った。

 もう良いから話進めよう、と。

 

『……もう良い。どうせだ、アンタ達も見てけよ』

 

 説明するの放棄したヒイロは、シレッとエルフナインに見えるように千切れた腕を見せつけながら……残った手でこめかみの辺りを仮面越しに抑える。

 

『……ほら……見ろ……こうだ……』

 

 そして、丁度切歌が押さえ付けていたヒイロの腕の断面に、か細い光の柱が立つ。

 ──次の瞬間。

 

「あっ、なっ……!? う、腕が生えてくるデスゥ~!?」

 

 ジジジ、という電子音が鳴り響き……か細い光の柱がヒイロの腕をスーツごと再生していく。

 

「……なに……これ……」

 

『実際に見るのは当然初めてだろうが、これがブラックボールの再生能力だ』

 

「……これが……」

 

 ソレはまるで何かのビデオの逆再生のようで。

 キレていたはずの断面からにょきにょきと腕が生えてくる光景に装者達は思わず息を呑む。

 

「……」

 

 報告で聞いてはいたが……確かにこんな事が出来るのなら、死者を蘇らせることも……。

 

 今の今まで半信半疑で報告を聞いていた装者達だったが、目の前で見せられた超常現象を前にソレは確信へと変わっていく。

 

「……」

 

『なぁ、おい。もう離してくれて良いが』

 

「……え? あ、ああ……わ、分かった……デス……」

 

 ──そんな中。

 止血のためとヒイロの腕を握っていた彼女は、何故か再生が終わっても彼の手を握りしめていた。

 

 ヒイロに言われてようやく気付いたと言わんばかりに手を離した彼女は、何故か何度か自身の手とヒイロの手を見比べている。

 

『……』

 

 それを無言で見つめていたヒイロだったが……軽く息を吐き、未だに呆けた表情をしているエルフナインへと視線を向ける。

 

『……エルフナイン。ちゃんと見てたか……?』

 

「え?」

 

『元の肉体を上書きする……ってのは、つまりコイツを応用するって事だ』

 

「……」

 

『……』

 

 ヒイロはエルフナインにそう問いかけて見るも、しかし反応が悪い。

 

『よく見えなかったってんならもう一回やるが』

 

 そう言ってソードの柄を構えたヒイロを見て……エルフナインはハッと顔を上げ、全力で両手を振る。

 

「大丈夫ッ……! 大丈夫ですッ! 分かりましたから……!」

 

『なら良いが』

 

「……」

 

 エルフナインはヒイロが刀の柄を外したのを見て……ようやくホッと安心した表情を浮かべた。

 

「……元の肉体を……上書き……うーん…………」

 

『……』

 

「……恐らく……ですが、ソレをした場合の条件によると思われます」

 

『……条件……』

 

 未だに顔を青くしながらも説明を始めたエルフナインは、しかし今出ている情報では判別不可能と断言した。

 そんな彼女の言葉に肩を揺らしたヒイロは、そのままの勢いで質問を続ける。

 

『……じゃあ……元の肉体に神の身体が混ざってたとしたら……って場合だと……どうなる?』

 

 そうして付けた条件を聞いたエルフナインは、幾ばくか逡巡するように俯くも、すぐに返事を返して来る。

 

「元来、肉体と魂は密接な関わりがあります。ソレこそ、死という肉体の終わりが訪れない限りその関係が絶たれることはありません」

 

『……』

 

「──それは逆もまたしかりです。何の関わりも無い肉体と魂は結びつくことはありません」

 

 つまり、とエルフナインは言葉を続ける。

 

「であれば……再生の後、確実に神の魂は肉体から弾かれます」

 

 

「……なぁ、結局アイツ……何を求めてたんだ…………」

 

「──クリス。他言無用の話に早とちりで割って入ったのは我々だ。そこで聞いてしまった話は、墓場まで持って行くのが礼儀というモノ」

 

「……うす」

 

 エルフナインとヒイロの話し合いが終わり……その顛末を流れで聞いてしまった彼女達は、どこか気まずそうに廊下にたむろっていた。

 だが、皆考えることは同じだ。

 

 ──つまり、あの仮面の男が聞いていた事は何だったのか……と。

 

「……」

 

 しかし話の内容を内密にするというのは、ヒイロが示した条件の一つ。

 

 幸い、先程のエルフナインとの話し合いを聞いてしまったことは不問としてくれたが……。

 だが、それならそうで聞いてしまった話については何も考えないというのが礼儀というモノ。

 

 翼にそう指摘されたクリスもそれは理解していたのか、特に反発するでも無く……それこそ気まずそうに俯いていた。

 

 ただ。

 そんな装者達の中で、一際口をへの字に曲げている少女がいる。

 

「…………なんで……あんな……」

 

「……切ちゃん?」

 

「…………何でも無いデス」

 

「……」

 

 切歌だった。

 彼女は……自身のすぐ傍で、件の男がエルフナインの話を聞いていたのを見ていた。

 

 そしてふと……彼の手を握って……何か違和感を覚えたというか、何というか。

 

 ──思えばそれは、以前から抱いていた違和感。

 

(……なんで、あんな……似ても似つかない……筈なのに……)

 

 仮面の男。

 その無機質な仮面の向こうに……何処か、懐かしいモノを感じていた。

 

 ──と。

 唐突に彼女達がたむろしていた通路のドアが開く。

 

『……? 何でアンタらまだいんだよ』

 

「……いや、エルフナインの部屋の片付けに待機してたんだよ」

 

『片付け?』

 

「お、お前……! 自分が散らかしたことを忘れたのか!?」

 

 思わずクリスは突っ込んでしまった。

 

 ……そう。

 彼女達は血塗れとなってしまったエルフナインの部屋の片付けを行うために、追い出された後も部屋の前で待機していた。

 相当スプラッターな研究室となってしまったのは彼女達の記憶に新しい。

 

 それを理解したのか、ヒイロはああと頷いた。

 

『それならもう終わらせたぞ』

 

 そして、彼女達の思いやりを一瞬で無碍にする言葉を吐き捨てた。

 

「え?」

 

『見てみろよ』

 

 ヒイロが部屋の入り口から退き、そこには惨状が──。

 

「……血が……無い……」

 

 無かった。

 返り血で汚れた壁も、落とされた後は雑に放置されていた腕も、血だまりも。

 何もかもが無くなっていて、元通りのエルフナインの部屋へと戻っていた。

 

 色々と嫌な思いをする片付けになるだろう……と変に覚悟まで決めていたクリス達からしてみれば、酷い肩透かしを食らった気分である。

 そんな彼女達の思いを知ってか知らずか、ヒイロは平然と語り出す。

 

『ブラックボールには戦闘の隠蔽を行う為の機能が各種配備されている。多少の汚れはすぐに綺麗に出来るとも』

 

「……んな事出来るんなら早く言えよ……」

 

『そりゃ悪かった』

 

 本気で悪いと思ってるのか? と疑いたくなるほど軽い態度だったが、もうそこに突っ込む気力も無く。

 肩を落としたクリスを横に、ヒイロはエルフナインへと声をかけた。

 

『色々とありがとう。悪かったな……いきなり驚かせて』

 

「あ、あはは……アレは驚かされるとか言うレベルを超えてましたけど……」

 

『ははっ。次はちゃんと最初に伝えとくよ』

 

「え? 次?」

 

 今の笑い所何処? コイツやっぱ何処かおかしいんじゃ無いか?

 そう思い始めたクリス達だったが、そんな事はお構いなしにヒイロはこめかみの辺りに指を当てる。

 

『──さて。聞きたいことも聞けたし……今日の所は帰らさせて貰う』

 

「え? ちょっ待ッ──」

 

 まだ色々と聞きたいことがあるんだけど!? と装者達がヒイロを止めようとするも、転送は無慈悲に始まった。

 

『じゃあ、またなんかあれば連絡に──』

 

「──名前ッ!」

 

『え?』

 

 最後に事務報告だけすまそうとしたヒイロに横やりを入れるように、切歌が呼びかける。

 

「……お、お前の名前……私達お前を何て言えば良いのか分からないデス!」

 

 そう、それは名前について。

 色々と語り合いたいことはあったが……思えば、切歌達は仮面の男の名前を知らなかった。

 

 ──それは、今後の関係を築いていく上で問題になる事だろう。

 

『………………ああ……』

 

 そう言われて、ヒイロもようやく思い出したと言わんばかりに頷き……仮の名前を考え始める。

 

『──』

 

 正直、何か命名にするのには軽いトラウマがあるのであまりしたくなかったが……。

 

『……そうだな』

 

 しかし……だ。

 

『……俺の名は……』

 

 仮に()()()()に名前を付けるとしたら、それは──。

 

『GANTZ』

 

 それだけを言い残し、ヒイロは虚空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、襲撃があった次の日のこと。

 

 真夜中の風鳴本邸に……謎の太鼓の音が鳴り響き……益荒男達の怒鳴り声が鳴り響く。

 

『誰が至強かッ!?』

 

 ドドンドドンドン!!

 

『誰が至強かッ!!??』

 

 ドドンドドンドン!!!!

 

『誰がッ!!! 至強かッ!!!!!????』

 

 ドドンドドンドン!!!!!!

 

「なんだッ! 夜中にどんどんどんどん……」

 

『その息吹で巨石が砕けッ! その一振りで山は大地に沈むッ!』

 

「……」

 

『天下最強! 漢の中の漢!』

 

 ドドンドドンドン!!

 

『それは誰かッ!』

 

「汗明!」

 

 ──真夜中に叩き起された訃堂の目の前には。

 

 昨日襲撃に来た吸血鬼達と全く同じ格好をした者共が、大量に風鳴本邸を埋め尽くしていた。

 

「──アンタが今回の標的か」

 

「……二日続けてか……何とも……呆れ果てた……」

 

 心底呆れた風に呟いた訃堂だったが、目の前の漢は気にせずに話を進めていく。

 

「俺の名は汗野明。ミッション前に受けた説明では……アンタは最強だと聞いている」

 

「……」

 

「だが──奇遇だな。俺も中国地方最強の自負がある」

 

 最強の自負の範囲ちっせぇな。

 

 そんな突っ込みを入れる気力も削がれた訃堂は、眠りについた直後に叩き起されたこの機嫌の悪さを直すため……刀を構える。

 

「──ならば決めねばなるまい。中国地方の注目する今この地で、どちらが本当の最強かを」

 

 まさかの二夜連続。

 

 今、中国地方の注目する……最強を決める最後の戦いが始まった──!

 

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